2006年 7月 26日 (水)

講師:長村 玄氏
所属:タイポグラファー,Jfonts協議会理事長
日時:2006年7月26日(水) 午後2時~午後5時
終了しました
ワープロの出現以来,文書の作成環境は著しい発展を遂げた。アプリケーショ
ンの機能ももちろんであるが,フォントの充実が文書の品質を高めることに貢
献してきたことは承知のとおりである。さらにフォントはデータベースとネッ
トワークとに組み合わされて社会インフラとして定着してきた。たとえば住民
基本台帳ネットワークは「住基統一文字」なしには実現し得なかったし,戸籍
の電算化も「戸籍統一文字」があってはじめて機能するのである。
しかしこれらの文字総数は6万字を超えている。我が国最大の漢和辞典の漢
字収載数が約5万字であることと比較しても,いかに多いかがわかる。しかも
仔細に字形を検証してみると(それなりの理由に基づくものではあるが)デザ
イン差に該当する文字も多く,とくに固有名詞に使用される漢字字形解釈上の
問題を内包していることを窺い知ることができる。
一方,第22期国語審議会は平成12年に『表外漢字字体表』1,022字を答申し
たが,ここでは『常用漢字表』の字体の考え方とは一線を画す思想が盛り込ま
れ,この字体表を印刷標準字体としても用いることとされた。しかしここでも
漢字の字体差/デザイン差に関するあいまいさを残しているように感じられる
のである。
従来から,外字の多くが明朝体の字形解釈の間違い,あるいはあいまいさに
よって生み出されているという実態が見受けられる。漢和辞典ごとの字形差は
ほとんど明朝体の書体差であるにもかかわらず,その字形が一人歩きをしてし
まうことも多い。漢字字形のダイナミズムを学校教育でしっかり教えていると
いう話もあまり聞かない。このままではいつまでも幾多の「勝手な解釈」が罷
り通ることになってこよう。
現代の標準書体としての明朝体デザインとは何なのか,デザインの独自性は
どこまで許されるのか,また本質的に守るべき規範は何か? といったことに
ついての共通理解がなければ,これからも外字は増殖をし続けるに違いない。
そしてそのことによって社会インフラとしての混乱もまた連綿と続いていくで
あろう。
今回は明朝体デザイン(意匠構造)の本質と採るべき方策について,明朝体
成立の歴史や漢字のさまざまな字形を具体的に参照しながら一緒に考えていく
ことにしたい。
1941年,東京都出身。千葉工業大学電子工学科卒。日本コロムビアでAV機器の 回路設計に携わった後,写研において電算写植機開発等に従事,文字開発部門 を職掌。1991年,大日本スクリーン製造東京研究所長,1996年,ダイナラブ・ ジャパンフォント&プリプレス事業部長,1998年,ソウルシステム(韓国)日 本代表を経て1999年,株式会社ドキュメント・エンジニアリング研究所を設立 ,代表取締役社長,会長を歴任。現職はコンサルタント。タイポグラファー。 1997年よりJfonts協議会(旧Truetype協議会)理事長。
今回の研究会では、「字形デザインから外字増殖の問題を探る-情報化時代の文 字インフラに望むものとは-」と題して、長村玄氏に講演を頂いた。「文字は社 会インフラである」という問題意識のもと、明朝体成熟の歴史や国語審議会答申 における字形の取り扱い方、漢和辞典間での画数や字形の取り扱い方など、様々 な例を通じて、現在の日本では、「文字とはなんであるか」という共通認識も十 分に成立していない現状を明らかにした。このことが、住基統一文字、戸籍統一 文字などに始まる様々な文字セットにおいて、本質的ではない外字の増加につな がっているとの主張である。長村氏は、こういった現状を十分に把握した上で、 今後の「文字インフラ」のあり方について考えていく必要があると述べた。
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