話題提供

| 「ソーシャルネットワークはモノづくりを変えるか」 川崎裕一(株式会社kamado代表取締役社長)
Fringe81株式会社 取締役(社外)を兼務。ソーシャル・クラシファイド『Livlis』を運営中。株式会社はてな取締役副社長を経てkamadoを創業、現在にいたる。 |
日時:2011年11月17日
会場:国際大学GLOCOMホール
討議参加者:楠正憲、閑歳孝子、山田メユミ、藤代裕之、庄司昌彦、西田亮介
概要・参考文献:
http://www.glocom.ac.jp/2011/11/post_166.html
講演記録
第1回FTMラウンドテーブル(Green-Table) の話題提供は、 「ソーシャルネットワークはモノづくりを変えるか」と題し、株式会社kamado代表取締役社長で、Livlis(
http://www.livlis.com/)を運営する川崎裕一氏が担当した。LivlisはTwitterのAPIを利用して「あげたい人」と「欲しい人」をつなぎ、交換をサポートするプラットフォームである。
川崎氏はLivlisを事例にしながら、「ソーシャルメディア時代における価値観の変化」「ソーシャル時代のモノづくり(アプリ開発等)における方法と方法論の変化」についてマインドマップを用いて報告を行った。
まず川崎氏が話題にしたのは、従来型のモノ(いわゆる「プロダクト」)の特性についてであった。一般に流通しているモノは製造者も、所有者も「匿名的」である。ここでいう「匿名的」とは、いくつかのブランド品を除くと製造した企業名が強調されることはなく、ある特定のひとりの人物に向けてカスタマイズしたものでもなく、ある規模の、不特定多数の人々にフォーカスしたものであったという意味だ。
他方、人がモノを欲するのは、モノそのものを所有したいという欲望もさることながら、モノがもつ情報や物語に価値を見出すからであるという考え方がある。たとえば、プレゼントにもらったモノは捨てにくい。モノ1つ1つに固有の情報が与えられるとモノは長生きするようになるのである。「親父からもらった時計」も捨てにくい。このようにモノにヒト情報を付与することができれば、モノの寿命を伸ばすことができるのではないかと考えることができる。自分に特化した少量生産品はいうにおよばず、匿名的な大量生産品でさえも利用する時間が長くなれば物語性を帯びてくる。
経済の状況も変わりつつある。現在の日本社会は「モノがなくなる経験をしたことがない」社会になりつつある。そのなかでニーズが所有からアクセスへ変化しているように見える。「アクセス」とは「すぐに使いたい」ということであり、さらに経験を多く積みたいという動機、そして「使い終わったら手もとから消えてほしい」という動機があるのではないかと川崎氏はいう。たとえば具体的には以下のような事例がある。
・シェアハウス:ただ住むだけではなく人間関係を手に入れる。シェアハウスの平均滞在時間は1年で、どんどん移っていく。
・カーシェア:車を買うことと比較してコストの安さもあるが、それよりもいろいろな車に乗れる点が好まれている。
・洋服(ドレスレンタル):汚れたりするリスクは全体の5%で、レンタル代7500円の2000円強がクリーニング代となっている。
・エンターテイメント:DVD・CDはすでにレンタルが当たり前のものになっている。
こうした事例を精査していくと見えてくるのが「若者の物欲が減っている」という議論の陥穽である。かつてはモノそれ自身の供給が量的に十分ではなく、それらを欲っする若者たちの欲望があった。しかしモノの供給が一巡した社会では、ストーリーがあるモノ、ヒト情報がついた代替不可能なモノへと関心の対象が移行しつつあるのではないかという可能性がある。あるいは数多くの「経験」を積みたいといった声もあるように、そもそもモノが欲望の対象でなくなってしまっただけのことなのかもしれない。
またインターネット、特に昨今のソーシャルメディアはユーザーとその行為を集め、可視化することを可能にした。問題となるのは、このデータを活用できるかどうかということである。具体的にはFacebookには1日あたり2億5千万枚の写真が上がっていて、コメントや「いいね!」はさらに存在する。このような事例を念頭におくと、ソーシャルネットワークはモノにヒト情報を付与するインフラと捉えることができる。
ソーシャルメディアがモノにヒト情報を付与するのであれば、そのことによってモノの寿命を伸ばすことができる可能性がある。「売る」に代わる「貸す」「分ける(単独保有から複数保有へ)」を行う範囲を広げていくことも今では容易だ。共有することによって実現できるのは、モノの稼働率をあげるということである。たとえば東京の車は1週間あるうちの1日も使われていない。東京の地価の高い土地に、使わない車がおいてあることは非効率といえる。「貸す」「分ける」ことで、社会全体でみたときのムダをなくし、効率を高めることができるのではないか。利用者を増やす、利用時間を伸ばすなど、使われていないモノをより稼動させる方法がありうるように思われる。
もちろん自分の所有物が壊されたり、汚される可能性も0ではない。その意味でリスクもあるのだが、ソーシャルネットワークにはそれらを防ぐ機能があるのではないか。たとえばFacebookに入っている場合、なにかマズいことをしてそれが広まると、自分のネットワークにおける立場が悪くなってしまう。ネットワークの滞在時間が長くなり、現実の生活と密に関係するようになればなるほど、ソーシャルネットワークで悪評が広まることを回避しようとする誘因が働く。実際Livlisでもモノをやりとりするときに、宅配便などで送るのではなく、実際に対面で会って手渡しでモノを交換しているケースがあることもわかった。
また別の誘因設計も可能である。レンタルサービスにおいて、よくあるのは延滞金といったペナルティである。だが、期間内に返却すれば割引を受けることができるような設計も、ソーシャルネットワークと連動しながら構想できるのではないか。
ここまで述べてきたようなサービスを0から作り上げるのはコスト高であり、ベンチャー企業には困難かもしれない。しかし、さまざまな機能がプラットフォーム提供者によってAPIとして用意されているソーシャルネットワーク内であれば、データ利用の制限があるがコストを比較的抑えることができる。データ取得はあるていど大変で、プラットフォーム提供者の事情次第でプラットフォームの仕様変更が行われてしまうというリスクもある。ただし少しの仕様変更であれば、さほどコストをかけずに対応することができるものが大半であるから、コストは中程度のものと捉えることができる。
最後に川崎氏は以下の3つの論点を提示して報告を締めくくった。
【論点1】今後も「売る」や「買う」は生き続けるけど、「借りる」や「シェア」のニーズもあることをモノづくりの人たちは把握しているのか?
【論点2】ソーシャルネットワーク上で生活していくようになる感覚はあるか?
【論点3】モノづくりのプロモーションはどうなるのか? クチコミマーケティングや利用者の声をただ聴くのではなく、ビジネスに直結する部分でもっとソーシャルネットワークをうまく使えないか?
ディスカッション記録
川崎氏の報告をうけて、まず参加メンバーを含めた議論が始まった。最後にはオピニオンメンバー、会場を巻き込んで質疑応答と議論が行われた。以下、そこでの議論を簡潔に提示してみたい。
まず話題になったのは「シェア」が可能なのはモノの種類によるのではないかという問いであった(※1) 。化粧品のような直接身につける製品においてはシェアは難しいかもしれないが、商品設計にソーシャルメディアを活かすことは化粧品開発でも当たり前になっているということであった。並行して消費者の価値観の多様化が進んでいる。ひとつには製造者が「消費者の声」に耳を傾けることができる範囲が広くなり、商品に反映する速度も早くなったことがある。消費者もかつては高級外資系ブランドなどを購入していたが、今では生活者の評価が高いものを買うようになってきた。高価なブランド化粧品と安いけれども品質の良い化粧品を組み合わせるといった次第である。
次に話題になったのは、Livlisを例にして、どのようなものがシェアされているのだろうかということである。報告者の川崎氏によると、 本、PC、デジカメ・家電、DVD・音楽・ゲームが上位4種で、全体の交換量の7割を占めるという。これらのモノは趣味嗜好性が強く、消費する時間が短いという特性がある。さらにアーリーアダプターとマジョリティの消費速度の落差が大きいプロダクトという特性があるようにも見える。この落差の大きいモノは比較的供給が多く、交換が成立しやすいといえる。これは稀少性によってモノがやり取りされる一般的な経済とは異なった原則が働いていると捉えることもできそうだ。
またLivlisで交換されているもののうち、3分の2が手渡しで交換されている。ひとつには無償で贈与するものに梱包や送料にコストを払いたくないという経済合理性に根ざした理由がある。加えて自分の住所を知られたくないという理由も考えられる。相手の電話番号を知らずともメッセージをやり取りし、最近では音声通話も可能になってきたソーシャルメディア時代において、流動性が低い個人情報である住所を教えることの心理的ハードルは高いようだ。
これらのようなネガティブな側面にくわえて、「シェア」を介して「薄いリアル」の体験を得るために直接手渡しするのではないかと思われる。着払いではなんの経験にもならないが、実際に自分が愛着をもったもの、あるいはかつて必要であったものの現在では不要になったものを欲する人に出会うことでなんらかの経験を得たいという動機があるのではないか。実際、Livlisを介してプロジェクタをボランティア団体のひとに譲った経験があるという閑歳氏は、「シェアによってお金が欲しいという訳ではなく、誰か他の人のためになればいいと思った。だから一度顔を合わせて、自分がボランティア活動をしている人にモノをあげて協力するという経験がしたかった」と語った。
モノを購入するときにはなんらかの欲望が働くが、実際にはモノを手放すときにも「思い」やストーリーがありうる。これまでそこに目を向け実現することは難しかったが、シェアは「贈り手」の立場に立ってみれば手放すときの動機を満たすことができる方法ともいえる。
消費の方法や経済圏の考え方の変化についても議論の遡上に上がった。モノの寿命が伸び、なおかつ新製品が発売されたときに、消費者が一斉に飛びつかない世界において、製造業はいかにして製造コストを圧縮しながら、開発を続けていくのか。そしてそのような時代に現在の大企業のような組織を維持することができるのか否かという問いでもある。実際、自動車を生産する米GM社が直接カーシェアリングに乗り出している事例が示唆するように、従来とは異なった尺度を用いてマスな消費者を創りだす方法を模索している段階と捉えることもできるのかもしれない。
なぜこのような異なった経済圏や動機が生じるのであろうか。その理由のひとつには「世界観」の転換があるからではないか。端的にいえば「シェア」の世界観のもとでは消費者は我慢しない。対象が新品ではなくヒト情報やストーリーが付随した、「欲しいモノ」を入手することを我慢しない。譲渡する側も「欲しい体験」を我慢しない。さらにいえば「新品」の購入と対立するわけでもないから、新品を購入したい人を阻害するわけでもない。
そして「シェア」を支えるサービスとプラットフォームをつくる開発者たちも我慢しない。ソーシャルメディアを利用したサービスの企画開発を多人数で行うととかく機能が多く、無難なものになってしまうという。さらに「ものづくり」は頑張って作りあげたとしても誰かが使ってくれるかは分からないという辛い作業でもある。だから強い思い込みがないと完成させることはできず、強い思い込みがときに無難なものからの差異化を生み出す。
Livlisのようなネットサービスの開発にあたって必要なものはおもにサーバー代と人件費とオフィス使用料の3つの要素しかないことも、一人ないし小規模のチームの「強い思いれ」を貫徹するといういわば「開発帝国主義」(閑歳氏)を可能にする前提になっている。しかもサーバーにかかる費用は年々安くなっているし、家賃は節約しようと思えば節約することができる。このなかでは人件費が問題なのだが、先に述べたようにエンジニアの人数だけが増えたからといってユニークなものが出来るというわけでもない。
さらにこうした世界観は他の領域も巻き込みつつある。たとえば 岐阜県大垣市にITベンチャー支援で有名なソフトピアジャパンがある 。アプリの開発でよく知られているが近年はITベンチャーと物作り、観光業との融合を進めている。岐阜はトヨタの下請け工場がたくさんあるが製造業不況のせいで、ラインも余っているし新たにB to Cに乗り出したいという動機も存在する。製造事業者とAndroidアプリをつくることができる人材とを組み合わせることで新しい価値の提供を目指しているのである。
これは先日FTMラウンドテーブル(Red Table)で議論された「スマートグリッド」と対照的な世界観ともいえる。「スマートグリッド」は電力の供給量に応じて自動で電気料金を調整する。。価格変動によって、社会学でいう自発的な服従契機を生み出しているからある種の権力関係を見出すこともできる。同時にこのことは人々に「(自分が)無意識で節電に参加している」ということを意識させると齟齬をきたす可能性も秘める。
ディスカッションの最後には、会場から「なぜ我々にipodがつくれないのか?最近感じるのは、自分たちの会社が今まで、如何にある機能を効率的に作るかを至上命題にしていた。そして組織もそれに最適化された形になっていた。だからユーザーが何を求めているのかが分からない。ユーザー自身も分からないかもしれない。トータルでモノ作りからサービスまで描く力が、これからの「製造業+サービス」の分野では必要になってくるのではないか。だが残念ながら現在の大手メーカーは組織の形が追いついてない。モノをつくることとサービスは分断されたままになってしまっている。全体像を見ながらイノベーションをプロデュースできる人材もマインドもない。」という意見も出た。日本のメーカーはどこにすすんでいくべきなのか。続くFTMの論点ともいえるだろう。
※1.
レイチェル・ボッツマン,ルー・ロジャース,2010, 『シェア <共有>からビジネスを生みだす新戦略』NHK出版.
(執筆:西田亮介)