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kumon - October 1, 1998

「2000年問題に叡智と協力を」

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1998年10月29日

「2000年問題に叡智と協力を」

-不可欠な政治家の責任と指導力-

『産経新聞』 「正論」 1998年10月29日

公文 俊平

 この九月に、三週間かけて米国の情報化の現状を見聞し、二つの強い印象を受けた。

 その第一は、新しい情報通信システムの爆発的な拡大である。コンピューティングの面では、大型機からパソコンへと来た進化の流れが、ネットワーク化に向って進み出した。これからは、ネットワークがコンピューターになる時代がやってくる。コミュニケーションの面では、回線の広帯域化が急激に進んでいる。放送と通信は融合するが、どうやら未来の通信の主流は交換機のない帯域共同利用型(つまり放送型)になっていくようだ。

 だが第二に、既存の情報通信システムは、深刻な困難に直面している。それを象徴しているのが、コンピューターの「2000年問題」である。

 メモリーが高価で希少だった時代に作られたコンピューターは、四桁の西暦年号を下二桁で間に合わせた。その結果、紀元2000年(00で表わされる)がくると、それが年号だと解釈できなくなったり、1900年だと解釈したりして、作動を停止したり、さまざまな誤作動をしてしまうのである。

 コンピューター内の「時限爆弾」とも呼ばれているこのバグは、数十億行にのぼる大型機用のプログラムの中に散在している。あるいは、各種の機械に埋め込まれた数百億台にのぼるマイクロチップスの中に隠れている。

 このバグが除去されぬままに2000年がくれば、近代文明社会は壊滅的な打撃を受けるだろう。そこで、2000年対応の努力が各方面で進められているのだが、残念なことに決して十分とはいえないらしい。2000年まで後一年と少ししかなくなった今となっては、コンピューターあるいはそれを組み入れたシステムの一部が不対応のままに終わることは、もはや不可避なのである。

 では、その結果としてどんな不都合が、どこで、どれだけの期間にわたって発生するのか。正確なところは誰にもわからない。しかし、通信や交通が(少なくとも一時的・局所的に)途絶するだけでなく、停電や断水の危険さえありうるという。あるいは、一部の部品の供給が停止したり、原料資源の輸入のペースが狂っただけでも、経済活動の全体が混乱し停滞してしまうだろう。その影響が長期かつ広域におよぶ恐れも決して皆無ではない。

 私は、今回の米国訪問時に、多くの人の意見を聞いたり、関連資料を読んだりしたのだが、それらを通じて、こうした懸念が決して全くの杞憂ではないことを痛感させられた。明らかにわれわれは今、かつて人類の経験したことのない種類の困難に直面している。

 それは、個々人や組織、あるいは国家が個別に対処するだけですむ種類の困難ではない。全国的、全地球的な情報の通有と協働作業とが不可欠なのである。しかもそれは、2000年初頭の数日あるいは数週間で方のつく問題ではなく、恐らくは数年、いやことによると十年ないしそれ以上の長期間にわたる問題(2000年代問題)であって、最終的には新しい情報通信システムと、それを基盤とする新しい社会システムの構築をまってようやく対処が完了するような、広がりと深さをもつ問題なのである。

 しかし、そうであればこそ、問題対処の努力は今からより強化していかなくてはならない。2000年までに、残されたごくわずかな時間にも、私たちはすべての叡智を集め、一致協力して行動に立ち上がらなくてはならない。

 そこで私は、わが国としても、官民をあげて、そして各国と緊密に協力しつつ、今後数ヶ月の間に次の四つの対策を大々的に推進することを提言したい。

 その第一は、対応の現状やありうべき被害、および被害への可能な対処法に関する情報の、国民に対する全面的な開示と共有である。第二は、被害の発生(とりわけライフラインの断絶、医療、福祉、行政システムの混乱、あるいは貿易や生産の中断や活動水準の低下など)の危険を最小限に食い止めるための、とくに地方自治体や中小企業を含めた、対応努力の強化と支援である。第三は、今後生じかねない社会的なパニック(預金の取りつけ、各種物資の買占めや売り惜しみ、大都市からの脱出など)の予防および対応である。第四は、上にその例をあげたような各種の被害が現実に発生した場合の緊急の、また中長期的な対処策の立案と実施(有事の通信・運輸システムの整備、要員の分散配置や物資の備蓄など)である。

 そのさい、もっとも大きな責任を引き受け、強力なリーダーシップを発揮してほしいのは、いうまでもなく政治家である。政治家の方々には、今こそ、事態の深刻さを直視し、即刻行動にでていただきたい。他人の責任を糾弾したり、政争に明け暮れている時間はないのである。大胆な行動への足かせとなっている問題(たとえば金融システムの機能不全)の根は、一気に断ち切らなければならない。

 もちろん私たち国民としても、いたずらにおびえたり、あるいは逆に無関心を決め込んだりせずに、職場や近隣と、そして政府と協力して、必要な情報を集め、知恵と力をしぼって、適切な対応策を講じていくことが肝要である。

公文 俊平