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2004 - June 2, 2004

スマートモブ化する韓国のe-democracy

June 2, 2004 [ 2004 ] このエントリーをはてなブックマークに追加

庄司昌彦(GLOCOM研究員)

 

■韓国のネットユーザーと政治

 コンピュータや携帯電話を駆使して協力関係をつくり、バーチャルな世界だけではなく現実に大きな力を発揮する人たちが出現してきている。ハワード・ラインゴールドはその著書『スマートモブズ』(2003年、NTT出版)で、「モバイルでパーベイシブな環境、ウェアラブルコンピューティング技術、集合的コンピューティング技術に支えられ、時には評判システムを頼りに、直接知らない人々とも互いに協力して行動する人々」の登場を描き、彼らを「スマートモブズ」と呼んだ。

 2002年に当選した韓国の盧武鉉大統領は、地縁・血縁ではなく、インターネットや携帯電話などの情報技術を駆使する市民の盛り上がりに支えられていたことで有名である。盧大統領の支持者たちは、世界で最初に大統領を誕生させたスマートモブズであるといえよう。2004年4月15日に行われた第17回国会議員選挙でも、彼らは興味深い行動をとった。

 今回の選挙では、大統領の弾劾決議を可決させた多数野党のハンナラ党・民主党が低迷し、盧大統領を支える少数与党のウリ党が議席を3倍増させる大躍進をした。ウリ党の勝因としては、伝統的な地域主義を超えて支持が広がったことや、ウリ党に政治的立場が近くインターネットに親和性の高い若年世代の投票率が上昇したことなどが挙げられている。

 韓国では、若年世代の投票率上昇や政治的議論の活発化など、現在の日本の状況と比較すると大変興味深い現象が起きているようだ。そこで以下では、日本におけるネットと政治や政策の関係を考える際の参考とするために、韓国のe-democracyの現状を示し、それについて考察を加えてみたい。

 今回の選挙の最大の争点は、3月12日に可決された大統領弾劾決議の是非であった。この決議の直後から、盧大統領支持者たちの抗議行動はこれまでにない盛り上がりを見せた。具体的には政治をテーマとするウェブサイトが増加し、また政党の掲示板だけではなく同窓会サイトやアイドルのファンサイトなど、政治をテーマとしないウェブサイトの掲示板までもが選挙関連の話題でにぎわった。また、弾劾決議に対する抗議集会は全国約60カ所で組織され、30万人が集会に参加し、45万人がインターネット中継を視聴した。

 

■政治をテーマとするウェブサイト

 政治をテーマとするウェブサイトは、ニュース、解説・議論サイト、パロディの3種類に分類できる。今回ウリ党の勝利に貢献した支持者たちは、日課のようにこれらを巡回していたそうだ。

 ニュースサイトの代表格はOhmyNews(http://www.ohmynews.com/)である。このサイトは2000年に創刊し、盧大統領の誕生に大きな役割を果たして有名になった。そして他のメディアを押しのけて盧大統領の就任初会見を果たすなど、いまや韓国で主要紙と同等の影響力を持つメディアに成長した。

 解説・議論サイトとしては、政治をテーマとしたウェブマガジンであるseoprise(http://www.seoprise.com)や時事政治を扱うライブイズ(http://www.liveis.com)がある。これらのサイトでは、選挙戦についての情勢分析が提供され、選挙運動に役立ったそうだ。その他、ネイバー(http://www.naver.com)等主要なポータルサイトがアンケート調査を行い、世論形成に影響を与えたそうである。

 パロディサイトでは、ニュースや政治家をネタにした合成写真や動画、フラッシュ等の作品が盛んに公表され、若者の関心を集めた。このような活動を韓国ではPoliticsとEntertainmentを足して「ポリテインメント」というと、ある掲示板で紹介されていた。このようなパロディサイトの代表格は、メディアモブ(http://www.mediamob.co.kr)である。ここでは、「ヘッディングライン」というパロディ動画ニュースを制作して公開している。このコンテンツは大変人気を博し、KBS(地上波の国営放送)でも週4回放送されるレギュラーコーナーになった。その他にも、ラジオ21時(http://www.radio21.co.kr)、DCインサイド(http://www.dcinside.com)、タンジ日報(http://www.ddanzi.com)といったサイトが人気を呼んだそうである。

 

■投票依頼

 ウリ党の支持者たちは、20代・30代の人々の投票率を上げなくてはウリ党が勝利することは難しいと考えていた。そのうえ選挙キャンペーン中、ウリ党のリーダーが問題発言によって有権者に謝罪するなどのミスを犯し、投票3日前の時点で与野党の支持率は伯仲し勝利が危ういものとなっていた。そこで支持者たちは、最後の瞬間まで、さまざまなメディアを駆使し、若者に対する投票依頼を活発に行った。友人知人に携帯電話をかけ、携帯メールを送り、チャットや電子メールなども用いて選挙が非常に接戦であることを伝え、投票を依頼したのである。SKテレコムによると、投票日当日の携帯電話コールと携帯メールのトラフィックは通常の日よりも25%多かった。

 その結果、投票率は2000年の総選挙よりも2.7ポイント高い60.6%となった。特にソウル市の投票率は前回より7.9ポイントも上昇した。20代・30代の人々は、約半数がウリ党に投票した(50代の人々の約半数はハンナラ党に投票した)。30人~40人のウリ党候補者が数十~数百票差で勝利したことを考えると、このラストスパートは、ウリ党の勝利に大きな貢献をしたといえるだろう。

 このようにウリ党支持者たちは、簡便なコンテンツ制作技術と情報共有技術を使いこなし、大統領の座に続いて、世界で初めて与党の座を手に入れたスマートモブズとなった。支持者たちがそれぞれネタを楽しみ、相互に働きかけあう行為を積み重ねるなかから、党の組織的なキャンペーンを補完する大きな力が創発したという点が、いかにもスマートモブ的である。

ハンナラ党は「デジタル政党」を志向へ

 他方、選挙における情報技術の影響力の大きさを痛感したハンナラ党は、すぐに党改革に乗り出した。まず朴代表が、選挙後の記者会見で「デジタル政党」への脱皮を宣言し、すぐさま当選者全員を対象とする研修会を8回実施した。そこでは「一方向的な旧来のマスメディアの読者のような、ネットワークにつながっていない、沈黙する多数にはもう影響力がない」などという講義がされた。またハンナラ党は、デジタル政党化を検討するタスクフォースを設置し、オンライン投票で選出したネット利用者の代表を党の意思決定に参画させることを検討している。このハンナラ党の方向転換は、有権者像の転換、すなわち「訴えかけ、お願いする対象」から、「コミュニケートし、協力して世論や行動を作り出す仲間」への転換を意味している。

 

■韓国の現象をどう捉えるか

 以上のような韓国の現象を、私たちはどう捉えればよいだろうか。韓国でしか起こり得ない独自の現象と捉えるべきか、それとも、日本でも同じような盛り上がりが起こりうると捉えるべきか。

 韓国の独自性に着目する前者の立場をとるならば、たとえば、両国のブロードバンド普及率の差異や、軍政への抵抗運動によって民主的制度を一つずつ勝ち取ってきた韓国の歴史などを理由に挙げることができるだろう。また、ネット文化は言語圏ごとに経路依存性がある、などと掘り下げることもできるかもしれない。

 だが逆に、日本でも今後盛り上がる現象が韓国で先行して現れている、と捉えることも可能だ。その場合、いくつか韓国と日本の共通点を見出すことができる。たとえば日本でも、OhmyNewsと同じ市民記者制をとるインターネット新聞JANJANや日刊ベリタ等が生まれている。アクセス数や知名度、影響力ではOhmyNewsに遠く及ばないが、アクセス件数は現在1日10万ページビュー(2003年11月のJANJAN)と、これらのウェブサイトは成長を続けているようである。また、日本でも政治を笑いのネタにすること自体は全く珍しいことではない。インターネット発の現象に限ってみても、巨大匿名掲示板の「2ちゃんねる」などでは、政治家をパロディのネタにし、多数のデジタルコンテンツが作られるようなことがときどき起きている。たとえば、2002年に鈴木宗男衆議院議員(当時)が北方領土で建設に尽力した建物が「ムネオハウス」と呼ばれていると明らかになった際には、宗男(ムネオ)氏をネタにしたハウス音楽「ムネオハウス」が作られ、そこから派生したCDジャケット、フラッシュ作品等が盛んに作られ、オンライン・オフラインで盛り上がりを見せたことがあった。これは韓国でのパロディ文化と、質的な差はあまりないであろう。

 筆者の立場は後者に近い。この韓国の事例は、スマートモブ化する人々と政治のかかわりについて注目すべき事例であり、そして、いずれは日本でも同様の盛り上がりがあるのではないかと考えている。

 ただし人々がスマートモブ化することが、政治をより民主的にするとか、より優れた政策を生み出すといった効果に結びつくとは限らない点には注意が必要だ。ラインゴールドも言及しているが、スマートモブ化とは人々の協力のあり方の変化であり、結果の善し悪しとは関係ない。同じ力をポピュリズムに使い、独裁者を産みだすこともできるのである。

 

参考

  1. ハワード・ラインゴールド著、公文俊平・会津泉監訳[2003]『スマートモブズ“群がる”モバイル族の挑戦』NTT出版
  2. 竹井弘樹「韓国インターネット事情(All About Japan)」
    <http://allabout.co.jp/career/netkorea/>
  3. OhmyNews (international)
    <http://www.ohmynews.com/>
  4. 朝鮮日報(日本語版)
    <http://japanese.chosun.com/>
  5. 東亜日報(日本語版)
    <http://japan.donga.com/>
  6. 要.CC 
    <http://kaname.cc/>
  7. 3asian.com掲示板「IT先進国の韓国、オンラインデモクラシーのモデル(1)(2)(3)」
    <http://www.3asian.com/zboard/zboard.php?id=sp_news&page=1&category=&sn=off&ss=on&sc=on&keyword=&select_arrange=headnum&desc=asc&no=147>