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kumon - May 1, 1999

誇りを取り戻した帝王の戦略

May 1, 1999 [ kumon ] このエントリーをはてなブックマークに追加

1999年05月16日

『日本経済新聞』 「書評」 1999年5月16日

公文俊平

ピル・ゲイツ著、『思考スピードの経営』


(一九五五年生まれ。七五年、ハーバード大学を中退し、ポール・アレンとマイクロソフトを設立。現在、会長兼最高経営責任者。著書に『ビル・ゲイツ未来を語る』。)

競争相手を追い落とすためには政府を敵に回すのも辞さない『暴走する帝国』や、その帝王ビル・ゲイツの「罪と罰」について書かれた本は多い。だが、本書からは彼のもう一つの願が見えてくる。自らの経営理念や技法を実践すると共に、これを唱道し普及させる中でビジネスの拡大を追求する、「智業的企業家」の顔である。

 インターネットの評価を誤ったために刊行後一年で大幅な改訂を余儀なくされた前著『未来を語る』に比べると、情報化時代のビジネスのあり方に焦点を絞った新著は、いまや劣勢を挽回して自信と誇りを取り戻した著者の考えを、自社の経験に加えて他社の成功例を含む豊富な実例で裏付け、はるかに充実したものとなった。

 評者は、これからの情報化の主流はインターネットの通信手順を使ったIPネットワーキングと、ワールドワイド・ウェブを基盤にしたウェブ・コンピューティングだと思うので、職場や家庭での「ウエプ・ワークスタイル」や「ウエプ・ライフスタイル」についての著者の説明には我が意を得た。とくに共感したのは、全従業員に(そして収引先や顧客にも)開かれた分散・協調型の社内情報システムを、ウェブをプラットフォームとして作れという提唱である。互いに対等な情報基盤に立ってこそ、会社全体を考えた提案や、搾取される恐れのない取引ができるというわけだ。また、ビジネスマンの「情報作業」を支援するための、ネットワーク・サービスと組み合わせた高度な業務用ソフトの開発と利用の推進を、次の戦略課題に据えたのも、正解だと思う。

 しかし、マイクロソフトの経営は、ゲイツのこうした理念を本当に体現しているのだろうか。テレビ用端末のOSとしてウィンドウズCEの市場独占が無理とみるや、一転してAT&Tと提携して参入をめざす「思考スピードの経営」の背後にあるのはどんな思考なのか。言行一致を切に望む。大原進訳。(日本経済新聞社・一、九〇五円)