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kumon_letter - April 1, 1996

公文レター No.6

April 1, 1996 [ kumon_letter ] このエントリーをはてなブックマークに追加

1996年04月10日

「 公文レター 第六号」

公文レター 第六号  

公文俊平

都内の桜があっという間に満開になり、あっという間に散って行こうとしていますが、今年のお花見はいかがなさいましたでしょうか。私は、数年前に、荒俣宏さんの『帝都物語』を読んでからというもの、どうも虚心に桜の美しさを味わう心境になれません。でも今年は、この手紙を書き上げ次第、久しぶりに家族で花見にでかけてみようかと思っています。

株価も二年ぶりに高値を更新し、景気にも回復の確かな足取りが見え始めてきた昨今ですが、私は、今年は、昨年のパソコンブームに続いて、 "第二世代PDAブーム" とでもいうべき事態が展開するという確かな予感を覚えています。今、気がついてみると私が毎日持ち歩いている鞄やポケットの中には、多い時は5種類もの第一世代PDAが入っています。富士通のオアシス・ポケット3、シャープのザウルスPI-7000、日本IBMのウルトラマンPC(PT110)、ヒューレット・パッカードのHP200LX、そしてNTTドコモのディジタル携帯電話です。いかに一台あたりの重量は大したことがないとはいえ、その総重量は軽く二キロを越してしまいます。それに書類や本を加えると、私の鞄の目方は五キロ近くなってしまいます。鞄に入りきれない資料を別の袋に入れて歩くこともしばしばです。このところ私が六〇肩(?)に悩まされているのも、そのためかもしれません。しかし、これらのマシンには、それぞれ一長一短があって、どれか一つですませるわけにはなかなかいかないのです。

 たとえば私の場合は、オアシス・ポケットは、最初に発売された日以来愛用していて、今でも絶対に手離せないPDAとなっています。その最大の用途は、携帯文書入力機としてのそれです。私は、それで日記や原稿、あるいはいろんなメモを書いたり、会議の記録を取ったりしています。研究協力委員会の席上でも、私の前にあるのは、オアシス・ポケットです。最初はそれを、スケジュール管理にも使っていました。ポケット3になると、備忘録(TO-DO)とも連携させようとしました。しかし、その最大の欠点は、それが内蔵しているPIM(個人情報管理)システムの機能の低さもさることながら、電源を入れてからスケジュール画面が表示されるまでに二十秒以上もかかってしまうことです。これではどうしようもありません。ですから電話帳としての利用は最初から諦めて、シャープの電子手帳(PA6500)にもっぱら頼っていました。

次に私が飛びついたのがザウルスです。これも、まだザウルスという名前がなく「ハイパー電子マネジメント手帳PV-F1」として発売された時代からのユーザーで、もっぱら電話帳と辞書の機能を利用しています。最初心配だったメモリーの制限も、最近のPI-6000以降は事実上なくなりました。新機種が発売されるごとに、いささか悔しい思いをしながら買い換えているのですが、光通信機能を使えば、簡単にデータの移し替えができるので、悔しさもほどほどですんでいます。しかし、このザウルスも、文書入力機能となると、オアシスにまるでかないません。それに、スケジュール管理機能がどうにも弱いのが泣き所です。画面が小さすぎるために、週間スケジュールに文字が入りません。(月間スケジュール表はそもそもありません。)そういう次第で、遅いなあとぶつぶつ言いながらも、オアシス・ポケットのスケジュール機能が棄てられませんでした。
 そこへ登場したのが、ウルトラマンPCです。コンパクトなボディーに普通のノートパソコンを上回る機能が満載されていて、ディジタル・カメラにもなれば、ラジオも聞けます。PIM機能もなかなか充実しています。何より、カラー画面で、ちゃんと文字の入った週間スケジュール表が見えるだけでなく月間スケジュール表から六ヵ月カレンダーまでついています。というわけで、遂にスケジュール管理はこのウルトラマンPCにまかせることにしました。しかし、文書入力は話にならず、電話帳もこれまでに合計六〇〇件近くため込んだデータを今更再入力するのは面倒です。それに、外で使うと電池がすぐになくなるばかりか、せっかくのカラー液晶画面がとても見づらいのです。結局、ザウルスPI-7000に買い換えた機会に、スケジュール機能は思い切ってザウルスにも分担させ、オフィスでのスケジュール管理は、ウルトラマンPCをデスクトップのモニターとキーボードにつないで行うことにしました。しかし、これは二度手間になるばかりか、機能的にもどうしても満足できません。

そこで目をつけたのが最強のPIM機能を持つことで有名な、ポケット・パソコンのHP200LXです。試しに使ってみると、確かにすばらしいものでした。今や私は、200LXにすっかり魅せられてしまっています。電源を入れると、ほとんど瞬時に画面がでてきます。スケジュールとTO-DOは、すべてこれに移しました。キー一つで両者の切り替えがきき、しかも両方が連動しています。月間スケジュール画面が使えるばかりか、日、週、月別に表示させる項目を選択できます。あまり気に入ったので、電話帳も、思い切ってこちらに移しかえようかと考えているところです。200LXの問題とされていた日本語通信機能も、RAMを5メガに増設することで、モデム・カードが利用可能になりました。また、PCMCIAカード(大決心をして40メガのフラッシュ・メモリー・カードをつけました)を活用すれば、ウルトラマンPCとの間で、データやプログラムのやり取りが容易にできます。そうなると、ウルトラマンPCを鞄に入れて持ち歩く必要は、ぐっと少なくなります。

しかし、これで問題が解決したわけではありません。文章の入力には、依然としてオアシス・ポケットが手離せません。ザウルスの辞書機能にも棄てがたいものがあります。(しかし、これはいっそソニーのデータ・ディスクマンに切り換えようかとも考えています。私は今、三台のディスクマンをもち、一台は自宅の書斎に、一台はオフィスに置いてあります。今度、小学館の百科事典の電子ブック版が発売された機会に、それを見るための新しいディスクマンを購入したのですが、これだと、ブリタニカも、また広辞苑から英和・和英・漢和辞典にいたる十種類の辞書を一枚に収めたCDも携帯可能になるのです。そうすると、当面の私の最適解は、鞄にはオアシスとディスクマンを入れ、ポケットには200LXを入れて持ち歩くというものになります。もっとも200LXはザウルスと違ってかなり分厚いので、上着に特別のポケットをつけることも検討しているところです。

ところで、ジョン・スカリーがPDAというコンセプトを提唱してから、すでに五年以上の月日がたちましたが、私は今でもアップルが最初に出したナレッジ・ナビゲーターのデモ・ビデオの衝撃が忘れられません。それはまさに情報革命の到来を実感させるものでした。しかし、スカリーのビジョンは時期尚早にすぎ、その具体化の第一弾として市場に投入されたニュートンは、惨めな失敗に終わりました。その後にやって来たマルチメディアの新ゴールドラッシュは、まず双方向テレビやビデオ・オン・ディマンドの夢を追うところから始まりました。その夢は間もなくインターネット・ブームにとってかわられましたが、これまた過熱という他ない状況を迎え、やがて退潮していくでしょう。しかし、コンピューター・ネットワークのニューメディアとしての重要性の認識自体は、それによって動かされることはもはやありえません。当面のコンピューター・ネットワーク利用の本命は、 "イントラネット" を中心とする企業や行政の業務利用にあることは、すでに明らかになっています。しかし、ネットワーク・コンピューティングのビジネス利用は、単にオフィスのLAN化やインターネット化に尽きるものではありません。オフィスのネットワーク化は、モーバイル・コンピューティングと一体化してこそ、ビジネスの生産性の革命的向上につながると思います。自社のLANへの、つまり自社のイントラネットに接続できる必要十分な機能をもった携帯端末、これが第二世代のPDAに他ならないでしょう。先週の日経新聞に三菱電機が打った○○の全面広告や、その翌日のNTTの○○の全面広告は、まさに第二世代PDAをめぐる競争の開始を告げるものでした。

つい最近出版された「楽しくわかるPDA活用のコツ」(瓜生正道編、HBJ出版局)には、こんなことが書いてあります。まず、アメリカでの話として、

飛行機の各席の背もたれには、AT&Tの電話機がついている。この電話機はもちろんコードレスだが、送話口の下にモジュラー接続口があり、ここにパソコンなどを接続してデータ通信が可能になっている。

アメリカに行くたびに思うのだが、アメリカではPDA、あるいはデータ通信といった分野が実に進んでいる。技術的には日本も大差ないのだが、アメリカでは徹底しているのだ。どこにいても、飛行機の中だろうがホテルだろうが、必ずといっていいほど電話があり、その電話はデータ通信が可能になっているのである。広大な国土のなかで、求める情報を集め、あるいは発信するためには、通信機器の発展が不可欠だが、それが個人レベルにまで広がっているのである。

と書いてあります。そうなのです。ペンシルバニア大学のデービッド・ファーバー教授も昨年数カ月にわたって日本に滞在した折りに、つくづく言っていました。「日本のビジネス・ホテルにはモジュラージャックがない、これでどうして仕事ができるのか不思議でならない。日本にはコンピューターというもの自体がないみたいだ」と。実際、携帯電話のスイッチを切ることを要求する日本の飛行機、携帯電話はデッキで使用しろという日本の鉄道は、携帯電話をデータ通信に使う可能性は全く念頭にないのでしょう。国土の狭い日本では、飛行機はすぐに着陸するのだから電話は地上に降りてからすればいいと飛行機会社は考えているのかもしれません。しかし、機内の一、二時間はデータ通信に使うことを思えば、実に貴重な時間になりえます。新幹線も同様です。私は、このような状況こそが、日本の今日の閉塞感を生み出しているのだと言いたくなるくらいです。

さきの本の筆者は、日本についてはこう言っています。

一方日本では、最近でこそ電子メールのビジネス利用が急増しているが、パソコンそのものが文書を作成したり表計算を行ったりする以外には、個人情報を管理するのにも利用されてはいたが、スタンドアローンでの利用が多かった。個人情報を管理するためには、システム手帳や電子手帳で十分間に合っていたのだ。 しかし、ここにきて日本でもPDAの概念が変わりつつあるのではないだろうか。PDAは持ち運び可能な個人情報管理機器だが、それは同時に、携帯情報端末としての機能も求められているのである。モデム機能を内蔵したザウルスや、HP200LXの人気などをみると、PDAにこそデータ通信機能が不可欠になりつつあるようだ。(中略)

現代に求められるPDAのキーワードは「通信」なのである。外部とつなげ、情報を収集・発信できてこそ、現代の情報社会を生き残るために必要な条件なのだ。そして、このような条件を満たすPDAをどう使いこなすか、それが現代人に求められているPDA術なのである。

若干テニオハが気になる点を除けば、私もこの著者のこのような考えには全面的に賛成です。私としては、それに加えて、先に述べたようなLANとPDAの一体化の必要を強調しておきたいと思います。それを可能にするような広帯域通信ネットワークの構築と第二世代PDAの開発が、またそれらの利用のノウハウの開発と普及とが、私たちの当面の課題だと思います。グローコムでは、今年度の自主研究課題の一つとして、第二世代PDAのグループ利用を取り上げる予定です。これから次々と登場することが予想される各種のPDAを片っ端から試用し比較してみると同時に、その効果的な利用法を工夫していきたいと考えていますので、どうかよろしくお願い申し上げます。