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ESENA - July 1, 1991

波力発電の現状

July 1, 1991 [ ESENA ] このエントリーをはてなブックマークに追加

波力発電の現状

廣瀬 学

(財)電力中央研究所有識者会議推進室


要約

四方を海に囲まれたわが国は、波エネルギーの豊かな国の一つである。波エネルギーが簡単に大量に、しかも安く手に入れることが可能となれば、そのメリットは諸外国に比べ、大きい。わが国ではこれまでに様々な方式の波力発電の研究が行われており、実際に海で実験を行ったものだけに絞っても十数例がある。

本文では、わが国周辺の波エネルギーの特性について概説するとともに、わが国で実海域実験を行った波力発電方式を中心に、一次変換の観点から 1)空気エネルギーに変換する方式、2)機械的なエネルギーに変換する方式、3)水の位置エネルギーまたは水流エネルギーに変換する方式、の三つのグループに分類、整理して、それぞれの方式の特徴など概要を紹介している。また、わが国において波力発電がなぜ本格的に利用されないかについて、考えを述べている。


目次
はじめに
1.波エネルギーの特徴とわが国近海の波エネルギー
2.波力発電の歴史
3.わが国を中心とした波力発電の研究開発の現状
3-1 空気エネルギーに変換する方式
3-2 機械的なエネルギーに変換する方式
3-3 水の位置エネルギーまたは水流エネルギーに変換する方式
4.波力発電の概略コスト比較と実用化の展望
5.波力発電が本格化しない理由
おわりに
参考文献


はじめに

近年、国際的なエネルギーの需給情勢は比較的緩和基調にあり、かつて経験した2回の石油ショックなど、忘却の彼方に消え去ってしまった感もある。しかし、長期的に見れば、石油など化石エネルギーの有限性や発展途上国の経済発展に伴うエネルギー需要の増大によって、再びエネルギー情勢が逼迫してくることに変わりはない。

1997年12月の地球温暖化防止京都会議において、CO2 など、温室効果ガスの削減目標として、わが国については1990年よりも6%削減するという厳しい目標が設定されている。1998年6月に電気事業審議会の示した電力供給目標では、新エネルギーの割合を1996年の 0.1%から2010年には1%へ高める、としている。

表1
電力供給目標(電力量)

(単位:億kWh)

1996年度2010年度
構成比
(%)
構成比
(%)
原子力3,02134.64,80045
石炭1,23714.21,36013
LNG2,03723.32,13020
水力8389.61,19011
一般7138.29809
揚水1261.42102
地熱360.41201
石油等1,54717.78708
新エネルギー130.1901
合計8,72910010,560100

出典:文献(2)


注意1.LNGには天然ガス、燃料電池及びメタノールを含む。
2.石油等にはLPG、その他ガス及び歴青質混合物を含む。
3.新エネルギーとは、廃棄物、太陽光及び風力をいう。

しかし、この新エネルギーとは、廃棄物、太陽光、風力を指すものであって、波エネルギーを利用する「波力発電」は含まれていない。波力発電は太陽や風力などと同様、温暖化影響の少ない発電システムの一つである。

図1

図1: 各種発電システムの温暖化影響
出典:文献(2)

わが国は、四方を総延長34,386kmにも及ぶ海岸線(1989年調査値)に囲まれており、ノルウエーやイギリスなどとともに、波エネルギーの豊かな国の一つに数えられる。波エネルギーが簡単に大量に、しかも安く手に入れることが可能となれば、そのメリットは諸外国に比べ、大きい。再生可能な新エネルギーの一つに、波力発電を加えることは、エネルギーの多様性を重視する意味においても重要ではないか、と考える。


1.波エネルギーの特徴とわが国近海の波エネルギー

海の波は、その周期によって、表面張力波(周期 0.1秒以下)、短周期重力波( 0.1~1秒)、重力波(1~30秒)、長周期重力波(30秒~数10分)、長周期波(5分から12時間)、潮汐波(12時間以上)に分けられる。このうち波力発電の主たるエネルギー源となるのは重力波である。重力波は、海面上に風が吹くことによって起こる波浪(風浪とうねり)のことである。風は、瞬時に大きく変化することがよくある。風によってもたらされる波エネルギーの変化は、瞬時の変化割合が小さく、滑らかなエネルギーとなっている。

波エネルギーは、場所によって賦存特性が異なる。また、時間によって、日や、月、季節によってその大きさは変化することはよく知られている。例えば、日本海側では、冬の季節風による波が高く、逆に夏期は比較的穏やかな日の続くことが多い。これに対して、太平洋側では、季節的な変動は小さく、静穏な日の続くことは少ない。一年を通じて波高1~2m程度の波が押し寄せる傾向にある。

波エネルギーを利用する場合、先ず候補地点を選定する必要がある。そのためには長期間、波を観測し、その特徴を十分把握しなくてはならない。しかしそれには多額の費用と時間を要することから、概略の検討の段階では、付近ですでに波浪観測がなされてないかを調べ、設置地点の波の概略値を推定する方法を推奨したい。近年、運輸省、気象庁、あるいは自治体などから、波浪の統計解析データが数多く公表されている。

波の観測結果は、有義波高(H1/3) と有義周期(T1/3) とで整理されている。通常、20分間の全ての波について、波高(H)・周期(T)をペアとして波高の大きい順に並べ替え、上位1/3 を算術計算したものがH1/3、T1/3である。

波の単位幅当たり(波の峰方向幅1m当たり)のエネルギー(W/m)は、
W=0.5*(H1/3)2*(T1/3)
で表すことが出来る。すなわち、波のエネルギーは波高の2乗に比例し、周期に比例する。

わが国周辺の波エネルギーを試算した例はいくつかある。高橋重雄によれば、図-2に示すとおり、わが国周辺にはは幅1m当たり7kWのエネルギーが存在し、総延長5200kmの折れ線で近似するならば、わが国全体で3600万kWの波エネルギーが存在する。この値は大変大きな値のように思われるが、波の持っているエネルギーであって、取り出せるエネルギーとは区別する必要がある。

図2

図2: 日本周辺の波エネルギー
出典:文献(3)(4)


2.波力発電の歴史

波エネルギー利用の歴史を紐解くと、20世紀の初頭から、多くの先人らによって研究開発が進められてきた。とくにイギリスの方で特許が数多く出されている。初期の頃にはその多くは波エネルギーを船の推進力として利用したり、ポンプとして用いるという考え方が多かった。その次の段階で、灯標ブイや小型灯台用電源として、蓄電池と組み合わせるという考え方が出てきた。そういう考え方の中で、これまでに実用化となっているものに波力発電ブイ(小規模な波力発電装置を備えた航路標識用ブイ)がある。わが国では1965年前後に開発され、出力 100Wの波力発電ブイを中心として、わが国だけで1000基以上の使用実績がある。

わが国で波エネルギーを大規模に利用する試みが本格化したのは、第1次石油ショックの後で、海洋科学技術センターほかによる「海明」の実験の成功によるところが大きい。 波力発電には様々な方式が提案されている。これまでにわが国で実際の海で実験を行ったものだけに絞ってみても、十数例があげられる。

次節で、わが国を中心とした波力発電の研究開発の現状について紹介する。


3.わが国を中心とした波力発電の研究開発の現状

波力発電の方式は大きく分けて一次変換(先ずどういったエネルギーに変換するか)の観点から 1)空気エネルギーに変換する 2)機械的なエネルギーに変換する 3)水の位置エネルギーまたは水流エネルギーに変換する の3種に分類することが出来る。それぞれの方式別に紹介する。

3.1 空気エネルギーに変換する方式

図-3は「海明」という名の浮体構造物(自力で走行する装置をもたないので船ではない)である。底部は浮室を除いてあいており、空気室内の水面が上下することによって上部の開孔(ノズル)部に取り付けられた空気タービンを回してエネルギーを取り出す仕組みである。1978年の実験開始以来、海洋科学技術センター(JAMSTEC) を中心として、山形県鶴岡市由良の沖合で計3回の実験を実施している。実験開始当初、浮体構造物は25㎡の空気室、24室に仕切られていた。実験はIEA(国際エネルギー機関)との共同研究として実施され、イギリス、アメリカ、カナダ、アイルランドがこれに参加した。第2次実験では東北電力の実系統に送電するテストを行ったり、第3次実験では、空気室の改造を行い、空気タービンにウエルズタービンを用いるなど、出力向上を目指した実験が実施された。

その後、わが国の波力発電実験の事例の多くは、空気エネルギーに変換する方式である。その中から事例をいくつか紹介したい。

図3図3

図3: 浮体式波力発電
出典:文献(5)

図-4は「消波工型定圧化タンク方式波力発電」と呼ばれ、エンジニアリング振興協会が千葉県山武郡九十九里町の片貝で実験を行っているものである。直径2m、高さ11.8mの円筒型をした波エネルギー吸収装置を10ユニット設置している。波エネルギーは空気流として支管、本管を経て、陸上にある直径 9.6mの定圧化タンクに導かれ、平滑化される。発電機は定格出力30kWのラジアル型タービン・同期発電機を使用している。システムは1988年に完成し、発電した電力で近くのヒラメ養殖用のポンプを回している。

図4

図4: 消波工型定圧化タンク方式のシステム概念図
出典:文献(5)

図-5は「波力発電ケーソンによる沖合固定式」の概要図である。運輸省が山形県酒田市の酒田港第二北防波堤に設置し、1988年から長期の実験を行っている。ケーソン幅は20m、奥行きは24.5mあり、直径 1.3m、16枚の翼からなる定格出力60kWのタンデム配置のウエルズタービン発電機が組み込まれている。酒田港は日本海に面し、冬の季節風による波が高い。発電で得られた電力は海底ケーブルで陸上のデモハウスに導かれ、融雪用水のポンプアップ、ロードヒーティング、電着、照明灯など、波力発電の様々な用途の可能性が検討された。

図5図5図5

図5: 波力発電防波堤の概要
出典:文献(6)

図-6は「水弁集約方式」の原理を示した図である。東北電力㈱は福島県原町市に建設中の原町火力発電所南防波堤の突堤部に長さ 20.85m、奥行き25.6m、高さ24mのケーソン2函を設置し、1997年から1999年までの予定で波力発電の実証試験を実施中である。ケーソンには4つの空気室と定格出力 130kWの横軸形誘導発電機1台(波力発電の単機出力としては国内最大設備)などからなる波力発電システムを組み込んでいる。

図6

図6: 水弁集約方式の原理
出典:文献(7)

図-7は「マイティーホエール」の概要図である。海洋科学技術センターが三重県度合郡南勢町の五カ所湾沖で、平成10、11年度に実験を予定している。8枚翼のタンデム配置ウエルズタービンとブラシレス同期発電機(3台合計 120kW)を搭載予定とされている。

図7

図7: 水弁集約方式の原理
出典:文献(8)

3.2 機械的なエネルギーに変換する方式
図8

図8: 増毛町の「振子式波力発電」のシステム概念図
出典:文献(9)

図-8は「振子式」と呼ばれる北海道留萌郡増毛町の増毛港の堤防に設けられた波力発電装置である。室蘭工業大学と日立造船㈱の技術により増毛町が設置し、1981年から1986年にかけ実験が行われた。波エネルギーを受圧板の振子運動として捕捉し、油圧に変換する。いわば、波のプールの造波装置の逆の原理で波エネルギーを電力に変換する波力発電方式である。波力で得られたエネルギーは、防波堤の側にある漁民センターのお湯を湧かす20kW相当の熱源として利用された。

同様の「振子式」の研究施設は、室蘭港外防波堤沖側にもあって、1983年から試験を行っている。

上記の2例は振子を支持する位置が上部にあるのに対し「下部支持型振子式」と呼ばれる波力発電のプロトタイプ機が京都府宮津市の関西電力㈱宮津エネルギー研究所に設置されている。1989年から1kW相当の噴水用動力源として利用されている。

図-9は「海陽」と呼ばれる波力発電装置である。日本造船振興財団海洋環境技術研究所が沖縄県八重山郡西表島サバ沖で1984年から約2年間の実験を行った。浮体の動きと固定構造物との相対運動をリンク機構で構造物上のアクチュエータに伝達し、油圧に変換する。油圧モーター、交流発電機の発電出力の制御範囲は1~12kWであった。

図9図9

図8: 波力発電装置「海陽」
出典:文献(10)

3.3 水の位置エネルギーまたは水流エネルギーに変換する方式
図10

図10: 低天端越流防波堤方式
出典:文献(11)

わが国でこのタイプの実際の海域で実験が行われた事例はないが、過去に著者らは「波流発電方式」、あるいは図-10に示す「低天端越流防波堤方式」と呼ばれる波力発電方式について、基礎的な水理模型実験を行い、発電特性を試算したことがある。波によって打ち寄せられる水塊を構造物の斜面に沿って遡上、越波させ、背後の遊水池に貯留する。そして遊水池の水面と海水面との水位の差を利用して低落差用水車タービンを回すというのがその原理である。

図-11はノルウェーの「TAPCHAN:Taped Channel Power Plantの略、タプチャン」と呼ばれる波力発電の実証プラントである。ベルゲンの西北西約20km、北海に面したToftestallenという岩礁地帯に建設され、1986年に完成している。収斂形状で波を増幅させるという視点では上記「波流発電方式」と同様であるが、収斂する先の方向が一方向に湾曲している点が異なる。このことは非常に重要なことで、構造物の斜面や側壁の受ける波の衝撃力を少なくすると同時に、越波する海水の量を増やす効果がある。タプチャンの遊水池面積は約8500㎡あり、水面は海面よりも3~8m高い。落差3mで水量14~16m3/s  <<立米/s>>の低落差用カプラン水車が用いられており、定格出力 350kWの波力発電が行われている。

図11図11

図11: タプチャンの概要
出典:文献(12)


4.波力発電の概略コスト比較と実用化の展望

前にも述べたように、波エネルギーは場所によってその特性が異なると同時に時間的にも変動する。波力発電の各種方式のコスト比較に当たっては、同一の波浪条件の下で比較するのが望ましい。しかし、各方式によって、候補地点となる条件(対象とする水深や地形的な条件、最適規模など)が異なるため、その経済性を一律に比較検討することは難しい。

文献(3) には、将来10MWの波力発電が実現した場合の発電コスト試算例を示しており、その値は17.3~33.1円/kWh である。ただし、設置の条件等、試算根拠は、それぞれ開発を担当した機関等によるもので、防波堤の建設コストが開発費の中に含まれていない場合もある。また、これらの設置場所の想定として波浪条件の比較的よい地点を選定しているため、全国的なレベルとして考えた場合には、その約2~3倍程度の値となる可能性もあることを指摘しておきたい。また、波力発電にはスケールメリットがあるため、規模の小さい場合には、その値よりやや割高となることが想定される。

一方、安価で安定した発電機や周辺機器の技術開発が進みつつあるため、将来、逆にコストが下がる部分も出てくるであろう。

波力発電の各方式に共通する技術的課題としては 1)エネルギーの平滑化の問題 2)波力発電で得られたエネルギーの利用方法の問題 3)貯蔵技術の開発の問題 があげられる。

1)については、波力発電の方式が歴史的に少しずつ改良されてきたことにより、短時間の変動に対しては、ある程度の対応が出来るようになってきている。しかし、長時間の変動については依然として難が残る。 2)は、波力発電の質にも関係してくる。これも、実際の海域で実験を重ねるごとに、ある程度は目途がたってきている状況といえる。問題は 3)である。安価で、しかも使い勝手の良い貯蔵技術の開発が望まれる。自動車用バッテリー(鉛蓄電池)は、比較的安価ではあるが容量が小さい。お湯や氷といった熱エネルギーとして貯蔵する方法も考えられている。また、最近、特に注目されているのが圧縮空気として利用する方法である。大量に、しかも比較的安価で貯蔵できるだけでなく、水質浄化用のエアレーションなど、多目的に利用できる可能性がある。湖沼の富栄養化防止対策としてのエアレーションの例で、投入空気量の 200倍もの水が連行される、といった報告もある。養殖漁業への応用が期待される。

将来、波力発電の開発がどの程度進むか、予測することは極めて難しい。しかし、地球環境問題への対応あるいは、原子力発電の立地をめぐる社会環境の厳しさなど、昨今のエネルギー情勢は非常に不透明な状況にある。将来のエネルギーを考えると、クリーンな再生可能エネルギーを少しでも多く利用するという方向性は決して間違っていないのではないか、と思われる。海洋開発の一環として、波力発電技術のさらなる発展が望まれる。


5.波力発電が本格化しない理由

波力発電は新エネルギー開発の一環として、もう少し脚光を浴びてもいいような気がする。前にも述べたように、国の計画の中で取り上げている新エネルギーは、廃棄物発電と太陽光発電、風力発電だけである。

太陽エネルギーは、自然エネルギーの中で唯一、需要曲線とある程度の相関特性をもつエネルギーと言える。雲が覆えば出力の低下が起こるものの、概して言えば、暑い昼間の冷房需要が大きい時に、太陽光発電の出力も大きくなる。一方、風のエネルギーは短い時間でも大きく変動することが知られる。しかし、一定出力に近づけるための仕組みが意外と単純である。風力発電は大出力化、つまり風車を大型化することにより羽根に慣性力が働いて出力は比較的安定化する。また、風が強まると風車の羽根の角度が自動的に変わって風を受け難くするなど、制御の方法にも工夫がみられる。

波エネルギーはもともと風のエネルギーを滑らかにしたような特性をもっている訳で、変動するエネルギーとはいえ、風よりも瞬時の変化割合は小さく押さえられている。

それにも拘わらず、何故、波力発電が風力発電のように発展していかないのかについて、著者なりに考えてみた。

1) 先ず、コストの高いことがあげられる。風力発電は陸上部分に建設するため、比較的建設は容易である。波力発電は、基本的に海上工事を伴い、建設費が陸上工事に比べて割高である。高波浪時には工事が中断するわけで工事稼働率の面で一般的に不利である。また、造船ドックなどである程度まで完成させて運搬する方法を採るとしても、多額の曳航費用を要することを覚悟しなくてはならない。コストの面で特記しておかなくてはならないことは、もともと防波堤を設置しなくてはならない場合に、波力発電装置を増分(プラスα分)として考えられないか、という点である。波力発電装置を組み込んだ防波堤も通常の防波堤と同等かそれ以上に効果をあげるわけである。そう考えれば、もう少し波力発電の可能性も高まるのではないだろうか。

2) 波力発電の安全対策が比較的大掛かりとなってしまうことも一つの制約条件となっている、のではないだろうか。風力発電ではある風速以上になると風車が止まる仕掛けとなっている。波力発電の場合も異常波浪時、とくに台風時を想定した安全対策が必要である。定格出力 500kW、波力発電としてはこれまでで世界最大の設備、ノルウエーの「Kvarner MOWC」が、実験期間中に大波を受けて倒壊した。また、規模は小さいものの、わが国でも固定式の波力発電灯標が台風の大波で破損した例もある。係留するタイプの発電方式の場合、係留索が切れると沿岸に二次的な災害を引き起こすことが懸念され、とくに厳重な安全対策が必要となる。「マイティーホエール」の場合、自沈装置ということで異常波浪時に浮力室に海水を注水し、海面下に沈むという対策が採られている。また「海陽」では、波力発電装置の設置場所が台風銀座の沖縄だったこともあり、異常波浪時には装置全体をジャッキアップして海面上波の届かないところまで上げてしまう対策が採られた。防波堤組み込み方式で空気エネルギーに変換するタイプの波力発電方式の場合、ある波高以上になると、空気を開放する仕掛けが必要となる。酒田の北防波堤「沿岸固定式」では圧抜き弁(開放弁)が組み込まれている。「水弁集約方式」の場合、異常波浪時には水弁が自動的に開放状態になる特性をもっているため空気圧が異常に高まることはない。

3) また、最近の流れの中に「景観」という視点を忘れてはならない。すべてのものの中で発電を最優先するという理由はどこにもなく、波力発電設備を設置することによって周辺の景観が損なわれないことまで配慮する時代となっている。


おわりに

本文をとりまとめるに当たって、波力発電に関係する多くの方々から貴重な資料の提供をいただいた。見学などに際して便宜をはかっていただいた。にも拘わらず「波力発電がなぜ進まないか」といったマイナス面をも紹介した。「折角資料を提供したのに…」とお叱りを受けるかもしれない。しかし、波力発電の開発が他の新エネルギー技術に比べ、スローペースで進んでいることも事実で「様々な障害を乗り越えて、開発が進んで欲しい…」という気持ちを込めて、あえて書かせていただいたものである。

もう一つ、お叱りを受けるついでにつけ加えたい。著者は「海洋省」があれば、と思っている。「海」に関することのすべての事項を取り仕切る省庁というイメージである。波力発電に関係する官庁は非常に多い、と常づね感じている。太陽光や風力が通産省だけの管轄であるのに対し、波力発電に多くの省庁が関与している。科学技術庁は海洋における科学技術振興の観点から海洋科学技術センターを窓口として日本の波力発電をリードしてきた。「海明」から「マイティーホエール」に至るまで、一連の流れが認められる。運輸省は防波堤からの反射波を減らし、また防波堤の受ける力を弱める観点から研究を重ね、波力発電でエネルギーを取り出すことが有効な手段となることから、酒田でも「沿岸固定式」の実証試験を行っている、と著者は理解している。波力発電も「発電」という視点では通産省の管轄である。発電という視点では新エネルギーにも種類が多くあることから、波力発電の開発までの順番がなかなか回ってこない。そのうち他の省庁で手掛けているものにはついては 予算がつきにくいという面があったのかどうかは定かでないが、沖縄エネトピアアイランド構想で初期には波力発電も含まれていたが、途中の段階で落とされてしまった経緯があったと聞いている。

2001年からの1府12省庁体制のスタートを目指す中央省庁等改革基本法が参院本会議で可決、成立した。こういった省庁再編成の動きの中に「海」を巡った再編の動きがあるようには思えない。

「海明」にせよ「水弁式」にせよ、波力発電で多くの実験に至る過程においては、中心的な研究者がいてグループがあって、波力発電に対する並々ならぬ熱意と周囲への働きかけがあって実現しているのである。そういった情熱に敬意を表するとともに、今後、この分野がますます発展することを期待したい。 


参考文献
  1. 通商産業省:電気事業審議会需給部会報告(1998年6月)
  2. 内山洋司、山本博巳:「発電プラントの温暖化影響分析」電力中央研究所研究報告、Y91005 (1991年)
  3. 土木学会エネルギー土木委員会:「波エネルギー利用技術の現状と将来展望」(1990年)
  4. 高橋重雄:「日本周辺における波パワーの特性と波力発電」港湾技研資料 №654 (1989年)
  5. 海洋科学技術センター:「波力発電装置『海明』の研究に関する総合報告」(1981年)ほか
  6. エンジニアリング振興協会ほか:波力発電パンフレット
  7. 運輸省第一港湾建設局:波力発電防波堤パンフレット
  8. 海洋科学技術センター:マイティーホエールの研究開発パンフレット
  9. 増毛町:増毛町波力発電に関する資料
  10. (財)日本造船振興財団海洋環境技術研究所:波力発電『海陽』パンフレット
  11. 廣瀬 学:「低天端越流型防波堤の発電特性」海洋科学技術センター主催、第2回波浪エネルギーシンポジウム(1987年)
  12. 堀田 平:「ノルウェーの波力発電技術と海洋開発」COASTAL DEVELOPMENT №11(1989年12月)
  13. 廣瀬 学:「新エネルギー・新発電 波力発電」火力原子力発電(1991年10月)
  14. 廣瀬 学:「自然エネルギーの利用」、磯部雅彦編著「海岸の環境創造 ウォーターフロント学入門」p110~p120、朝倉書店(1994年)
  15. 廣瀬 学:「再生可能エネルギー 海洋」エネルギー・資源ハンドブックp422~p427、エネルギー・資源学会編(1996年)