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2001 - December 1, 2001
説得の国
December 1, 2001 [ 2001 ]
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土屋大洋(メリーランド大学国際開発・紛争管理センター訪問研究員)
先月のこの欄で、バージニア州のDMV(自動車局)へ免許切り替えに行って、大混雑に巻き込まれたと書いた。そのとき、長く待たされた後、私はあっさり新しいバージニア州の運転免許を手にすることができた。ところが、妻も同じく手続きをしようとしたのだが、身分証明書のひとつである社会保障番号(SSN)の名前が旧姓のままだったため、更新手続きができなかった。
帰宅して社会保障庁のウェブを見ると、社会保障番号の姓の変更の仕方が書いてある。それによると、古い名前の免許証と新しい名前の免許証があればいいとなっていた。そこで妻が11年前の留学時代に他州でとった免許証(すでに無効)と、最近メリーランド州でとった免許証を持って、社会保障庁の窓口を訪問した。
しかし、ここでも事はスムーズに運ばない。窓口の女性が妻に対して「今、仕事をしているか」と聞く。妻はビザの関係で、自分で特別な手続きをしない限り働けない。「働いていない」と答えると、「では名前の変更はできない」という。「だって、ここに書いてある書類は全部揃っているじゃないか」と食い下がると、「そこに書いてあるのはアメリカ市民が対象であって、1995年に法律が変わってから、非移民ビザを持っていて働いていない人には社会保障番号を発行しないし、名前の変更もしない」の一点張りだ。
こちらも、このまま帰るわけにはいかない。「他州からバージニア州に引っ越してきたら、免許を書き換えろというのがバージニア州法だ。DMVが、社会保障番号の名前の変更が免許証書き換えに必要だと言っている」と言うと、紙切れを一枚持ってきて、黄色いマーカーでぎゅうっと線を引く。それを読むと、「免許の取得には社会保障番号は、必要とされていない」と書いてあるのだ。
まったくどうなっているのかと頭を抱え、その場を引き上げた。アメリカ生活ではこうしたトラブルがよく起こる。責任回避のたらい回しだ。
後日、あるパーティの席で、こうしたトラブルにどう対処したらいいのかをアメリカ人に尋ねた。83歳になる彼女は、「にこやかにうなずきながら『マネジャーと話したいわ』って言うことね」とのアドバイスだ。
そこで、あらためてDMVへ行った。社会保障番号の名前の変更が必要だと、また窓口の女性は言う。今度は社会保障庁でもらった紙を見せ、「社会保障番号はいらないって向こうは言っているぞ」と言い返す。彼女は別の職員に相談に行くが、戻ってきて「やっぱりダメ」と言う。「それならば、社会保障庁に名前の変更が必要だという手紙を書いてくれ」と粘った。彼女は「私にはできないわ」とそっけない。そこで、「じゃあ、あなたのマネジャーに頼んでくれ」と言ってみた。
彼女は、しぶしぶ別室のマネジャーのところへ行く。しばらくしてマネジャーがやってきた。やはりバージニア州法では、社会保障番号の名前の変更が必要だと譲らない。こちらも連邦法上、社会保障番号の姓の変更が不可能だと主張する。押し問答の後、「結婚証明書はあるか」と聞いてくる。「私たちは日本で結婚したんだからそんなものない。ここにパスポートがあって、日本政府が名前の変更を認めて、妻の名前を書き直してある」と主張した。マネジャーは「彼女に免許証をあげて」と窓口の女性に一言。
「やった!」という爽快感が体に満ちてくる。アメリカは交渉の国だとよく言うが、説得の国と言ったほうがいい気がする。嫌味をこめて言えば「マネジャーを説得する国」だ。少しアメリカ生活になじんだ気がする。