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2001 - March 1, 2001

『デジタルデバイドとは何かコンセンサスコミュニティをめざして』

March 1, 2001 [ 2001 ] このエントリーをはてなブックマークに追加

著者:木村忠正(東京都立科学技術大学助教授)

2001年3月5日に再び東京都立科学技術大学木村忠正助教授によるIECP読書会があった。

1.狭義と広義のデジタルデバイド

 狭義のデジタルデバイドは「情報ネットワークへのアクセスを持つ・持たないが社会階層とリンクしており、かつその経済的・社会的格差が拡大傾向にあるデバイド」であり、広義には「サービス経済、脱工業化の進展とデジタル経済とが結びつき、産出と分配の変化に伴う新たなデバイド」である。著者は、情報ネットワーク社会の特性をポスト高度消費社会(PACS=Post Advanced Consumer Society)と表現する。先進国では、サービス業が拡大し、パートタイムなど非正規雇用が増加し、若年層の失業率が深刻化した反面、グローバル企業によるM&Aやネットワーク型組織化やベンチャーを生んだ。サービス産業は、1) プロデュース、2) 分配運搬、3) 個人向け、4) 社会的サービスに分類できるが、日本では2) が大きいなど国情によって異なる。

2.サービス経済トリレンマ

 高度消費社会が成熟し、ポスト高度消費社会に移行する過程においては、経済の成長と雇用とがサービス経済に依存しなければならない内在的特性から、「サービス経済トリレンマ」と表現することができる課題に主要産業国は直面している。つまり、「政府財政」「雇用創出」「所得格差」の3つの要素すべてを満たすことは不可能というトリレンマが社会的課題として析出する。これに対して、これまでの産業国の対応は大きく3つに分かれている。即ち、

  1. サービスを市場原理に任せることで財政負担は少なくなるが、所得格差は拡大する米国型ネオ・リベラリズム
  2. 産業別組合が強力で、財政も過度に介入せず、所得格差は拡大しないが、失業率は高いドイツ型キリスト教民主主義
  3. 政府はサービス部門の拡大で雇用を創出し、所得の再分配にも関与するが、財政負担も大きくなる北欧型社会民主主義

の3つの理念型がある。

 この中では、3)の北欧型モデルがトリレンマをうまく克服しているのではないか。北欧での1996年のIT Billでは、政府によるITへのConfidence(信頼)、Competence(能力開発)、Accessibilityの拡大を目標とした。

3.日本社会の抱える構造上の課題

 日本は、GDPを超えるの公債発行残高、加速する少子高齢化、拡大する新卒無業者、現状に満足と同時に将来への不安などの数々の指標には、上記トリレンマ解決の糸口が見えない。「次世代が自分の世代より幸せでない」という社会意識が主流を占める中で、日本は「縮み社会」に向かっているのではないかと危惧する。中流意識が主流の反面、実際には所得格差も、90年代を通じて上位から下位まで垂直方向への多様化を示し、格差は縮小していない。

 日本では、再分配経済(租税と社会保障の負担率)は、欧州より小さく、米国と同レベルである。この結果、日本人は理念としては集団主義を掲げつつも、実際の行動パターンは利己主義となって現れ、日本社会特有の「親密さのイデオロギー優先」によって「パブリックに対する判断停止」が生まれ、自分にとって親密かあるいは無関係かという「私事化」が充満している。なお、iMode利用者が2千万人を突破したが、これはポケベル文化の延長であり、これのみでは本来の情報コニュニケーション力が育たないのではないか。

 日本は、モノ重視の産業経済を脱却し、他の産業活動を支えるEnableサービス産業(金融、エネルギー、医療、通信、教育、公務、専門サービス等)を情報ネットワークの活用によって付加価値を生み出すことが不可欠となる。そこでは特に、社会的目的を追求するための手段としての市場原理という共創社会(Consensus Community)の視点が重要になる。

小林寛三(フェロー)

※木村氏のインタビューはhttp://www.bk1.co.jp/s/jinbun/のインタビュー一覧に掲載されています。(2001年3月13日現在)