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kumon_jyouhou_kindaibunmei - December 1, 2000

情報化と近代文明8

December 1, 2000 [ kumon_jyouhou_kindaibunmei ] このエントリーをはてなブックマークに追加

公文俊平(所長)

第4章 P2Pへの流れ

ナプスター現象とP2P

  2000年も終わりに近づいたいま、振り返ってみればザ・ネットの世界での今年最大の話題は、“ピアツーピア(P2P)”だったといってよさそうだ。1

 それはまず、P2P型のファイル交換アプリケーション、ナプスターの爆発的普及がもたらした“ナプスター現象”の中で人口に膾炙し、米国レコード産業協会に代表される既存のコンテント流通業界にとっての一大脅威とみなされた。なにしろ、19歳の大学生がコンピュータのプログラミングを学び始めて最初に書いたプログラムが、1999年の8月に配布が始まったかと思うと、6ヶ月で900万人、1年と少しで3800万人がその登録ユーザーとなるという、コンピューティング史上最も急速な普及ぶりを示したのである。2 とりわけ、多くの学生たちが競ってナプスターを使い始めた大学のキャンパス・ネットワークでは、あっという間にトラフィックの大半がナプスターによる音楽ファイルの交換で占められ、大混雑が発生する騒ぎとなった。そこで米国のレコード産業協会やメタリカなど一部のバンドは、ナプスターの使用禁止を各大学に要求すると同時に、訴訟その他の手段を使ってナプスター潰しに狂奔した。3

 しかし、訴訟には勝った 4 ものの、さらに、よりP2P型の性格を強化して中央サーバの仲介を不必要にしたヌーテラや、それと同工異曲のアプリケーションが多数登場するにおよんで、その押さえ込みは事実上不可能なことがわかり5、そこからむしろ、P2Pを新しいビジネス・モデルとして利用していく可能性の追求へと、関心が転換した。とりわけ、この10月、ドイツのメディア巨人バーテルスマンが、それまでの姿勢を180度変更したことが、大きな影響を与えた。同社は、ナプスターは未来の音楽産業にとって重要かつエキサイティングな新ビジネス・モデルの基礎を作ったと評価し、レコード業界とはたもとを分かち、ナプスター社と戦略的提携をして、商用化可能な、安全な会員制ファイル交換システムの開発用に資金貸し付けを行うことを決定した。そして、それができれば訴訟は取り下げるとともに、自社のカタログをそこに載せると発表して、Warner Music Group、EMI、Sony、およびUniversalなどの各社にも参加を呼びかけたのである。6

 ナプスターのようなP2P型のアプリケーションが秘めている巨大な可能性に注目したのはビジネス界だけではない。科学者からの関心も、いちはやく寄せられた。たとえば、ヒトゲノム解析に携わっているニューヨークのコールド・スプリング・ハーバー研究所(http://www.cshl.org/)のリンカーン・スタイン生物情報科学準教授は、ナプスターの技術を、同研究所が構築しようとしている解析結果の注釈システムに応用できないかと考えている。7

 そうしたこともあって、今年の後半には、ナプスターをその典型的例とするP2Pコンピューティングのアイデアが、インターネット・バブル崩壊の後遺症に苦しむ情報通信産業にとっての“今年最大の技術的熱狂”の対象となるにいたった。インテル・キャピタル社の調べによれば、多くのドットコムが没落する一方で、P2P関連のスタートアップだけは、80社以上が新たに誕生しており、投資家の関心も高まる一方だという。ザ・ネットの世界の代表的な情報誌『レッド・ヘリング』は、12月号のカバー・ストーリーで、「P2Pは成長できるか」という表題の下に、インフラサーチというP2P型の検索エンジンを開発した3人の若者の物語を、大きく報道した。8

ピアツーピア(P2P)・システムのコンセプト

 ここで、ピアツーピアないしピアツーピア・システムというコンセプトの意味を、あらためて確認しておこう。「対等の仲間同士の」という意味合いをもつこのコンセプトは、コンピューティングの世界では、さまざまなコンピュータを相互に連結する場合の、コンピュータ間の役割分担のモデルの一つを意味していた。すなわち、大型機とそのダム(dumb)端末や、サーバとクライアントといった階層的な役割分担とは異なる、互いに対等な立場で連結されて情報処理や通信を行い合うようなコンピューティングのモデル(P2Pコンピューティング)を意味していた。たとえば、コンピュータ・ネットワーク上の各ノードにおいて、アプリケーションのクライアント部とサーバ部の両方を起動させ、ノード間で対等な処理や通信を行うといった仕方である。9

 パソコンやワークステーションによるLANの構築が普及する時代になると、それは、LANの構築方式の一つとして、特定のサーバを置かずにコンピュータ同士を直接接続して、ネットワークを構成する総てのコンピュータをほぼ対等に扱う方式(P2Pネットワーキング)を意味する言葉となった。言い換えれば、ネットワークに接続されているマシンが、サーバにもクライアントにもなれるようなLANの作り方を指すのである。その場合には、ネットワーク上でのサービスにはそれを提供する側と受ける側の区別があっても、各マシンの役割は固定せずに状況に応じて変化させるのである。10

 インターネットの時代になると、このコンセプトは、ほぼ対等な規模やトラフィックをもつインターネット・サービス・プロバイダ(ISP)相互間の、無償相互接続方式(P2P接続、あるいはピアリング)という意味で広く用いられるようになった。さらに、上述したようなナプスター(Napster)やヌーテラ (Gnutella) のような、コンピュータ間でのファイルの直接交換を可能にするアプリケーションが登場するにおよんで、このコンセプトは一気に時代の寵児となった。最近では、後述するグルーブ (Groove) やオープンコラ (openCOLA) のように、かつての“グループウェア”に対して“ピアウェア”を自称するアプリケーション(P2Pアプリケーション)あるいはプラットフォーム(P2Pプラットフォーム)も出現するようになっている。

 しかし、ここであらためて反省してみるならば、そもそも20世紀にコミュニケーションの二つの主要方式とみなされるようになった、新たに登場した“マス・コミュニケーション”と在来型の“パーソナル・コミュニケーション”のうち、後者、すなわち個人的な会話や手紙のやりとり、あるいは電話や電子メールのようなコミュニケーションは、コミュニケーションのあり方自体としてはピアツーピア型(P2Pコミュニケーション)だといってよいだろう。ただし、これまでの近代社会では、それを支援・実現するためのシステムとしては、集中階層型の郵便局や電話、あるいはメール・サーバのようなインフラが不可欠とされていた。ところがここにきて、インフラのレベルでも、後述するカナダのCANARIE によるCA*NET4のような、ピアツーピア型の通信インフラ(ピアツーピア・インフラ)が出現する状況が生まれてきた。こうして“P2P”あるいは“P2Pコンピューティング”は、インフラからプラットフォーム、さらにはアプリケーションのすべてのレイヤーにわたって、P2P型のコミュニケーションやそれを基盤とするコラボレーションを支援・実現するための、一貫したシステム・コンセプトとなる勢いを示すにいたったのである。

 インテル社CTOのパトリック・ゲルシンガーは、この8月に開催された Intel Developer Forumでの講演の中で、ナプスターやそれに類似のピアツーピア・ネットワーキング技術を具体化したプログラムは、最初のウェブ・ブラウザと同じくらい大きくインターネットを変貌させるだろうと指摘した。それは中央集中型のサーバを不必要にすることで、現在のコンピューティングのあり方を一変させ、次世代のコンピューティングに歩み入らせる革命なのだから、コンピュータ業界は互いに共働してそのための標準を固める必要があるという。11

 ゲルシンガーによれば、それが可能にするのはファイル交換だけではない。たとえば、現在、SETI@home 12 のスクリーン・セーバーで行われているような、何千台ものコンピュータの間での共働作業が可能になる。とはいえ、P2Pがどのようなアプリケーションを今後生み出していくかは、まだ分からない。それはちょうど、モザイクが生み出されたときにアマゾン・コムやイーベイの可能性は想像もできなかったのと同様だが、ともかく無限の可能性がある。そこでインテル社は最近、IBMやHP、さらにその他スタートアップ企業、計19社の参加を募って、P2P推進のためのワーキング・グループwww.peer-to-peerwg.orgを結成した。マイクロソフトも加入を考慮中だそうである。

P2Pシステムの長所と短所

 システムとしてはまだ揺籃期にあるといわざるをえないP2Pシステムだが、ここでその長所と短所をとりあえずまとめてみよう。

 まず、そのコンピュータ・ネットワークとしての長所だが、それはなによりも、ネットワークの設計が容易で、導入コストも安い点に求められよう。しかもネットワーク全体としては強靱で、その一部が故障しても全体のダウンに容易にはつながらない点は、集中階層型のネットワークに比べると極めて魅力的である。そればかりか、設計の仕方によっては、自己治癒能力さえネットワークの中に組み込むことも可能かもしれない。13

 さらに、システム全体としてはセンターをもたず、ユーザーにとっての自由度が高く、システム内の資源を互いに利用しあいながら、さまざまな共働活動を各人が主体的に展開することを可能にしているという意味では、“情報化”時代の自立・分散・協調の流れにぴったり合致しているという利点もある。

 他方、その短所としては、少なくとも今の段階では、いったいそれに何がどこまでできるのかが、そもそもよく分かっていないという点を、まず挙げざるを得ないだろう。その結果、過大な期待が生まれる一方では、軽視する傾向もまた生まれやすい。

 いずれにせよ、現時点では、まだそれほど高度あるいは複雑な仕事ができないために、ネットワークとしての機能は低い。ファイルの交換にしても、そもそもその検索の仕組み自体、極めて原始的なものにとどまっている。この種のシステムは、その規模が拡大するとたちまち機能不全に陥る危険が、極めて大きいのである。また、全体の管理者(監視や規制の主体)がいないことは、システムのセキュリティにとっての脅威となりかねない。部分が主体的(?)に行う犯罪や破壊活動も、防止や摘発が困難なのである。つまり、P2Pシステムは、その効率的・建設的な運用の促進と、破壊的な行動の防止の両面において、ガバナンスの問題に最初から直面していると言うことができるだろう。そうだとすれば、P2Pシステムの利用可能性は、少なくとも当面、小集団や地域コミュニティのような、比較的小さくて狭い範囲に限定されている、あるいはその範囲であれば有望なシステムとなりうる期待がもてる、ということかもしれない。

 このように見てくると、P2Pシステムの普及を支える技術は、インターネットの世界におけるクレイトン・クリステンセンのいう“破壊技術”、すなわち既存の技術に比べるととくに複雑でも高度でもないが、既存の技術が満たし得なかった新しい市場ニーズに応えると同時に、急速な改善を実現していく潜在的可能性をもった技術群ではないかという思いを禁じ得ない。14

続々と登場する新アプリケーション群

 ナプスターの登場以来まだ1年と数ヶ月が経過したにすぎない現在、ナプスターのクローン群とでもいうべきアプリケーションを含めて、すでに多数かつ多彩なP2Pアプリケーションが出現していて、その分類や解説も発表されている。15 ここでは、比較的最近のものいくつかについて、簡単な紹介をするにとどめよう。

■ openCOLAネットワーク:これは、オープンコラ社が提唱している、P2Pコンピューティング環境、すなわち同社のいう真の共働的コンピューティング環境、のプラットフォームである。同社はすでに、このネットワークを構成する基本要素である、クライアント・サーバ両機能を果たす“クラーバー (clerver)”用の、ソフトウェア開発キットを発売している。

 openCOLAネットワークの特徴は、ファイル検索にさいして、半自動的なエージェントの働きに人間が介在することを可能にしている点にあり、その上でのアプリケーション群の中核に置かれているのが、インテリジェント・エージェント技術を具体化した検索エンジンのopenCOLAである。ユーザーは、検索を実行するにさいしては、自分の欲しいファイルや文書の特徴を記述するだけでよい。そして、検索結果が気に入ったかどうかをフィードバックとしてopenCOLAに教えることを通じて、このエンジンを訓練して性能を向上させていけるのである。16

■ モジョネーション:これは、オートノマス・ゾーン・インダストリーズ社が開発したファイル交換用ソフトウェアで、ナプスターにイーベイを組み合わせたような特徴をもっている。17 つまり同社は、ユーザー、サーバ、サーチエンジンの間に、史上初のファイル共有経済システムを創設しようとしている。この経済システムでは、ファイルの送り手と受け手が各々の取引において合意価格を設定でき、支払いには“モジョ・トークン”と呼ばれる電子的代替通貨によるマイクロペイメント方式が用いられる。それは、おびただしい数の参加者が、そこで銘々の目的を果たすことができる“アリの共同体”のようなものだともいう。ユーザーがモジョ・トークンを稼ぐには、自分の余分な帯域幅やディスク容量を売ってサーバとして機能させたり、また他のユーザーがトークンを支払ってくれそうな独自のサービスを作り出すなどの方法がある。

 こうした試みを既存の企業のビジネスにとっての脅威と見なす向きもあるが、同社自身は、ダウンロードに対して自発的に支払いを行うことができるというこのシステムの特徴を生かして、ハリウッドと協力したいと考えている。あるいは、もしソニーの社長がわれわれのところへやって来たら、「企業生命を賭けてヌーテラと闘うか、もしくはわれわれと一緒になって成功を手に入れるかだ」と言ってやるともいう。

 モジョネーションの現在の開発状況は、試作品と最終製品の間という段階だが、完成すれば、それは、ナプスターやヌーテラのもつ使いやすさと検索能力に、フリーネットのような分散型サーバ・ネットワークを兼ね備えたものとなるだろう。フリーネットのサーバにアップロードされたファイルは、ユーザーが回線を切断した後もオンライン上に残るものの、フリーネットには検索やマイクロペイメントに対応していないという弱点がある。18

■ ライトシェア:これはカリフォルニアのスタートアップ企業ライトシェア社が計画しているサービスで、ナプスターやヌーテラの普及が生みだした大規模なファイル交換コミュニティを、イーベイやアマゾン・コムのような企業の中央サーバを経由せずに、個々のユーザーが、デジタル製品を直接に販売することを可能にするタイプの電子商取引用の、エンジンとして活用しようというものである。

 ライトシェアのシステムにあっては、同社のウェブ・サイトがそれを利用して商取引を行おうとする人々のための仲介役の役割を果たす。しかし、そこには実際に取引されるデジタル製品は入っていない。ナプスターのサーバと同様、同社のコンピュータの役割はユーザー間の直接交換のプロセスを促進することにとどまる。

 この種のシステムがP2P型電子商取引のプラットフォームとしてどこまで有効に機能しうるかについては、疑念を表明するアナリストもいる。たとえば、ゴメスアドバイザーズの電子商取引アナリスト、アラン・アルパーは「いいところを突いているが危ない橋をわたるような面もある。詐欺と海賊行為のパンドラの箱を開ける可能性があるように見える」と述べているという。また現にそれによって利益をあげた人はどこにもいないという意味でも、P2Pのビジネス・モデルがビジネス自体としてどこまでの発展可能性があるかは、まったくの未知数である。しかし、多数の投資家や企業が、それに急速に注目し始めていることは事実である。19

■ グルーブ:これは、ロータス・ノーツの開発者として有名なレイ・オッジーが3年かけて開発した「サーバなしのノーツ」、すなわちP2P型共働アプリケーションのためのプラットフォームというか一種のOSであって、それにはトランシーバーと呼ばれる基本アプリケーションが連携している。オッジーはこの10月に、グルーブ・ネットワークスという会社を立ち上げた。

 グルーブが広く普及すれば、人々の作業環境は劇的に変わるだろう。なぜならそれは、管理業務をほとんど必要とせず、中央サーバも無用で、しかも多数のユーザーの間の真の共働作業を可能にしてくれるからだ。英国の『エコノミスト』誌は、ナプスターをモザイクにたとえるアナリストたちは、やがて、グルーブをネットスケープにたとえるようになるだろうと予想している。同誌によれば、トランシーバーは、ネットスケープのブラウザを想起させる。それが、音声と文書での通信からファイルの交換、文書の編集のような共働作業の支援にいたる、小グループが相互作用するのに必要なあらゆるツールを含んでいるからである。しかも、そうした共働作業を遂行するために、ユーザーたちは、通有される“空間”を創り出して、そこでビジネスを営んだり個人的な会話を行ったりする。そのさいに、この空間の中で生み出されたすべての情報は、各人のコンピュータに蓄えられる。その一部が変化すれば、その変化は他のコンピュータにも反映される。誰かがオフラインになれば、再度接続したときに、内容の更新がなされるのである。20

 ある筆者によれば、オッジー自身はグルーブのことを、グループウェア発展の次の段階にあたる“ピアウェア”だとしているという。彼は、それがすみやかに普及して、電子メールおよびブラウザとならんで、誰でもが使う、三つの主要なツールの一つとしての地位を占めるようになることを期待している。なにしろトランシーバーは、一つのデバイスにインストールしてさえおけば、それをサポートするあらゆるデバイスから自分のアカウントにアクセスできるばかりか、そのアカウントには、多数の個人人格、家族人格、趣味人格が含まれていて、それぞれの人格がグルーブに接続するそれぞれのデバイス上で行うすべての活動は、他の通有空間で行われた活動と、必要に応じて同期されうるのである。

 グルーブのもう一つの特色は、積極的に中央サーバを介することで、多くのP2Pアプリケーションに内在するボトルネックを迂回可能にしている点にある。実際、ヌーテラのように、互いにつながっているコンピュータのそれぞれを通して、情報を押し出していくやり方は、ネットワークが少し大きくなると煩雑極まるものになるだろう。その意味では、ナプスターのような情報のインテリジェント・ルーティングには、それなりの長所もある。後はユーザー自身が使い方を決めていけばよいというわけである。21

■ インフラサーチ:これは、23歳の若者ジーン・カンが二人の仲間と共に開発した、ヌーテラ・ベースの検索エンジンで、互いにつながっているコンピュータ同士の中の情報のリアルタイム検索ができる。通常の検索エンジンから得られる情報は、少なくとも24時間、なかには何週間、何ヶ月も前のもので、そのサイトにアクセスしてみるとすでにページがなくなっていたという口惜しい経験は、多くのユーザーがしているところである。

 カンはもともと、ややシニカルな物の見方をする傾向があって、“P2P”よりはむしろ“分散コンピューティング”という表現の方を好んでいたが、彼らのプロジェクトがマーク・アンドリーセンの注目を引いて、500万ドルの出資を受け、会社の設立に踏み切ったころから、姿勢も変わってきた。今のカンは、「ウェブがインターネットの電信だったとすれば、ピアツーピアは電話のようなもの」であって、そうだとすれば「わが社は次のAT&Tになりたい」と言い始めている。あるいはまた、同社は「ほとんど無限の広がりをもつ“情報発見”市場の開拓をめざしている」とも言う。その意味は、電子商取引は売り手や買い手を発見しようとするし、出版は読者や出版社を発見しようとするのだから、すべては“情報発見”問題につながっている。だから、この市場は無限の広がりをもつというところにある。

 同社の現在のビジネス・プランをその論理的極限にまで押し進めれば、インフラサーチ社はインターネット全体をP2Pネットワークに作りかえることになるだろう。実際、同社は年内に、どんなコンピュータでもP2Pネットワークにつなぐための無料のソフトウェアを公開する予定だ。このネットワークの中を見るにはウェブのサーバがあればよく、それで同社のサイトに入り、そこからAPの最新ニュースやバーンズ・アンド・ノーブルの全書籍カタログ、現在のナスダック株価情報などをすべて無料で検索できる。その場合、同社の収入は、ウェブ・サイト側からの支払いによることが期待されている。ちょうど、企業へのフリーダイヤル・サービスが通話料をその企業から貰うようなものである。22

P2Pインフラの構築

 P2Pに向かう流れは、プラットフォームやアプリケーションに及んでいるだけではない。情報社会の根幹をなす社会資本としての情報通信インフラの構築や運営の仕組みにも、その流れは及びつつある。

 その最先端に位置しているのが、カナダが官民一体のプロジェクトとして推進しているCANARIEのナショナル・プロジェクト、およびそれと連動した“コンドミニアム・ファイバ”に始まる各地域のプロジェクトである。23 カナダが推進している情報通信インフラの新しい形は、各地域での高速広帯域のギガビット・イーサーネットをその中核としている。各地方政府は、それが官民のユーザーのイニシアティブの下に構築・運営され、その構築や保守のサービスを、ベル・カナダ以下の各種の通信・ネットワーク事業者がオープンな競争的環境の中で提供しうるような誘因を与えようとしている。たとえば、農村部での広帯域ネットワークの構築に対して地方政府が補助金を出したり、十分なユーザーが現れない場合には、当面、ネットワークの最終テナントとなることの保証を通信・ネットワーク事業者に対して与えるなどである。新しい全光情報通信インフラの構築は、これまでのところ、ユーザーの共働体(コンドミニアム)が、光ファイバ敷設事業者の提供する“ダークファイバ”の使用権を借り受けて行う形で推進されてきた。しかし、高密度波長多重化通信が現実化するにつれて、物理的なファイバよりも、その上の“波長(λ)”をユーザーが借りて使い、波長間の相互接続をユーザー間で交渉して実現する方向への転換が図られつつある。それは、多様な通信サービスを一体的に処理するための手段としてIPプロトコルは残すにしても、パケット交換方式は捨てて、波長間ルーティングの方向に向かう動きでもある。単一の波長に大量のデータを流し込むのではなく、むしろ個々の波長に詰め込むデータ量は少ないままで、一芯の光ファイバに載せることのできる波長の数を増やそうというのである。確かに、個々のユーザーが特定の波長を(あたかも電話番号を占有するように)占有できるとすれば、個々の波長に対するトラフィックの需要は、それほど厖大なものにはならないと思われる。24

 さらに彼らは、全国幹線部分については、これまではスプリントやUUNetのような大規模通信事業者が寡占的に支配していた“インターネット・クラウド”の部分を、“光グリッド”として分断し、それをユーザーのコンドミニアムの所有に委ねた上で、グリッド間のP2P接続を図ろうとしている。

 無線インターネットは、光ファイバによる有線インターネットの補完として、強力な役割を発揮しうることが期待される。だがそのようなシステムは、現在の携帯電話の第二世代から第三世代のシステム上にかぶせられた、パケット通信の“モバイル・インターネット”への進化線上ではなしに、今はもっぱら固定体通信にしか応用できない“無線LAN”の進化線上に出現するものと考えられる。25 無線LANがモバイル・デバイスをも一体的に取り込めるようになったときこそ、P2P型の“光と無線の超広帯域ネットワーク”が、情報社会の通信インフラとしての地位を確立するときであろう。

 これに対し、スイス人たちは、各国の研究機関と共働して、10年がかりで、究極のP2P型広帯域無線通信システムとでもいうべき“ターミノード (terminode)”のシステムを開発しようとしている。これは、個々のデバイスがネットワークの端末(terminal)としてと同時にノード(node)としても機能しうるために、別途基地局とか幹線用光ファイバ・ネットワークのような“通信インフラ”を必要としない、自己組織型のネットワークである。しかし、このターミノードについては、別途稿をあらためて詳しく検討することにして、ここでは一言言及しておくだけにとどめよう。26

ビジネスでのP2Pへの流れ

 P2P型のアプリケーションやプラットフォームの販売を、ビジネスとして展開しようとする試みに投資家たちの関心が高まる一方では、ビジネスそのもののあり方が、それと相まって、ビジネスのP2P化(P2P型ビジネス)とでも呼びうる方向に変化しつつあるように思われる。

 情報通信革命に伴って出現してくる新情報通信産業の組織や企業の形態が、情報通信のレイヤー別の分業と共働を前提とするネットワーク型のものに変わりつつあるという指摘は、すでに多くの人によってなされている。27また、すでに日本のミスミなどに先駆的な試みがみられたところだが、最近のデル・コンピュータの試みなどにも、メーカーがインターネットを使うことで消費者への直接販売が可能になったために、従来の商人の役割が“中抜き”されてしまう、新しいビジネス・モデルの出現が看取できる。ITジャーナリストの小池良次氏はさらに、いわゆる“取引市場(trade exchange)”系のB2Bでは、販売側と購入側が、ウェブで取引情報を自由に交換し合う電子取引市場を形成して、“情報の流動化”を達成すると同時に、それを通じて公平で迅速な新しい取引関係を生みだしている点に注目して、次のように述べている。

 従来、こうした付け合わせ取引はブローカーとか専門商社が取り扱っており、相手によって値段を変えたり、品薄になるのを待って高く商品を売りつけるといった不透明な取引が横行していた。これは取引内容を商社やブローカーだけが握っており、販売側も購入側も正確な取引情報を得られなかったために発生する。

 ところが取引市場型では、刻々と変わる商品価格を誰でも公平に見ることができる。つまり、情報を流動化させて迅速かつ公平な取引を実現させている。この「情報の流動化」こそが取引市場型の基本と言える。この特徴のおかげで売り手も買い手も取引内容が明確に分かるため、取引における満足度が高い。また、運営側は取引手数料という形式で利益をあげるため信用度も増す。28

このような“情報の流動化”や“取引市場”系B2Bの発生は、われわれの文脈でいえば、まさしくビジネス・モデルそのもののP2P化の一層の進展に他ならないだろう。

P2P型地方通貨

近年、世界の各地で、その通用範囲を一定の地域コミュニティに限定されたタイプの通貨(LETS=Local Exchange Trading System)を発行する試みが相次いでおり、日本でも通産省関東通商産業局の加藤敏春氏が提唱する“エコマネー”を初めとして、いくつものこの種の試みがみられる。

 そうしたLETSの中でもっともラディカルな試みは、個人にその発行権を与えようとするもので、それを推進しているあるグループは「オープン・マネー宣言」なるものを発表している。曰く、「貨幣は情報に過ぎないので、われわれは自分でそれを発行して在来型の貨幣を補完することができる。これはデザインの問題なのだ。」29 つまり、このグループによれば、現在の貨幣には客観的な証拠によって裏付けうるような問題があるが、それは貨幣システムの適切なデザインによって解決可能であり、この宣言は、同グループがそれを解決する意図をもっていることの表明に他ならない。

 それにしても、一人一人の個人に貨幣の発行権を付与するのは、いかにもラディカルだと思わざるを得ない。それが実現でき有効に機能するとしたら、それこそ究極のP2P型貨幣の誕生を意味するだろう。だが、そこまでいかなくても、かりにそれぞれのコミュニティで、その地域内で通用する補助的な貨幣が発行されていて、それらが全国的あるいは世界的にではなしに、やはりある限られた範囲内で、たとえば隣接するいくつかのコミュニティ間で一定の交換可能性を与えられているとすれば、それらもまたP2P型貨幣と呼ぶことがふさわしいだろう。

P2P型政治

 P2Pへの流れは人々の政治活動の中にも、いまやさまざまな形で現れつつある。いわゆる“コンシューマー・アクティビズム”や、インターネットを利用して大企業への批判や要求をぶっつけようとする“サイバー・アクティビズム”の台頭は、互いに対等な立場に立つ人々が直接連絡をとりあって意見を交換し、取るべき行動を決めて実行しているとすれば、まさにP2P型の活動だということができよう。30 日本でも、今年の新潟県や栃木県の知事選挙で発揮された市民パワーは、従来型の“組織選挙”をあっけなくうち破るほどの勢いを見せたが、そこにもP2P型の連携がさまざまな形で生まれていたことは十分に想像できる。こうした流れは、これまでの代表制民主主義の統治モデルをまったく破壊・代替してしまうことはないにしても、少なくともそれと併存し、それを補完するような、“市民応託(civil accountability)”ないし“市民共治(civil governance)”とでも呼ぶことが適切な姿の、“新民主主義”ないし“直接民主主義”的な制度へと成長していく可能性はもっているのではないだろうか。

 この点との関連で興味深いいま一つの動きは、今回の米国大統領選挙にさいして、ごく萌芽的な形にとどまったとはいえ、いくつか出現したと言われるインターネットを利用した州間の票のスワッピングの試みである。この動きについて報道したAPの記事によれば、いくつかのサイトでは、ゴアの支持者と緑の党のネーダーの支持者たちの間で票のやりとりが行われている。すなわち、ゴアが苦戦している州の民主党支持者は、ネーダー支持者の票をもらい、その代わりにブッシュが強い州でのゴア票をネーダーに回そうとしているというのである。それでゴアを勝たせる一方、ネーダー陣営も5%以上の票を得て、2004年の選挙で政府資金がもらえるようにしようというわけだ。人々がこれを、適切なP2Pアプリケーションを使ってP2Pの相互関係の中で実行しているとすれば、それこそ典型的なP2P型選挙の一形態だということができよう。

 APによれば、たとえば、NaderTraderというウェブサイトを運営しているウィスコンシン大学の大学院生Jeff Cardilleは、彼のサイトには37,000人以上の訪問者があったといっているそうだ。ただし、実際にどれだけの票がトレードされたかは不明だが、彼はこうしたやり方が今後さらに広がっていくことを期待しているという。また、ロサンゼルスでは、Jim Codyと Ted Johnsonの2人が VoteSwap2000というサイトを立ち上げて、票の交換に関心のあるゴアとネーダーの支持者たちを自動的にマッチさせられるようにした。すでに1400人の人がこのサービスを求めて登録したという。31

 おそらくこの種の動きはやがて日本にも波及して、総選挙や統一地方選挙での票のスワッピングを引き起こすだろう。これが私人間の約束にとどまっている限り、その違法性を云々することは困難なように思われる。

P2Pのインパクト

 以上見てきたところからも明らかなように、P2Pに向かう潮流は、さまざまな分野に大きなインパクトを及ぼしつつある。

 第一に、それは双方向広帯域通信へのニーズの爆発をもたらした。ナプスターのようなアプリケーションを使って大容量のファイルを交換しようとすれば、インターネットへの広帯域接続が可能になっていなければ話にならない。また、スウェーデンの新興広帯域通信企業B2が経験したように、広帯域通信環境を得たユーザーたちは、当初は一方的にダウンロードしまくるが、やがて自分も積極的にコンテントをアップロードして仲間と分け合おうとする。そうであれば、通信帯域が、ADSLやケーブルモデムのような上り下りが非対称のものであっては困る。むしろHDSLのような対称型のものが求められる。さらに、いつでもファイル交換の要求に応じようとすれば、ダイヤルアップ接続ではなしに常時接続が実現していなくてはならない。だが、とりわけケーブル会社が提供し始めた広帯域通信は、常時接続ではあっても上り下りが非対称であるばかりか、ユーザーが自ら大量の情報の提供者となることは禁止している場合が多い。したがってケーブル会社のシステムは、新しい通信需要には適合しえなくなってしまうのである。

 第二に、人々の情報発信や通有のスタイル自体が変化していく。ウェブのサーバ上にコンテントを載せておいて、そこを訪れた人にダウンロードさせるという方式は、依然としてサーバ/クライアント・モデルに基づいており、十分にP2P型とはいえない。さらに、多数の高機能サーバを設置した巨大なウェブ・サイトを“ポータル”として、人々はまずそこにアクセスしてから自分の必要とするサイトを見つけてそちらに移っていくという情報入手スタイルは、P2P型からはほど遠く、依然としてこれまでのマスメディア型情報発信の尻尾を引きずっている。

 第三に、そうなってくると、人々のワークスタイルやライフスタイルもP2P型に変化していくだろう。かつてビル・ゲイツは、インターネットの普及は“ウェブ・ワークスタイル”や“ウェブ・ライフスタイル”を普及させると論じたが、32

 いまやむしろ“P2Pワークスタイル”や“P2Pライフスタイル”について語ることが、よりふさわしいだろう。それは同時に、人々の日々の活動における積極的・能動的な傾向、つまり“アクティビズム”の増大と、不可分に結びつくだろう。

 第四に、それはビジネス・モデルをも、先に見たような取引情報の積極的な開示や仲介者の“中抜き”を強める方向に変化させていくだろう。 オム・マリクは、そうした傾向を“分散的コンピューティング”に向かう流れという観点から、次のような言葉で要約している。33

 ネットワーク・インフラ自体が分散していって、小さな特定アプリケーション向けの部分に分かれて行くにつれて、巨大なサーバへの依存度は減少する。ソフトウェアもよりインテリジェントになり、特定の仕事用に特化していくだろう。そうなると、個々の企業は自分が必要とする機能だけを購入すればよくなる。さらにより重要なのは、分散コンピューティングのおかげで、われわれがインターネットのもっている潜在能力の多くを自覚しだすことだ。それと共に、インターネットは、これまでのようなウェブのページや電子メールのような文書ベースのネットワークから、情報の特定の諸要素の在処の発見や通有をより効率的に行える、ダイナミックで粒状の(granular)ネットワークへと姿を変えていくだろう。そして最後には、ネットワーク自体がほんとうのコンピュータになるだろう。

 もっともこうした見方に対しては、異論をとなえる人々もいる。たとえば、ゼロックスPARCの研究者たちは、ナプスターが実際に利用されている状況を調査して、その大半(ユーザーの70%)がファイルの一方的なダウンロードにとどまっており、ダウンロードされているファイルの50%は、1%のユーザーによって提供されていることを発見した。彼らの見方では、交換用に供給される情報ファイルは、その供給者が無償奉仕によって生産している“公共財”である。それが対価の支払いもなく、もっぱら一方的に消費され続けるならば、やがてガレット・ハーディンのいう“コモンズ(共有地)の悲劇”34 が発生して、公共財を供給する人はいなくなってしまうだろう。また、少数者だけが情報を提供している場合には、彼らが事実上の中央サーバの役割を果たし、訴訟やサービス・デナイアル型の攻撃に対して脆弱となるばかりか、プライバシーの喪失を招く可能性がでてくる。これは、ヌーテラなどのアプリケーションが、他人の間に“隠れて”コミュニティとしての共通の目標達成――言論の自由、著作権法の改正、個人へのプライバシーの提供等――を追求するためのものである場合には、問題となる特徴である。つまり、この種の情報通有システムは持続可能性をもたない、というのが彼らの結論であった。35

 しかし、このような結論にはかならずしも首肯しがたい。P2P型のファイル交換アプリケーションを通じて交換されている情報ファイルは、決して“公共財”ではない。ましていわんや、販売を前提とした“商品”ではない。それらはむしろ、最初から通有を前提とした“通識”として、一方的に提供されているのである。つまり、その提供者たちは、犯罪者か何かのように多数の人々の間に“隠れる”つもりはなく、むしろ人々に喜んで受け入れてもらえる通識の提供者としての名前を積極的に公開して、自分の“評判”を高めることに関心をもっている人々なのである。その意味では、彼らは、私の言う“智場”における“智のゲーム”のプレイヤーなのである。36

一般 に資本主義的市場においては、通常は買い手の数が売り手の数よりも多いのと同様、智場でも、通識の需要者の方が供給者よりも多いことが普通だろう。しかしその非対称性の程度は、大衆消費市場における寡占的な供給者と大衆的需要者の間の非対称性に比べると、はるかに少ないと思われる。現に、PARCの研究者たちが発見した事実を裏から見れば、ユーザーのうちの30%はなんらかの通識を提供しているのである。また、主要な供給者となっている人々が全ユーザーの1%にも達しているという事実も、智場における供給者/需要者比率は、市場におけるそれよりもずっと高いことを示しているといってよいのではあるまいか。37

結び

 本章で注目したP2Pへの潮流は、これまで縷々論じてきたような、近代化の第三局面への移行としての狭義の“情報化”の進展と、密接不可分な関連をもつ。情報化は、自立・分散・共働型のシステムとしての特徴をもった、“社会システムとしてのネットワーク”38 のいたるところへの出現を引き起こす。人々の間の行為の相互制御、つまり“政治”のあり方としては、近代化初期の“脅迫・強制”や中期の“取引・搾取”にもとづく政治にかわって、“説得・誘導”にもとづく政治が優位を占めるようになる。競争的な社会ゲームとしては、国家をプレイヤーとする“威のゲーム”や企業をプレイヤーとする“富のゲーム”に対して、智業をプレイヤーとする“智のゲーム”が普及するようになる。そうした変化が、P2P型の情報通信インフラやプラットフォーム、あるいはアプリケーションやコンテントの出現と強い整合性をもっていることは明らかである。そしてP2P型の社会的な結びつきは、これまでの公私の二分法のいわば中間に位置するような“共”の原理に立脚する結びつき、あるいは“公私の対立”に代わる“公共私の共働”を理念とする結びつきとして、特徴づけることができるだろう。

 つまり、これからの情報社会は、“共のパラダイム”とでも呼ぶことが適切な、新しい社会的パラダイムに従って構築されていくのではないか。共のパラダイムは、対等な主体間(P2P)の相互理解と信頼、および互酬にもとづく、主体やその活動の間のバランスと相互補完を重視する。とりわけ、情報化が新たに生みだした生活空間であるサイバースペースとの相互補完を実現してくれる、物理的な近縁性にもとづく地域コミュニティの新たな役割を重視する。これからの情報社会にあっては、(再評価され再組織された)地域コミュニティこそが、人々の日常生活のもっとも主要な場となり、そこにおいて人々(情報社会の“智民”たち)は、“共権”としての情報権、“共産”としての社会資本、“共貨”としての地域通貨に支えられた、共働と共治(ガバナンス)の仕組み39を通じて、共生・共創・共愉の生活を享受していくことだろう。(了)

1 それに次ぐ話題としては、インターネットへの“広帯域”アクセスと、“モバイル・インターネット”があげられる。

2 Media Metrixの2000年10月の発表によれば、これは米国でインターネットに接続しているコンピュータの10%にあたる。他方、NetRatingsによれば、英国とドイツの場合は、ナプスターを搭載しているコンピュータの割合は、インターネットに接続しているもののうちの6%強だという。

3 少なからぬ大学は、要求を容れてキャンパスでのナプスターの利用を禁止した。しかし、ペンシルバニア大学は、要求を拒絶した15大学の一つとなった。その手紙の中で、Judith Rosen学長は、「自由な探求と表現の制限に対する懸念の方が、アーティストの知的財産への懸念を上回った」と表明すると同時に、大学は学生に知的財産の適切な利用法を教えるつもりだとも述べた。アーティスト側の弁護士Howard E. Kingは、大学のこの決定に関し、さらなる対話を求める意思を表明したが、クライアントが大学を訴える可能性は否定したという。(筆者のもとに送られてきた電子メールが紹介していた、Philadelphia Inquirer, Sept. 28の記事による。)

4 最初の訴訟に敗れたナプスター社は、この5月、ラップ・シンガーのDr Dreが提出したリストに含まれていた違法行為を行っていた可能性のある20数万人の登録ユーザーを、自社のサーバから抹消することを余儀なくされた。また7月には連邦地裁が、12月に訴えを起こしたレコード産業協会に勝訴の可能性ありという理由で、同社の営業の一時停止命令を出した。(Brad King, "Napster Ordered to Shut Down," Wired News, July 26, 2000. http://www.wired.com/news/print/0,1294,37558,00.html

5 ある筆者は、ヌーテラ型のアプリケーションのインパクトを次のように説明している。

 ナプスターの場合であれば、中央サーバの閉鎖を命令したり、そこに登録しているユーザーに警告を送りつけたりすることはそれほど困難ではない。しかし、AOLのNullsoft unitが開発したヌーテラは、ナプスターのようなハブ・アンド・スポーク型のモデルは採用していないために、どのパソコンもインターネット・アドレスのわかっている他のすべてのパソコンに話しかけることができる。そして、探しているファイルの在処がみつかるまで、つながっているパソコン同士の間で、つぎつぎと探索が連鎖的に続く。そのため、ここには中央の権威なるものは存在しない。したがって訴訟の対象となる単一の主体も存在しないことになる。すでに広く報道されているように、ヌーテラは3月15日にAOLのサーバにポストされた直後に、Time WarnerのCEO Gerald Levinその他の抗議を受けて、サーバから除去された。しかしその間に、ヌーテラのクローンのソースコードは、パブリック・ドメーンに置かれてしまった。だから、誰でもがそれをコンパイルして、他のコンピュータにこっそり広げていくことが可能になった。

 それに加えて、最近ではDSLやケーブルモデムの技術が普及したために、大学キャンパスだけ]でなく、一般市民の間にも、インターネットに常時接続しているコンピュータの数が増え、それらが自分自身のインターネット・サービスやウェブ・サイトを始めることが可能になってきた。そのおのおのが海賊版ファイルをポストしている1000人のDSL加入者の全員を訴えることなど、できはしない。ましていわんや、DSLサービスの販売者を訴えるわけにはいかないのである。(Tiernan Ray, "SMARTMONEY.COM: Stealing the Internet,"Dow Jones, April 26, 2000.)

6 Michael Learmonth, "Let the Music Play: Bertelsmann and Napster Come Together."Oct. 31, 2000 (http://www.thestandard.com/article/display/0,1151,19820,00.html )

7 Kristen Philipkoski, 「遺伝子研究者が『ナップスター』技術の応用を検討」、Wired News, 2000年4月5日(日本語版:高森郁哉/岩坂 彰)。スタイン教授によれば、「大規模なゲノム研究所には、研究データを電子的な手段で公開するためのサーバを構築する資金がある」一方、「小規模の独立した生物学研究所は、そうしたデータを利用する側の立場で、情報をダウンロードしている。」しかし、小規模な研究所は自分たちの研究成果を電子的手段で公開する手段を持っていないので、そこにナプスターやヌーテラのような技術が活躍する余地が生まれる。そこでスタイン教授はいう。「私の希望は、この技術が将来すべての生物学者に利用されることだ。優秀な高校生までもが研究に貢献できるようになるといいのだが。」

8 彼らはマーク・アンドリーセンたちの出資をえて、この9月に新しい企業を立ち上げたが、まだ社名も正式には決まっていない。

9 『マルチメディア・インターネット辞典』による。

10『オンライン・コンピューター用語辞書』およびLAN基礎講座(http://ww2.tiki.ne.jp/~masatsu/lan/lan03.htm) による。

11 Leander Kahney, "Intel Says: Think Like Napster." (SAN JOSE, Calif.) August 24, 2000.

12 Jennifer Pelz, "Together We Search, United We Find," PC World Online. May 11, 1999 (http://www.pcworld.com:80/pcwtoday/article/0,1510,10890,00.html )

13 Tim Andrews and David Tames, "Peer to Peer: A Point of View."Oct. 24 2000. (http://www.viant.com/pages/frame_thought_headline.html )

14 クレイトン・クリステンセン著、伊豆原弓訳、『イノベーションのジレンマ』、翔泳社、2000年、参照。

15上村圭介「ファイル交換ソフトウェアの将来」、『GLOCOM Review』2000年10月号(第57号)(http://www.glocom.ac.jp/odp/library/gr200010.pdf)参照。

16 http://opencola.com/ なお、同社によれば、openCOLAのプロトコルは、電子商取引用としては第三世代のXMLシステム・プロトコルである。第一世代は、既存のEDIのようなシステムを単にXML化しただけだった。第二世代のプロトコルは、ネームスペースを用い、より柔軟になった。そしてこの第三世代では、“COLAスペース”内の任意のオブジェクトが他の任意のオブジェクトに対して正確、かつ簡明に語りかけることが可能になった。したがってそれはいまや、単なる電子商取引という以上の、共働的コンピューティングのためのプロトコルとして機能できるようになったのである。

17 以下の説明は、Declan McCullagh、「『ナップスター』、『グヌーテラ』に対抗する新サービス」、『ホットワイアード』、2000年7月29日号[日本語版:多々良和臣/高橋朋子] (http://www.hotwired.co.jp/news/news/technology/story/20000801302.html )による。

18 フリーネットについては、上村の前掲論文を参照。

19 以上の説明は、John Borland, 「ナップスターのようなファイル交換で電子商取引を」、CNET News、2000年7月20日[日本語版 小山敦史]による。 (http://japan.cnet.com/News/2000/Item/000722-4.html?mn )

20 "Groove: The next Netscape?" The Economist. Nov. 2, 2000. なお、ケビン・ワーバックの下記の解説も参照。Kevin Werbach, "IN THE GROOVE," Newsletter: The Conversation Continues. Nov. 1, 2000. (http://www.futureofsoftware.net/ro0010/ro0010.asp )

21 以上の記述は、Michelle Delio, "Peer-to-Peer Ready to Groove,"Oct. 2000 にもとづいている。(http://www.wired.com/news/business/0,1367,39449,00.html )

22 Justin Hibbard, "Can Peer-to-Peer Grow Up?" Red Herring. Dec. 4, 2000. pp. 86-91による。

23 カナダの試みについての第一次資料としては、CAnet-3-NEWS@canarie.ca , http://www.canet3.net/news/news.htmlを、とくにアルバータ州が推進している“スーパーネット”の構築については、http://www.innovation.gov.ab.ca/supernet/ を参照。

24 George Gilder and Richard Vigilante, "Cao's Law," GTR, October 2000/Vol. V No. 10を参照。

25 Chris Fisher, "Wireless home nets need 802.11a." EE Times. July 28, 2000. (http://www.eetimes.com/story/OEG20000728S002 )

26 ターミノード・プロジェクトの説明としては、さしあたり、J.-P. Hubaux, J.-Y. Le Boudec, S. Giordano, M. Hamdi, "The Terminode Project: Towards Mobile Ad-Hoc WANs", a paper presented at People-Based Networking (i3 Spring Days 2000 Workshop, 1st March 2000, を参照。

27 なかでも、Martin Fransman,"Evolution Of The Telecommunications Industry Into The Internet Age," July 2000, が有益である。 (http://www.TelecomVisions.com/experts/4060.shtml )

28 小池良次、「米国B2Bマーケットの現状(前編)」、2000年9月。 (http://www.ryojikoike.com/data/inet/2000_09/b2b/b2bbdy1.html )

29 open money manifesto. (http://www.gmlets.u-net.com/openmoney/omanifesto.htm )

30 最近の大企業を標的とする消費者アクティビズムの動きについては、Kenneth Brown, "The Tech Industry: The New Target of Consumer Activism." iMP Magazine, October 2000を参照。(http://www.cisp.org/imp/october_2000/10_00brown-insight.htm ) また、サイバー・アクティビズムについては、Allen Hammond, Jonathan Lash, "Cyber-Activism: The Rise of Civil Accountability and Its Consequences for Governance." iMP Magazine, May 2000を参照。 (http://www.cisp.org/imp/may_2000/05_00hammond.htm )

31 "Nader, Gore backers using Web to swap votes," Oct. 2, 2000. The Associated Press http://news.cnet.com/news/0-1005-200-3331166.html?tag=st.ne.1002.thed.ni
32 ビル ゲイツ著、大原進訳、『思考スピードの経営―デジタル経営教本』、日本経済新聞社、1999年。

33 Om Malik, "Top Ten Trends 2001 Trend Number One: Computing," Red Herring. Oct. 4, 2000. pp. 94-105. マリクは、“分散的コンピューティング”は、“P2Pコンピューティング”よりも包括範囲の広いコンセプトだという立場に立っている。すなわちそれは、“P2Pコンピューティング”に加えて、ネットワーク内のコンピューティング資源を共働利用する“グリッド・コンピューティング”と、そうしたコンピューティングのためのインフラとなる“分散的ITインフラ”の三本柱からなるとしている。

34 ガレット・ハーディン、「共有地の悲劇」、松井巻之助訳、『地球に生きる倫理』(佑学社、1975年)に所収。

35 Eyton Adar and Bernardo A. Huberman (Xerox Palo Alto Research Center), "Free Riding on Gnutella." August 2000. (http://www.parc.xerox.com/istl/groups/iea/papers/gnutella/index.html )

36 “智のゲーム”については、公文俊平、『情報文明論』、NTT出版、1994年、第六章を参照。

37 その意味では、P2P的な対等性は、市場との比較で言えば、単純商品生産者たちの相互交換市場において見られる対等性に似ているように思われる。つまりナプスターのようなP2P型情報通有の現状はまだ、通識の主たる提供者とその享受者との間へのより明確な二極分化が起こる以前の状態なのではないか。いずれは智のゲームでも、(おそらく単純商品市場が資本主義的な商品市場に転化していったのと同様に)P2P型の情報交換プラットフォームの上に、より階層的な情報配布のレイヤーが作られていくだろう。ただしその場合でも、コミュニケーションの双方向性がまったく失われることはない。智のゲームの世界にも、多くの“スタートアップ”が絶えず出現するに違いないし、大量の質問や賛辞、あるいは批判などが享受者から投げ返されると思われるからである。

38“社会システムとしてのネットワーク”の概念については、公文俊平、『情報文明論』、NTT出版、1994年、第七章を参照。

39 地域通貨の発行量を地域経済の活性化・発展と関係づける一つの仕組みとして、地域内の社会資本の建設や維持の対価としてそれを発行するという方式が考えられる。すなわち、地方自治体あるいはその委託を受けたNPOが、社会資本(たとえば地域の広帯域通信ネットワーク)の建設計画を作り、その建設に貢献してくれた個人や組織に対して、その対価を新たに発行される地域通貨で支払う。支払いを受けた側は、それを使って、地域の中で自らの必要とする財やサービスを購入する。そうすれば、既発の通貨の価値は、地域内に存在している社会資本の価値によって、担保されることになるだろう。こうした仕組みによって地域が活性化し地域経済が発展すれば、地域通貨と社会資本の両面で、新しい需要が発生するだろう。そこで、新規通貨の発行による新社会資本の建設計画が、立案・実行されることになる。