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chiiki - September 1, 2002
第12回地域情報化研究会 配布資料
September 1, 2002 [ chiiki ]
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第12回地域情報化研究会 配布資料
IT戦略第二期に向けて
オープン・ビジネス・ソルーション
-新結合を促す開放空間の構築-
國領二郎
慶應義塾大学ビジネス・スクール
國領二郎 (慶應義塾大学)
IT戦略の第一局面においてはインフラストラクチャ整備が主役となった。高コストで使い勝手が悪いネットワークを世界でも最も高機能で使いやすい料金体系とするという目標は相当程度達成されつつある。
しかし、インフラストラクチャ整備はあくまで出発点に過ぎない。大切なのは情報技術を使って何を達成するかということである。その意味で第二局面においては達成したい社会的な目標の実現に向けて、実現方法-ソルーション-を設計するという視点で技術を考えていかなくてはならない。本報告では次の5つを掲げて検討を行った。
(1) 高付加価値産業育成による日本経済の活性化
情報技術はそのものがハイテクの代表格である上に、全ての産業においてコミュニケーションを増進させ、より知識集約的な製品を作り出すことに貢献する。戦後つちかった日本の高度な製品開発力と、歴史的な高い文化に支えられた高感度な消費者の目利きの力をネットワークで結合して、「日本を製品開発とテストマーケティングのハブとする戦略」を推進するべきである。
(2) 環境と成長が両立する経済システムの構築
情報技術は環境を監視する、資源の無駄遣いを省くなどの面から環境劣化を防ぐことに大きく貢献しうる。環境保全に貢献することが利益に結びつくようなビジネス・モデルの構築で成長と環境保護が両立する経済システムを構築する。
(3) 利便性と安全性が両立する社会システムの構築
ネット社会において安全の問題が難しいのは、それを確保しようという方策が、言論の自由などの基本的な人権を侵すことになりがちだということだ。ただし、両立が難しいほど、安全を守りつつ利便性の高いシステムを提供できる企業にとってはビジネスチャンスも大きいといえる。ビジネスによる創造的なソルーション構築を促すべきだ。
(4) バリアフリーで活力ある高齢社会を構築する
高齢社会において経済に活力を維持する戦略を打ち出すことに成功すれば、短期的な消費低迷の問題にも展望が開ける。そこで、技術を介護支援、高齢者自立支援、そしてコミュニティを支える女性たちなどの力になるように活用する。現在は物理的な場所の制約にしばられ、散在し、孤立している人々にバリアフリーの活動空間を差し上げて、「強い者が弱いものを守る社会」から「強い者は強い力で、弱いものは弱い力で社会を支える」構造に変えることで高齢化に強い社会にする。
(5) 物質的豊かさから文化の豊かさを追求する経済への脱皮
この目標を追求する時に避けられないのが、知的生産に対して適切に報酬が払われる仕組みの必要性である。デジタル経済においては知的成果物の複製が極めて容易であって、アウトプットが無料化してしまう傾向がある。企業の中でも情報共有をしようとしてコンピュータネットワークを物理的に入れても、そこに参加するインセンティブがないと、自分のノウハウを社内ライバルに盗まれたくない社員は肝心の情報をデータベースに登録しない。知的所有権などの法的な仕組み、技術的な解決、革新的なビジネス・モデルなどを整備し、知の生産に貢献した方々に見かえりが与えられる仕組みを作らなくてはならない。
以上のような目標の実現に向けたソルーションを構築する上で、次の設計基本思想を持つべきである。
(イ) 中央のエリートに情報と権限を集めて意思決定させる仕組みから脱却し、国民すべてが情報を共有しながら多様な知をネットワーク上で結集・結合させるものとすること。自律・分散・協調システムを構築する。
(ロ) 各現場が「身の丈にあったシステム」を構築し、それをつなげていくことで、結果的に大きな仕組みが出来上がっていく構造を作ること。そのためにローカルなイニシアチブが取りやすい小さな固定費で実現できる技術を選択すること。
(ハ) 民のイニシアチブを重視するという思想の一貫としてビジネスによるソルーション提供を第一義的に考えること。民によるイニシアチブを支えるものとしてのエクイティファイナンスを重視する。NPOなど、非営利的な民間イニシアチブとビジネスのアライアンスで社会を構築する。
(ニ) 安全の問題も分散型のメカニズムを集中処理型と併用することによって、自由でありながら安全な社会を構築することをめざす。
21世紀型の繁栄モデルは1980年代日本型繁栄モデルでも、1990年代アメリカ型繁栄モデルでもない。ひたすらモノを豊かにするだけでは環境がもたない、グローバルなマネーの論理だけでは豊かな文化は生まれない。環境との調和や心の豊かさを追求することが繁栄につながる21世紀モデルは、まだ完全に整合性が取れた形で姿を見せているわけではないが、日本は21世紀型モデルを切り開くパイオニアとして非常によい位置にある。その機会を最大限に活かす戦略をとるべきである。