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Others - March 19, 2012
レポート:山田メユミ氏「消費はこの先どう変わるのか?」 第3回FTMラウンドテーブル(Green-Table)
March 19, 2012 [ Others ]
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![]() | 「消費はこの先どう変わるのか?」 山田メユミ(株式会社アイスタイル取締役 兼 @cosme主宰) 1995年東京理科大学卒業後、化粧品原料メーカーを経て、1997年化粧品メーカー入社。プランナーとして商品開発を手掛ける中、99年趣味で始めたメルマガの反響をもとに、コスメ情報専門サイト「@cosme(アットコスメ)」を立ち上げる。同年12月「@cosme」正式オープン。メーカー退職後、「アイスタイル」に参画し、@cosme主宰に就任。現在「株式会社アイスタイル」取締役 兼 @cosme主宰。 |
第3回FTMラウンドテーブル(Green-Table)は、 女性に圧倒的な人気を誇る化粧品ポータルサイト「@cosme」を主宰する株式会社アイスタイル取締役の山田メユミ氏が、自社の事業を詳細に紹介し、それをもとにして消費形態の変化についての問題提起を行った。
アイスタイルは1999年に数名の若者が起業した。現在、株式会社アイスタイル、eコマースサイトを運営する株式会社コスメ・コム、それから「@cosme store」という実店舗を展開する株式会社コスメネクストという3社でグループ展開を行っている。
グループの事業概要は化粧品業界に特化した形で美容ポータルサイト「@cosme」の運営、化粧品メーカーと消費者のマッチング、プロモーション、モニタリングなど多岐に渡る。さらにイーコマースサイト・ショップの運営や店舗支援も手がけている。現在、社員数は約200名で、ネットベンチャーから出発して、いまでは実店舗にも深くコミットしているため、すでにネット企業とはいえない事業形態である。
「@cosme」は創業当時から「生活者中心の市場を創造する」というビジョンに掲げてきた。1999年当初は、まだまだ女性のネット利用は今ほどで活発ではなかったため、生活者のニーズが把握することは困難であった。一方で、化粧品産業はすでに市場拡大が頭打ちになった成熟市場にもかかわらず、新規参入を企図する企業は絶えなかった。
そこで生活者の意見を反映した商品開発や、生活者の意向をマーケットに反映することを目指して創業した。
アイスタイルの事業の中核となるのはデータベースで、インターネット上の化粧品に関わる情報を集約している。サービスとしては@cosmeが最も認識されているが、「Yahoo! BEAUTY」や「MSN」にも情報を提供している。当初からオープンにやってきたのが特徴といえる。加えて、実店舗とのコラボレーションやEコマースで事業のポートフォリオを構成しており、一部、上海で中国女性向けのクチコミサイトの立ち上げに関わったりもしている。
現在の@cosmeは月間500万-600万人が何らかの形で利用している。特に「女性サイト」というわけではないが化粧品が中心だけに、平均年齢30歳くらいの、情報感度の高い女性たちがコアとなっている。キラーコンテンツの口コミは1日におよそ3000件ほど寄せられ、累計では940万件。コミュニティになった商品は現在で約20万。こちらも1か月に1000商品~2000商品ほどが新規登録されている。ユーザーが登録する場合と、アイスタイルがメーカーから情報提供を受けて登録する場合がある。
日本の化粧品市場には、じつに多数の商品が投入され、自分のニーズにあったものが分かりにくくなっている。そのなかで国内にあるほぼ全ての商品の口コミ情報があり、口コミ以外にも美容に関するQ&Aサイト、そして美容SNSがあることが特徴である。
いずれのサービスもユーザーインターフェースとしては非常に可愛らしく作っているが裏側の実態はデータベースである。メーカー、特に商品開発や販促に利用可能な評価の時系列変化、属性別の評価の内訳、他社商品と比較した時の個性などを口コミデータから分析できるようになっている。
最近は、実店舗の運営や、少し大型なユーザーイベントを定期的に開催しているほか、年に一回「ベストコスメ大賞」を発表している。その受賞商品には、店頭商品にPOPとして付けることができるオフィシャルロゴを提供している。
また阪急百貨店やファミリーマートとコラボレーションもしている。従来コンビニに人気商品が並ぶ場所は無かったが、このコラボによってコンビニでも、「その場しのぎ」のコスメではなく、良いものに出会えるという情報接点を作った。
実店舗もオンラインストアと同じコンセプトを具体化している。通常、化粧品は流通(百貨店、スーパー、コンビニ)ごとに細かくセグメントされているのに対し@cosme storeのテスターコーナーは、口コミ情報にもとづき、チャネルに関係なく色々な人気商品が並んでいて、試すことができるようになっている。
店舗としては売れない商品をテスターで並べるというのは非常に効率が悪いことではあるが、この点は@cosme としてのコンセプトであるため徹底している。現在全国には5つの店舗と、池袋駅のホーム上にKIOSK型の小さな実験店がある。このようにアイスタイル・グループは消費者データベースを携えて、生活者の意向が反映した化粧品市場を実現する事業をおこなっている。
山田氏はこのように自社の事業を紹介したのち「消費はこの先どう変わるのか?」というテーマについてフィリップ・コトラーの『マーケティング3.0』を引き合いにだしつつ以下のように問題提起を行った。
「マーケティング3.0」は表題に「ソーシャルメディア時代の新法則」とあるように、「情報の流通や消費者の情報発信力が変わっていく中で、どのように共感してどう参加してもらうのか」が主題である。キーワードとして「社会志向」「協働、参加志向」「人間志向」が登場する。
変化の背景には、インターネットの情報の充実と検索エンジンの登場がある。
同時に消費者の情報発信力が向上し、それが集合知となって購買行動に影響を与え始めた。ソーシャルメディアの普及に伴って人と人との個々の繋がりがより密接になっているため、消費者のエンパワーメントがさらに加速した。同時に企業のサプライチェーンマネージメントにおいてもICT利活用による最適化が起きている。結果、エネルギー消費・環境負荷が低減し、生産過程の無駄が極力省かれて品質や価格の適正化が進んでいる。
山田氏は、@cosmeを10年間運営する中で、消費の適正化・公正化とは実際にはどういう形をもって言うのだろうか、 生活者の「満足」の形がどんどん変わっていくことでこの先どうなっていくのだろうか、ということを感じているという。
例えば、化粧品市場はこの10年間で購買行動が実際に大きく変わった。2003年は百貨店の売り上げは全体の11%で、そのほかに化粧品店(街の化粧品だけ売っている店)と量販店が約3割強あった。それが昨年の2010年のデータでは専門店や百貨店のシェアが大きく減少し、ドラッグストアが台頭している。ドラッグストアは16%から28%へと非常に大きく伸びている。
@cosmeのアンケートには「本当に自分にあった商品を知りたい」という声と共に「失敗したくない」という声が非常に多いという。買ってみてあまり良くなかったというのは非常に残念なことであり、当然女性は賢く消費をしたいという思いが強いためそのような声が多いのであろう。
ネットの検索や集合知を利用して、賢く商品を選び、賢く購入して、かつ賢くそれを使うという人が確実に増えているという実感もあるという。
山田氏は、このように「賢い消費者」が増えてくると、最終的に行き着くのは市場の縮小ではないか、と疑問に感じている。そしてこのようなトレンドは本当に「スマートな社会」の実現と言うべきなのかどうか、モヤモヤしたものを感じている、と問題提起した。
そして、「無駄が最大限に省かれれば満足度が100%になるのかというとそれだけではない、という思いもある」「自分が知らなかった商品に出会うことは女性にとっての喜びであり、「気分による消費」といった側面もある」と述べ、必ずしも「適正化・合理化」して満足するものでもないのではないかと指摘した。
このような悩みをどのようにバランスしながら、サイトを設計すべきであろうか。つまり、より合理的に適正な商品にたどりつくということと、遊びや偶発的な出会いのようなものをどう創造していくのかという課題のジレンマである。
コトラーの議論ではそこで、「共感」や「協働」といった精神的な要素が登場する。山田氏は、他社との差別化はそうした領域の先にあるのか、精神的な要素が本当に次の消費における関心の本流になっていくのか、ということを問いかけた。加えて、今後、ICTを活用できる人とできない人の間で情報格差がさらに拡大広すると、実際に貨幣価値としての損得やQOLの差にも繋がりかねないと山田氏は予測している。そういった状況に対して、企業は何ができるのか、ということを日ごろ考えている、と述べて山田氏の報告は終了した。

山田氏の報告ののちに全員によるディスカッションが行われた。
■リコメンドの少ない@cosmeまず議論になったのは@cosmeのリコメンドの少なさであった。通常のウェブサービスでは「ユーザーのニーズに合致した商品の選択肢」が繰り返し推薦される。だが、山田氏によると、「ランキングからパーソナライズした商品を提案したときに、果たしてそのユーザが本当に出会いたい商品に出会えるのかが解として見えていない」ため、リコメンドを抑えいるという。むしろ年代やお肌のタイプといった大まかな項目から、ユーザーが自分で深く絞っていく仕組みにしているという。したがって検索は細かく指定することも可能で、具体的なイメージがある人は自分に合致する商品に到達できる。
さらに口コミ情報の書き込みも頻繁に行うユーザーに対しては、自分の書き込みと近しい書き込みをしている人を抽出してきて「ぴったりサーチ」という名前で提供しているが、自分の商品の評価を入力すればするほど自分にマッチした、すなわち、その評価から、その人の好みに合うであろう商品をレコメンドする機能もある。ユーザーが受動的になりすぎず、能動性を生かしているのが@cosmeの思想である。
■「スマートな消費」?次に各社の商品品質が向上しつつ価格は下落するなかで、消費者はどのように商品選択を行うかということが議論となった。
百貨店・専門店のシェアが低下し、ドラッグストアでの消費が伸びている中、安くて良いものを何のコミュニケーションもなく買ってくるというような消費が増えているのだろうか。それとも「共感」が大事といった話もしばしば耳にするが、ブランドのポリシーなどに共感して人は購買行動を行うのだろうか。
このような問いに対して、閑歳氏は「何も考えたくない派」「共感したい派」「無駄をしたい派」というユーザーの3分類を提案した。「何も考えたくない派」はとにかく早く時間を短縮したいクラスターで、何も考えずに月一回セットで適切な商品が送られてくることを好むなど手早く手に入れることを好む。「共感したい派」は、たとえばあるフランス製化粧品のように、商品1つ1つにストーリーがついていて、それを楽しみながら使う固定客。ストーリーを楽しみたい人や世界観が好きだという人のこと。「無駄をしたい派」とは、「何も考えたくない派」とは逆に、情報が豊富にあることによって無駄をしたくなる人である。情報があればあるほど試してみたくなったたり、情報の発信側になりたいという人々が該当する。彼女たちは化粧品選びに時間をかけ、お金もかけるだろう。割合は業界や対象商品によって異なるであろうが、おそらくその3つのクラスターがあり、@cosmeのユーザーにも該当するのではないか、というものであった。
これに対して西田は、情報が増えて、低価格かつ高品質な商品が広まることで逆に冒険≒高額商品を購入する機会も増えるのではないかと述べた。 閑歳氏はそれに対して、そもそも、「無駄なことを考えたくない派」の人たちは無駄をどんどん省いていって、余剰なお金ができたものを違う業界や違うもの、割合は分からないが趣味の所に沢山かけてしまい、必ずしも化粧品以外のところに可処分所得が流れてしまうのではないかと指摘した。
■新しい企業と消費者の関係ーー「どこ」に「落とし所」を見つけるのか?山田氏は、年間化粧品購入金額を最近4年間で比較すると、平均が下がっている一方、個数はあまり減っていないというデータを提示した。2009年の時点では購入金額のピークが30代後半にあるが、2011年では45歳以上にシフトしている。さらに10代から20代前半はとにかく低価格が目立っている。全体でみると縮小均衡にあることを感じるという。
このデータを受けて楠氏は、チャネルごとの価格戦略がより鮮明になっていくのではないかと述べる。実際デジタルカメラなどでも、ネットを見ている客と見ていない客とで違う値段を小売店が提示することがあると指摘した。かつてソニーがPS2を発表して、ユーザーによってゲームの値段を変えるような構想を発表したことがあったが結局は頓挫した。ロイアリティ(忠誠心)が高いユーザーの心象を悪化しかねない。加えて、メーカーからの販売奨励金による現在の商習慣をどうするのかという問いや、ノープリントプライスはユーザーに対する心象の問題もあると指摘された。
■複雑になったユーザーの購買行動商品点数、チャネルが複数になっていくなかで、ユーザーが目にする情報量が増えている。さらにそれらの組み合わせ(ex.対面販売でカウンセリングだけ受けて、実際の購入はドラッグストアでetc)が可能になったことで、情報接点と購買場所がパターン化しづらくなっている現状がある。そのなかで@cosmeストアには、「店員はみな商品に詳しいはず」という期待があり、それゆえ質問に答えられないと不満が高まるという環境で高いクオリティが求められている。
西田はそのような環境のなかではリコメンドを減らしておいて、能動的なユーザーを「エンパワーメント」することが、企業と消費者の倫理的均衡といえるのではないかと述べた。さらに楠氏は、そもそも「クオリティが高くなった」ことが重要なのではないかという。山田氏は1万や1000の選択肢を10に絞ることはとても重要だが、それはあくまで「みんなのランキング」であって、そこから先まで企業側が絞って提示してしまうとそれは消費者が求めるパーソナライズとは異なったものになってしまうという。藤代氏は、そこが@cosmeの「誠実さ」だという。 例えばデータを3つ、5つ出すというのは選択肢を与えるという誠実さであるが、「スマート」なサービスとして「はい、これ!」とデータによって「ジャストフィット」した商品を提示するような議論は「本当のスマートとはどのようなことであるのか」という議論が置き去りにされてしまっていると指摘した。
楠氏はその議論は、選択肢の提示の仕方が、認知しているものを深堀していくのか、まだ認知していない選択肢を提示するかによって変わるのではないかと提案した。後者を提示したときには、消費は増えるのではないか、という仮説だが、それを踏まえて庄司氏は一般的な検索のように「あなたと似ている人はこれを見ています」ではなく、「あなたと似ている人はこれを見ていますが、このような商品は見ていません」と未知の選択肢をリコメンドすると面白いのではないかという提案を行った。このように、川崎氏の報告以来続いている消費と「スマート」のあり方を深める議論が続いた。
(執筆:西田亮介)