HOME > COLUMN > kumon_letter > January 1, 1996

kumon_letter - January 1, 1996

公文レター No.3

January 1, 1996 [ kumon_letter ] このエントリーをはてなブックマークに追加

1996年1月10日

「公文レター第三号」

公文レター第三号

公文俊平

 平松 守彦 知事 閣下、

新年おめでとう存じます。昨年から始まりました情報化の地域実験が、いろいろな困難を乗り越えながら着々と進んでいることを、まずはお慶び申し上げます。

いよいよ今年こそ、大分県には、平松知事の強力なリーダーシップの下で、全国に先駆けた「コミュニティ・ネットワーク」の構築の、第一歩を踏み出していただきたいと存じます。わが国の情報化が、真に地域に根ざしたものとなりうるかどうかは、運営の面でも利用の面でも全員参加型という特色をもつコミュニティ・ネットワークが、いかに速やかに構築できるかにかかっているからです。
インターネット協会のビントン・サーフ前会長は、「1995年はアメリカのビジネスがインターネットを発見した年」だったと申しています。やや皮肉に解釈しますと、これは「アメリカのビジネスが双方向テレビの迷夢から覚めた年」だったという意味にもとれます。さらに皮肉に言えば、「インターネットという新しい迷夢を見始めた年」だとさえ言えるかもしれません。インターネット上にただちに巨大な電子市場が出現すると期待したり、生徒や一般市民に対しては現在の電話回線をそのまま (つまりダイヤルアップ方式で) 利用したインターネット接続サービスを提供すれば十分だと考えたりしているのは、まさに「迷夢」としかいいようがないように思われるからです。イーサーネットの開発者として有名なボブ・メトカーフが、12月の初めに、「1996年にインターネットは崩壊する」という予言 (それとも苦言?)を彼のホームページの上で行ったのも、同様な懸念のためかもしれません。
日本のビジネスもまた、やはり同じ1995年に、インターネットを発見しました。日本でも、ほとんどの人々は、インターネットを電話からのダイヤルアップで利用しています。プロバイダーの方も、手っとり早く接続サービスを提供するために、既存の電話回線に大きく依存しています。日本の場合は、専用線の料金が国際的に見てはなはだしく割高だという事情が、それにさらに輪をかけています。しかし、日本の電話料金は定額制ではないので、インターネットの利用料は、非常に高いものにつかざるをえません。

このような状況の下では、日本が情報革命に立ち遅れないようにするためには、

  1. 専用線供給の自由化と料金の大幅な引き下げ、
  2. ISDN料金の一部定額化、
  3. 多様なデータ通信に利用できる形での市内電話網の開放、

などの措置が緊急に必要でしょうが、それ以上に大切なのが、電話とは別の「コミュニティ・ネットワーク」の早急な構築です。それを、大分で、できるだけ早く実現できるようにしていただきたいのです。これが、年頭にあたっての知事への私の切なるお願いなのですが、以下にその理由を手短に申し述べてみたいと思います。

  1. 未来の「全国情報通信基盤」の中核が、今日のインターネットを原型とする「コンピューターのネットワークのネットワーク」であることは、すでに疑問の余地がなくなっています。このような「分散協調」型のネットワークは、いわゆるLANをその基本単位として、それらが相互にそして対等に、接続されていくことでできあがるものです。その建設には、NTTやNCCだけでなく、電力・ガス・水道・鉄道会社や道路工事会社、建設会社や電気工事会社など、ほとんどあらゆる業種の企業が参加できるし、また参加すべきものです。誰かが先頭を切った後は、全国各地で同時多発的に、LANの構築と相互接続の動きが起こることが、もっとも望ましいのです。

  2. 現在のインターネットでもはっきり出ている傾向ですが、ネットワーク上のトラフィックのほとんどは、ローカルなものです。いいかえれば、コンピューター・ネットワークを利用したコミュニケーションは、基本的にはローカルなもの、つまり「コミュニティ・コミュニケーション」なのです。私は以前、20世紀の個人中心のコミュニケーションが、テレビのような「マス・コミュニケーション」と電話のような「パーソナル・コミュニケーション」という二つの構成要素を持つのに対し、これからのコミュニティ中心のコミュニケーションは、ワールド・ワイド・ウェブのホームページのような「パブリック・コミュニケーション」と、電子メールや電子会議のような「グループ・コミュニケーション」という二つの構成要素をもつようになるだろうと予想しました。しかも、コミュニティ・コミュニケーションの場合、その「メディア」は、かつての放送と電話のようにそれぞれ特化・分化して発展していくのではなくて、互いに融合していくだろうとも予想しました。最近のコアラの上で活発に行われている、「個人ホームページ」作りの試みを見ると、まさにその通りのことが起こっているという感を深くします。いや、それ以上かもしれません。ホームページ作りに精を出しているコアラのメンバーたちを見ていると、そこではパブリック・コミュニケーションだと思ったものが実はグループ・コミュニケーションの手段として機能していたり、グループ・コミュニケーションとして行われていることが世界に公開されることによってパブリック・コミュニケーションとしても大きな意義をもっていたりすることが、しみじみと実感されます。こうしたコミュニケーションをさらに発展させていくためには、幹線によりは各地域コミュニティに、「太い回線」が引かれていることが、多種多様なサーバーが存在していることが、何よりも必要です。「モデム内蔵の安いパソコンを買ってきて電話につなげば、その日からネットサーフィンができます」というだけでは、どうしようもなく不十分です。

  3. 日本全国に及ぶことが期待されるこのようなコミュニティ・ネットワーク作りは、市場での単なる競争にまかせておくだけでは足りないように思われます。もちろんNTT一社のみのよくなしうるところでもなさそうです。まさかここで「ユニバーサル・サービス」を要求するわけにもいかないでしょう。NTTに中心的な役割を果たしてもらわなければならないのは当然として、同時に、市民や自治体をも含めた地域の総力を結集してかかる必要があると思います。その意味では、大分で構想してきた「地域情報化委員会」のような組織の果たすべき役割が大きいでしょう。大分での地域実験がひとまず終わった段階で、ただちに本格的なコミュニティ・ネットワーク作りに乗り出せるように、そのための主導力を発揮できるような組織の整備をあらかじめ行っておくことにも、知事のお力をお貸しいただければと存じます。

情報化の正念場の年を迎えた今、あらためて平松知事のいっそうのご健勝とますますのご活躍を祈念申し上げます。

平成八年 元旦

ハイパーネットワーク社会研究所長   公文 俊平

追伸

     
  1. 今回のお手紙で申し上げたことと似たような話を、別の雑誌にも書いてみましたので、併せてお届け申し上げます。
  2. 私が兼務していますグローコムに、昨年秋以来「研究協力委員会」が組織され、NTT他松下、NEC、ソニー等情報通信関連の十数社のトップの方々が委員に加わっていただいています。その方々に、今回知事に差し上げたお手紙の写しをお送りしたいと思いますが、その件について知事のお許しを得たいと存じます。