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2005 - July 1, 2005

企業における情報管理の重要性と構築へのアプローチ

July 1, 2005 [ 2005 ] このエントリーをはてなブックマークに追加

講師: 赤羽洋一

富士ゼロックス株式会社営業統括本部General Project Manager

── 9.11テロで世界貿易センタービルが崩壊する直前、ビルから大量の書 類がハラハラと舞い落ちてきた衝撃的な映像をご記憶の方も多いと思う。あ のとき契約書類を失ったために、多額のペナルティを払って事業撤退せざる を得なかった金融・証券会社が多かったなかで、M社(米国系証券会社) だけは1日分の文書の損失だけで営業を再開することができた。紙文書を電 子化してネットで閲覧できるシステムを構築していたからである。

 (講演より)

 5月16日のIECP研究会は、富士ゼロックス(株)営業統括本部の赤羽洋 一氏を講師に迎え、『企業における情報管理の重要性と構築へのアプローチ』 と題して開催された。講師の赤羽氏は、富士ゼロックスのe-文書イニシア ティブGPMとして民間企業のe-文書導入プロジェクトに携わる一方、日本 情報産業機器協会のe-文書ワーキンググループ主査として、IT戦略本部、 国税庁、経済産業省等との調整にあたってこられた。講演では、この4月に 施行されたe-文書法の概要と成立に至った経緯、企業がe-文書を導入する メリット、企業の情報ガバナンスやリスク管理とのかかわり等についてお話 をうかがった。

 赤羽氏による講演の概要は以下の通りであった。

e-文書法の概要

 e-文書法とは、「さまざまな法令によって書面による作成・保存が義務付 けられている書類について、原則すべて電子的作成・保存を容認する」とい う法律である。通則法と整備法とで構成されるが、通則法の正式名称を「民 間事業者が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する法律」 といい、2004年11月19日に成立、05年4月1日から施行された。これによ り、最初から電子的に作成された書類だけでなく、紙文書で作成された書類 であっても、スキャナでイメージ化すれば電子文書(e-文書)での保存が認 められるようになった。ただし、その場合、以下の技術要件を満たしている ことが求められる。

●真実性の確保:
 データの改ざんが防止でき、変更等の履歴が確実に記録されること
●可視性の確保:
 容易に見たり読んだりできること

 前述のように、e-文書法は通則法と整備法とから成る。書面による作成や 保存を義務付ける条項を含む法律は251本(内閣官房IT担当室資料による) に及ぶが、通則法の規定は、関連する個々の法律の条項が改正されていなく ても適用されることになる。また、通則法の規定だけで対応できないものに ついては、整備法によって定めることになっている。

e-文書法成立の経緯

 企業のIT化が進んだ1990年代半ばから、財務書類や税務書類の電子保存 を認めて欲しいという要望が経済界から強く出され、1998年には電子帳簿 保存法が成立した。ただし、この法律が対象としているのは最初から電子的 に作成された書類であり、紙で受け取った申込書や見積書等については対象 外とされていた。これは、スキャナで読み取ったものでは改ざんの跡を検知 できないから、という理由による。その後、「電子署名」や「タイムスタンプ」 などの技術が進んだこともあり、紙文書の電子化保存を認めるにはどういう 技術要件が必要かという議論が、国税庁を中心になされてきた。

 またIT戦略本部は、2003年7月の「e-Japan戦略II」において、行政サー ビスにおけるIT利活用の観点から、「電子的な保存が認められていないもの の電子的な保存を認める方向」で検討を進めるとしている。これがe-文書 法という形で言及されたのは、2004年2月の「e-Japan戦略II加速化パッケー ジ」においてである。e-Japan戦略II加速化パッケージは、e-Japan戦略IIを 加速化させるために、特に政府として取り組むべき重点施策を明らかにした もので、次の6分野が挙げられている。

  1. アジア等IT分野の国際戦略
  2. セキュリティ(安全・安心)政策の強化
  3. コンテンツ政策の推進
  4. IT規制改革の推進
  5. 評価
  6. 電子政府・電子自治体の推進

 このうち「4. IT規制改革の推進」における取り組みの一つに「e-文書イ ニシアティブ」があり、その中でe-文書法の制定が表明されている。

(1)e-文書イニシアティブ
 法令により民間に保存が義務付けられている財務関係書類、税務 関係書類等の文書・帳票のうち、電子的な保存が認められていないも のについて、近年の情報技術の進展等を踏まえ、文書・帳票の内容、 性格に応じた真実性・可視性等を確保しつつ、原則としてこれらの 文書・帳票の電子保存が可能となるようにすることを、統一的な法律 (通称「e-文書法」)の制定等により行うこととする。このため、電子 保存の容認の要件、対象範囲等について早急にとりまとめ、2004年6 月頃を目途にIT戦略本部に報告を行い、法案を早期に国会に提出す る。

 また、2004年6月の「e-Japan重点計画2004」においても、「e-文書イニ シアティブの実現」が具体的施策の一つとして明記されていた。

経済産業省「文書の電磁的保存等に関する検討委員会」最終報告書

 このように、当初、「紙文書を捨てても税務調査が行えるようにするには どうしたらいいのか」という議論から始まったe-文書法であるが、赤羽氏 によると、ここにきて経済産業省を中心にトーンが変わってきているとい う。すなわち、日本版SOX法(企業改革法)に文書の電子化が寄与するの ではないか、というのである。

 経済産業省では、2004年10月に「文書の電磁的保存等に関する検討委員 会(座長:田中英彦情報セキュリティ大学院大学情報セキュリティ研究科長・ 教授)」を設置して、文書の電子化の促進を図るための検討を行ってきたが、 本年5月に出された最終報告書を見ると、企業統治・コンプライアンス経営 を強く意識したものとなっている。例えば、「はじめに」の中の次のような くだりである。

……e-文書法の施行によって、税務や財務関連の書類や帳票の保存の 電子化が進めば、文書管理、アーカイブのための新たな情報システム の導入、関係する業務フローの改革や人的資源の配分の見直しなど、 IT技術の活用はもとより、内部組織・規定の充実、人材育成など、 企業等における情報管理の仕組み自体の改革が促進されていくことが 期待される。「e-文書イニシアティブ」は企業等における戦略的な情 報共有の促進と、そのために必要となる情報の共有・保存に関するコ スト削減、業務効率化、情報漏洩等のリスク低減を加速化することを 狙いとしているのである。
 実際、企業等においても、戦略的 IT投資を進めていく中で、全社 的な情報共有に関する共通 IT基盤の構築が大きな課題となりつつあ り、コンプライアンス経営に関わるリスク管理も念頭に置きつつ、同 時に、より効率的・効果的な情報の共有・保存を進めることのできる 文書管理システムの構築は喫緊の課題となっているとも言えよう。こ うした、企業等が業務遂行上保存・共有しなければならない情報は、 通常、業務文書として保管・共有されるが、これらを文書の種類別に 整理をし、必要な機密性・完全性を持って保持する仕組みの構築を進 めることは、企業等の活動に必要不可欠のインフラとなりつつある。
(一部抜粋)

e-文書導入の効果は保管コスト削減だけではない

 e-文書法の規定は「紙文書の代わりにe-文書で保存してもかまわない」 ということであって、「e-文書で保存せよ」ということではない。したがっ て、これまで紙文書で保存してきたものをe-文書化するかどうかは、企業 の判断に任されることになる。では、企業が紙文書をe-文書化するメリッ トはどこにあるのだろうか。

 まず挙げられるのが、紙文書の保存コストの削減である。紙文書の保存コ ストとは、倉庫代・運搬代・廃棄代・保管書類の一覧を作成するコスト・こ れらにかかる人件費等で、経済団体連合会(経団連)の試算によると、産業 界全体で年間3,000億円に上るという。e-文書導入によってこれらのコスト が削減できるというのは、企業にとって非常に分かりやすい。

 しかし、赤羽氏によると、e-文書導入のメリットはもっと企業の経営全般 にかかわるところにあるという。それを示すのが、先に挙げた「文書の電磁 的保存等に関する検討委員会」の最終報告書にある「文書の電磁的保存等に より期待される効果」である。項目だけを示すと次のようになる。

●業務コストの削減
 作業効率の向上、作業人件費の削減、保管コストの削減
●企業競争力の強化
 法令順守(コンプライアンス)への対応と信頼性の向上、顧客満足度の向上
●リスク管理
 情報共有化によるリスクの早期解決、情報の機密性の強化、災害等への対応が可能
●その他
 環境問題への対応、テレワークの実現への貢献等

 つまり、単なる保管コストの削減にとどまらず、業務の効率化、内部統 制、コンプライアンス、リスクマネジメント、企業の社会的責任(CSR: Corporate Social Responsibility)等、まさに企業経営全般にわたって効果が 期待できるというのである。

企業の説明責任が求められている

 西武鉄道の有価証券報告書の虚偽記載、カネボウの粉飾決済など、大企業 の不正会計・情報隠蔽が相次いで明らかになっている。個人情報の漏洩事件 も後を絶たない。企業の社会的責任や企業倫理が問われるなかで、東京証 券取引所は本年1月より上場企業に宣誓書の提出を求めるなど、上場企業の 情報開示に関する規制を大幅に強化している。また先日の報道によると、金 融庁は不祥事防止のために証券取引法を改正し、2008年度より全上場企業 を対象に、内部管理や意志決定過程の文書化を義務付け、公認会計士が会計 監査の際にチェックする制度を導入する方針を打ち出している。上場企業に は、これまでの財務諸表に加えて、日々の業務遂行や内部管理の状況、取締 役会の意思決定過程などをすべて文書化する義務が加わるのである。

 赤羽氏は、こういった流れの中でe-文書法を捉えるべきだと言う。実際 に企業では、デジタルデータによる業務プロセスと、データの元(証拠)と なる紙文書との連携がうまくできていないことが多い。何かトラブルが起き たときに、なかなか元の紙文書にたどり着けない。記録管理(レコードマネ ジメント)ができていないのである。

 赤羽氏によると、これから企業が競争力を強化させていくためには体系的 な記録管理が欠かせない。デジタル情報と紙文書を一元管理することで、記 録管理のハンドリング環境の構築が可能になる。これが企業の透明性強化・ 格付け向上・資金調達の優位性につながり、ひいては企業の社会的責任を果 たすことにもなるということであった。

2005年5月16日開催(編集部)