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Others - October 15, 2012

レポート:「“所有しない社会”とスマート社会の構想」(FTMラウンドテーブル(Green-Table)2012年度第一回)

October 15, 2012 [ Others ] このエントリーをはてなブックマークに追加

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■日時:2012年8月28日(火)18時~21時
■場所:国際大学GLOCOMホール
■テーマ:「“所有しない社会”とスマート社会の構想」
 発表 庄司昌彦(国際大学GLOCOM主任研究員/講師)

■講演記録

FTMラウンドテーブル(Green-Table)2012年度第一回は、国際大学GLOCOM主任研究員の庄司昌彦氏から「“所有しない社会”とスマート社会の構想」に関する報告からはじまった。

庄司氏はまず、昨年度4回開催されたGreen-Tableで行われた報告を振り返った。第1回目は、株式会社Kamado代表取締役社長の川崎祐一氏による「ソーシャルネットワークはモノづくりを変えるか」。第2回目は日本マイクロソフト株式会社技術標準部部長の楠正憲氏による「再生産の再定義~「もっと、速く、良く」を超えて~」。第3回目は株式会社アイスタイル取締役兼@cosme主宰の山田メユミ氏による「消費はこの先どう変わるのか?」。最後に第4回目は、株式会社ユーザーローカル 製品企画・開発担当の閑歳孝子氏による「「個」と「仕事」と「ソーシャル」」であった(※1)。

庄司氏はそれら4回の報告・議論をまとめたシンポジウムを振り返り、Green-Tableの意義について、技術論ではなく、技術の先にどのような未来を考えることができるかを考えることにあると述べた。また全体の議論を通して浮かび上がった論点として、①シェア概念による利益をどのように、誰が導き出すのか。②「ソーシャル」な働き方とはなにか、そして、ソーシャルを利用したビジネスの可能性はどのようなものかについて問題が残っているとした。

■情報社会とスマート社会論

その後庄司氏の報告は、情報社会とスマート社会論の議論からはじまった。まず情報社会論の先駆的著作を振り返り、代表的なものとして、梅棹忠夫『情報産業論』(1963年)や増田米二『情報社会入門』(1969年)、ドメラ・メドウズ『成長の限界』(1972年)、ダニエル・ベル『脱工業化社会の到来』(1973年)、アルビン・トフラー『第三の波』(1980年)などを挙げた。彼らの議論は現在からみても違和感なく読めるものであり、先見の明があったと庄司氏は述べる。

また庄司氏は、1960年代のアメリカ西海岸で盛り上がったヒッピーとハッカーの文化が、現在の情報社会に大きな影響を与えていることを指摘する(※2)。そこで庄司氏は、デンマークのクリスチャニア、そして同じくデンマークのスヴァンホルムにおいて現在でも存続する、ヒッピーの自治共同体の存在を紹介した。前者は1971年まで軍事施設だった場所に、ヒッピーが住み着き約40年間占拠しており、現在でも約900人が住んでいる。後者は130人がシェアハウスの形で居住する農業生産共同体であり、有機栽培農業でビジネスをするだけでなく、居住者は収入の8割を拠出し、食事や育児等について共同の自治生活を行っている。

こうした既成の価値観にとらわれず、共同体的な志向を持ったヒッピーやハッカーたちの伝統は、情報社会や近年の社会運動にも共通するものであり、中東革命においてもウィキリークスやアノニマスといったハッカー文化に親しい集団が運動を間接的に支援した。ウィキリークスはチュニジアのベン・アリ大統領一族の腐敗を伝える情報を公開し、アノニマスは政府系サイトに対するサイバー攻撃を行った。またオキュパイ運動においては、クリスチャニアの住人たちが、「元祖オキュパイ」としてウォール街を訪問した(※3)。

■企業の脱「所有」化

次に庄司氏は企業の脱「所有」化を指摘する。サービスが企業の占有物ではなくなりオープン化しつつあり、それに伴う低価格化によって、企業はIT企業だけでなく、製造業ですら小規模化することが可能になった。その証拠に、シリコンバレーのネット企業Craigslist社は、2009年の売上が1億ドルなのに対し社員数が23人であったという。人材も流動的になっており、日本においても正社員が減少するとともに、企業も不動産を持たなくなってきていると指摘した。庄司氏によれば、東証1部、2部上場企業の不動産売却企業は1999年の232社をピークに2011年は50社と、約20年間のデータで最低の数値を記録したが、庄司氏はこれを、すでに企業が不動産を持たなくなったことの表れではないかと指摘した。

企業が「持たなく」なったことに対して、庄司氏は合理性故のことだとの見解を述べた。すなわち、所有は高コストであり、使いたい時にだけ所有できれば良いと人々が考えはじめている。また新しい商品を楽しむための乗り換えコストを安くするために所有しない。さらに、服などの物理的なモノの所有も場所をとるとして非効率であり、不自由であることから、人々は無駄を省くといった合理的な思考から「所有しない」ことを目指すようになったのではないか、ということである。とはいえ、なにもかも所有しないというのではなく、雇用や居場所、プライバシーや人間関係など、所有が必要な場合もある。

■脱「所有」のあり方とその価値

庄司氏は脱「所有」のあり方とその価値について最近の2つの考えを紹介した。1つはジェフ・ジャービス『パブリック 開かれたネットの価値を最大化せよ』(※4)の議論にある、Pub-lic-ness(パブリックネス)である。これは、情報・思考・行動をシェアすることで人を集めるとともに、アイデア、大義、ニーズが集まることで「パブリック」が形成されるものである。周囲とのコラボレーションがプロセスをオープンにすることで、新しい倫理が生まれる可能性に関する指摘である。

もう1つは坂口恭平『独立国家のつくりかた』(※5)から、プライベートパブリックについても庄司氏は指摘した。これは、自分が持っているプライベートなものをパブリックに提供することに価値を置き、私有(ないし所有)の概念を多様な観点から捉え直すことを提唱しているという。

最後に庄司氏は、持たないことの合理性を考える必要があると述べた。もちろん、すべてを持たなければいいと考えるわけではないが、持たないメリットが現状を上回るものと、最適な所有の仕方が現状と異なるものを具体化する必要があると述べて報告を終えた。

■ディスカッション記録

庄司氏の報告後は、最初に日本の情報社会における諸問題について議論が交わされた。欧米の一部の「持たない」者たちの最先端の実践と、日本社会の接点に関する問題である。

主なものとして、西海岸や東海岸の文化が常に日本で盛んに論じられているということは、逆説的に、日本社会がこうした概念を拒んできたことの現れなのではないかという疑問や、またノマドやベンチャーなどの議論が常に阻害されている日本の現状に疑問が発せられた。こうした問題は簡単には解決できないだろうが、なぜノマドやベンチャーが一部の少数者の問題として留まり、日本社会全体のビジョンへと発展し得ないのかについて考えるべきとの声があがった。

■消費者目線か企業目線か

 藤代氏は、モノや情報を脱所有化する人々が増える一方で、そうした人々たちの分まで所有するようになった、googleやAmazonのような「所有する企業」の存在を指摘した。

例えば、仮に国家や行政機関の持っていた情報を企業のクラウドサーバに移行するとすれば、国家の情報を民間に委託することになり、ますます一部の企業は所有することになる。こうした問題に関しては、消費者が「何を捨てる」ことでより快適な社会をつくりあげていくかという消費者目線の議論と、所有する企業の戦略にはどのようなものがあるのか、という産業目線の議論の2つがある。

このふたつのいずれかに議論を絞るべきだという藤代氏に対して庄司氏は、まずは消費者目線の未来を考えて、その中からヒントが得られた時に後者の企業の問題を論じるべきとの考えを述べた。

■所有と分散

 川崎氏は、所有と分散の中間に位置する道を模索しているという。インターネットはアーパネットの時代から分散がその思想の根本にあったにもかかわらず、大企業のクラウドサービスは明らかに情報の一極集中による所有であり、極端に言えばビッグブラザー(※6)のような存在が現れるといった危険性もある。

しかしは他方で、情報の集中が一概に悪いとも言えない。例えばフェイスブックの投稿には、内容によって投稿が閲覧可能な人物をグループ化が可能である。情報の集中によってパブリックスペースを作りあげたフェイスブックだが、設計次第では選択の多様化を生じさせることも可能である。

 所有と分散はバランスが求められる問題であるが、所有と分散の中間が必要という論点に支持の声も多かった。ウェブサービスを利用することでカーシェアリングのように、所有が必要不可欠だった時代に比較して、所有することも所有しないこともできる社会が到来したということであり、多様性が生まれた点を西田氏は評価した。

 情報の一極集中によるビッグブラザー化の危険を考慮しつつも、それによる選択肢の多様化等のメリットを最大限に引き出すための議論が、今後はさらに必要とされるであろうと思われる。

■シェアについて

 シェアに関する話題は興味深いものがあった。森永氏によれば、所有しないシェアの文化は江戸時代の日本にあったという。欧米の文化こそ所有の文化だったのであり、ヒッピーやシェアの文化を日本に適応させるという議論よりも、むしろ日本のシェア文化の歴史を振り返るべきだという。

 川崎氏によれば、東京における貸し借りといった意味のシェアは、地域など既存の共同体に根付いた密度の濃いシェアではなく、自分のネットワークの中で構築した友達などの間で交わされる、濃くもドライでもない、中間的な新しいシェアの形なのではないかと指摘した。それを受けて玉置氏は、個人が構築したネットワークにおけるシェアも、数年経つとムラ化し負担のかかるネットワークになってしまうという点を指摘し、その上でこの現状を打破するために、そこそこドライなシェア文化を企業がサポートできないかを考えているとのことである。

■工業化と情報化

 会場を巻き込んだ質疑応答からは、工業化でモノがあふれた先に情報化社会が到来したにもかかわらず、なぜ人はシェアをするのかという疑問が投げかけられた。これに対する回答として、モノがたくさんあるからこそ、人は自己所有をせずにいつでも使いたい時だけシェアするようになったのではないか、という意見があった。

また工業化(ハードウェア)と(ソフトウェア)情報化という点では、アマゾンのような注文システムと配達インフラが組み合わさることで利便性の高い社会が到来しており、さらにシャアなどの新しい価値に関しては、インフラの整備によって今後はより多様な選択肢をつくることが可能になるとの声があがった。例えば、高級車を一台も所有することなく、その日の気分で高級車を含む様々な車に乗ることができる社会の到来である。藤代は、こうしたモノと情報のつながりを模索することで、新しい産業のコアが生まれるのかもしれないと述べた。

また玉置氏は、「Airbnb(※7)」という自分の家の空き部屋を貸し出すサイトを紹介し、所有する/しないという対立概念そのものが曖昧になってきていると指摘した。シェアのビジネス利用に関してはまだまだ問題も多いが、こうした既存の経済成長の議論とは異なる価値のあり方を模索することこそが、Green-tableの意義であるように思われる。

■所有権について

 さらに会場から、所有とは権利が保障されていることであり、所有しないということも所有権を放棄していることではないとした上で、にもかかわらずウェブサーバなど、企業の都合で権利が突如放棄されてしまう危険性についての指摘があった。これに対して藤代氏からは、先に議論されたビッグブラザーの危険性や、だからこそ絶対に譲れないものを想定しておくことが必要であるとの指摘があった。

最後に庄司氏は、モノと情報の融合や所有権の捉え方など、今回の議論で今後整理すべき論点が浮き彫りになったと同時に、今後はより具体的に、生産・消費・仕事のいずれかの話題を議論することが伝えられ、3時間という長時間を感じさせないほどに白熱した議論は幕を下ろした。

・(※1)これらの議論の詳細とレポートに関しては、以下のページにリンクが貼られている。
http://www.glocom.ac.jp/project/ftm/green-table/1ftmgreentable.html

・(※2)西海岸とヒッピー、ハッカーの関係については以下の文献が参考になる。スティーブン・レビー著、古橋芳惠、松田信子訳『ハッカーズ』、工学社、1987年(原著は1984年出版)。または池田純一『ウェブ×ソーシャル×アメリカ <全球時代>の構想力』講談社現代新書、2011年。

・(※3)オキュパイ運動の現場に出向きその活動を観察した文献としては、五野井郁夫『「デモ」とは何か-変貌する直接民主主義』NHKブックス、2012年がある。

・(※4)NHK出版、2011年。ジェフ・ジャービス(1954~)は、メディア/テクノロジー関連でもっとも高い人気を誇るブログのひとつ BuzzMachine.com を運営し、新しいメディア、ジャーナリズム、テクノロジー、ビジネスについて積極的に発言している。また、ニューヨーク市立大学院ジャーナリズム科准教授としてベンチャージャーナリズムを教える。2007年と2008年の世界経済フォーラムでは、「世界のメディア・リーダー100人」の一人に選ばれた。

・(※5)講談社現代新書、2012年。坂口恭平(1978~)は、建築家であり作家でもある。2001年、早稲田大学理工学部建築学科卒業。『東京0円ハウス0円生活』(大和書房、2008年)や『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』(太田出版、2010年)などの著作がある。

・(※6)イギリスの作家ジョージ・オーウェルが1949年に出版した『1984年』の中で描かれる独裁者の名前。現在では、国家における監視システムの代名詞となっている。

・(※7) https://www.airbnb.com/ 一部日本語も対応している https://ja.airbnb.com/

(執筆:塚越健司)