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2005 - July 10, 2005

isedについて

July 10, 2005 [ 2005 ] このエントリーをはてなブックマークに追加

東浩紀

GLOCOM主幹研究員

 国際大学グローバル コミュニケーション センターは現在、情報社会 論のフロンティアを切り拓く新しい研究所に生まれ変わるため、さまざ まな挑戦を行っています。「情報社会の倫理と設計についての学際的研究 (Interdisciplinary Studies on Ethics and Design of Information Society)」プロ ジェクト、略称「ised」「ised@glocom」は、その柱の一つです。

 isedは、東浩紀主幹研究員の総合的なディレクションのもとで、2004年 10月から2006年1月にかけて全14回開催される公開の研究会です。isedは 「倫理研」と「設計研」の二つの部会に分かれ、毎月高密度の講演と共同討 議を行い、新しい情報社会論のパラダイムを探ることを目的としています。

 研究会の構成員は20代および30代に限定し、情報社会の次の局面を切り 拓く活動・研究を行っている新世代の起業家、研究者、技術者、ブロガーに 集まっていただきました。大学の内外から、産学の境界を跨ぐかたちで多領 域の専門家に委員として加わっていただいているのは、この研究会が、従来 の情報社会論の枠組みに捕らわれず、マイケル・ギボンズが「モード2」と 呼ぶ新しい知の形態を目指しているからです*1。人文系の理論構築に関する このような試みは、国際的にも先進的なものだと言えます。

 isedの記録および関連資料はすべてネット上で公開し、2005年6月現在、 8回の研究会が開かれ、6回分の議事録がアップロードされています。その 歩みを簡単に要約すれば、以下のとおりです。

 倫理研は、情報社会の倫理的問題を多角的視点で考えることを目的として います。コンピュータを介したコミュニケーションが主流になると、情報発 信者の特権性が失われ、メタレベルでの言及や批判も行いやすくなるため、 言説空間の安定性が失われます。第一回の鈴木謙介氏はこの特徴を「サイ バーカスケード」というキーワードで整理し、第二回の白田秀彰氏はそれを 「開放系」というより抽象的な概念へと発展させました。続けて第三回の北 田暁大氏は「インターネットにおける公共圏の成立不可能性」を説く重要な 講演を行いましたが、同回の共同討議では、委員より、逆に「インターネッ トにおける公共空間の確立を探るのではなく、むしろ私的空間の確保こそ が倫理的観点からは重要なのではないか」という逆提案がなされました。第 四回の加野瀬未友氏は、以上の議論を受けて、日本のネット・コミュニケー ションにおいて公私の感覚がどのような役割を果たしているのか、ブロガー としての長年の経験を踏まえた興味深い報告を行っています。今後の倫理研 では、「情報社会において私性とはなにか」を軸として、理論・実践の両面 から活発な議論を行うことになるでしょう。

 他方、設計研は、情報社会を導く新たな設計思想を多角的視点で探ること を目的としています。情報社会の成立については、現在、自己生成や創発性 といった概念、すなわち設計の不在による設計に注目が集まっています。し かし、それは本当にそうなのか。第一回の石橋啓一郎氏は、インターネット の成立史を追いながら、設計思想ではなく、むしろ設計の「場」の性質こそ が重要なのだと指摘を行いました。第二回の八田真行氏は、それを受けて、 よき設計の場を作るための条件として、「再定義可能性」という概念を提案 しました。第三回の楠正憲氏は、IT業界におけるさまざまな標準生成のメ カニズムを紹介しながら、そもそも情報社会の設計は不可能なのではない か、という大きな問題提起を行いました。以上の議論を受けて、第四回以降 は、個別の領域において情報技術が設計思想をどのように変える可能性があ るのか、長期的視野から検討が行われています。第四回の井庭崇氏は、プロ グラミング・リテラシーの普及が教育や共同作業の在り方をどのように変え ていくのか、公開実験の模様などを紹介しつつ刺激的な報告を行いました。

 このように、isedはすでに、マスコミを騒がす通俗的なメディア論やネッ ト論とはまったく異なった、高水準でハイブリッドな知的フロンティアを拓 きつつあり、その成果も着々と蓄積されています。isedの議事録の全文は、 http://www.glocom.jp/ised/ よりアクセスすることができます。以下のページ では、委員の一部の方より、担当された講演概要と研究会を終えての感想に ついて原稿を寄せていただきました。

 isedの各研究会は、事前に事務局に申請を行えば聴講することができま す。お問い合わせは、ised-info@glocom.ac.jp までお願いいたします。

開催スケジュール:講演者
倫理研(Ethics) 設計研(Design)
E1:2004年10月:鈴木謙介 D1:2004年12月:石橋啓一郎
E2:2005年1月:白田秀彰 D2:2005年2月:八田真行
E3:2005年3月:北田暁大 D3:2005年4月:楠正憲
E4:2005年5月:加野瀬未友 D4:2005年6月:井庭崇
E5+D5:高木浩光 E5+D5:近藤淳也
(合同シンポジウムを予定) (合同シンポジウムを予定)
E6:2005年10月:辻大介 D6:2005年11月:鈴木健
E7:2005年12月:小倉秀夫 D7:2006年1月:村上敬亮

*1 マイケル・ギボンズ(編著)『現代社会と知の創造』丸善ライブラリー、1997年。