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2002 - December 1, 2002

DNAコンピュータによるバイオ・ナノテクノロジー

December 1, 2002 [ 2002 ] このエントリーをはてなブックマークに追加

講師:陶山 明 (東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻生命環境科学系助教授)

 10月22日のIECP研究会は、東京大学大学院総合文化研究科の陶山明助教授に「DNAコンピュータ」、つまりDNAの分子構造を利用した計算機の仕組みや、陶山助教授が開発したDNAコンピュータの概要、そしてDNAコンピュータの未来像についてご講演いただいた。

 陶山助教授によると、「コンピュータの機能とは、要約すれば、入力された記号列を定められた手順に従って操作し、操作した結果の記号列を出力するものだ。この仕組みを電子回路によって実現した電子計算機は、入力されたデジタル化された記号を処理し、デジタル化した記号として出力する。この仕組みをDNAという別の手段によって実現したのが、DNAコンピュータなのだ」という。

 「DNAコンピュータが世間の注目を集めるようになったきっかけは、RSA公開鍵暗号システムの開発者の一人であったLeonard AdlemanがDNAの構造を利用して『ハミルトン経路問題』と呼ばれる問題を解くことに成功したことだった。しかし、実はこの『コンピュータ』には汎用性がなく、与えられた問題以外を解くことができなかった」。陶山助教授が開発したDNAコンピュータは、「個別の問題専用の計算機ではなく、どのような問題にも応用できる汎用性をもっている」という。

 陶山助教授によれば、「DNAコンピュータは、DNA分子の組み合わせで演算の単位を表現し、化学的な反応を演算として利用する。DNA分子は極小であるため、大量の演算を試験管の中で並行して行うことができる。化学反応を応用するため、実際には一つの演算プロセスを完了するには、電子計算機に比べるとはるかに長い時間が必要となる。しかし、大量の演算を同時に並行して行うことができるため、演算一つあたりにかかる平均時間はきわめて短い。大量の演算を同時に行うことができるという特性から、DNAコンピュータは当初、暗号鍵の解読や最短経路の発見といった『組み合わせ問題』への応用が期待された」。しかし、「このような方向性は、DNAコンピュータが目指すべき本来の方向ではない」という。「組み合わせ問題は、並列処理計算によらなくても、近似解と発見的アルゴリズムによることで、実用的には解くことができる」。

 陶山助教授は、DNAコンピュータの利点を、「生命体がもっている遺伝子という記号を直接操作できることだ」と述べる。「電子計算機による遺伝子解析は、一度遺伝子の情報を電子化し、その電子化された記号に基づいた解析を行う。しかし、DNAコンピュータでは、遺伝子を構成する分子を入力として扱い、演算を行い、結果を分子として出力できる。ゲノムプロジェクトなどにより大量の遺伝情報が電子化されているが、電子化されていない分子データはそれ以上に膨大だ。DNAコンピュータは、このような分子データを、分子のまま処理することができる」のである。

 ところで、「現在のDNAコンピュータは、純粋に分子と化学反応だけを利用して計算を行っているわけではない。入力と出力や、演算に相当する化学反応を起こすために電子計算機とロボットの助けを借りている。しかし、将来的には、細胞の中で自律的に動作する "in vivo" なDNAコンピュータが目指されることになるだろう」と陶山助教授は述べる。これが実現すれば、「細胞の中のDNAの連鎖という『記号列』や、遺伝子の発現という『論理式』に基づいて演算を行い、生命体に必要なアミノ酸を出力するようなDNAコンピュータが誕生する」ことになるのかもしれない。