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2005 - June 1, 2005

次世代ICT社会へ向けた指針案ユビキタスネット社会憲章

June 1, 2005 [ 2005 ] このエントリーをはてなブックマークに追加

  • 講師: 今川拓郎
  • 総務省情報通信政策局総合政策課課長補佐(兼)情報通信政策研究所主任研究官

 4月4日のIECP研究会は、総務省情報通信政策局総合政策課の今川拓郎氏を講師に迎え、「次世代ICT社会へ向けた指針案~ユビキタスネット社会憲章」と題して開催された。講師の今川氏によると、憲章とは「国家や団体が理想として定めた大切な原則」であり、「ユビキタスネット社会憲章」前文には、「この憲章は(中略)すべての人に対し、ユビキタスネット社会の実現に向けてICTの潜在力を有効な手段として利用するための基本原則と共通認識を呼びかけるものである」とある。

 では、なぜ総務省でこのような憲章を制定するに至ったのだろうか。研究会ではその経緯等について今川氏からお話をうかがい、その後、資料として配布された「ユビキタスネット社会憲章(案)」の条文について、具体的な意見交換が行われた。なお、憲章案については2月にパブリックコメント募集が行われ、まもなくそれらを踏まえた最終案が公表される予定とのことである。

 今川氏による講演の概略は、以下のようであった。

u-Japan政策について

 IT戦略本部(本部長: 小泉純一郎首相)の本年の重要なテーマとして、e- Japan戦略の評価と次期IT戦略の策定がある。

 e-Japan戦略は、2001年1月に「5年以内に世界最先端のIT国家」という目標を掲げてスタートし、2003年7月にはe-Japan戦略IIとして、インフラ整備から利活用重視へと大きく舵を切って推進されてきた。2005年はこのe-Japan戦略の目標年にあたる。IT分野は構造改革のなかでも優等生で、「2005年世界最先端」が視野に入ってきたとはいえ、何をもって世界最先端というのか、日本の強い部分と弱い部分、進んでいる分野と遅れている分野など、総合的な評価が問われている。

 同時に、次の5カ年を見すえた次期IT戦略を策定しなければならない時期でもある。IT政策については、産業面を経済産業省、ネットワーク整備面を総務省が担っており、総務省では2004年3~12月、「ユビキタスネット社会の実現に向けた政策懇談会」(座長: 村上輝康NRI理事長)を設けて、次期5カ年のネットワーク整備に係る中期ビジョンの検討を行った。その中から生まれたのが、u-Japan政策「ユビキタスネット社会の実現に向けた政策懇談会」の最終報告書は、総務省のホームページに掲載。 <http://www.soumu.go.jp/s-news/2004/041217_7.html>である。「u」はユビキタスを意味する。「次世代の社会はユビキタスネットワークに向かっている。方向がユビキタスであることは間違いない」ということは懇談会の一致するところであり、次期IT戦略の柱もユビキタスになる可能性が高いという。

ユビキタスネット社会とは

 ユビキタスネット社会とは、生活・産業の隅々にまでICTICT (Information and Communications Technology)、IT (Information Technology)ともに「情 報通信技術」と訳されるが、最近ではコミュニケーションを重視する意味合いからICTが使われる ことが多い。国際会議ではICTが標準ということもあり、総務省でも最近はICTを採用していると のことである。IECPレポートが行き渡り、いつでも、どこでも、何でも、誰でも簡単にICTを利用できる社会である。キーになるのは無線によるネットワークで、携帯端末や無線タグ(RFID)の間で情報がスムーズに交換され、必要なときにどこからでもその情報を取り出すことができる。画像や音声による通信が進歩して、企業や個人間のコラボレーションがより容易になる。災害用伝言板サービス、電子カルテシステム、食品トレーサビリティ、電子投票、サプライチェーンマネジメント、自立移動支援システムなど、すでに実現・実用化されている技術も多い。ユビキタスネット社会では、これらの技術がさらに社会に広く浸透して、ほとんどの国民がICTの恩恵を受けられるようになる。

 今川氏によると、これがおそらく2010年に日本で実現しているであろう社会「u-Japan」である。u-Japan政策では、この社会を「草の根のように生活の隅々にICTが溶け込むことで、新しい価値が地域・個人から湧き出てくる社会」と位置づけ、「価値創発」というキャッチフレーズで呼んでいる。

u-Japanの政策パッケージ

 u-Japan政策は、目標を「2010年に世界最先端のICT国家として世界を先導」に置く。それを実現させるための施策は「ユビキタスネットワークの整備」「ICT利活用の高度化」「利用環境整備」という3つの基本軸において展開されることになる。それぞれの基本軸において、2010年までに達成すべき目標が以下のように示されている。

[基本軸①]シームレスなユビキタスネットワークの整備
国民の100%が高速または超高速を利用可能な社会に※有線から無線、ネットワークから端末、認証、データ交換等を含め、継ぎ目のないネットワーク環境を整備
[基本軸②]社会課題解決型のICT利活用高度化
国民の80%がICTは課題解決に役立つと評価する社会に※社会システム改革等により、医療・福祉、環境・エネルギー、防災・治安、教育・人材等の21世紀の課題を解決
[基本軸③]利用環境整備で普及浸透に伴う不安を解消
国民の80%がICTに安心感を得られる社会に※ICT安心・安全21戦略を策定すると共にユビキタスネット社会憲章を制定し、世界に発信

 これを見てわかるように、ユビキタスネット社会憲章の制定は、基本軸③において「国民の80%がICTに安心感を得られる社会に」するための施策と位置づけられている。

ユビキタスネット社会憲章の意義

 ユビキタス技術は、医療・福祉・教育・人材・治安・防災などさまざまな分野における課題解決が期待される一方で、個人情報の漏洩、ネット上の悪質商法、違法コピー、コンピュータウイルス、迷惑メール、有害コンテンツといった負の部分もはらんでいる。こういったICTの「影」の部分に対して抜本的に取り組むことなしに、国民の誰もが安全・安心にネットを利用できる社会の実現はありえない。そのために民(生活者)産(産業界)学(学会)官(国・地方自治体)が連携して取り組むべき方策を10カ条にまとめたのが、ユビキタスネット社会憲章である。

 憲章案の構成は、以下のようになっている「ユビキタスネット社会憲章(案)」の全文については、総務省のホームページを参照。 <http://www.soumu.go.jp/s-news/2005/050118_1.html#bt01 >

  • 前 文
  • 第1章 自由で多様な情報流通
    • 第1条 情報の受発信に関する権利
    • 第2条 情報内容の多様性
    • 第3条 経済社会の情報化
    • 第4条 情報活用能力(リテラシー)
  • 第2章 安心で安全な情報流通
    • 第5条 プライバシー
    • 第6条 情報セキュリティ
    • 第7条 知的財産権
    • 第8条 情報倫理
  • 第3章 新たな社会基盤の構築
    • 第9条 現実社会とサイバー社会の調和
    • 第10条 地域的・国際的な協調・協力体制

 また今川氏によると、ユビキタスネット社会憲章の制定にあたっては、日本の強みである次世代ICT社会のルールづくりにおいて、積極的に国際貢献したいという意図もあった。憲章が、国内的にはICT利用環境の整備に向けたルールづくりの指針として活用されるとともに、国際的には世界情報社会サミット(WSIS)等を通じて、国際社会へ向けた情報発信に利用されることを期待したいとのことであった。憲章案に対する意見交換講演後の質疑応答では、以下のような意見が出された。

  • ICT世界最先端と胸を張って言える状況かどうか。アジアの成長がめまぐるしいなかで、日本の産業界には依然として閉塞感がつきまとう。
  • 規制改革の視点を明確に入れていただきたい。たとえばソフトウェア 無線では、規制のために実用化が立ち行かない現状がある。
  • 第4条4に「外来語の使用を可能なかぎり避け」とあるが、テクニカルタームについては無理に日本語化すると余計に意味不明になることがある。
  • 条文の主語が明記されていないものがあり、誰に向けられたものなの か曖昧な部分がある。
  • セキュリティに関してはマネジメントシステム、人材、ツールで押さえるしかない。情報セキュリティにおける専門家の育成を強調すべきではないか。
  • これだけ包括的な内容を10カ条にまとめるのは難しい。とくに環境問 題への貢献に関しては独立した条を設けるべきではないか。

 これらの意見に対し、今川氏からは、懇談会での議論にも言及しながらの説明があり、修正の余地があるものについては検討したいとのことであった。最後に、「とくにICT分野に関しては、役人の知識だけでは対処できないテーマが多い。外部の知見を求めていることもあり、何でも遠慮なくご意見をお寄せいただけるとありがたい」という今川氏の言葉で、研究会を締めくくった。

 (編集部)