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2003 - February 1, 2003
<パネルディスカッション 2>情報化による地域産業振興
February 1, 2003 [ 2003 ]
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【パネリスト】
赤尾正彦(小樽情報ネットワーク事業協同組合理事長)
神成淳司(岐阜県情報技術顧問)
高野勝則(阿蘇テレワークセンター所長)
【モデレータ】
國領二郎(慶應義塾大学ビジネススクール教授)
パネルディスカッション2では、情報化による地域産業振興に焦点を当てて議論を行った。
赤尾氏は北海道の小樽市で活動されており、「小樽まち育て情報センター」を運営している小樽情報ネットワーク事業協同組合の理事長である。神成氏は岐阜県の情報技術顧問で、活発に情報政策を実施している岐阜県の多くの施策にかかわっている。高野氏は「阿蘇テレワークセンター」の所長で、農村の情報化に取り組んでいる。3氏の主な活動の場である自治体は、それぞれ規模が違い、主要産業も観光、工業、農業とさまざまである。
はじめに国領氏が3氏を紹介し、「現場の活動が横の連携を取ってノウハウを共有することが非常に大切である」と前置きしたうえで、それぞれの取り組みについて説明を求めた。
総合的な情報化拠点、 小樽まち育て情報センター
はじめに赤尾氏が、小樽の事例について発表した。小樽まち育て情報センターは、2001年8月23日に設置された。小樽には観光の町というイメージがあるが、実は人口が減少し、高齢化も進んで、2015年の日本の縮図となっているという。小樽にはこういった現状に対する危機感があり、その中で、まちおこし・まち育てを、ITをキーワードとして進めるためにセンターが設置されたとのことであった。赤尾氏は、センターの活動について次のように説明した。
「小樽まち育て情報センターは、NTT小樽支店の1階にある。このセンターは、ITコンテンツを持つ会社の誘致、中小零細企業や高齢者のデジタルデバイドの解消、小樽商科大学との連携によるインキュベートという三つの目的を持っている。町の真ん中にあり利便性が良いこともあって、エコマネー実行委員会の事務局機能も持たせている。また、よく授業形式でさまざまな講義を行っている。
誘致した企業は三つある。一つはジオミックで、マップルで知られている昭文社のデジタルマップを作成している千葉の日本コンピュータグラフィック社のGIS(Geographic Information System)を担当している企業である。2年間、家賃と専用回線代を負担するという条件で誘致した。もう一つはスミアというWEBメンテナンスを得意とする企業で、社長が小樽出身ということから誘致した。もう一つはアクティブジャパン流通戦略総合研究所で、ここは佐川急便のシステムを作っている。
中小零細企業のIT化については、マイクロソフトの協力を得た。マイクロソフトの『IT体験キャラバン』のキックオフも小樽で行ってもらった。
また、小樽は職人の町でもあり、ITを利用しながら、小樽で日本職人学会を発足させた。来年は世界職人学会を開催する予定だ。
さらに、IT講習も行っている。森首相の置き土産であるIT講習会は有職者人口の5.5%を対象にすることが目標だったが、小樽はこれを実現した。高齢者・障害者についても積極的に講習活動をしている」
地場中小企業を生かした中長期的な活性化
次に、岐阜県情報顧問の神成氏が、岐阜県の事例を説明した。神成氏は、「地域の活性化は中長期的にきちんと成り立ち、子供・孫が幸せに暮らせるようにすることが重要だと考えている」と前置きしたうえで、まず地域情報化の二つの問題点について、次のように説明した。
「第一点は情報化のコストが高いことだ。このため、中長期的なことを考えてやっていく必要がある。地域情報化関連の政策が増えているが、人材などの問題もあり、必ずしも活性化につながっていない。大手ベンダーに任せきりで、ノウハウも地域に蓄積しない。ベンチャー企業も話題にはなっているが、実績がないので受注できない。
もう一つの問題として、情報化に対する過度な期待がある。実際には情報産業で雇用を生み出すのは難しい。一方で、地域にはすでに産業構造がある。情報産業はむしろ既存産業の補助的役割をもっと担わなければならない。アジアでは工業化が進んだ結果、IT化と並行して工業のインテグレーションが行われているが、日本では高度成長が終わった後にIT化が進んだため、工業とIT化の連携が遅れている。こういった問題に対処するのが地域情報化の一つの重要な役割だ」
また神成氏は、「地域の運営には、内部経済の中長期的なコストを減らし体力を蓄えること、地域産業自体を活性化し、外部経済と連携することによって地域を豊かにすることの二つの側面があること」を指摘した。また、二つの岐阜県での自身の活動を紹介した。第一は、住民のコミュニティ形成あるいはコンテンツの作成に必要となるいろいろなソフトウェアを、オープンソースにしようとしていることである。もう一つは、中小企業の現場や特性を生かしたソリューションソフトウェアのオープンソース化への取り組みである。神成氏によれば、OSなどよりはむしろソリューションソフトウェアの方が高くつき、こちらをオープンソース化することの効果は大きいとのこと。このため、現在、岐阜県の郡上地域を対象にして、必要なソフトウェアのコンポーネントを洗い出して設計を進めており、これをすべてオープンソースにする予定だとのことだ。
さらに神成氏は、中長期的な地域産業の育成について、次のように述べた。
「地域には勝ち組のオーナー社長がおり、彼らはかなり自由に資金を使えるため、面白い試みに投資してくれる素地がある。このため、産業の活性化を考えると、地域は非常に面白い。勝ち組の経営者は、将来に対して非常に危機感を持っている。彼らと協調して中長期的な人材育成をすれば、特色ある地域産業が作れるのではないかと考えている。
もう一つは中小企業の研究開発で、地場のオーナー企業5社から15社と連携して、現場の職人の行動を阻害しない情報システムを作ろうとしている。今、取り組んでいるのは、中小企業の特性に合わせたコンポーネントを組み合わせて使えるものだ。今強い製造業を、5年後10年後に強くすることによって、産業そのものを活性化しようとしている。
また、地域を活性化するためには、地場産業の中長期的な競争力を強化する必要があり、そのためには、研究者が現場に入っていって、今日本が持っている現場技術を残して、地場産業が中長期的にやっていける体制を作る必要がある。
最後に鍵となるのは、10年後まで一緒にやるための信頼関係を作ることだ。終身雇用制度が崩れたため、今まで大学に進学していた学生が地元の商業高校などに行って、即戦力を目指すケースが出てきている。彼らが育って地元で活躍すると、また優秀な人材が地元に残る。このようなことの継続によって、5年後10年後には強くなるのではないかと考えている」
小さな自治体の情報化
続いて、阿蘇テレワークセンター所長の高野氏が発表した。「阿蘇は阿蘇山をシンボルとした純粋な農村地帯で、阿蘇町は人口1万9千人弱の地域だ」と最初に話し、「小規模な町村の取り組みの例として聞いてもらいたい」と前置きしてから、センターの試みについて説明した。
「阿蘇テレワークセンターは平成8年に国の補助事業で作ったもので、地域の情報化や地域なりの雇用の場を作ることを目的としている。始めたときには素人の集まりで、何をやればいいかわからず、大学の先生に相談したり、研究機関に相談したりしたが、『何でもできます』という答えが多かった。しかし、システムを一つ組むにしても莫大なお金がかかるうえに、当時はシステムを作っても使う人がいない状況で、当初はサポート事業を中心に活動を始めた。役場職員、地場産業、各種団体など徹底的に研修をやり、これまでに4千人以上に研修を行った。
また、インターネットへのアクセスポイントが都市部にしかなく、インターネットへの接続が高コストだったため、地域ISP事業も行っている。阿蘇にADSLが来るにはまだ当面かかるということもあり、最近では光ファイバと無線を使って、公共施設だけでなく、一般家庭100世帯に基地局を設けて実験を始めている。
もう一つは地域の雇用機会の場作りで、これが阿蘇テレワークセンターの本来の仕事だ。当初1年ほど東京からマッピングデータの入力業務を受託していたが、相手先の経済状況によって受注が不安定になるほか、受身の姿勢になってしまう。また、地域への拡大が非常に難しいという問題があった。そのため、この形は1年でやめ、地域内の仕事に移行した」
高野氏は、電子自治体の推進についても、地域でできることは地域でやれるような体制作りを目指しているそうだ。そうでなければ電子自治体を進めても、田舎の町村にメリットがない状況になるからだ。また、「神成氏のオープンソースの試みは非常に役に立つ」とも述べた。
最後に高野氏は、「地味ではあるが、地味な取り組みが一番だと考えている」と述べた。今は少しずつだがセンターの人材も育ち、体制もできてきていて、第一段階を終了したところだそうだ。高野氏自身も当初は誤解していたそうだが、ITが主役になったら地方では成り立たず、地域活動や地域の産業の中で、どうITを役立てるのかということが重要だと強調した。
地域情報化のコストパフォーマンス
ここでモデレータの国領氏は、3氏の共通認識として、「現状の進め方での情報化が地域にとってコストパフォーマンスが悪く、無駄な使い方になっているということ、自分たちの手で作るものでないと、結局コストが高くなってしまうということがあるのではないか」と指摘し、「実態はどうか、またどういう解決方法がいいと思っているか」を尋ねた。
まず赤尾氏が、小樽市のケースについて答えた。インフラの状況について、「小樽市にはADSLの開通見込みが立っていない地域がたくさんあり、インフラ面の補完として無線を飛ばすしかない場所もある。ワイコムという企業ができていて、その会社の仕組みでは基地局が一つ75万円くらいで、4本から6本でミドルバンドはカバーできるだろうと思っている」と述べた。また、ソフト面については、「中小企業の方に、アプリケーションを費用0で徹底的に体験してもらい、そのうえでアプリケーションへの投資をしてもらうしかないと考えている」と述べた。
アプリケーションの体験については、「マイクロソフトに協力してもらい無償でソフトを貸し出してもらい、中小企業の方が、たとえば実際に自分の会社のクライアント・サーバシステムを組んだりして、実際に環境を体験できるようにしている。通常のベンダーの方法だと、実際に導入してみると投資が過負荷だということもよくあり、それをなくすために効果的だ」とのことだった。
次に神成氏が、投資の非効率について述べた。「今までは買う側の意識として、100%でなければならず、導入する時点で一番いいものを入れる傾向が強かった。ランニングコストに対する意識が低いということもあるし、『とにかく予算を消費しよう』というところが日本にはある」という。また、技術革新の速さに対する認識の甘さもあると指摘した。「今10億円するものが、3年後に2億円の価値しかなくなるかもしれない。それでも今10億円あれば10億円使ってしまうというやり方に近い考え方が、ITの分野でも残っているというのが現状ではないか」とした。
現状では、必ずしも地域にとって中長期的に適正なものが入っているとは言えず、知識不足、認識不足がその原因となっているとのことだった。「しかし現状では、今までに経験のある組織しかノウハウを持っていないので、そこに頼むしかなかった。オープンソースにすることで、そのノウハウをみんなが持てるようになるだろう」と自身の活動を説明した。
続いて高野氏が発言した。「現状は指摘のとおりで、オープンソースなどが進めば、地方としては負担が少なくなるのでよい」と述べたうえで、「県単位にIDCとかASPなどを作ろうという動きがあり、これは当然必要だが、他に地域単位でミニASPが必要だ」と述べた。なぜなら、全体のものとして作ってしまうと、地域の商業でも農業でも、2割くらいしか使わないのだそうだ。「それをセットで買わなくてはいけないので高くなってしまう。それよりは地域に合ったものを自前で開発し、共通部分だけセットで地域外と共同で開発する、という方式のほうがよい」という氏の考えを説明した。
また、それに関連する形で、神成氏は「地域特性により違いはあるが、ASP全体の50~60%は共通の部分があるのではないか」と述べた。また、オープンソースソフトウェアのプロジェクトであるGNUプロジェクトのソフトウェアでは、ソースの部分は共通の物で、環境に合わせて利用者が設定を少し書き換えて使っていることを紹介し、「そこまで簡単ではないかもしれないが、そういう視点が地域にも必要なのではないか」と述べた。
情報の産業化よりも地域産業の情報化
次の話題として国領氏は、二つのことについて尋ねた。一つは、「大きなアプローチとして『東京から引っ張ってきた』というやり方と『地域の中で掘り起こした』というやり方があるようだが、これについてどう考えるか」ということだった。もう一つは、「これまでの議論に共通する意見として、まったく新しい産業を作るのではなく、もともと地域にあるものと情報化を結び付けていくほうがよいという仮説があるように思えるが、これについてはどう思うか」ということだった。
この話題に対し赤尾氏は、小樽市が観光誘致推進協議会という組織を市役所内に設置しており、WEBを使った観光産業の掘り起こし・拡大・高度化の機能、およびゲートウェイを小樽に置いているということを述べた。これは、中央の大きな宣伝広告・旅行会社に情報の刈り取り場にされると困るということと、地域の中にWEBに情報を上げられないレベルのところが非常に多く、それを同じラインに乗せるということからで、サーバそのものも小樽にあるとのことであった。
また神成氏は、情報産業がどんなに成功しても、製造業など既存産業に比べて雇用の機会が少ないことを挙げ、地域として情報産業に特化することに対する疑問を呈した。さらに、「地域に根ざした企業は連携しやすいし、地域に根を張っているので、中長期的に地域の基幹産業になる可能性がある。また、地域ごとに成功している産業は探せばあるはずだし、今の勝ち組産業をもっと伸ばしたほうがよい」と述べた。
また、高野氏は「地場産業をどうサポートしていくのかが基本になる」と述べたうえで、阿蘇地域の建築業者の業績が悪化していることを例に取り、「住宅着工率が落ちてきたということもあるが、半分くらいの人が大手メーカーに発注するようになっている。こういうことが商業とか観光にも共通してある。着工率が落ちるよりも、仕事が外に出てしまうほうの影響が大きい。15の業者が集まって、地域に根ざした、地域にあった住宅を共同で作れるシステムとか、地域の消費者とネットワークを結ぶとか、地産地消のシステムを研究している」と述べた。さらに「高い技術力・高い潜在力を持つ企業が集積されている地域は田舎の小さな地域にはなく、むしろあるものの力をつけていくということが重要だ」と指摘した。
地域人材の育成
最後に国領氏は、人材の育成について、「聞いていると、地域に愛着を持ち、簡単には外に出て行かず、地場の産業をある程度わかり、ITもよくわかっていて、東京にだまされない人物がよい、という話だが、そういう人をどうつくるのか」と3氏に尋ねた。
これに対し高野氏は、「一定地域内の活動では、人材は3年で急速に伸びる。しかし、その後ぱったり伸びなくなる。さらに伸びるためには、新しいことや考え方を教えてくれる人的アシストネットワークを作って常に刺激を受けることが基本だ。大学とか個人の優秀な人とか相手先を選んで、アシストネットワークを作る必要がある」と述べた。
神成氏は自分の研究室の学生の教育の例を挙げ、「うちのゼミは厳しいところで、ネットワークの技術についてはケーブル作りからプログラミングまでやり、システム論と哲学の基礎をやって物の見方を教える。それから製造業の現場で2週間くらいインターンをやる。これをやって、日本の高校生はなかなか捨てたものではない、好きなことをやっている人はどんどん伸びていくということがわかった。こういう成功例を高校で話すと、また次に優秀な人材が来る、というサイクルがようやく回り始めている。これを3年、5年続けていけば、どんどんいいエンジニアが増えるのではないかと思っている」と、地域内での教育の重要性について述べた。
赤尾氏は、小樽商科大学の主として夜間主コースの学生をインキュベートして育てていること、各業界上位3社の社長もしくは専務で、20代後半から50歳くらいまでの方でネットワークを作り、IT投資をする際に大手ベンダーの見積りを見せ合うなどの情報交換をしていること、小樽商科大学のビジネス創造センターのスタッフに大手ベンダー提案のネットワークやプログラミングについてチェックしてもらうなど業界の中に情報交換の仕組みを作ることで人材を育成していることを説明した。
パネルの最後に国領氏は、「貴重な論点を出してもらった。表面的に言われていることと現実の間にかなり大きなギャップがあり、そんなに簡単ではないということもわかった」と述べたうえで、「資産・ノウハウを横に連携しながら共有していくこと、その中でも徹底したコストパフォーマンスを出していくこと、人間を育てていくことの三つが重要なのではないか」とまとめた。
本パネルは短い時間の中で非常に多くの論点が出され、自治体の規模や産業の特性によってさまざまな違いがあり、対応もまた異なってくるということが浮き彫りになった。本パネルによって三つの地域の現場の情報がやりとりされたことを端緒として、今後の情報交換につなげていくべきであろう。
報告/石橋啓一郎(GLOCOM研究員)