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2003 - December 1, 2003
スマートモブズ的活動は日本ではどう受容されているのか──2ch大規模オフとフラッシュモブ@東京との比較から──
December 1, 2003 [ 2003 ]
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澁川修一(独立行政法人経済産業研究所研究スタッフ/東京大学大学院情報学環・学際情報学府修士課程/GLOCOMリサーチアソシエイト)
「スマートモブズ」で展開される議論の萌芽的な事例として今年の夏、ネット界隈で盛り上がったのが「フラッシュモブ」である。これはモバイル端末を通じた情報で、決められた時間、場所に全く見ず知らずの人々が集まり、集団パフォーマンスを行ったかと思うと、あっという間に解散するというもので、全米各地やロンドン等でも行われ、話題となった*1。
一方で、わが国では数年前から、大規模な「オフ会」として、ネットを通じて呼びかけた数百人(時として数千人)規模のイベントが行われており、国内のネットコミュニティでは「は? 何が世界初だって?」という意見も散見された*2。
おそらく、海外での「フラッシュモブ」と、わが国の「大規模オフ」との間には根本的な差異があり、その背景には、文化的・社会的な違いが大きく影響しているのではないか。そして、その「モブ」についての受容の差異は、わが国におけるスマートモブズ論に対する受容のそれとパラレルな関係にあるのではないだろうか?
外国でのモブが報道された後、わが国でも在住外国人を中心にフラッシュモブが企画された*3。これは日本人の関心をも呼び、2ちゃんねるの「大規模off」板*4のスレッド*5では、「乗っ取っちゃえ」という過激な意見から、まじめに大規模オフとフラッシュモブとの違いについて考えようという意見まで幅広く議論された*6。
そして議論が続くなか、初めての東京でのフラッシュモブが、9月26日の19時30分集合で、東京・丸の内で開かれた。これに私は参加したが*7、基本的に見ず知らずの人たちが集合場所に集まり、そこで主催者から受けた指示──この場合は、「会う-する-出る(GATHER-PLAY-DEPART)」と銘打ち、19時46分に東京駅丸の内北口のホールに集まり、突然大声で叫びながらジャンケンをする──に従うというものであった。
しかし、肝心の参加者がたったの9名で、帰宅の足を急ぐ人々が行き交うなか、大声で叫びながらジャンケンをするわれわれは、単なる頭のおかしい人の集団に思われたかもしれない。周到な周知があればもっと参加者は増えたはずで、残念であった。
一方、前述の通り、わが国では匿名掲示板2ちゃんねる(以下、2chと略)を中心に大規模なオフ会が以前から開催されてきた。その精神はフラッシュモブと似たところがあり、何かしら大人数で非日常的な空間を作りだし、おもしろがるというのが基本的な図式である。2chではそれまでも、「2chサッカー部」のようなサークル的な活動が2chの「オフ板」*8で勃興し、2ch特有の「馴れ合い厳禁、殺伐上等」という暗黙のルールの裏返しとして活況を呈していた。それが初めて2ch全体を巻き込む形で数百人規模の参加を得たのは、2002年サッカーW杯の際に、韓国代表に対して偏向的な報道を行ったマスコミに対する抗議として開かれた準決勝パブリックビューイングにおけるドイツ応援オフ、そしてそれに引き続く三位決定戦トルコ応援オフ、さらにはその三位決定戦における恣意的なフジテレビの姿勢に対する抗議として企画された江ノ島ゴミ拾いオフであった*9。
さて、その後、大規模オフは珍しくなくなり、「新宿で居酒屋の誘いにモノスゴイ人数で付いて逝くオフ」*10や「月雄オフ」*11、「クリスマスに(彼氏・彼女が居ないので)殺伐と吉野家で牛丼を食うオフ」等が続々と開催された*12。なかでも、吉野家クリスマス殺伐と牛丼オフは2001年の企画に引き続き開催されたものだが*13、全国で延べ1,900人余りが参加した。
一方、今年に入り大規模オフには新たな流れが加わった。言うまでもなくMatrixオフ(マトオフ)である*14。これは集団で映画「Matrix」の主人公とそれを追うエージェント(スミス)たちを街頭で再現するある種のコスプレで、元々は2ch就職板で呼びかけられたものであった*15。第一回Matrixオフは数十人規模だったが、その模様の動画が公開されると爆発的な人気を博し、その後類似のオフがより大規模に各地で開かれ、2chに大規模オフ板が出来るきっかけとなった*16。また2chとは関係ないが、「ジョジョの奇妙な冒険 決めポーズ教室」という大規模オフも東京と大阪で開催された*17。これらのイベントでは、従来のオフと違い、一種のパフォーマンスアート的な側面を内包している点がフラッシュモブとの類似という点で興味深い。
さて、このようにわが国では、フラッシュモブよりは「大規模オフ」の方が一般的であるが、その背景は何だろうか。実は一見同じような集団行動に見える両者の間には多くの相違があり、それは最初に述べたネット内外の文化的・社会的な差異に根ざしている。以下、2chを中心とした大規模オフの特徴について、簡単に分析してみたい。
(1)「企画のプロ」の存在
複雑化する一方の大規模オフでは、もはや数百人規模のイベントは珍しくなく、少数でコントロールするのは不可能になってきている。一部の参加者の暴走が批判を浴びた広島平和公園の折り鶴オフの末等は、少数での大規模オフ運営の限界を示している*18。ちなみにMatrixオフについては、「企画慣れした」少数の運営スタッフが事前に周到に準備したうえでスレに投げる等、かなりプロフェッショナルな運営体制が敷かれているという(この部分の情報は鈴木謙介氏の示唆による)。
(2)巨大な批評空間の存在(2ch+外縁部)
フラッシュモブと2ch大規模オフの最大の違いは、単なるイベントである前者に対して、後者が2chという匿名の巨大な言説空間を母体とする点であろう。それ故、2chのオフには2ch的な文脈が色濃く反映され(たとえば管理者のひろゆき君の好物である「うまい棒」が集合の目印として使われたりする)、参加者も「いち2ちゃんねらー」として参加する。そして、オフ会の成果は発案者よりはむしろコミュニティ(2ch)の名誉として受容される。それ故に「誰かのもの」ではないため、参加が多数にわたるのだ。また一方で、これはイベントの過度の(社会的)暴走を戒める役割も果たしている。すなわち、ラインゴールドがスマートモブズ的活動の要素として提示するところの、コミュニティを基盤とする評判/監視という仕組みがビルトインされているのだ。
さらに、ここ半年ほどの動きで注目されるのは、個人ニュースサイト・Web日記・ウェブログ等の2chの周縁部がオフを取り上げ、それがリンクやトラックバック*19によりさらに広がるという展開である。2chはあくまで掲示板であるが、周縁部でサマリーや批評が加わることにより、オフの認知が格段に向上するとともに、2chの議論との相乗効果が発揮されるようになったのである。
(3)作り込みのプロセス:参加者が議論して、作り上げる
フラッシュモブは「主催者が練り上げたプランを参加者がその通りに実行する」のが大前提だが、2chの場合はスレッドを新規作成することでスタートする。それ故、多数のユーザがそのスレッドで議論を行ってから、実行されるのが常である。その意味で、単純なアイデアでスレッドが始まっても、実際にはかなり複雑なイベントとして実行されることが多い。精巧な作り込みとストーリー設定を作り上げるという意味でも、1,000の発言を収容できるスレッド上での練り込み作業は非常に重要である。
2chオフの失敗例を観察すると、わが国では単に「おもしろいコトするから集まれ」では成功しないことがわかる。相当に魅力的なイベントの趣旨・目的・設定を提示しなければ、ユーザが乗ってこないのだ。そのような環境にある2chの大規模オフは、その完成度・作り込み・運営体制等、圧倒的に欧米のフラッシュモブに先んじていると言っても過言ではないだろう。
(4)ドライブ感の醸成
上記の要素が複合して生まれるのが「ドライブ感」である。これは2chに限らないが、イベントが持つ場のおもしろさ、高揚感(ノリ)を意味する。このドライブ感が求心力を高め、多数の参加や新しい企画の提案などを通じて「祭り」へと近づいていく。この点で多大な貢献をしているのが、大規模なオフになると必ず作られる「まとめサイト」である。初めて来た参加者もまとめサイトを見て、オフの文脈やこれまでの議論を把握できる。また、スレッドフロート式掲示板という2chの特性上、必要な情報が静的にまとめられているのはきわめて重要である。それらの情報がスレッド参加者全体の一体感をもたらし、勢い、ノリを維持拡大しながら参加者を雪だるま式に増やし、オフに向けて突き進んでいくのである。
(5)フラッシュモブ@東京に足りなかったもの
以上の考察を踏まえると、今回のフラッシュモブ@東京にはこの「ドライブ感」が欠けていたように感じる。アイデアは悪くなかったが、盛り上がらなかった。しかし、周知が徹底されていれば良かったかといえば、単純にそうともいえない。
わが国での大規模オフの仕込みの精緻さは、もはや単純な「主催者の悪戯」レベルを超えており、半端な企画では「つまらん」と参加者はそっぽを向いてしまう。日本人は世界一製品の品質に厳しいとよくいわれるが、この手のイベントに対しても目が肥えている。少なくとも、思いつきレベルで実行できる大規模オフはきわめて希有であることに留意すべきであろう。
最初に、このフラッシュモブと大規模オフとの間に横たわる差異は、そのままスマートモブズ論に対するわが国における受容のあり方とパラレルなのではないかと述べた。その差異は、「ドライブ感」すなわち「おもしろいと思う高揚感」をどうとらえるかに最大の焦点があるように思う。
フラッシュモブが欧米で興味を引いたのは、間違いなくそれが、欧米の社会通念上ではあり得ない事象だからだ。つまり、犯罪に巻き込まれる危険性がかなり高い欧米では、突然集まって馴れ合うことは「あり得ない」。そしてもう一点が、その種の集団行動が社会的に「暴動(の萌芽)」として認識されることである。事実、警官隊の出動でフラッシュモブが鎮圧されるという事態も起きている。それ故、そのギリギリのところで悪戯をするのが楽しいのだろう。
一方、わが国ではそのような危険性はゼロではないが、きわめて可能性は低い。警察官が「なんだなんだ」と様子を見に来る例はあるものの、解散命令が出るようなこともない。それ故に、単なるフロッキング、悪戯にとどまらず、より作り込まれたサイドストーリーや、場の設定、ストーリーの共有などを通して「参加者みんなでネタを楽しむ」という、より洗練された方向へ進むのだろう。つまり、一見似た者同士の両者であるが、実は参加者が満足を求めるポイントに根本的な差異があると考えられるのだ。
さて、スマートモブズ論からの重要な論点は、このようなモブを通して、新しい協力の形態、パワー、創発的な新秩序は形成されるか? という問いである。
私見だが、フラッシュモブは新しい協力の形を示唆してはいるが、政治的なパワーにはなり得ない。なぜなら、あくまで主催者の意図にそったアート・悪戯の域にとどまっているからだ。つまり、事前に参加者間で練り込むプロセスがないので、そこに参加者同士のコンセンサスは成立しにくく、見ず知らずの個人が政治的なパワーを作り出しているとはいえないのだ。ラインゴールドが取り上げたエストラーダや盧武鉉(ノ・ムヒョン)の事例も、従来型の政治デモ活動がネットの力で迅速かつ大規模化したというだけで、そこには創発的な新秩序は存在していない*20。
しかし、2chの大規模オフにはその可能性を感じる。現状では、政治的な大規模オフの事例はそれほど多くない(終戦記念日の靖国神社参拝オフ等がある)。匿名的なネット空間という特性を活かし、自発的な貢献の雰囲気(まとめサイトの構築等)が醸成され、スレッドの中でゆるやかなコンセンサスが形成されつつ、賛同した者が集うという仕組みは、即座に政治的な利用へと結びつくものではないが、ネットユーザの意志が実際の社会に影響を与えるプロセスとして、ラインゴールドのいう「創発的な新秩序」の原型と表現できるのではないか。
いずれにせよ、スマートモブズ論の観点から見ても、わが国で起きている事態は非常に注目すべき現象であり、今後も引き続き注視していく必要があるだろう。
*1 "Hotwired" 2003年7月5日記事「全米各地に広がる神出鬼没のモブ(群集)イベント」<http://www.hotwired.co.jp/news/news/culture/story/20030710203.html>
*2 このきわめて感情的な反発の背景には、ロンドンやニューヨークでのフラッシュモブを報じる朝日新聞の8月13日付の記事(http://www.asahi.com/international/update/0813/008.html)で、「このようなネット上でのいたずら的なイベントはこれが世界初である」という記述があり、ネットユーザの猛反発を喰らって即座に訂正されたという事件があった。現在、同記事は削除されている。
*3 <http://www.geocities.co.jp/Technopolis/3247/>
*4 2ちゃんねるでは、ある一つの分野を扱う掲示板のことを略して「板」と呼ぶ。「ニュース速報」「海外サッカー」等。
*5 スレッド(糸)の意で、一つの話題を扱うトピックを指し、「スレ」と略される。1スレッドには1,000の発言が収容可能。一つの分野の板にスレッドが数百存在している。
*6 <http://news6.2ch.net/test/read.cgi/mnewsplus/1067934946/>
*7 <http://www.sfc.ne.jp/~shibu/diary/?date=20030927#p01>
*8 <http://off.2ch.net/offreg/> 2chには定期off、突発off、大規模offの三つの板が存在している。
*9 <http://fuji1515.at.infoseek.co.jp/index.html> これは「既存マスメディアへの対抗性」という新たな側面を打ち出したという点で、2chの歴史上でも大きな出来事であった。
*10 <http://www.remus.dti.ne.jp/~yomo/report/sinjuku/index.html>
*11 <http://rip.s27.xrea.com/disp.cgi?sub=lt_tukki>
*12 <http://yorinuki.at.infoseek.co.jp/negichri02.html>
*13 <http://www2.mnx.jp/carvancle/yoshigyu/>
*14 <http://matrix.off-kai.info/>
*15 <http://matrixinjapan.cool.ne.jp/Mareixreloaded0rd1rd.htm>
*16 <http://off.2ch.net/offmatrix>
*17 <http://homepage2.nifty.com/kajipon/jojo3.htm>
*18 <http://members.at.infoseek.co.jp/kandenshi/orizuru/>
*19 Movable TypeやtDiary等のweblog/日記ツールの機能で、ある記事に関して「私もあなたの記事を話題にしています」という印を送信する。
*20 ラインゴールドは、「スマートモブズ」の中で、政治的な運動が携帯電話やEメールで組織化され大規模化することを指摘し、それが従来の政治運動の枠を超えた新たな政治的パワーの発露であると述べている。