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2003 - November 1, 2003

国際市場に通用するコンテンツの創造

November 1, 2003 [ 2003 ] このエントリーをはてなブックマークに追加

講師:久保田ラリー(一橋大学大学院客員教授)

 

 9月24日のIECP研究会のテーマは、一橋大学大学院客員教授の久保田ラリー氏による「国際市場に通用するコンテンツの創造」であった。久保田氏は映画製作、メディア、娯楽産業等に、学術・事業の両面から深くかかわっており、その視点から、日本のコンテンツ産業が今後世界に大きく飛躍すると見ている。以下はその講演の概要である。

 

 2000年に米国の『ビジネスウィーク』誌が、映画や娯楽、メディア産業等を総称して「創造的経済」という用語を用い、米国は世界の創造的経済の約4割を占めており、また、今後経済の中心が従来型の「産業」から創造的経済に移行するという報告を掲載した。米国において従来型の「産業」の雇用者の割合が大きく低下していること、物理的資産をベースにした企業よりも、アイデアをベースにした企業の資金調達が容易になっていること等にも、創造的経済への移行を見ることができる。

 その創造的経済を担うのは、従来型の産業に必要とされた正確性や従順さよりも、独自性や創造性を重視する人々であり、その中でも特に高い創造的才能を有する少数のメンバーからなる「グレートグループ」が、創造的経済において重要な役割を果たす。その好例として、1860年代にフランスにおいて日本文化を紹介して印象派やアール・ヌーボー等の芸術に大きな影響を与えたジングラー協会や、パーソナルコンピュータの誕生に大きな影響を与えた米国のPARC研究所があげられる。そして創造的経済の発展のためには、「グレートグループ」を構成する人たちが好む、チャンスや刺激に恵まれた環境を整備するとともに、失敗を肯定的にとらえる等、創造性を発揮しやすい労働条件を整えることが大切になる。

 現在は米国が圧倒的な地位を占めている創造的経済の領域で、日本は、今後アジア市場、世界市場において優越的な地位を占めるという報告が、米国の雑誌『TIME』等でなされている。日本は双方向性のゲーム、アニメーション、携帯電話のアプリケーション等のデジタル文化の先駆者であり、また、国内においてはすでに、マンガ、アニメーション、ゲーム、キャラクターグッズの市場がかなりの規模を有している。特に急速に成長しつつあるアジアでは、日本のファッション、映画、テレビ番組が各国に流行を巻き起こす等、アジアにおけるポップカルチャーの中心地になっている。

 このような日本の創造的経済の隆盛は、自国の伝統文化等の芸術的な感覚をデジタル技術に結びつけ、新しいものを創り出すことや、外国の影響を受け入れ、合成・加工し、独自のものを生み出すことに長けていることが背景にあると考えられている。

 

 以上が久保田氏の講演の概要だが、このような久保田氏の考えに対し、「長い経済の停滞に苦しむ日本にとっては非常に心強い報告であるが、日本人が考えると、はたして従来の製造業に代わって創造的経済が主要な産業になるのか、全面的に納得することはできない」という発言があった。これに対し久保田氏は、「日本の創造的経済は世界に通用する可能性を持っており、そのことは世界で認められつつあるが、その力を日本がどのように用いるか、どのようにして海外に発信していくかについてはまだ方向性が見えていない」という考えを述べた。また、「日本国内で評価を受ける作品等は、そのままでは海外では理解されがたいと思われる部分もあるが、であるからといって海外向けに加工すると、日本の感覚からすると違和感のあるものになってしまうことが多い」という意見に対し、「現に日本の若者のポップカルチャーは海外向けに加工することなく世界、特にアジアで受け入れられており、また日本の浮世絵や映画監督の黒澤明の作品が国内以上に海外で高く評価され、それを受けて国内で再評価されることがある」という例を示した。そのうえで、「そういった点について明確化するためには、あるコンテンツが創造・加工され、商品化され、人々に受け入れられるという、プロセス全体についての研究が必要であるが、残念ながら現時点においてはなされていない」ということであった。

 

 現在、創造的経済において中心的な地位を占めている米国で活動されている久保田氏が、日本の創造的経済について明るい見通しを示したため、参加者からは久保田氏の見通しについて自分自身でも納得したいためか、見通しの根拠等について熱心な質問が多く寄せられるとともに、日本の創造的経済が世界的な競争力をもつためにはどうすべきか、ということについても活発な議論が交わされた。

渡会俊輔(GLOCOM主任研究員)