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kumon_youhou_sangyou - March 6, 1993

第五章:米国新政権の情報通信政策

March 6, 1993 [ kumon_youhou_sangyou ] このエントリーをはてなブックマークに追加

この報告書の冒頭で述べたように、米国はいまようやく、30年ぶりに、国民の関心が私的な領域から公共の領域に向かう時代に入ったようだ。それは、米国社会が直面しているさまざまな深刻な問題に対処するにあたって、政府が積極的な役割を果たすことが容認され期待される時代でもある。この時にあたって、米国では十二年ぶりに政権の交代が行われ、四十代の若手の民主党の政治家が、大統領および副大統領として登場してきた。また、それと軌を一にするかのごとく、米国経済は、ようやく長らくの低迷状態を脱して、本格的な上昇気流に乗りつつあるようにみえる。それを主導しているのが、米国のハイテク産業、とりわけ情報通信産業である。そして、クリントン大統領は、ゴア副大統領に、新政権の技術政策、とりわけ情報通信政策の統括を委ねている。ゴア副大統領は、このほど新設された国家経済会議--それは国家安全保障会議と並ぶ重要な位置を与えられているが--の中に設置されることが決まった技術タスク・フォースのリーダーとして、活躍することが予定されている。
そこで、この第五章では、米国新政権の情報通信政策を見てみることにしよう。といっても、まだ政策の細目が決まっているわけではない。細目については、目下ヴィラノヴァ大学のロー・スクールの教授であるヘンリー・ペリット・ジュニアー(Henry Pettitt Jr.) が責任者となって、後述する高性能コンピューティング法に盛られているNREN (National Research and Education Network)構想を原型としつつ、関連諸機関との調整や内容の詰めのための作業を行っている最中であり、完成までにはなお何ヶ月かの日時を要するといわれる。したがって、現時点で入手しうる資料は、新政権の発足以前に、ゴア上院議員 (当時)が準備していた法案、大統領選挙期間中に、クリントンたちが発表した政策文書、および新政権の発足以後今日までに発表した文書や演説に限られる。ここでは、その中で、この報告書の主題にとって関係の深いものをいくつか選んで、その概要を紹介してみよう。

  (一) ゴアの提出した法案。

 情報通信政策をめぐるゴアの最初の構想は、第一章で紹介したワシントン・ポスト紙に発表された論文に盛られている。そのゴアは、上院議員時代に、情報通信政策に関連しては、四つの法案を提出している。すなわち、

  1. 高性能コンピューティング法 (High Performance Computing Act of 1991) 。この法案は、1986年に初めて法案として提出され、その後若干の修正をへて、1991年9 月11日に上院を、11月20日に下院をそれぞれ通過し、Public Law 102-194として制定された。
  2. 通信の競争力およびインフラストラクチャー現代化法案 (Communications Competitiveness & Infrastructure Modernization Bill) 。この法案は、三名の共同提案者と共に1991年の6 月に提案されたが、まだ成立していない。 (今年は、Conrad Burns上院議員によって、再提出されることになっている。)
  3. 市内電話インフラストラクチャー現代化法案 (Local Exchange Infrastructure Modernization Bill) 。この法案は、50名の共同提案者と共に1992年の 6月に提案されたが、まだ成立していない。
  4. 情報インフラストラクチャー・技術法案 (Information Infrastructure and Technology Act)。この法案は 8名の共同提案者と共に、1992年の 7月に提案されたが、まだ成立していない。

1)高性能コンピューティング法

まず、高性能コンピューティング法(HPCA)の内容を概観しておこう。この法律は、一国の安全と発展にとっては、コンピューター科学技術の発達は死活の重要性をもち、米国は今日この分野では世界をリードしているが、外国からの深刻な挑戦--公平な競争がなされていないとか、政府調達の無差別主義のような条件が守られていないといった形の挑戦--に直面している、という基本認識に立脚している。そこで、外国の挑戦を排してリードを維持することを目的として、それを、全国的な超高速コンピューター・ネットワーク(NREN =National Research and Education Network)の建設--1996年までに実現する--と、コンピューター関連の高度な研究開発の促進による、ハード、ソフト両面での高性能コンピューティング・システム(HPCS =High Performance Computing System)の構築、という二つの手段を通じて、達成することを期しているのが、この法律である。NRENとHPCSは、アメリカにとっての "大いなる挑戦 (Grand Challenges) " とも呼ばれており、また、この目的を達成するための具体的な行動プログラムは、NHPCP(=National High Performance Computing Program)と呼ばれる。HPCC (High Performance Computing and Communications)という言い方もしばしばなされている。(1) これによって、ホワイト・ハウスの科学技術政策局(OSTP =Office of Science and Technology Policy)の調整による各省庁の情報化計画の一本化が試みられ、その成果を、科学技術政策局長が毎年報告書を議会に提出することが、義務づけられている。また、科学技術政策局は、局長の下に高度情報化促進諮問委員会を作って報告書を提出させ、それにもとづいてNHPCP を逐次見直していく任務も与えられている。また、政府の外には、ロバート E. カーンを社長とする、情報インフラの研究・開発の促進を目的に設立された非営利団体 CNRI(=Corporation for National Research Initiatives)が設立され、全国的なHPCC計画の推進のための中心的な役割を果たすことにされている。
この法律は、その内容から判断される限りでは、日本やヨーロッパからの挑戦に応戦しようと試みるアメリカが採用した、 "新開発主義的産業政策" の基本理念を述べたものという印象が強い。実際、施策の重点は、NRENの建設もさることながら--それへの支出は議会承認歳出額全体の14% にすぎない--むしろ、高性能コンピューティング・システム(HPCS)の構築(25%) や、先端ソフト技術およびアルゴリズム開発(ASTA)(41%) におかれているように見える。つまり機器やソフトの開発とパテントの取得が、重視されているようだ。ただし、この法律によって承認されている歳出額は、金額的にはさしたるものではない。この法律ができる前の1991年度でも、同種の予算項目に5 億㌦が支出されていた。それに対し、新法案が成立した後での1992年度の支出は、6 億㌦台になっているにすぎない。だから、この法律は象徴的役割が強いともいえそうだ。(2)

2)情報インフラ・技術法

"ゴアⅡ" などと通称されている情報インフラ・技術法案(IITA)は、それが最初に提出された1992年には、審議は行われなかった。しかし、新政権の発足後に、民主党が議会に提出した 5本の最重要法案の一つ (S4: 通称は "国家競争力" 法案) の一部に、それと同じ内容のものが含まれているので、いずれ法律として成立することは確実であろう。
この法案の目的は、1991年のHPCAでその開発が促進されることになった高度な技術の、研究室から市場 (製造現場、病院、学校) への移転の促進を通じて、米国経済の競争力を増進させ、長期的経済成長の実現と市民生活の質の向上をはかることである。
この法案が実現を期待しているのは、たとえば、ロサンジェルスの医師が、CAT スキャンの画像を、高速コンピューター回線を通じてNIH の専門家に送って診断を仰ぐとか、学校の生徒が、議会図書館の本をオンラインで検索する、といったようなことである。この法案の趣旨を実現するための行動計画は、IIDP (=Information Infrastructure Development Progam)と呼ばれ、その調整にあたるのは、ホワイトハウスの科学技術政策局(OSTP)で、計画作成には、連邦科学・工学・技術調整委員会(FCCSET =Federal Coordinating Council for Science, Engineering, and Technology. "Fixset" と発音される) があたる。行動計画の中には、議会図書館の保有する情報をディジタル化した、ディジタル・ライブラリーの建設も含まれている。
HPCAが成立したにもかかわらず、その第二弾としてのIISTがすぐには成立しなかった理由は、関係者の間の利害の錯綜--リチャード・ソロモンのいうグリッドロック (第四章参照) の存在--にあると思われる。NRENとの関連でいえば、エリート研究者たちからなる高度研究推進派にとっては、超高速のデータ通信ネットワークを子供たちや企業にも私用させるのは、もってのほかだということになるだろう。それに対し、旧防衛産業からの転換派は、旧式化したコンピューターを学校に売りこみたいという思惑もあって、教育用の利用には熱心だと思われる。他方、産業政策政策重視派にとっては、NRENの役割はなによりも国家的経済競争力の確保におかれるべきだということになり、ネットワークのグローバルな開放は必ずしも望ましいとはみなされないだろう。だが、市民・ビジネス派にとっては、データ通信のネットワークは、広く世界とつながっていることが、最も重要だということになるだろう。このような異なる思惑や利害が、どのように調整されていくかが、これからの見物である。(3)
 なお、他の二つの法案のうち、「通信の競争力およびインフラストラクチャー現代化法案」は、各地域電話会社に対して、2015年までの広帯域通信インフラストラクチャー整備計画の提出を義務づけることと引換えに、CATV会社の行っているようなビデオ番組サービスの提供を許そうというものである。また、「地域電話局インフラストラクチャー現代化法案」は、地域電話局の通信インフラストラクチャーが現代化された後でも、各地域電話会社の規格の共通化や、相互接続、相互乗り入れなどが確保されるよう、FCC にしかるべき調整権限を与えようというものである。その意味では、これらの二つの法案は、電気通信ネットワークの末端での高度化 (光ファイバー化、FTTH) と共通規格化を促進することを狙いとしたものだということができよう。

(1)このようなさまざまな名称がある理由は、NRENの構想は、HPCAの成立以前にすでにある程度実現にうつされようとしていたことによることろが大きい。ブッシュ共和党政権は、民主党が提出したHPCAの趣旨そのものには反対ではないが、あらためて法制化するまでもないとして、1992会計年度の予算にはすでに、HPCAで予定したのと同等の、NREN構築のための予算措置をもりこんでいたのである。なぜならば、すでに、1989年の時点で、ホワイトハウスの科学技術政策局は、高度コンピューティング計画(HPCP =High Performance Computing Plan)なるものを公にしており、その中に、NREN構想の概要がすでに盛り込まれていたからである。この計画は、1991年に完成することになっていた (実際には、一年早く完成した)NSFNET バックボーンの改良事業を、“中間的”NRENの第二段階として位置づけていた。そして、1991年に発表された“大挑戦:高度コンピューティング、コミュニケーション (Grand Challenges: High Performance Computing and Communications)”と題する“青書”の内容も、HPCAと大同小異のものであった。つまり、名称こそ微妙に違ってはいるものの、アメリカの高度情報化に関するかぎり、共和党の大統領の発表していた計画と、民主党の議員たちの提案した法案とは、事実上同一のものだったといってよい。[Kahin 92:5]
(2) この法律で定められた各省庁に対する議会承認歳出額は、次のようになっている( 単位は100 万㌦)
+------+---+---+---+---+---+-----+     
| 省 庁  | 1992 | 1993 | 1994 | 1995 | 1996 | 合 計 |     
+------+---+---+---+---+---+-----+     
| NSF  | 213 | 262 | 305 | 354 | 413 | 1,192  |科学財団
+------+---+---+---+---+---+-----+     
| NASA | 72 | 107 | 134 | 151 | 145 |  609  |航空宇宙局
+------+---+---+---+---+---+-----+     
| DoE  | 93 | 110 | 138 | 157 | 168 |  666  |エネ省
+------+---+---+---+---+---+-----+     
| NIST |  3 |  4 |  5 |  6 |  7 |   25  |規格技術研
+------+---+---+---+---+---+-----+     
| NOAA |  2.5|  3 |  3.5|  4 |  4.5|   17.5 |海洋大気局
+------+---+---+---+---+---+-----+     
| EPA  |  5 |  5.5|  6 |  6.5|  7 |   30  |環境保護庁
+------+---+---+---+---+---+-----+     
| DoEd |  1.5|  1.7|  1.9|  2.1|  2.3|   9.5 |教育省  
+------+---+---+---+---+---+-----+     
| 合 計  | 390 | 493 | 593 | 680 | 746 | 2,904  |     
+------+---+---+---+---+---+-----+     

また、実際に提案された予算額と、議会を通過した実額は、次のようになっている (単位:100 万㌦)

+------+---+----+----+----+
| 省 庁  | 1991 |92提案額|92実 額|93提案額|
+------+---+----+----+----+
| DARPA| 183 | 232.2 | 232.2 | 275 |高度国防研究
+------+---+----+----+----+プロジェクト庁
| DoE  | 65 |  93  | 92.3 | 109.1 |
+------+---+----+----+----+
| NASA | 54 |  72.4 | 71.2 |  89.1 |
+------+---+----+----+----+
| NSF  | 169 | 213  | 200.9 | 261.9 |
+------+---+----+----+----+
| NIST |  2.1|  2.9 | 2.1 |  4.1 |
+------+---+----+----+----+
| NOAA |  1.4|  2.5 | 9.8 |  10.8 |
+------+---+----+----+----+
| EPA  |  1.4|  5.2 | 5  | 8 |
+------+---+----+----+----+
| NIH/NLM | 131.5|  17.1 | 41.3 | 44.9 |衛生研究所/
+------+---+----+----+----+医学図書館 | 合 計  | 489.4| 638.3 | 654.8 | 802.9 |
+------+---+----+----+----+

注: 1992年から93年にかけての提案額の増加率は、23% である。 93年の提案額は、一年前の法案で定めた承認額より63% 多くなっているが。これは、法案にはなかった DARPAとNIH/NLM が含まれているためである。

(3) この法案に記載されていた議会承認要求歳出額 (単位:100 万㌦) は、当初提出時には、次の通りであった。

+------+---+---+---+---+---+-----+
| 省 庁  | 1993 | 1994 | 1995 | 1996 | 1997 | 合 計 |
+------+---+---+---+---+---+-----+
|NSF教育 | 20 | 40 | 60 | 80 | 100 |  300  |
+------+---+---+---+---+---+-----+
|NSF図書館| 10 | 20 | 30 | 40 | 50 |  150  |
+------+---+---+---+---+---+-----+
|NIST製造| 30 | 40 | 50 | 60 | 70 |  250  |
+------+---+---+---+---+---+-----+
|NIH保健 | 20 | 40 | 60 | 80 | 100 |  300  |
+------+---+---+---+---+---+-----+
|NASA図書| 10 | 20 | 30 | 40 | 50 |  150  |
+------+---+---+---+---+---+-----+
| 合 計  | 90 | 160 | 230 | 300 | 370 | 1,150  |
+------+---+---+---+---+---+-----+

  (二) 新政権の技術政策

次に、新政権の技術政策を見てみよう。新政権は、これまで、選挙期間中の1992年 9月に「米国の技術リーダーシップ回復のための六つのイニシァティブ」と題する文書を発表し、今年の 2月には、それをさらに敷衍した文書を発表している。
最初に発表された六つのイニシァティブの内容は、次のとおりである。

  1. 20世紀後半の産業にとっての重要なインフラストラクチャーが、州際ハイウェーのような自動車用高速道路のネットワークであったように、21世紀の産業にとってのインフラストラクチャーの構築は、情報インフラが中心となる。そこで、政府は、中核となるネットワークの建設やデモンストレーションを行う等、その構築に取っての触媒の役割を果たす。また、ネットワークとデータベースのユーザーの訓練にも力を注ぐ。その他、民間投資を促進するための各種の措置を講ずる。
  2. 高技能で高賃金の労働力を作るための教育・訓練プログラムを実施する。たとえば、あらゆる種類の学生の教育と教育資金の貸付プログラムを導入する。ドイツ型の職業教育プログラム、日本型の従業員教育訓練投資を参考にする。幹部の訓練や失業者の教育だけでは不足なので、各地に製造業訓練センターを作ったり、各種の資格証書を発行したりもする。
  3. アメリカには、2000万の中小企業があって、GNP の40% 、雇用の半数を占める重要な存在となっている。そこで、ここでも日本やドイツに学んで、中小企業の能力向上のための技術プログラムへの投資を重視する。
  4. 連邦研究開発投資の中の重要技術のシェアーを劇的に拡大する。軍事~平和部門比率をこれまでの60:40 から50:50 へと、早急に変更する (それだけで後者は70億㌦の増加となる) 。
  5. 連邦技術投資による産業への貢献の最大化をはかる。これまでは連邦研究機関の予算の半分は軍事用だったが、これからは、産業支援を使命としていた唯一の連邦機関(NIST)を拡大する。すなわち、総予算の一% 以下だったのを倍増する。また、連邦研究機関の予算の10~20% で、民間産業との共同事業を行う。こうして、連邦政府の技術投資を梃子として、民間投資を引き出す。
  6. 民間部門の投資と技術革新のための、世界一流の環境を作る。すなわち、税制、通商政策、規制政策等の見直しを行う。通商政策によって、海外の市場を米国企業のためにより開放的なものとする (301 条の強化、ウルグァイ・ラウンドの早期完結、貿易協定における結果の達成の強調、中小企業の輸出促進等) 。また、反トラスト法を見直し、企業間の危険分担や資源のプールをしやすくする。1984年全国協働研究法を改正して、共同生産事業にも適用する。大使館の商務部門を拡充する。輸出規制の緩和や許可手続きを簡素化する。東西貿易を自由化して、一方的な輸出規制を撤廃する。防衛産業の調達の手続きを簡素化する (現状はクッキーの仕様書だけで10ページもある) 。

 以上を前提として、より詳細な技術政策の要綱が、2 月26日の大統領と副大統領のシリコン・グラフィックス社の社員との対話の席上で発表された。シリコン・グラフィックス社は、カリフォルニア州にあるマルチメディアを指向するハイテク企業である。この対話での注目すべき点としては、

  1. 大統領、副大統領共に、すっかりリラックスして、情報技術にかかわる高度な内容をも含む対話を、ジョークも交えながら、軽々とこなしていたこと、
  2. クリントン大統領は一貫して、技術政策の分野はゴア副大統領がリーダーシップを発揮すべき分野だとして、ゴア副大統領をたてていたこと、
  3. 対日関係については、質問に答えて、貿易赤字の縮小のために断乎たる政策を取ると答えた--日本ではこの下りばかりが大きく報道された--以外に、
      a)相互依存関係の強まっている現在では、 "国内政策" などもはやありえないので、互いに内向きになることなしに、協力を重視しようと呼びかけたこと、
      b)日本がQCによって、製品の品質を引き上げたばかりか、賃金の増大や利益の拡大も同時に達成したことに鑑みれば、アメリカも、環境問題を改善しつつ経済成長をはかれないはずはないと訴えたこと、
      c)同じく、日本が膨大な財政赤字を縮小して財政再建を達成したことに学べば、アメリカも財政再建ができないはずはない、と述べたこと、
    などがあげられよう。明らかに、アメリカの政治にも、 "新思考" あるいは "新行動" の時代が来たのである。

 ところで、新技術政策要綱だが、その要点は次の通りである。すなわち、技術政策の目標としては、

  1. 長期的経済成長を通じて、高技能・高賃金の職の増加と、環境の浄化を共に実現する、   
  2. 政府のあり方をより生産的で、市民のニーズによりよく応えるものにする、   
  3. 基礎科学、数学、工学の面での世界のリーダーシップを維持する、

の三つを基本目標としている。
 第一の目標については、1930年代以降の生産性向上の2/3 は技術が生み出したという事実、あるいは、これからの産業はますます知識を基盤とする--豊富な資源や安価な労働力に依拠するのではなしに--ものになりつつあるという認識を背景にして、投資による技術革新を思い切って重視している。具体的には、産業と政府が、費用を分担しつつ協働して技術開発を進め、その成果の商業化を促進するための制度改革や企業間協力を支援しようとしている。
第二の目標については、政府が、民間とくらべて、コミュニケーションやエネルギー利用効率が悪いことや、民間からの調達に規制がつよすぎる (軍やNASA) ことを、強く反省している。そして、作業チーム間の連携を強めること、組織の構造や管理方式を改善すること、情報処理の電子化を進めること等をうたっている。それによって、政府のサービスの質が改善され、公衆への適時適切な情報提供 (気象、災害情報等) 、多様なコミュニケーション・チャネルを利用したサービスが可能になることが期待されている。また、これからの政府と企業の間の関係は、総体として、これまでの規制型のものから企業支援型のものになることが期待されている。官、産、労、学の協働がうたわれているのである。また、連邦政府と地方政府の協力も重視されている。
第三の目標との関連では、とくに優先される技術として、情報通信技術、FMS (flexible manufacturing system) 、環境技術などがあげられている。つまり、連邦政府の技術開発は、これまでの "基礎+ミッション型" のものから、 "基礎+協働支援型" のものへ、つまり、産業に直接関連する技術の開発を支援する方向へと重点を移していこうとしている。
以上の目標を実現するための具体的な政策手段としては、新構想の中では、

  1. 財政赤字を縮小し金利を下げる財政政策
  2. 研究実験促進のための税額控除(Tax Credit)その他の措置
  3. 開放的だが公平な通商を実現する通商政策
  4. 技術革新を促進し社会的目標を効率的に達成するための規制政策
  5. 生涯学習機会を提供する教育訓練プログラム
        
    • 政府投資、軍の訓練技術の民間移転   
    • 教育機関のインターネット接続支援   
    • 教育ソフト開発等々
    • 市場を補完するための私的な研究開発協力の支援
    • 中小企業が新技術やノウハウを獲得するための研究開発センターや、製造イクステンション・センターの支援
    • 情報インフラの建設のための投資
    • 国防相その他政府機関の調達政策を、革新的製品・サービスの初期市場育成に資す るものとすること
    • 未来の技術革新の源泉を護るための基礎科学への強力で持続的な支援
    • 国際的科学技術協力プロジェクトの推進、
    • 国防省のデュアル・ユースの研究開発プログラムの実施、
    • 高度な研究に役立つ全国利用用施設の設置、

 等があげられている。(1)
ところで、我々の当面の関心からすれば、この新技術政策構想の中でもっとも注目に値するのは、具体的方策の9.で示されている情報インフラの建設である。これに関して、新構想は、こう付言している。
「今日の "情報時代" は、情報の移動における熟練と機敏さとスピードを要求している。過去には、一国の経済力はもっぱら港の深さや道路の状態で決まっていたが、今日では、それは、大量の情報を速やかにかつ正確に移動させる能力や、その情報を利用し理解する能力にも依存するようになっている。かつて州際ハイウェー・システムがわが国の商業の歴史的転換期を画したように、今日では "情報ハイウェー" --アイデアやデータやイメージを全国、全世界に送ることを可能にするもの--こそが、アメリカの競争力と経済力にとって決定的な意味をもっている。
 この情報インフラストラクチャー--コンピューター、コンピューター化されたデータバンク、ファクシミリ、電話、およびビデオ--にとっての生命線ともいうべきものは、一秒間に数十億ビットの情報を伝送できる高速光ファイバー・ネットワークである。エンサイクロペディア・ブリタニカの全巻を一秒で伝送できる状態を想像してもみよ。」
こうした情報インフラに支えられて、医師が患者の病状に関するデータを何千マイルも離れたところにいる同僚に瞬時で送って助言を求めたり、小さな田舎町の生徒が自分のパソコンを議会の電子図書館につなげて、電子的に貯蔵されている何千もの書物や記録、画像や写真を入手できたりするようになる。あるいは、家庭にいながらにして、自分の好きなテレビ番組や映画を送ってもらうことも可能になるのである。また、科学者や技術者はいうまでもなく、銀行や保険会社、あるいは製造業のようなビジネスにとっても、高速の通信ネットワークは、決定的な意義をもつようになるだろう。
 その上で、新構想は、情報インフラ建設のための具体的な行動プログラムとしては、次の五つをあげている。

  1. HPCAにもとづくHPCCプログラムの実現の促進、すなわち、
    より強力なスーパーコンピューター、
    より高速なコンピューター・ネットワークと初の全国高速ネットワーク、
      よりすぐれたソフトウエア、
    を創りだすこと (ネットワーク自体は民間が作るが、連邦の政策と技術開発によってそれを促進すると共に、高度な用具をもち高度な訓練を受けた科学者や技術者を供給する) 、
  2. 国家経済会議内に、情報インフラ・タスクフォースを設置し、議会と協力して、電気通信・コンピューター技術の新たな発展に即した通信・情報政策のための合意の形成と政策の実施ができるようにする。とりわけ、適切な規制の枠組みによって、競争が促進され、新技術の迅速な展開がはかれるようにする。なかでも、21世紀の産業競争にとって必要な高速全国通信ネットワークの建設のための投資を民間部門がためらうことがないように、規制の環境を首尾一貫した安定的なものとする。
  3. 情報インフラ技術プログラムを創設して、製造業や保健、生涯学習、図書館等のための高度なコンピューター・ネットワーキング技術を十分に応用しうるためのハードやソフトの開発を、産業界が行うのを支援する、
  4. 商務省の国家通信情報局(NTIA = National Telecommunication and Information Administration) を通じて、ネットワーキングのパイロット・プロジェクトを助成する。州、学校、図書館、その他非営利団体に対し、遠隔学習やインターネット等への接続に必要なコンピューターや接続サービスの購入のための補助金を出す。これによって、教育界や図書館界が、ネットワーキングの効用を理解できるようにする。
  5. 連邦政府の情報の配付促進。連邦政府は、毎年数十億ドルを費やして、経済・環境・技術情報等を収集・加工している。その多くは貴重な情報なのだが、その潜在的な利用者の中には、その存在さえ知らない者、どうやってアクセスしていいかを知らない者が少なくない。そこで、新しいコンピューターとネットワーキング技術を使って、納税者がそれらの情報をよりえやすくなるようにする。さらに、情報産業の成長を促進すると同時に、連邦の情報が、できるかぎり多くのユーザーに公正な価格で入手可能になるような、連邦情報政策を講ずる。

これらの政策や行動プログラムは、今後の日本の情報通信政策にとっても、多くの示唆を与えてくれるだろう。

(1)その他、新構想の最後の“イニシァャティブ”の部分では、本文であげた13の項目に対応するものに加えて、新世代自動車の開発や、連邦政府の建物への省エネ投資などがあげられている。

(三) 新政権の経済・通商政策 

 なお、情報・通信政策そのものではないが、そのための大枠ともいうべき経済・通商政策については、クリントン大統領が、2 月26日に、ワシントンのアメリカン大学の創立百周年記念式典で行った演説が参考になるので、その要旨を以下に紹介しておこう。
この演説の主題は、近年のグローバルな変化に直面して、アメリカのリーダーシップ、とくに経済的リーダーシップ、を維持することが至上命令とされているというクリントンの認識にある。
クリントンはまず、過去の歴史を反省する。アメリカは、20世紀になって二度、大きな変化への対応を迫られたことがある。第一次大戦の後と、第二次大戦の後とがそれであった。第一次大戦の後のアメリカは、他の戦勝国と同様に、戦後世界の運営にさいして内向きの態度を取って失敗した。世界経済の混乱と、ナチズムの台頭、そして二度目の世界戦争を招いたのである。そこで、今回は、第二次大戦の後の外向きの姿勢による成功に学ぶこととが大切だ。つまり、トルーマン大統領の姿勢、NATOの組織、 GI Billの採用、州際ハイウエーの建設、マーシャル・プランの実施、マッカーサーによる日本改革の推進、その他、国連、IMF 、世銀、GATT等の経験に学ぶことが、今必要なのだ。なぜならば、冷戦後遺症からの脱却には、米国経済の繁栄が米国のためにも、世界のためにも不可欠だからだ。そこで、アメリカとしては、世界の問題を忘れることなしに、しかも米国人本位の政策をとることが必要だ (putting the American people first without withdrawing from the world and people beyond our borders) とクリントンは訴える。そして、1990年代の変化は、過去のものよりより複雑で、より分かりにくい上に、変化はより急速に生じているのだが、それでも、我々は変化を敵とせず、友としよう、変化を理解し、変化に立ち向かおう、と呼びかけている。
クリントンの見るところでは、今日の世界は、グローバルになった世界である。今日の経済は、グローバルになった経済である。同様に、サービスも情報もグローバルになっている。今日の富の尺度は、土地や金や石油や機械ではなく、情報なのだ。情報の質、量、入手し対応する速さだ。それは、我々がすでに持っている知識に加えて、これから学べるもの、それによってできること、を意味しているのだ。
こうした変化に対応するための手段は、開放的で競争的な商業をおいてない。それは、国を富ませ、革新を刺激し、競争を強制する。そして、今日のアメリカにとっては、退却でなく、競争こそが必要なのだ。米国は、依然として世界最強の成長と進歩のエンジンたり続けている。世界最大の生産者であり、世界最大の最も開かれた市場である。アメリカは、日独を尊敬し、日独から学びはするが、同時に、彼等も世界の繁栄のエンジンたれと要求する。アメリカは、ツキディデスからアダム・スミスにいたる、商業の精神で進む。これは戦争の習慣のまさに逆のものなのだ。アメリカは、不公正な貿易慣行を残している相手国とは対決するが、しかし、保護主義になるものではない。なによりも大切なことは、まず自分たちが働き、その上で他人にも要求することなのだ。
クリントンは、そのような認識に立脚して、「国内と世界の新方向を定めるための五段階」を提示する。すなわち、

  1. まず、自国の経済を建て直す(get our own economic house in order)
    すべての基本は、健全な国内経済にある。そこで、アメリカは、生産的投資の拡大と赤字の削減とを、同時に行う。これは、米国史上最初の試みだ。the blame gameをやめて、the bigger game of competing and winning in the global economyへとうつって行くのだ。
  2. 次に、通商を米国の安全の最重要要素としよう。保護主義も自由放任も不可。
    相互の繁栄が可能な開かれた通商システムを作ろう。新政権は現在、総合通商政策を作成中だが、その原理は非難の政策(policy of blame) でなく、責任の政策(policy of responsibility)ということにある。その意味での相互主義なのだ。しかし、multilateral, regional, bilateral, unilateral な政策には、それぞれの有用な役割があることも忘れてはならない。その意味で、アメリカは、GATT Urguay ラウンドの早期終結に賛成だし、NAFTA のような仕組みにも良い点があると考える。
  3. 経済成長をめざして、主要な金融国の間でのリーダーシップの行使に、最善をつくす。そのさい、アメリカは、諸国の目標の共通化を要求を要求する。すなわち、勤勉、低金利、投資促進、通商の構造的障壁の減少を、共通の目標とすることを要求する。そして、サミットでは、次のことを他国に言いたい--君達は今まで多年、米国の赤字を減らして経済を建て直せといってきた。教育や技術への投資を増やして生産性を上げろといってきた。われわれは、その通りした。自分自身のために、また君達のためにそうしたのだ。今度は君達が、ドイツで、日本で、他の国々で、われわれといっしょにグローバルな成長を促進すべきだ。
    われわれは皆、協力は得意でない。捨てたくない特権をもっている。しかし、それではいけない。協力が是非とも必要だ。日欧の成長再開がないと、米国の景気回復後の成長も容易でないからだ。
  4. 途上国の着実な成長拡大も、米国のためにも、途上国自身のためにも必要だ。
    たとえばメキシコが一方的にとった近年の行動で、米国の貿易量は劇的に増大し、貿易赤字も消滅した。その他、麻薬問題も、途上国の状況の如何と関係があり、経済援助も重要だ。
  5. 最後にロシヤやその他の新民主主義国の民主化の成功への支援も忘れてはならない。そこからの核の脅威などが減らないと、米国の軍備も削減できないからだ。とくにロシヤの経済再建は重要だ。難民の発生やチェルノブィリ型の事故の可能性を考えてみるとよい。だから、冷戦の終焉が可能にしてくれた出費削減の一部を、彼らへの支援に振り向けよう。彼らには資源も人材もあるので、うまい支援をすれば、立ち直れるはずだ。
    結局、今日の相互依存の世界には、純粋の国内政策などない。世界経済は手に負えない若馬のようなものだが、それを乗りこなすことが必要なので、乗らないわけにはいかないのだ、というのがクリントンの結論である。今後アメリカ国内の政治力学のために、クリントンの理想が曲げられることが絶対にないとは言い切れないにしても、少なくとも新政権の発足当初の政策理念が、情報化のインパクトに特に注目すると同時に、自力での経済再建と国際的な協力を重視するものであることは、確認しておいてよいだろう。

(四) NREN構想

 ゴア副大統領が、アメリカの情報インフラストラクチャーの中核として位置づけているのは、全国研究教育ネットワーク(NREN =National Research and Education Network)である。そういうわけで、NRENはゴアの名前あるいは1991年のHPCAとペアにして記憶されがちなのだが、すでに説明したように、実はそれは、1980年代の終わりから90年代の初頭にかけて、アメリカの社会の中から、いってみれば“自然に”盛り上がってきた高度情報化構想だということができるだろう。 (もちろん、ゴアの法案が最初に提出されたのが1987年だったことを思えば、その中でゴアの果たした役割の大きさは否定しうべくもないのだが。) 逆に、そうであればこそ、その具体的内容になると、曖昧な点も少なくない。
 いずれにせよ、NRENは、ブッシュ大統領の計画においても、ゴア上院議員の法案においても、既存のインターネットの“構造的”な変更をめざすものではなかったという点は、注目に値する。つまり、NREN構想の中には、新たな光ファイバー・ネットワークの構築という考えかたは、どこにもなかったのである。ゴア議員が好んで使った州際ハイウェーの比喩は、その点誤解をまねきやすい--つまり、自動車のハイウェーに比肩しうるような情報流通のハイウェーが物理的に新たに建設されるといった印象を与えてしまう--ことに注意しなければならない。NRENは、キャリアーから賃借りした専用線の上に作られることを、あるいは、通信サービスまでサービス会社から提供を受けることを前提とした、“論理的”なネットワーク、それも営業用ではない実験用 (テストベッド) のネットワークとして構想されているのであり、その点では、NRENもインターネットも違いはないのである[HPCA, 102条c)項を参照] 。さらにいえば、NRENもまた、インターネット同様、集中的に管理運営される単一のネットワークというよりは、自律分散的な多数の論理的ネットワークのインターネットワークになるはずのものである。NRENのこのような性格は、NRENが、狭い意味での高度の研究のための利用の域を超えて、初中等教育や図書館、あるいは産業活動のために利用されるようになっていく段階で、さらにはっきりしてくるだろう。結局、NRENとは人々の心の中にあるもの(a state of mind)(Robert Kahn)に他ならない。しかし、まさにそうであればこそ、NRENはさまざまな人々の熱烈な関心や協働の対象となることができるのである。[Kahin 92:6]あるいは逆に、NRENという共通のコンセプトをめぐって、さまざまな誤解や同床異夢ともいうべき混乱が発生する可能性もなくはないのである。たとえば、NRENは、一方の極においては、与えられた使命をより良く果たすための高度の手段とみなされている (エネルギー省等) 。あるいは、コンピューターや通信に関する基礎研究あるいはプロトタイプ・プログラムそのものである。あるいは、研究教育機関にとってのコミュニケーション手段ないし活動支援手段 (その意味での技術、教育、あるいは知識インフラストラクチャー) でもある。さらに、NRENは、より広汎な情報インフラストラクチャーのさまざまな構成要素の、発展の種をまいたり加速したりする手段でもある。最後に、NRENは、国内の情報過疎地域、あるいは情報難アクセス地域の、あるいは“情報的に貧しい(information-poor)”人々にとっての、外界との情報連結を支援するための衡平化手段でもある。[Kahin 92:13] そうだとすれば、NRENのような人為物に対して、かつての道路や港湾のメタファーを適用して、NRENの構築や運営を公的資金によって行うべきだとする議論は、説得性を欠くといわざるをえない。情報化社会の特質は、これほどに多様な目的に奉仕することのできる多様な機能をもった複合的情報処理装置が、相互に連結した一大システムとして存在しうるところにある。ある一部分を改良すれば、残りの部分に対して、大きな正の外部効果が生ずる可能性がある。その場合の、費用の分担や便益の配分は、どうすればよいだろうか。部分ごとに、政府の規制のあり方が違っていると、全体としての発展が歪んでしまうかもしれない。だとすれば、どのような規制政策を採用すべきだろうか。システムのどこかに政府の支援を加えれば、他の民営部門での発展を阻害する危険はないだろうか。あるいは、その逆のことがありうるだろうか。こうした疑問に応えながら、未来の社会にとっての情報インフラストラクチャーをどのように構築し運営していくかを決めるためには、明らかに、新しいアプローチ、新しい理論が必要とされるだろう。(1)
NRENに関する以上のような論点を確認するために、HPCAによって義務づけられている、OSTPの局長によるNRENの進捗状況年次報告 (92年12月提出) の要旨を、ここに収録しておこう。この報告によれば、NRENプログラムは、省庁横断プログラムとしてのHPCCに含まれている、四つの主要な要素の一つであって、「研究教育界の人々の協働を劇的に促進するためのギガビット通信インフラ」として位置づけられる。
このNRENプログラムの全体としての、互いに密接に連関しあっている目標は、

  1. 研究教育界のためのギガビットネットワークの構築とその利用の推進、
  2. 高度なネットワーキング技術の開発とその展開の促進、
  3. 必要なサービスが妥当な費用で民間部門からえられるような刺激の付与、
  4. 国民のための高速汎用ディジタル通信インフラの急速な展開の触媒となること、

の四つにあるとされている。そして、NRENプログラム自体は、

  1. ギガビット研究開発部分=技術開発プログラム (NRENプログラムと呼ぶ) 、
  2. 省庁間の中間的(interim)NREN 部分=ネットワーク自体の支援 (NRENと呼ぶ) 、

の二つの部分からなっている。
NRENには二つの大きな特色がある。第一に、すでに述べたように、NRENは、論理的存在であって物理的実体ではない。すなわち、NRENとは、特定の規約に従って情報を動かすための相互に結ばれた一連のノードであって、それは、ネットワーク・サービスの提供者から通信サービスを買うことで実現されるものである。(だからNRENH は、物理的に他のサービスと共存していてもよい。)第二に、NRENはいくつもの種類のネットワークの階層となっている。その頂上には、“ネットワーク・アクセス・ポイント(NAP) ”を通じて相互に接続している、いくつかの“バックボーン・ネットワークス”がある。それらのバックボーンは、高度に自律的で、それぞれが独自のローカルなルールや規制をもっている。いってみれば、NRENは、それらの自律的なバックボーン・ネットワークスの“フェデレーション”にすぎないのだ。
バックボーンの中の主要なものには、

NSF のNSFnet
DOE のESnet
NASAのNSI
DOD のTWBnet

などがあるが、いわゆる“NREN proper"とは、上の四つのバックボーン・ネットワークスにNAPsを合わせた、“研究教育用高速ネットワーク部分”を指すと考えてよいだろう。ただし、それ以外のバックボーン・ネットワークスもありうる。それが“広義のNREN (NREN in-the-large)”であって、全国通信インフラの展開のための触媒となる部分にあたる。なお、ここで、“ネットワーク・アクセス・ポイント(NAP) ”というのは、速度やサービスを異にする別々のネットワークの連結点のことである。
バックボーン・ネットワークスの下の層には、“ミドレベル・ネットワークス”とよばれる中位のネットワークがあり、さらにその下には、個々の“ローカル・ネットワークス”が存在している。
次に、NRENの建設資金だが、NRENプロパーは連邦政府の資金で作ることになっている。ただし、その設置・維持・運用まで直接やるわけではない。また、初期投資の一部は民間 (コモン・キャリアーやサービス提供者) も受け持つことが期待されている。他方、運用費用は、ネットワーク提供者に負担してもらうことになるが、ネットワーク提供者はさらに最終ユーザーにそのつけをまわすだろう。情報サービス提供者についても同じことがいえる (ネットワーク提供者経由でつけをまわす) 。また、連邦の任務をはたすためのユーザーの利用費(NREN を通る通らないにかかわらず) も、連邦が負担する。
NRENの現在のアーキテクチャーは、ネットワークの柔軟な進化を可能にするように作られている。つまり、新しいバックボーンを追加することで、いくらでも拡張できる。それには、NAP のキャパシティと、接続費用とがあれば足りるのである。しかも、全国汎用ネットワークもまた同じアーキテクチャーを持っていれば、NRENはそれとも接続できる。また、情報伝送にさいしてのルーティングの調整(Routing Arbiter) は、当初は集中的に行うが、次第に分散化していくことが予定されている。
 各バックボーン・ネットワークには、それぞれ利用制限がある。たとえば、エネルギー省やNASAなどの省庁バックボーンの利用は、当然のことながら、省庁のミッションに係わるもののみに限定されている。NSFnetバックボーンの利用は、研究教育用にのみ許されている。しかし、NRENとしては、研究教育を支援するネットワークなら何でもいいのであって、それ自体は商用のネットワークであってもいい。さらに、NAP を介して、商用ネットワーク同士がつながってもいい。
システムのユーザーや運用者の権利の保護については、他の公衆用ネットワークと同様な問題があるが、部分的にはその原理 (とりわけ、コモン・キャリアー規制原理) 応用も可能だろう。なぜならば、NRENは、速度が早いというだけで、通信の性格は、他の点間交換通信システムと同じだからである。しかし、ネットワーク上で配付される資料の著作権保護のための技術的問題には、未解決のものが多い。電子的情報は、コピー、転送がしやすい上に、通常の場合、個々の情報には、その出所が記載されていなかったり、もともとは記載があっても、その部分は捨てられてしまっていることが多い。
HPCC & NREN に関与する連邦諸機関は、次の通りである。
DOC, DOD, DOE, ED(Department of Education)、 EPA, HHS (Health and Human Services, NASA, NSF
他方、NRENのみに関与する機関は、USDA (Department of Agriculture)と、DOI (Department of the Interior)、
の二つである。また、HPCCの調整を担当しているのは、FCCSET (Federal Coordinating Council for Science, Engineering and Technology) の HPCCIT (High Performance Computing, Communications, and Information Technology)小委員会と、最近設立された NCO(National Coordination Office for the HPCC Program) の二つである。

(1) それなのに、最近の日本のように、米国での動きに刺激されて、それに自分勝手な解釈をくっつけて、道路の次の公共投資のテーマは光ファイバーだなどといって騒いでみても、始まらないのではないだろうか。


(五) マーキー議員とクェロFCC 新委員長のやりとり

 上述したように、FCC のサイクス委員長の後任としては、 2月 5日、ジェームズ・クェロ氏が暫定委員長に任命された。その一週間後、下院の電気通信小委員会のエドワード・マーキー(Edward J. Markey)委員長は、電話とCATVの関係に関する質問状を、クェロ新委員長に送りつけた。
その直接のきっかけとなったのは、サウスウェスタン・ベル社によるワシントン地域の二つのCATV会社の買収であった。マーキー委員長は、電話会社がCATV会社を所有したり、ビデオ放送番組を所有したりするようになると、この分野での競争がなくなってしまいはしないかと懸念したのである。とはいえ、近年では、既存の電話会社以外にも、市内電話サービスの有力な提供主体が登場したり、CATV会社が電話のネットワークと事実上区別しがたいようなネットワークをもつにいたっている。こうして、「市場と産業が規制当局の先を行く」ような事態が生じ始めた。こうなると、これまでの規制の再検討が必要になりはしないか、というのがマーキーが書簡を送るにいたった理由であった。
 すなわち、一方では無線の通信サービス会社が、他方では、 "ビデオ・オン・ディマンド" の送信が可能になったCATV会社が、事実上公衆交換ネットワークと同等なサービス機能をもつ点間連結ネットワーク(point-to-point network)を展開するようになった。他方、電話会社は "コモン・キャリアー" として行動し、 "ユニバーサル・サービス" を提供することが義務づけられているのに、これらの新しい産業にはそのような制約はない。しかし、技術的にもサービスの面でも、電話と区別できないものが出現したとしたら、それに対する規制も、同一でなければならないのではないか。とりわけ、電話のユーザーたちがビデオ番組提供サービスへの補助金を払う結果になることは望ましくない。また、仮に、CATVと電話サービスとの相互乗り入れ規制を外したとした場合には、新たにどのような規制を導入すればよいだろうか。これが、マーキーがクェロ新FCC 委員長に投げかけた質問に他ならない。[TR:02/22/93:22-24] (1)
これに対し、クエロ委員長は、マーキーへの返書(3月 1日付け) の中で、こうした新事態が重要でかつ相互に関連した政策上の問題を引き起こしていることを認め、CAP などを含む非支配的地位にある競争者の電気通信市場における地位がよりよく反映されるような規制緩和策を考慮中だと述べた。彼はまた、現行の規則では、電話会社は、自らの営業地域の外でしかCATV会社を買収してはならないことになっている--電話料からの内部補助を防ぐために--ことを確認した上で、将来その規制が外されることがあるとしたら、その場合でもビデオ・サービスは別の子会社組織で提供するようにすべきだろうと述べた。[TR:03/08/93:12]

(1) TRは、通称“Yellwo Perill"とも呼ばれる、黄色い紙に印刷されている、アメリカの通信産業界のニュース週刊誌、TELECOMMUNICATIONS REPORTSの略称である。

(六) 新政権の登場に対応した民間の動き

 12年ぶりの民主党政権の発足、なかんずく情報通信の分野に関心の深いゴア副大統領の登場は、情報通信に関わっている民間部門の人々をも昂奮させ、いろいろな新しい動きがおこっている。新政権を全面的に支持するものから、限定つきの支持しか表明しないもの、新政権のハイテク志向に真っ向から反対するものさまざまであるが、大勢は概して新政権の路線を支持する方向にあるように思われる。
 だが、その中でも注目に値するのは、大統領選挙の終わったしばらく後の1992年の12月の14日から15日にかけて産業界の代表300 人を集めて開催された経済会議、いわゆる“国内経済サミット”である。このサミットの目的は、新政権が経済を重視することをデモンストレートすると同時に、クリントン大統領の経済通ぶりを示し、投資、なかんずく情報インフラのための投資に重点をおいた経済政策の実施をめぐる産業界の合意を取り付けることにあったと思われる。ところが、概して“ご祝儀”色の強かったこの会議の中で、ほとんど唯一の強い不協和音が、AT&Tのロバート・アレン会長の口から出された。それは、“データ・ハイウェー”の建設に政府が関与すべきではない。建設は民間に委ねよという意見であって、明らかにゴア副大統領が象徴していた国の関与による情報インフラ建設路線に釘を刺そうとするものであった。クリントンは、早速中にはいって、「意見の不一致が初めてみられたが、意見の不一致があるのはよいことだ」となだめたといわれる。
 それから翌年の一~三月にかけて、新政権の情報通信政策をめぐって、民間の各種の団体が見解や提言を発表した。ここでは、その中の三つを取り上げて紹介しよう。(1)

 1) "コンピューター・システム政策プロジェクト" の提言

アメリカの“情報処理システムとソフトウエアを開発・製作・販売している”コンピューター業界の有力企業13社のCEO たちがメンバーとなって、1989年から活動を開始している "コンピューター・システム政策プロジェクト (CSPP=Computer Systems Policy Project)" という名前の団体がある。その議長は、アップル社のCEO のジョン・スカリーである。(2) この団体は、これまでにすでに六本のレポートを発表しているが、このたび、新政権の発足直前の 1月12日に、「全国情報インフラの展望:CSPPのビジョンと行動提言」と題する七本目のレポートを新政権に提出した。クリントンはそれを受けて、この団体のナンバー・ツーである、クレー社(Cray Research) のCEO のジョン・ロールワーゲン(John A. Rollwagen) を、商務省次官に任命した。ロス・ステープルトン (Ross Alan Stapleton)の解釈では、CSPPは、政府に全国情報インフラ(NII) の建設提言を行ったばかりか、その実現を商務省中心に行わせるのが良いと判断して、人材も提供することにしたのだそうだ。(3)
この提言はまず、ビジョンの問題として、一部の人の利用にとどまったこれまでのHPCCプログラムの次の段階として、全国民が利用できるNII の建設を、国家的優先事項とすることに合意しようという。そして、その実現のために官民が協力しようと呼びかける。その狙いは二つある。その一つは、今日の競争的な世界経済の中で、国民生活の向上と米国の繁栄をはかること、いま一つは、国民の生活の仕方を変えることである。つまり、教育、訓練、生業、製造、サービス供給、家族や友人との交流等の生活のあらゆる部面で、地理的境界の限界を越えて、共に働き、協働し、情報へのアクセスと情報創出とを可能にすることである。アメリカはその歴史を通じて、それぞれの節目節目で、さまざまな産業・生活基盤、つまりインフラストラクチャーを建設することによって、個々の国民が国の資源を利用しやすくするための大胆な手段を講じ、それに成功してきた。今や、アメリカにとっての歴史的課題は“NII"の建設にある。
では、このNII とは何であろうか。提言は、NII を、次の四つの要素の結合物だと定義している。すなわち、

  1. 通信ネットワーク
  2. コンピューター
  3. 情報
  4. 人間

を合わせたものを、 "全国情報インフラ" だとしているのである。ここで、ネットワークやコンピューターだけでなく、情報そのものや人間までが、NII に含ませられている点は注目に値する。あきらかに、これは "情報インフラ" の定義としては、極めて広いものであり、 "情報" や "人間" までをも "情報インフラ" に含めて考えるという点で、アメリカのコンピューター産業の野心の大きさを象徴する定義だといえよう。
提言は、NII の用途としては、医療、教育、製造業への応用や、最新の政府情報を市民にアクセス可能にすることをあげるにとどまっており、この点ではそれほどの新味はない。むしろ、この提言の特徴は、NII の構築にさいしての、行政、立法、産業部門の役割分担に触れているところにある。すなわち、行政の役割としては、NII を国家的な技術的チャレンジとみなして、副大統領を議長とするNII 審議会の設立にあたることが、まずあげられている。また、関連する連邦機関を決め、研究投資を行い、技術のデモのためのパイロット・プロジェクトに予算をつけ、公衆教育プログラムを準備し、政府の情報を公開するのも、行政府の役割だという。他方、立法府の役割としては、提言は、上記の審議会の設立を決め、上記各事業に必要な予算を承認する、というにとどまっている。
 情報通信産業界の役割の第一は、NII の開発展開のための投資と、その応用に関する研究開発投資を行うところにあるが、同時に、他の産業にも働きかけて、NII の推進、パイロット・プロジェクトへの参加を呼びかけることも、重要な役割だとされている。そうする中で、NII にとってのゴールと里程標が作られていくのである。
なお、NII の構築をめぐっては、さまざまな政策上の問題が発生することが予想される。たとえば、アクセスの問題、米国憲法の第一修正条項に関わる問題、プライバシーやセキュリティ、守秘などの問題、費用の負担能力の問題、知的財産権や新技術に関する問題。インターオペラビリティや競争、あるいは、キャリアーの義務などの問題などがそれだが、提言では、これらの政策問題は官民協力して解決をはかろうとよびかけている。とりわけ、NII 審議会が重要な機能を果たすことが期待されている。
なお、CSPPの提言が発表されてから二ヶ月後の1993年 3月には、米国の電話会社のCEO たちも声明文を発表して、CSPP提言に賛成すると共に、従来米国政府が進めてきたHPCCプログラムを、初中等から高等教育にいたる教育のすべての分野(K-16)、保健・医療、産業、および一般市民の利用 (テレコミューティングやデータベースへのアクセスなど) などの分野に拡大すべきだと述べた。そして、その手段として、実験ネットワーク(Experimental Networks) と実用ネットワーク(Production Networks) との役割を区別すべきことを強調し、前者の利用は研究用に限定され--つまり、営利目的には使わない--、その建設・運営は政府が主導するものの、大学、産業、ユーザー・コミュニティも応分の協力をする--それによって、財政の負担を軽減する--ものとし、後者は、完全に民営商用とするが、研究教育部門へのサービス提供も当然含まれるとした。(4) また、政府は、各種実用ネットワークの最大限の相互接続性と相互運用性の確保を、重要な政策目標とすべきだとした。政府の支援は、

  1. NII の広汎な利用分野でのニーズに応えるためのアプリケーションやサービスの研究、
  2. すべての市民の広汎なネットワーク利用の促進のための、容易な接続と使用の仕方の研究、
  3. 研究教育部門による実用ネットワークの利用のための補助金、
  4. 実験ネットワークの技術開発、

に限られるべきだとした。さらに、この声明は、次の幾つかの点をも強調した。すなわち、

  1. 実験ネットワークのあげた成果が、実用ネットワークに最大限移転さるべきこと、
  2. 政府主導のプログラムや補助金提供に関する意思決定には、コンピューター、通信、情報、その他関連産業の代表者を参加させるべきこと、
  3. 政府と産業界は協力して、公正で開かれた競争を促進し、技術革新を奨励し、あらゆる関係者の効果的な参加を認めるべきこと、

などがそれである。なお、スプリント社は、さらに別個の声明を発表して、新政権の情報通信政策への支持を表明し、産官学協働の重要性を強調すると共に、政府が力を入れるべき点として、

  1. 高度な技術の開発のための基礎・応用研究、
  2. 新技術の実用性を確認するための実証やパイロット・プロジェクト、
  3. 教育研究機関のネットワーク利用の助成による需要の刺激 (同時に、これまで行っ てきたインターネットのバックボーンへの政府支援の停止) 、
  4. 政府・研究・教育機関のインターネット接続の拡大、

の四つをあげ、同時に、そのさい準拠すべき基本原則として、

  1. 民間部門への最大限の依存、
  2. 政府が商用サービスを直接支援しないことの確認、
  3. 既存の商用キャパシティの可能な限りの利用、
  4. ローカル・レベルでの、経済的で広帯域のアクセスの提供、

をあげた。
これらの提言や声明を見て明らかなのは、米国の民間情報通信産業部門の多くが、政府との協力には積極的であり、政府のある種の支援は期待しているものの、政府主導型の実用ネットワークの建設や運営、あるいは実用ネットワークの運営への直接支援に対しては、反対であり警戒的だということである。また、競争市場の条件を確保すべきだと考えているということである。こうした動きに対して、新政権は一定の軌道修正をはかり始めているようだ。たとえば、ゴア副大統領は、2 月の19日にアトランタのGTE 社の従業員との間に行われた一問一答セッションの中で、 "情報スーパーハイウェー" の建設に関して政府が果たすべき役割について、次のように述べた。
「我々はまだ、おもしろい双方向の交信を可能にするだけの十分大量のデータを運べるような大容量光ファイバー・ケーブルの全国ネットワークをもっていない。それができると、技術的にはその種の交信が可能になるのだが。しかし、我々は政府がそのネットワークを建設することは欲しない。我々が欲しているのは、建設上のボトルネックをなくすための政府の関与を行わせるような国家的政策なのだ。
我々は、標準を設定するための国家的な努力を必要としている。それがないと、いろんな会社が互いに競争して、別々の歌を歌いだしてしまうからだ。我々はまた、今ようやく地平線の彼方にその姿を現しつつあるが、個々の会社の自力開発能力を超えている新世代の交換機を開発しなければならない。我々は、国防産業では、その種のことを過去40年にわたってやってきた。国家的な規模での技術上の問題がある時には、その問題を解決するための資源を国が投入するのだ。」[TR:03/01/93:24]
また、ブラウン商務長官は、1993年の 2月24日に開催された "国家競争力法案" をめぐる第一回のヒアリングの席上で、ジョン・ロールワーゲン新次官を紹介した後、 "情報スーパーハイウェー" の性格について、こう付言した。
「このハイウェーの所有と運用は、民間部門の主要な役割とされるべきである。政府は頼りになるパートナーであるべきだが、その運営をリードすべきではない。私は、(S4) [国家競争力法案] にせよ新政権にせよ、このネットワークをどのような技術を用いて設置することが望ましいかを表明しているとは聞いていない。それは衛星になるかもしれないし、光ファイバーになるかもしれない。いろんなやり方で作られうるのだ(it can happen any number of ways.) 」[TR:03/01/93:26](5)
さらに、下院のテレコム小委員会のマーキー委員長は、1993年の 3月24日の公聴会での冒頭発言において、次のような趣旨のことを述べている。すなわち、 "情報スーパーハイウェー" は、現在すでに、長距離電話会社の光ファイバー・ネットワークとディジタル交換機の形で存在している。今後必要なことは、それを家庭や職場と結ぶ "最後の一マイル" のディジタル化--つまり、情報スーパーハイウェーへの進入・退出ランプの建設--と、各種のネットワーク間の相互運用性の確保なのだ。そのさいの政府の役割は目標の設定と既存のネットワークの改良の促進にある。通信の必要に応える主たる役割は、民間部門が担わねばならない。[TR:930329:3] (6)

2) "競争力評議会" の21世紀情報インフラストラクチャー・プロジェクト

 モトローラ社のCEO のジョージ・フィッシャー(George M. C. Fisher) を議長として、産業界、労組、学界、およびいくつかのシンクタンクをメンバーとして構成されている民間団体の "競争力評議会(Competitiveness Council) " は、このほど、 "21世紀情報インフラストラクチャー・プロジェクト(The 21st Century Information Infrastructure Project) " のスポンサーとなった。このプロジェクトは、「アメリカ国内のすべての企業、家庭、病院、診療所、学校、および図書館が等しく利用できる広帯域の通信システムを、2015年までに建設すること」をその使命としている。プロジェクトの発足にあたってスピーチしたコンラッド・バーンズ(Conrad Burns)上院議員は、このプロジェクトが「総合的でホーリスティックなビジョン、行動計画、および実施日程の作成」にとって決定的な役割を果たすことを期待していると述べた。また、議会が立ち向かわなければならない課題は、「一方でユニバーサル・サービスを持続しつつ、同時にインフラストラクチャーの改善のための誘因を」準備することだとも述べた。また、フィッシャー議長によれば、このプロジェクトは、「新政権が、大統領選挙キャンペーンで公約した21世紀のインフラストラクチャーへの投資計画のためのインプットづくりを支援」し、とりわけ「過度に使用されている "インフラストラクチャー" という表現の骨に肉付けをしようとする」ものである。プロジェクト実施責任者のダニエル・バートン(Daniel F. Burton)の心づもりでは、春には最初の報告書が出されるはずである。[TR:01/25/93:1]

 3) "公共技術のための同盟" のビジョン

 民間非営利団体である "公共技術のための同盟" は、1993年 2月24日に発表した「各人を万人につなぐ--情報時代の電気通信プラットフォーム」と題する "ビジョン・ペーパー" の中で、「わが国を21世紀に向かって前進させるために」、音声、データ、およびビデオ信号のための広帯域電気通信プラットフォームが必要だと述べて、電気通信の未来ビジョンに関する議論を喚起しようとした。このペーパーは、予見しうる公衆のニーズに応えるには狭帯域の通信で十分だという議論を排する立場から書かれている。広帯域否定論者の広帯域化の費用の見積りは過大にすぎ、便益の見積りは過少にすぎる。長期的に見れば、広帯域の方がはるかに経済的だというのである。
同盟の未来ビジョンは、「全国的な規模の広帯域双方向インターアクティブ電気通信ネットワークが、すべての家庭やオフィスにサービスを提供するようになる」というものである。同盟はまた、 "ユニバーサル・サービス" の中に、将来、この種の高度な情報サービスが含まれるようになるとしたら、その代価を支払えないひとや、遠隔地に住むひとのための補助の仕組みを、なんらかの規制によって確保しなければならないとも主張している。
 リック・バウチャー(Rick Boucher)下院議員は、同盟のこの主張に共感して、このペーパーの発表にさいして開催された「自由の技術:電気通信へのユニバーサル・アクセスにとっての障壁の粉砕」と題する三日続きの会議の席上、インフラストラクチャーの通有や、市内電話会社のCATV事業への参入、NRENの広汎な利用のための研究などを内容とする三つの法案を準備中だと述べた。[TR:03/01/93:31]

(1) ブッシュ前政権の "大統領競争力評議会" も、一月中旬に、情報通信政策についての報告書(The Communications Revolution and Public Policy--Removing Barriers to Growth)を提出して、通信革命が米国の経済社会におよぼす影響の大きさについて述べ、その促進の手段として、市場を基盤とする周波数管理方式の導入や、市内電話の競争阻害要因の除去、長距離電話への規制の全廃などを提言している。[TR:01/25/93:22-23]
(2)事務局長は法律家のケネス・ケイ(Kenneth R. Kay)である。会員企業(CEOが参加している) は、Apple, AT&T, Compaq, Control Data Systems, Cray Research, Data General, Digital Equipment, Hewlett-Packaard, IBM, Silicon Graphics, Sun Microsystems, Tandem, およびUnisysである。
(3) 1月30日に発信されたインターネット上のメールによる。なお、ワシントン・ポスト紙のステュアート・アウアーバック(Stuart Auerback) も、新政権の下での商務省はこれまでの二流官庁から一流官庁に格上げされ、経済力強化の第一線に立つ使命を与えられたと解説している [Washington Post 01/30]。
(4) 署名をしているのは、Ameritech, AT&T, Bell Atlantic, Bellcore, BellSouth, Cincinnati Bell, Inc., GTE, MCI, NYNEX, Pacific Telesis, Sothern New England Telephone Company, Southwester Bell Corp., Spring, US West の CEO 達である。
(5) 上記の電話会社の声明は、インターネット上のニュースによっている。ゴアが発言を修正しつつあるという事実は、1993年3 月29日、グローコムを訪問したペンシルバニア大学のデービッド・ファーバー(David Farber)教授の話によっても確認された。なお、米国の情報通信産業が、すべてCSPPの立場を支持しているわけではない。たとえば、やはりインターネット上のニュースによれば、サイプレス半導体社のCEO のロジャーズ(T. J. Rogers)は、議会の公聴会で、シリコン・バレーにはスカリー達に反対の立場をとっている経営者が少なくないと述べ、政府の支援や政府との協力には反対の立場をとっている。
 (6) この公聴会での発言者の意見は、ほぼマーキー議員の見解に沿ったものだったが、いくつかの異論もあった。たとえば、コムキャスト社 (Comcast Corp.)のブライアン・ロバーツ(Brian L. Roberts)社長は、 "電子的な広帯域パイプライン" は、すでに、米国の家庭の95% にまで届いているケーブルテレビの回線の形で存在していると指摘し、次の五年間でここに光ファイバー幹線が設置されればその容量は倍増するだろうと述べた。また、マッコー・セルラー・コミュニケーションズ社(McCaw Cellular Communications, Inc.) のクレイグ・マッコー(Craig O. McCaw)会長は、無線電話こそ "パーソナル・ユニバーサル・サービス" を実現しうる通信サービスであって、光ファイバーだけではますます可動的になりつつある社会の通信需要をすべて満たすことは不可能だと主張し、今こそ "トラックを飛び越えて" 広帯域無線通信システムを展開して、これを他のあらゆるネットワークと相互接続し、相互運用可能にすることによって、有線ネットワークを補完すべきだと強調した。[TR:930329:4]

(七) 新政権の情報通信政策への批判論

 アメリカの世論は、これまでのところ、新政権の提案してきた情報通信政策や、それをめぐる情報通信業界の反応に対しては、概して好意的に受け止めているように見える。しかし、一部に批判がないわけではない。ここでは、三通りほどの批判を見てみよう。
 その第一は、ゴア副大統領の "データスーパーハイウェー" 建設構想は、政府によるその建設を運営を暗に前提しているのではないかという立場からの批判であって、それは民間にまかせるべきだと主張するものである。この立場の典型は、1992年12月の "国内経済サミット" での、AT&Tのロバート・アレン会長のゴア批判であった。その後も、多くの民間経営者はそれに同調している。他方、下院のテレコム小委員会のE. J. マーキー(Edward J. Markey)委員長は、 "データスーパーハイウェー" の建設に関して新政権が今年にも設定しようとしている新たな規制や標準の内容如何によっては、電話会社だけが一方的に有利な立場におかれて、コンピューター会社やソフトウエア会社のような情報通信サービスの提供主体が損をしてしまう結果になりかねないと心配している [New York Times, 930222のSteve Lohr記者の記事] 。このような流れの中で、カリフォルニア州の地域電話会社であるパシフィック・ベル社は、政府が触媒としての役割を果たすことを期待しながら、実際の行動面では自社が中心となって、ケーブルテレビ会社の協力も得て、高度情報通信サービスを提供する "CalREN" 計画を発表した。これは、まずサンフランシスコのベイ・エリア(93 年中にサービス開始) を、次いでロサンゼルス地域 (94年初めにサービス開始) を対象としてスタートする、

  1. テレビ会議用画像や高品位テレビ画像などの動画像の伝送用の超高速のギガビット級のATM 交換伝送サービス、
  2. データ通信や静止画 (医療用情報等) などの伝送用の、メガビット級の高速パケット通信サービス、
  3. 図書館データや在宅勤務者用データのような文書データを送る数十キロビット級のデータ伝送サービス、

の三層からなる総合的情報通信サービスである。その資金は、商用利用者の支払う料金や、非営利財団の拠出する基金によってまかなわれるが、産業界からの非営利団体 (とりわけ学校) に対する各種の支援も期待されている。パシフィック・ベル社は、今後 5年間でネットワークの完全ディジタル化を達成すると共に、今後10年のうちにカリフォルニア州の半分に対して、この種のサービスを可能にし、2015年までには、カリフォルニア州全域にわたるサービスが提供されるようにすることを計画している。(1)
その第二は、クリントン=ゴアの政策は、大企業中心、 "情報を持てる者" をさらに優遇しようとする政策であって、一般市民、とりわけ "情報を持たざる者(information have-nots) " には無関係だ、あるいはそのような人々を生みだしてしまう危険がある、という批判である。この立場を最も強烈に押し出しているのは、反体制的な色彩の濃いジャーナリズム、たとえばFINS(Federal Information News Syndicate) である。FINSは、“情報化時代に出現しつつある新哲学”に関する情報の配付を目的とする通信社だと自称している。インターネットで配信されたその第一巻第二号 (1993年 1月25日解禁) に掲載されている、ビグドール・シュライブマン(Vigdogr Schreibman)主筆の「産業界NII の“敵対的乗っ取り”を計画」という題の記事では、クリントンが口では“インサイダー政治”や“利害衝突”型の任命の廃止をうたいながらも、早速それに反する行動を取っているとして、FCC に関する移行委員会の委員長にロン・プレッサー(Ron Plesser) を任命したことを攻撃している。(2) また、コンピューター会社の作ったCSPPの提言も、国民に充分な情報の提供や議論への参加をさせないままで、 NIIを乗っ取ろうとする試みだと批判している。NII の建設資金を市内電話の利用者 (つまり一般国民) に負担させ、長距離電話の利用者 (“太った猫”つまり大企業) の負担を免除しようとしているのも、怪しからぬことだという。実際問題として、NII の最大の利用者は、大企業になるに相違ないからである。さらに、NII をFCC の監理下に入れることも、はなはだ怪しからぬ。なぜならば、FCC はこれまで、公共の利益に資するように監理されるはずだった電波を、放送業界のいいなりに利用させてきたからである。このようなことをしていては、NII の建設に国民の支持が得られるはずがなく、したがって電気通信と情報技術でアメリカが世界をリードすることもまた不可能になるだろうというのが、シュライブマン主筆の主張である。この記事は、文体からしても内容からしても、はなはだ“過激”な主張の感を否めないが、(3) アメリカの中にこのような見解をもって言論活動を展開している人々が現に存在するという事実は、記憶にとどめておいてよいだろう。少なくとも、ここまで激烈ではないにしても、政府主導型のNII の構築を許せば、その運営には政府が当然干渉してくるために、言論の自由が損なわれる結果になりはしないかという懸念をもっているアメリカ人は、決して少なくはない。たとえば、1993年の3 月16日から17日にかけて開催された、テレコミュニケーションズ・レポーツ誌主催のコンファレンス「電話業のリストラ」において、サンフランシスコ地域の消費者団体である“コンシューマー・アクション”の事務局長ケン・マックエルドーニー(Ken McEldowney)は、電話会社のリストラは「大規模のビジネス・ユーザーを利するだけであって、基本料金での利用者のためにはならないだろう。電話会社のリストラというコンセプトは、基本ユーザーたちにはとっては何の関係もなく、何の関心を払うにも値しないことだ。彼等が真に望んでおり、理解しうる事柄は、在来型の電話サービスに尽きる」と断言している[TR:930322:22]。この他、インターネット上での発言などにも、同趣旨のものが見られる [9302190309ZAA26995番のメッセージなど] 。
NPN(=National Public Network)構想を推進していて、そのためには狭帯域ISDNの利用を重視せよと説くEFF --その主張や行動は、すでに紹介した通りである--も、FINAなどとは立場はかなり異なるにしても、一種の市民派の一つに数えることができるだろう。また、コンピューターはもちろん、電話の利用すらままならぬ貧しい市民たちにとっては、在来の単純な電話サービスがなるべく安価な料金で提供されれば十分であって、高度なデータ通信サービスの提供は、国民の間の情報格差のいっそうの拡大につながるだけのことだという主張を掲げて政治運動を展開しようとしているグループ [TR, 9303 ]などは、情報化時代の "ラダイト (機械打壊し運動) " 派とでも言うべき存在だろう。
 ヒューストン・クロニクル紙の記者で、近くPC World誌の編集者に転ずることになった、ジョー・アバナシー(Joe Abernathy) も、同様な見地に立って、NRENが、それに接続できる人々の範囲や接続条件をめぐって階級対立を激化させる危険と、対外経済競争の手段として専ら用いられるために、言論の自由その他の国民の自由や権利を侵害するようになる危険という、二つの危険を指摘している[Houston Chronicle, 930404] 。アバナシーによれば、前者の論点との関連で、真の公共の利益を反映した草の根の声がいっこうに聞こえてこないことを憂慮しているのは、CPSR (=Computer Professionals for Social Responsibility) のマーク・ローテンバーグ (Marc Rotenberg) 所長であり、後者の方向の追求が、 "新冷戦" の再開をもたらしかねないと危惧しているのは、同じCPSRの21世紀プロジェクトの主査のゲーリー・チャップマン(Gary Chapman)である。たとえば、最近、NASAでは、11人の科学者を懲戒処分に付したが、そのうちの 8人は、インターネット上での政治論議に参加した--その目的のためにNASAのコンピューターを使った--り、外国人と技術論議をしたりしたために、処分されている。こうした "弾圧" は、今後、日米の経済対立が激化したりすると、ますます強化されるようになるかもしれないのである。
 その第三は、社会の情報化が、一種の管理社会化に向かうことへの懸念と反発である。たとえば、レーガン政権の下で経済政策諮問委員会のメンバーを勤め、今ではスタンフォードのフーバー・インスティテュートの所員となっているマーティン・アンダーソン(Martin Anderson) によれば [Anderson 93, インターネットでの引用より再引] 、クリントン政権は、アメリカ国民の出生時に、各人の医療・保健情報を記入するための "スマート・カード" を、国民一人一人に配付することによって、健康保険のむだ遣いや不正利用あるいはその他の悪用を防ごうとしている。アンダーソンは、これこそレーガン政権時代以来の政府官僚の狙いである国民総背番号制 (national identity card) の実現への第一歩であって、このような試みを直ちにくい止めないならば、米国民のプライバシーは失われてしまうと警鐘を鳴らしている。そして、このプロジェクトを担当しているホワイトハウス職員のアイラ・マガジナー(Ira Magaziner) のオフィスの直通電話番号を掲げて、反対の人はここに電話するようにと呼びかけている。

(1) 同社は、今後一年半をかけて、さまざまな試行を行うと同時に、ビデオ・オン・ディマンドやテレビ電話、あるいはビデオ・ゲームやホーム・ショッピングなどの情報サービスに対して、どれだけの需要があるかを調査しようとしている。同社が期待している広帯域情報サービスの応用面には、①在宅勤務、②バーチャル往診、③遠隔教育、④ホーム・ショッピング、⑤電子民主主義政治、⑥対話型ニュース入手、などがある。
(2) ロン・プレッサーは、 "納税者資産プロジェクト" のジェームズ・ラブ(James Love)代表からも批判されている。プレッサーは、PCS アクション社(PCS Action, Inc.)の顧問となって、PCS の免許を一市場あたり二つないし三つにとどめるようにさせるためのロビーイングを行っているというのである。しかもラブによれば、PCS アクション社は、トニー・ポデスタ(Tony Podesta)の率いるポデスタ・アンド・アソシエーツ事務所に、同社のためのPR活動を委ねたが、トニーの兄弟であるジョン・ポデスタ(John Podesta)は、以前この事務所のパートナーであり、今はクリントン大統領のスタッフ・セクレタリーをしているともいう。 [インターネットのメッセージ9303310133.AA15728]
(3) もっとも、このFINSは、他方では、国防総省のDARPA が、 "完全光ネットワーク" の開発を推進するために MITと AT&T 、および DECが作ったコンソーシアム (AON)のスポンサーとなったことを、支持し賞賛している。FINSによれば、AON 計画は、光ファイバーの驚くべき潜在能力を十全に発揮させようとしているという意味で、連邦政府が行った数少ない賢明な投資の一つである。現在進められているそれ以外の "高性能" システムの構築の試みは、大電話会社やコンピューター・ハードウエア製造業者を利するだけのものにすぎない。しかも、それはこのAON 計画の技術によって、すでに陳腐化した技術に基づいたシステムになってしまおうとしているのである。 [インターネットのメッセージ 9303050112ZAA21158]

(八) アメリカの情報通信政策:政府と民間が連携した情報化推進で競争力を回復 

 それでは、最後に、以上の情報に基づいて、また、私が昨年度の報告書で示した、産業化の "21世紀システム" の成立段階論を念頭におきながら、今後のアメリカの情報通信産業の振興政策について、次のような段階的ビジョン--私の主観による面が強いことはお断りした上で--を素描してみよう。

第一段階:準備段階としての "ディジタル・ワールド" のための情報インフラ作り。

ここではとりわけ、高度な技術・知識の創造の現場を互いにつなぐ "データ・ハイウェー" 、 "ギガビット・バックボーン" の建設が先行する。この段階は、上述した法律でいえば、HPCAが定めたHPCCプログラムが実施される段階である。もともと、ここでは国、とくに国防省(DARPA)の先導的な役割が大きかったが、しだいに非軍事部門(NSF)による助成へ、そして民間の営利事業へとその比重を移していく。国の助成も、ネットワーク・サービスの提供者よりは、そのユーザーに対して、行うようになる。この段階をさらに細分するならば、

  1. ネットワークに連結可能な "テレピューター" や "PDA"の (初期バージョンともい うべきものの) 普及が進む局面、その中で、
    1. 共通OS (Windows やKaleida のような) が作られ普及する、
    2. Ubiquitous computing (ダウンサイジングとオープン・システム化が進んで、携帯型や卓上型の情報処理機器の多面的利用が進む、
  2. 高速大容量のディジタル通信回線(いわゆる "データ・ハイウエー" )網の建設が進む局面、その中で、
      >
    1. CATV等の参入・融合による光ファイバー回線の建設、
    2. 無線を利用した各種のディジタルの移動体通信システムや個人通信システム(PCS) が出現して、激しい競争が行われる一方、有線のネットワークとの相互接続、一体化が進行していく、
    3. 研究・教育用、機関用を中心に、商用、個人用をその周辺に配置・接続 する、といった進展が見られる、
  3. 情報自体のディジタル化のための規格・制度作りが進む局面、その中で、
    1. 情報それ自体の共通ディジタル化フォーマットの制定と普及や、
    2. それを処理するシステムとしてのキャリアー、プラットフォーム、サービスの形が次第に決まり、普及して行く、それと共に、知的財産権問題や盗聴・暗号化問題、各種のサービス間の垣根問題などへの解決の方向が見えて来始める、 などの局面が区別できそうである (必ずしもこの順序で進展するというわけではないが) 。

第二段階:それらを基盤とする、コンピューターの "ネットワークのネットワーク" (いわゆるインターネット) の展開が見られる段階。

 このネットワークを利用して、各種の高度な情報処理・通信サービスの全国的な提供が可能になり、技術情報・知識の交流が進むのが、第二段階の特徴である。(1) ゴアの構想でいえば、HPCAに続くことが期待された次の法律に盛られたさまざまなプログラムが、実施される段階だといってもよいだろう。ここでは、国の役割は、学校、病院等、 "社会" 的利用部門への支援に限られ、後は市場の力にまかせられるようになるだろう。この段階をさらに細分するならば、

  1. 光ファイバーによる "LAN"の "WAN" によって、大学や研究所だけでなく、オフィスや家庭にもいたるところにある "万国のコンピューターが連結する" (英誌、『エコノミスト』の表現) 局面、すなわち、NRENを中核として、NPN(=National Public Network)が構築され、さらにIPN(=International Public Network) へと拡がってゆく局面、その中で、
    1. 研究教育利用が中心のNRENと、ビジネス、娯楽・生活利用が中心の CIX (=Commercial Internet Exchange) との、一体化が進む、
    2. ネットワークの標準やレジーム作りは、インターネット協会やEFF(=Electronic Frontiers Foundation)のような民間組織のイニシァティブに委ねる、
  2. 各種の通信サービスやデータベースの構築と提供が進む局面、その中で、インターネット・サービスの高度化が起こる。すなわち、ネットワークのマルチメディア化、マルチプロトコル化が実現し、それによって、会話+メール+会議+検索+転送+リモート・ログインなどの多様な機能が利用可能となり、さらに、通信の緊急性、確実性、秘密性などに対応した "付加価値通信" サービスも提供されるようになる、
    などの局面が区別できそうである。

第三段階:以上のような "情報インフラストラクチャー" の出現を前提として、いよいよ、21世紀の産業化システムを主導する突破型の新 "メガ産業"(マルチメディアやグループウエア関連の産業) が普及してゆく段階。

 ここでは、政府の役割は規制緩和が中心で、後は民間の力にまかせるという政策が取られることになるだろう。民間の力には、異なるアプローチをする多様な産業が参入して来て互いに競い合う中で発揮される競争的な力と、一企業や一業界では到底やれない新産業を、さまざまな業界の連携・協力によって--それはしばしば、国家の境界を越えたグローバルな協力関係の追求となって現れるだろう--発揮される協力的な力の、二面があるだろう。
新メガ産業が提供する新商品の例としては、

  1. オフィスでの仕事を支援する各種のソフトウエア、すなわち、文書や画像の作成を支援する "オーサリング・ウエア" や情報の自動検索・転送を助ける "サーチ・ウエア" あるいは、会議の効果的な進行を支援するソフトウエアなど、
  2. とりわけ、協働作業の効率を高めるための各種の "グループウエア" --それには企業内協働、個人・団体間協働を推進するものから、国際的協働や異文化間のコミュニケーションや協働を支援する多様な製品が含まれよう--、
  3. 娯楽、教育、その他日常生活用の、 "マルチメディア" 製品、それも、いわゆる "パッケージ・メディア" に替わって、必要な時にオンラインで伝送されて使用される、 "ネットワーク・メディア" が、やがて主流になっていくだろう。恐らくその方が、知的財産権問題にも対処しやすいと思われるからである、(2)
  4. すべてが共通のフォーマットでデジタル化されていて、ネットワークのさまざまな箇所に分散して存在しており、しかも統一的な検索システムによってアクセスできる、多種多様なデータベース、
  5. ネットワークのネットワークを有効に利用するための、高度なインテリジェンスを持ち、しかも使用しやすい、各種の "テレピューター" や "PDA " 群、
などが考えられる。(3)

(1) 日本でもたとえば、NHK の番組で、電話は補助手段にとどめ、主としてFAX で視聴者の意見を聞くようにした番組が出現し始めているが、これなどは、データ通信型の "ネットワーク時代" への移行の一つのステップを示しているといってよいだろう。
(2) すでに、ホワイトハウスは、こうした時代の到来を予想して、新政権の活動に関連する情報を、インターネットやその他の商用ネットワークを通じて電子的に配付したり、国民との間に電子メールをやりとりするためのチャネルを設けたりする試みを、着々と実行に移している。それを担当しているのが、 "ホワイトハウス・コミュニケーション・オフィス" である。(ただし、現在のところ、電子メールの処理能力はごく限定されたものでしかない。しかし、ホワイトハウスとしては、早急にその整備を進めていく予定だといわれる。)

 たとえば、ホワイトハウスの電子的出版物は、インターネット上のUSENET/NETNEWSであれば、直接には

alt.politics.clinton
alt.politics.org.misc

その他で、間接には、

    misc.activism.progressive 
cmu.soc.politics

などで、配付されている。商用ネットワークの場合は、
CompuServe なら GO WHITEHOUSE というコマンドで、
America Online なら WHITEHOUSE や CLINTONのキーワードで、
MCI なら VIEW WHITE HOUSE というコマンドで、
それぞれニュースを見ることができる。その他、WELLやFIDONET あるいはPeacenetや Econet などにも、同種のセクションが作られている。単なるニュースの配付だけでなく、新政権の活動や政策に対して積極的に意見を述べるためのフォーラムもいくつか準備されている。CompuServe やAmerican Online の上の White House Forum がそれである。
また、電子メールで受信したいと思えば、

    To: Clinton-Info@campaign92.Org 
Subject: HELP

というメールを送ると、それに関する情報の提供を受けることができる。なお、その場合に、Subject の項を、Please Help! や WAIS と変えてやると、異なった種類の説明がえられる。
自分の興味をもっている分野がすでに決まっている場合には、たとえば経済政策関連の情報については、

To: Clinton-Info@campaign92.Org 
Subject: RECEIVE ECONOMY

というメールを送ればいい。不要になれば、

To: Clinton-Info@campaign92.Org 
Subject: REMOVE ECONOMY

というメールを送れば、キャンセルしてもらうことができる。
れから、ホワイトハウスのプレスリリース類は、いくつかのコンピューター・サイトの中にもファイルされている。たとえば、

SUNSITE.UNC.EDU  というサイトの
/HOME3/WAIS/WHITE-HOUSE-PAPERS というディレクトリー

や、

    FTP.CCO.CALTECH.EDU というサイトの
  /PUB/BJMCCALL というディレクトリー

などの中に入っている。さらに、ホワイトハウスにインターネット経由で直接電子メールを出したいと思えば、
Clinton-HQ@Campaign92.Org や、                    75300.3115@CompuServe.Com あるいは、
clintonpz@aol.com
などのアドレス宛てに出すとよい。
この他、インターネット上の SunSITE.UNC.EDU (インターネット・アドレスは、152.2.22.81)というホスト・コンピューターには、アメリカ合衆国の1993年度予算のデータが収められていて、次のような仕方でのデータの入手が可能である。

  1. アノニマス・FTP を利用する場合、
    ftp SunSITE.UNC.EDU
    login: anonymous
    password:
    cd pub/academic/political-science
    get US-Budget-1993
  2. WAISを利用する場合。これは、US-Budget-1993.src でサーチすればよい。
  3. Gopherを利用する場合。これは、SunSITE.UNC.EDU 70 でよい。
  4. リモート・ログインで入る場合。
    telnet SunSITE.UNC.EDU
    login: gopher
     とするか、または、login: politics として政治データベースに入るか、
     あるいは、login: swais として、400 以上の多様なデータベースの中から 関連情報を探すかすればよい。

(3) 昨年の委託研究報告書でも述べたところだが、近年注目を集めているいわゆる "バーチャル・リアリティ" や "アーティフィシャル・ライフ" の技術を利用した製品が普及するのは、産業化の21世紀システムが成熟段階に入る、来世紀後半のことではないだろうか。(19 世紀末にすでに出現していた自動車や電話、あるいは電気エネルギーが、大衆的に需要される商品となったのは、20世紀も後半に入ってからだったことを想起されたい。)