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wwvi - March 1, 2000
政策提言 インターネット時代にふさわしいデジタル放送を
March 1, 2000 [ wwvi ]
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インターネット革命は、映像の世界にも訪れようとしている。光通信技術の驚異的な発達は、1本の光ファイバーで6.4テラビット/秒(テレビ100万チャンネル分)もの帯域を実現し、ビデオをIP(Internet Protocol) で送ることも技術的には可能になった。しかし加入者線はいまだに数十kbpsのままで、この「最後の1マイル」がボトルネックとなって、広帯域インターネットのサービスは実現していない。これを実現するには、有線・無線を含めた多様な広帯域アクセスの確保が必要である。
他方、インターネット革命と前後して英国と米国で始まった「デジタル放送」は、デジタル化のメリットがはっきりせず、失敗に終わった。日本でも今年末から放送衛星(BS)によるデジタル放送が始まり、2003年からは地上波でも始まる予定だが、巨額の設備投資負担が放送局の経営を圧迫するため、計画は難航している。また「データ放送」の方式はインターネットと相互運用性がなく、このままではビジネスとしての採算性は疑わしい。
この二つの隘路を解決し、後発の利点を生かして電波を効率的に利用する手段として、われわれはデータ放送でIPをサポートすることを提案する。インフラを世界共通のIPに統一し、コンテンツはこれと完全に切り離して新規参入を促進すれば、全世界からベンチャー企業などの新しい事業者が参入でき、情報通信における日米格差を逆転することも可能である。
現在の日本経済の苦境を打開するには、従来の既存業者保護の行政を新規参入の奨励へと根本的に転換する必要がある。成熟産業である放送のインフラと成長分野である広帯域インターネットを一体化することは、情報通信産業、ひいては経済全体の活性化に寄与するであろう。また、これは既存の放送局にとっても、放送産業よりもはるかに大きなインターネット市場に参入し、「ドットコム・カンパニー」に変身するチャンスとなろう。
現在、計画されているBSデータ放送の規格では、IPやHTTP(Hypertext Transport Protocol)がサポートされていないため、インターネットと接続できない。また、そのマークアップ言語であるBMLも、タグや文字コードなどがインターネットの標準とは異なるため、HTML(Hypertext Markup Language)を表示できない。全世界のメディアがインターネットに統合される時代に、WWW(World Wide Web)を見ることさえできないメディアがビジネスとして成功するとは考えられない。これはテレビの世界にとどまらず、日本の電子商取引の発展にとっても大きな障害となろう。BS/CSデータ放送でIPやHTMLをサポートするよう方式を変更すべきである。
通信衛星では、コンテンツを出す「委託放送事業者」とインフラを持つ「受託放送事業者」は法的に分離されており、放送衛星でもビジネス上の配慮から同じ方式がとられようとしている。地上波でも、同様に「アンバンドリング」を行い、インフラを持たない新しい業者の参入によって放送の世界に競争を導入すべきである(林・鬼木)。なお当面は会計を分離すれば、両者の兼営を認めてもよい。コンテンツの供給は電波に限らず、インターネットなど他のメディアを経由して配信されることも認めるべきである。送り手と受け手がそれぞれ最も効率のよい手段を選べばよいのである。
デジタル地上波を「あまねく普及」させる義務をすべての放送局に負わせることは、コスト面から考えるとほとんど不可能である。いわゆるユニバーサル・サービス(アクセス)の役割は衛星放送にゆだねることも考慮すべきである。
地上デジタル放送の「チャンネル・プラン」は、業者の反対で難航している。これは、既得権を温存したまま「護送船団方式」によってデジタル化を行おうとしているためである。テレビの世界に既存の放送局以外の業種からの新規参入を促進し、電波を効率的に利用するには、電波法を改正し、オークションによって地上デジタル放送のための新規周波数を割り当て、その譲渡も認めるべきである。ただし、周波数に私有財産的な排他的永久使用権が設定されるのは望ましくないので、入札・譲渡の対象は期限つきの使用権とすべきである。この場合の落札者や被譲渡者は「受託放送事業者」に準ずるが、通常の無線通信事業者と同じ扱いにすべきである。無線通信への外資規制も、相互主義の原則にもとづいて撤廃することが望ましい。
また一部の大企業による電波の独占を防ぐためには、米国の例にならって非営利組織などに対するオークション上の別枠を設けることも一案である。現在の地上アナログ放送は、当分の間は存続し、視聴者数が大幅に減少したときは免許の更新時にその可否を検討することが望ましい。
BS・地上デジタルで一律に約23Mbpsもの帯域を放送局に割り当てるのは、HDTV(高精細度テレビ)を前提とするものだが、これは携帯端末などメディアの多様化している時代に逆行する。21世紀のメディアにとって重要なのは、どんな端末とでもデータ交換できるスケーラビリティである。したがって帯域の割当も数十kbps単位とし、どれだけ帯域を取得して何に使うかは各事業者の自由とすべきである。また本放送とデータ放送の割当も廃止し、データ放送で動画を送ることも禁止すべきではない。これによって従来のテレビ映像だけでなく、WWW上のストリームもデータ放送で流すことができ、コンテンツの供給源を全世界に求めることができる。
デジタル・ラジオ放送の電波を使って携帯端末用のテレビ放送をすることも禁止すべきではない。なおITU(国際通信連合)でUHF帯が放送用と定められているのは、米国でこの帯域がインターネットに利用され始めていることなどから考えても、再検討すべきである。
現在の「委託放送事業者」は、郵政省の「認定」によって事実上の認可制になっている。このような制度はインターネットの世界にはなじまないし、海外から直接コンテンツを供給することができないなど、新規参入を阻害する。このような制度は廃止し、海外も含めてコンテンツ事業者への参入を自由化すべきである。現在の放送法に定める政治的中立や不偏不党などの原則は、帯域が稀少な時代の遺物である。無限のチャンネルが利用可能になるインターネット時代には、多様な言論が互いに競うことによってバランスが実現されることが望ましい。「番組編集準則」は廃止し、幼児・少年の保護や文化・学術の振興など、コンテンツ自体の性格にかかわる規制については、出版など他のメディアと同様に別の政策によって行うべきである。