HOME > COLUMN > wwvi > December 1, 1999

wwvi - December 1, 1999

速報:SMIL Boston WD 2

December 1, 1999 [ wwvi ] このエントリーをはてなブックマークに追加

速報:SMIL Boston WD 2

上村 圭介


要旨
W3Cは、新しい同期マルチメディア記述言語の検討作業をしている。この作業を実質的に担当しているSYMM WGは、1999年8月3日に第一次Working Draft(WD)を、1999年11月15日に第二次WDを公にした。

「SMIL Boston」と現在呼ばれているSMILの次期バージョンは、原則的にはSMIL 1.0との互換性を維持しつつ、新たな機能を追加したものである。本稿では、これらのWDで示されたSMIL Bostonの現状を紹介するとともに、今後の展望について筆者の考えを述べる。
 

1. はじめに
W3Cは、1998年6月に「Synchronized Multimedia Integration Language 1.0(SMIL 1.0)」を勧告として公開した1。その名が示す通りSMILは、メディア要素(動画、音声、静止画、テキストなど)に時間記述を与え、プレゼンテーション中のメディア要素が時間軸上でもつ振る舞い(再生、表示など)の制御および同期を行なうためのXMLアプリケーションである。SMIL 1.0はこれまでに、RealNetworksのRealPlayer G22、OratrixのGRiNS3、HelioのSOJA Cherbourg 24、Productivity WorksのLpPlayer5などが実装している。Apple Computerも、QuickTime PlayerでSMILをサポートする計画であることを発表した6

W3CでSMILの新バージョン開発を担当しているSYMM WG(Synchronized Multimedia Working Group)は、SMIL 1.0に続く新しいバージョンの検討を1999年3月より行なっている。集中的な作業の結果、8月3日に第一次WD(working draft; 作業素案)、11月15日に第二次WDがそれぞれ公開された7。筆者は、SYMM WGに国際大学GLOCOMからのメンバーとして、SMILの検討作業に関わってきた。SYMM WGのメンバーには他に、RealNetworks、Microsoft、Macromedia、Intel、Philips、Panasonic、Canon、CWIなどが参加しており、同期マルチメディアのマークアップ言語への関心の高さを示すものと言えよう。

現在検討中のSMIL次期バージョンは、2000年4月に勧告案(proposed recommendation)とし、2000年6月に正式に勧告とすることを目標に作業を進めている。WDとは、最終的な勧告の作成作業のいわば経過報告であり、一度決定された内容であっても、その後の議論次第で内容が変更されることもあるが、新しいSMILの方向性を知る上で、また正式リリースに先行して実装を蓄える上で意味をもつ。これまでの議論により形成されたSMILのセマンティクスとシンタクスは、暫定的にSMIL Bostonと呼ばれているが、実際に勧告となる際には正式なバージョンが与えられる予定である。本稿ではSMIL 1.0、SMIL Boston第一次WD(WD 1)、第二次WD(WD 2)に基づきSMILの現状を紹介するとともに、今後の展望を示す。
 
なお、本稿では、HTMLなどで記述され、インターネット上で公開されている一体性をもつデータのことを一般的に「コンテンツ」と呼ぶ。その中でもSMILなどによって同期インタラクティブ記述を与えられたコンテンツのことを、他のコンテンツと区別して特に「プレゼンテーション」と呼ぶことにする。プレゼンテーション中の複数のストリームメディアや離散的メディアの時間軸上の配置を、相互の時間的関係(同時、前後など)によって記述し、その記述に基づいて再生されるプレゼンテーションのことを、総称して「同期」プレゼンテーションと呼ぶ。ユーザの動作やシステムにより発生するイベントによって再生や進行が制御されるプレゼンテーションを「インタラクティブ」なプレゼンテーションと呼ぶことにする。

    1. Hoschka,P.(ed), "Synchronized Multimedia Integration Language (SMIL)1.0 Specification" (W3C Recommendation), 1998-06-15, http://www.w3.org/TR/1998/REC-smil-19980615
    2. RealNetworks, "RealPlayer G2", http://www.real.com/
    3. Oratrix Development, "GRiNS", http://www.oratrix.com/
    4. Helio, "SOJA Chebourg 2", http://www.helio.com/
    5. Productivity Works, "LpPlayer"
    6. Apple Computer は1999 年11 月に、次にリリース予定のQuickTime Player 4.1 でもSMIL 1.0 がサポートされることを発表した。
    7. "SMIL Boston" (W3C Working Draft), 1999-08-03, http://www.w3.org/TR/smil-boston/


2. SMIL Bostonの概要
2.1 現状
SMILは、全体としては、ウェブ上の同期インタラクティブなマルチメディアコンテンツのための記述言語を規定するが、すべての機能を盛り込んだ一枚岩の巨大な規格ではなく、「モジュール」と呼ばれる機能群に分割されることになった。そして、各モジュールそれぞれが独立した章を与えられ、文書化されている。

現在のWDは、次の章からなる。

  1. About SMIL Boston
  2. Synchronized Multimedia Integration Language (SMIL) Modules
  3. The SMIL-Boston Animation Module
  4. The SMIL Content Control Module
  5. The SMIL Layout Module
  6. The SMIL Linking Module
  7. The SMIL Media Object Module
  8. The SMIL Metadata Module
  9. The SMIL Structure Module
  10. The SMIL Timing and Synchronization Module
  11. Integrating SMIL Timing into Other XML-Based Languages
  12. The SMIL Transition Effects Module
  13. The SMIL Document Object Model Module 
このうち、1. About SMIL Boston、2. Synchronized Multimedia Integration Language (SMIL) Modules、11. Integrating SMIL Timing into Other XML-BasedLanguages、13. The SMIL Document Object Model Moduleの四つの章は、SMILが提供する機能群という意味でのモジュールではないため、これらの章を除いた九つがSMIL Bostonで提供されるモジュールということになる。

1999年8月3日に発行されたWD 1の時点では、Layout、Linking、Metadata、Structure、Transition Effectsの各章についての記述がなかったが、WD 2で、これらのモジュールの規定も発表され、これでSMIL Bostonの全体像がようやく見えることになった。

参考までに、SMIL 1.0、WD 1、WD 2における各モジュールの進捗状況を表に示す。
 

 
1.0
WD 1
WD 2
Animation
Content Control
Layout
Linking
Media Object
Metadata
Structure
Timing and Synchronization
Transition
SMIL 1.0 、SMIL Boston WD 1 、SMIL Boston WD 2 の比較

「-」は、その時点で機能が提供されていないモジュール、または文書化が完了しなかったモジュールである。また、Animationモジュールは、後述するようにSMIL Bostonとは独立した"SMIL Animation"として、個別に勧告化することを目指して作業中であるため、WD 2では、SMIL AnimationをSMIL Bostonが取り込む際に行なう拡張について若干の説明が示されているだけである。
 

2.2 各モジュールの概要
SMIL Boston WD 2で用意されたモジュールについての概要をここで紹介する。 Animation メディア要素の属性(座標、色、サイズ、角度など)を変化させ、そのメディアの画面上での振る舞いを操作し、移動、点滅、拡大、縮小などの「アニメーション」を与えるためのモジュール。 Content Control SMIL 1.0のswitch要素やテスト属性などを定義するモジュール。ユーザの再生環境に応じたプレゼンテーションの制御を主に提供する。 Integration SMILが提供する同期インタラクティブ機能のセマンティクスを他のXMLアプリケーションで利用するためのモジュール。 Layout SMILの簡易レイアウトを提供するモジュール。SMIL 1.0では、layout要素、root-layout要素、region要素と関連する属性が提供されている。 Linking SMILプレゼンテーションのリンク機構を提供するモジュール。SMIL 1.0では、a要素、anchor要素がリンク要素として提供されている。Bostonドラフトでは、XPointerのリンク機構を採用することが検討されているがXLinkのサポートについては明示的に言及されていない。 Media Object メディア要素(アニメーション、音声、静止画、動画、テキスト、テキストストリーム、参照)をサポートするモジュール。 Metainformation プレゼンテーションのメタ情報を記述するためのmeta要素をサポートするためのモジュール。 Structure smil、head、bodyなど、SMILが他のマークアップ言語に組み込まれず単独で使用される場合に必要となる、独自の文書構造を表現するためのモジュール。 Timing and Synchronization メディア再生の開始、終了、繰り返しなど、メディア要素が時間軸上でもつ振る舞いを指定するための要素と属性を提供するモジュール。SMILの中で最も中核となるモジュールである。
 
3. SMIL Bostonの特徴
SMIL Bostonは、SMIL 1.0にはなかった特徴をもつ。3章では、それらの特徴について紹介する。
3.1 モジュール化と他言語への統合
繰り返しになるが、SMIL 1.0とSMIL Bostonの相違点として最も顕著なものは、SMILの機能を分類し、意味的に関係をもつ機能群からなる「モジュール」に整理したことである。これは単にグループ分けされたという以上の意味をもつ。モジュール化することで、他のXMLアプリケーション(SMIL Bostonでは、「ホスト言語」と呼ぶ)への統合を容易に行なうことが可能となるからである。

SMILを利用するホスト言語として考えられるのは、ベクトルグラフィックスを記述するための言語であるScalable Vector Graphics(SVG)や、WWWの標準マークアップ言語であるXHTMLが挙げられるだろう。例えば、これらの言語で記述されたコンテンツに「小規模のアニメーションを組み込みたい」あるいは「あるページだけに出現する動画の進行とキャプションの文字を同期させたい」という要求が生じた場合に、そのような機能をもった言語を一から作り直すのでは非効率である。そこで、WWWブラウザのプラグインのように必要なときに必要な機能だけを付加できる仕組みが必要となる。モジュール化は、そのような機能を裏付ける仕組みをマークアップ言語のレベルで提供するものである。

SMIL Bostonでは、モジュールを次のようにとらえている(SMIL Boston WD 2のものを修正)。

  • 機能

  • XMLの要素の属性によって表現される機能の最小単位。
  • モジュール

  • 意味的に関係をもつ要素の集まり。
  • モジュールファミリ

  • 意味的に関係をもつモジュールの集まり。
  • プロファイル

  • 特定のアプリケーション領域や言語で必要となるモジュールの集まり。
そして、SMIL Bostonでは、プロファイルの定義などの詳細は現時点では未定となっているが、次に示すようなプロファイルが例として挙げられている。
  • Lightweight Presentations Profile(簡易プレゼンテーションプロファイル)
  • SMIL 1.0 Profile(SMIL 1.0互換プロファイル)
  • XHTML Presentations Profile(XHTMLプレゼンテーションプロファイル)
  • Web Enhanced Media Profile(拡張ウェブメディアプロファイル)
SMIL Bostonのモジュール化の目的の一つは、使用領域に応じたプロファイルの作成を可能にすることである。しかし、これは逆に言えば、SMIL Bostonを使用する場合には、提供されるモジュールを組み合わせて、プロファイルを作成しなけらばならないということである。

また、この枠組みでは、SMIL 1.0もモジュールの組み合わせであるプロファイルとして表現されることになる。SMIL Bostonでは、"SMIL Boston"というマークアップ言語を定義するわけではなく、その意味ではSMIL Bostonは、SMIL 1.0の直接の後継ではない。その代わりに、SMIL Bostonの機能を利用して、SMIL 1.0の後継となるマークアップ言語プロファイルが作成されるということになる。


図1 SMIL 1.0、SMIL Boston、SMIL Profileの関係

SMIL Boston自体は膨大な仕様となるため、その機能すべてを実装することは、実装力のある一部のベンダを除いては不可能である。また、SMIL Bostonの全機能を必要とするユーザ領域もほとんどないだろう。例えば、デジタル放送端末や携帯通信端末では、SMIL Bostonが提供する機能の中から、テレビ放送やデータ通信に関連する機能だけを実装すればよい。現在のWWWがSMILの機能を取り込むことになっても、SMILの機能のすべてを必要とするわけではない。SMIL Bostonの実装は、ある一つの巨大なソフトウェアではなく、個々のアプリケーション領域の要求を反映した小さなソフトウェアとして実現されるのが最も典型的である。その場合、巨大なSMILの仕様だけでは意味をもたない。実装者には、SMILで定義される機能から、それぞれの目的と領域に応じて必要な機能を選びだし、プロファイルを定義するという作業が新たに必要とされる。
 

3.2 時間モデルの拡張
SMIL Bostonの最も大きな特徴は、SMIL 1.0で提供されたスケジュールによる時間モデルに加えて、イベントによる時間モデルが導入されたことである。イベントによる時間記述を行なうことで、ユーザがキーボードやマウスを操作することで発生するユーザイベント、メディアの開始や終了などメディアに組み込まれているストリームイベントなどによってプレゼンテーションを制御し、よりインタラクティブなプレゼンテーションを作成することができる。

一方、イベントによる時間記述を導入したことで、SMIL 1.0では存在しなかった問題も含むことになった。それは、時間関係の「決定」の問題である。スケジュールによる時間モデルでは、実行時以前に、予めすべての要素の間の時間関係を解決し、「時間グラフ(time graph)」を構成することができる。時間グラフは、Bostonドラフトで導入された概念で、要素同士の間の時間関係を表現した図である。イベントを導入した時間モデルでは実行時にならなければ要素間の時間関係を解決し、時間グラフを決定することができない。SMIL 1.0では、すべてのメディアの再生は、他のメディアの開始点または終了点と関連づけられていた。そのため、あるメディアの開始点は、そのメディアが関連づけられている他のメディアをプレゼンテーションの先頭までたどることで、必ず事前に決定できたのである。ところが、イベントによる時間記述を導入すると、再生開始点を事前には決定できなくなる。例えば、ユーザのマウス操作によって終了するメディアAが終了した時点で、メディアBを開始するとした場合、事前にメディアBの開始点を決定することはできない。これが、時間関係の「決定」の問題である。

また、SMIL 1.0では、メディア要素間の同期関係(同期弧; synchronization arc)を同じ親をもつ兄弟要素に限定していたが、SMIL Bostonではこの制約がなくなり、「長い同期弧(long sync-arc)」を使うことができる。
 

3.3 アニメーション機能の提供
SMIL Bostonで追加された、もう一つの重要な機能はアニメーションである。ここでいうアニメーションとは、XML文書中で記述されたXML要素(プレゼンテーション中では、画像、グラフィックス、テキストなどの「オブジェクト」に相当する)に対して与えられた座標、色、サイズ、角度などの属性の値を、時間の経過に従って変化させることである。その結果がレンダリングに反映され、オブジェクトが画面上を移動することになる。

この機能のために、animate要素が新たに導入された。animate要素は、例えば次に示すような使い方をする。

       <par>
         <img dur="10s" width="40" height="30" top="0" ...>
           <animate attribute="top" from="0"
                    to="100" dur="10s"/>
         </img>
       </par>
この例は、ある画像(縦40ピクセル、横30ピクセル)を、10秒かけて100ピクセル下に移動するアニメーションである。SMILアニメーションで重要なのは、SMILのレベルでは、操作の対象となる属性についての制限が設定されないことである。原理的には、どのホスト言語のどの要素に対してもアニメーションを与えることができる。この制限を設けるのは、アニメーションモジュールを統合するホスト言語である。
 
3.4 シンタクス・セマンティクス上の変更点
セマンティクスやシンタクスは、SMIL 1.0と比較すると大幅に変更された。特に大きく変更されたものを次にあげる。 3.4.1 非推奨(deprecated)とされた要素・属性
  • anchor要素

  • area要素に変更された。
  • clip-begin属性

  • クリッカブル画像マップと同じ機能をSMILプレゼンテーションで実現するための要素。HTML 4.0のarea要素との整合を取るために、この要素は非推奨とされた。
  • repeat属性

  • repeatDur属性、repeatCount属性に分割された。
3.4.2 追加された属性・要素
  • excl要素

  • par要素、seq要素に続く三つ目の時間コンテナとして導入された要素。par要素は子要素が同時に再生されることを、seq要素は子要素が一つずつ連続して再生されることを示すのに対し、excl要素はある要素が選択されると他の要素の再生を中止し、選択された要素の再生を開始する。
  • whenDone属性

  • excl要素専用の属性。excl要素の子要素の再生が終了した場合の振る舞いを指定するための属性。
  • endActive属性

  • SMIL 1.0のend属性のセマンティクスを精緻化し、曖昧さを排除するために導入された属性。
  • area要素

  • HTMLのクリッカブル画像マップと同じ機能をSMILプレゼンテーションで実現するための要素。HTML 4.0のarea要素と同様のセマンティクスをもつ。SMIL 1.0のanchor要素を引き継いだ。
  • repeatDur属性、repeatCount属性

  • SMIL 1.0で規定されたrepeat属性が曖昧なセマンティクスをもつため、その曖昧さを排除するために導入された属性。SMIL 1.0のrepeat属性を引き継いだ。
  • clipBegin属性、clipEnd属性

  • SMIL Bostonの要素・属性の命名規則が変更されたことに伴って導入された属性。clip-begin属性、clip-end属性を引き継ぐ。基本的なセマンティクスは変更されていないが、メディア中の位置を指定するために、時計値(hh:mm:ss)の他に、識別名を使用できる。
3.4.3 セマンティクスが明確化された要素・属性
  • end属性

  • SMIL 1.0で曖昧だった部分を、end属性とendActive属性に分割した。
3.4.4 属性名の命名規則の変更に伴ない変更された要素・属性 SMIL 1.0では、要素・属性の名前は、すべて「英小文字」とし、単語を続ける場合は「ハイフン」で単語の区切りを示した(例えば、"clip begin"→"clip-begin"、"system language"→"systemLanguage")。SMIL Bostonでは、DOMや、スクリプト言語での命名規則と整合させるために、名前は、区切り子は使用せずに、2単語目以降の頭文字以外をすべて英小文字で表現する(例えば、"clip begin"→"clipBegin"、"system language"→"systemLanguage")。
 
3.5 下位レイヤーの機能の取り込み
メディアオブジェクトは、SMILでは「ブラックボックス」として扱われ、マークアップ言語からは独立していた。これは、SMILのようなマークアップ言語が音声や動画といった各メディアの上位に位置するという考え方を投影したものといえる。しかし、SMIL Boston WD 1およびWD 2では、マークアップ言語からメディアの内部を制御するための仕組みが取り入れられている。SDPプロトコルの制御のためのSDP属性などがその例である。

メディアの層とマークアップ言語の層は理論的には分けられるものの、それでは実用的でない場合がある。SDP属性の例は、実用上の不都合を回避するために、プロトコルレベルの機能をSMILのマークアップ言語のレベルで汲み取った機能と言えるだろう。
 

3.6 記述方法の多様化
SMIL Bostonでは、すべての要素に時間記述を与えることができる。SMIL 1.0では、時間記述を与えられる要素を予めDTD(文書型定義)によって定義した(par、seq、img、videoなど)が、この手法では、他の言語に統合される場合に、その言語での文書構造を修正しなければならなくなる。そこで、SMIL Bostonでは、まず抽象的な同期インタラクティブ記述のための機能群を定義する。そして、その抽象的な機能群が実際のマークアップの中でもつ具体的な表現は、各マークアップ言語が選択しうるというアプローチをとっている。これは、MicrosoftのHTML+TIME8や、ワールドワイドビジョン・イニシアティブ(WWVI)が示したモデル(Multimedia Architectural Platform Specification; MAPS)9で見られる属性記述型アプローチと同じである。
    1. Microsoft Corporation, "HTML+TIME"(W3C Note), http://www.w3.org/TR/NOTE-HTMLplusTIMEMultimedia
    2. Architectural Platform Specification (MAPS), http://www.wwvi.org/maps/index.html
4. WD 1とWD 2の相違点
3章では、SMIL 1.0とSMIL Boston WD 2との違いを概説したが、ここでWD 1とWD 2の間で変更されたもので重要なものを挙げておこう10
  • begin/end、beginEvent/endEventの整理。

  • メディアの再生開始・終了を指定するためのbegin/end属性、beginEvent/endEvent属性の変更が行なわれた。開始点を時計値によって指定するために提案されていたbegin属性とend属性が統合された。終了点をイベント値によって指定するための属性は、セマンティクスを明確に表現するためにendEventからendActiveという名称に変更されたため、end属性は、セマンティクスによって、end属性とendActive属性の二つに分かれたことになる。
  • 再起動のためのrestart属性の追加。
  • イベントのシンタクスの変更。

  • begin="id(a)(foo)(3s)"(aというIDをもつ要素がfooというイベントを受け取って3秒後に開始)→begin="a.foo+3s"
  • XLinkによるリンク指定。

  • 第二次WDでは、XLinkによるリンク指定に関する記述がなくなっている。これは、XLinkの勧告化が遅れているために取られた暫定的な措置であるとされているが、最終的なSMIL Bostonのリンク指定がどのようなものになるかは、次のWD、さらに勧告案が発行されるまでにXLinkの作業がどの程度進むかに依存している。XHTMLでもリンク指定にXLinkをサポートしておらず、XLinkによるリンク指定そのものの行方がどうなるかは現在のところ不透明である。
     
  • Animationモジュールの分離

  • Animationモジュールは、SMIL Bostonの一部として開発されてきたが、WD 1以降、SMIL Boston本体とは切り離して、"SMIL Animation"としてSMIL Boston本体より先に勧告化するため作業が行なわれることになったものである。現在、SMIL Animationは、SMIL Boston本体より先に第二回のWDが発行されている。SMIL Animationが先に勧告として制定されることになった背景には、ウェブ上でアニメーションを表現することへの需要が高いことがある。SVGあるいはHTMLなどでは、精緻な同期タイミング機構は必要としないまでも、画面上のオブジェクトを動かすためのアニメーションモジュールはすぐにでも必要ということだろう。Macromedia Flashまたはアニメーション化されたGIF画像などで実現されるウェブ上アニメーションが一般的に使用されていることからも、アニメーション機能が、W3Cによって標準化されることへの需要を見て取ることができる。なお、SMIL Animationは、SMIL Boston本体がなくてもアニメーションが記述できるように、Timing and Synchronizationモジュールで規定される同期記述のセマンティクスのサブセットを含んでいる。SMIL Bostonの時間記述を知る近道としても最適である。
    1. 檜山 正幸 「SMIL-Boston 解説セミナー」 (WWVI セミナー「実装のためのSMIL Boston 」資料)
5. 他言語との関連
SMIL 1.0は、SMILが単独でプレゼンテーションが記述できるように、簡易レイアウトのための要素やメタデータのための要素をもっていた。一方で、SMIL Bostonは、他の言語に統合された状態での使用を指向しているために、例えばレイアウトについてはCSSやXSLのような他の規格を採用することができるようになる。W3C内での「分業」が進んだことで、このように作業の重複は避けられるが、逆に、その結果として他のマークアップ言語の進捗状況に強く依存することになる。例えば、WD 1ではイベントについてのモジュールが含まれていたが、WD 2では外されている。これは、HTMLに関するWGが、より一般的なイベント機構について規定することが望ましいという判断からであろう。しかし、HTML WGでの作業が進まなければ、イベントを扱う機能が導入できないということにもなる。逆に、リンク機構では、XLinkの作業が当初予期された形では進んでいない現状をうけて、WD 2のLinkingモジュールでは、XLinkとは異なる、HTMLのリンク機構に近い仕組みを独自に提供することになっている。

このような作業の依存性はあるが、W3Cが全体としてWWWのコンテンツのための様々なマークアップ言語スイートを作成しつつあることには留意しておくべきだろう。図2に示すように、WWWのコンテンツを記述するためのXHTMLを中心に、同期プレゼンテーション記述のSMIL、ベクトルグラフィックス記述のSVG、数学記号記述のMathML、文書スタイルのためのCSSやXSL、メタデータ記述のためのRDFが現在開発中である。これらの技術は、それぞれが個別に使用されるというよりは、相互に必要な時に必要な機能を融通しながら、いくつかの技術の組み合わせによって(例えば図2の破線部分)、必要な機能をモジュールとして取り込みつつ、コンテンツを記述するという方向になるものと思われる。


[図2 W3C技術の関連]

 
SMIL Bostonは、SMIL 1.0に続くもの位置付けられはするが、これは単に SMIL 1.0で不足していた機能を追加するというものではなく、WWWがマルチメディアプレゼンテーションそのものになった時に、基本となるマークアップ言語技術を提供するものである。HTMLの一部でマルチメディア機能が動作するのではなく、HTMLそのものが時間軸に沿って動作するマルチメディアプレゼンテーションになった時に、WWWの記述を担うのは、XHTML x.0ではなく、SMIL x.0であるかもしれない。SMILの次期バージョンは、現行のSMILのように専用プレーヤで再生するようなものではなく、WWWブラウザと統合される方向に進んでいくだろう。その意味では、SMILの影響力は、単にいまのSMILがもつ影響力以上に大きくなると言える。
 
6. おわりに
SMIL Bostonの目的の一つに、「デジタルテレビへの応用」があった。デジタルテレビが目指す、映像、静止画、文字放送、データ放送などとの統合は、SMILが提供するプレゼンテーションの発想と非常に近い。とはいえ現時点のSMILは、静的なWWWページに時間的プレゼンテーションの要素を追加するためのものという性格が強く、いずれどこかで合流すると言われるWWWのマルチメディアとテレビという二つの流れの合流点は、いまだ明確には見えてこない。

その一方で、W3CのTelevision and the Web Interest Group(IG)の活動については注目する必要がある。このIGの活動期間は、1999年9月で終了しているが、2000年12月には日本でもBSデジタル放送が開始されるスケジュールがたっており、テレビとインターネットの関わりはますます近いものとなることが期待される。そのような文脈では、このIGの活動は拡大することはあっても、縮小することはないものと考えられる。今後のW3Cの動きに注目したい。
 
 上村 圭介(かみむらけいすけ)
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター研究員
W3C SYMM WGメンバ