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2005 - August 10, 2005

新生GLOCOMの組織体制

August 10, 2005 [ 2005 ] このエントリーをはてなブックマークに追加

  • 丸田一
  • GLOCOM副所長

 グローバル コミュニケーション センター(GLOCOM)は、公文俊平所長の強力なリーダーシップのもと、インターネットがもたらす社会的影響を的確に予測し、研究のみならず事業活動や政策提言を積極的に進めて、情報通信技術が普及した最初の10年間に大きな役割を果たしました。この過程で内外からユニークな人材が参集し、GLOCOMは少なくとも日本において情報社会研究の中心地の一つと位置付けられてきました。

 しかし、GLOCOMは今、幾つかの課題に直面しています。

 一つは、ネットの人々の評判です。ここ数年間、情報通信技術はすっかり社会の隅々にまで浸透し、産業社会とは明らかに異質な情報社会の出現が共通理解になりつつあります。しかし、GLOCOMはそのような激しい社会変化に対応して、組織的に十分な軌道修正ができていたとは言えません。特に、ネット最前衛で活躍する人々からの評価を得られにくくなりつつあり、従来のスタイルで研究活動を続けていては、情報社会研究の牽引役たりえなくなっています。

 もう一つは、経営を巡る混乱です。一時、公文所長が経営の一線を退いたことで、GLOCOMの社会的信頼が低下するとともに、組織的な求心力が低下しました。また、ここ数年、所内では所長の後継を巡る争いが続いてきました。しかし、私はこれを蝸牛角上の争いといって切り捨てることができません。個人レベルの闘争としてではなく、GLOCOMが情報社会研究の中心地であるがゆえに、大げさに言えば、正統を模索する過程で生じた混乱という見方をしています。一体どのような「継承」がベストなのか、ある意味GLOCOMの存続を超えて真剣に考え直す必要があります。

新たな経営計画で世代交代

 こうした背景のもと、昨年7月、公文代表から諮問を受けて、東浩紀さんと増田康裕さん(前事務局長)とともに経営計画をまとめました。

 この計画の中核にある考え方は、二世代飛ばしの思い切った若返りであり、二十代・三十代の研究所を目指すというものです。U30(76)などと呼ばれる若者世代は、インターネットやポケベルを十代で日常的に経験しており、それ以前の世代と情報通信技術の親和性が決定的に異なっています。彼らを研究活動の中心に据えることで、よい意味での逸脱や突破が期待できます。また、ネット社会での評判を獲得し、新たな産学関係を築いていくこともできます。何よりも元気な研究所になることでしょう。

 私は残念ながら四十代ですが、輝かしい実績を誇る公文世代と、若者世代との橋渡し役を果たすという使命を感じます。それは、大げさに言えば産業社会と情報社会の橋渡しなのですが、具体的には獲得した評判や信頼を換金することであり、相対主義に陥りがちな若者世代に伝統的価値を伝えることであり、また歴史的な転換劇の裏舞台で深く傷つく若者達をサポートすることだと思っています。

 一方、経営については、所内の意思決定機関として研究者代表らから成る「運用委員会」を設け、共同連帯運営体制を構築します。また、四十代中心の産学官を代表する識者による「諮問委員会」を設け、GLOCOMの経営に大所高所から意見していただこうと思っています。このようにGLOCOMは、「研究は二十代・三十代、経営は四十代」という経営の世代分業体制をとっていきます。

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研究所組織の二層化

 経営計画の二つ目の考え方は、研究所組織の二層化です。GLOCOMは「研究基盤層(プラットフォーム層)」と「研究実施層」を設けます。

 優秀な若手研究者の多くは複数の肩書きを持ち、組織間を流浪しています。リスク・ヘッジや名誉職というケースもありますが、むしろ自ら欲するプロジェクトを効率的に展開できる場所を探し求めた結果と言えるでしょう。このような流動性を前提とした場合、活動場所が大変重要な意味を持ちます。「研究基盤層(プラットフォーム層)」は、このようなアクティブな研究者のための活動場所として、研究者のニーズに的確に対応したサービスを提供します。

 これまで大学の事務局は、教職員の管理が業務であると考えてきました。しかし、GLOCOMの研究基盤層は、研究者へのサービス提供を業務と考え、新しいタイプのサービス業を目指します。現在は、ネット環境の提供やスペース提供、事務支援機能、研究アシスタント・サービス機能にとどまっていますが、今後はロジスティック機能やセクレタリー機能、ライブラリー機能、ファイナンス機能などを拡充するとともに、幅広い研究者ニーズに応えるべくサービスのカスタマイズにも注力していきます。これが内外の優秀な研究者をGLOCOMに参集させる新しい魅力となるでしょう。

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 一方、研究者の関心領域がますます多様になるなかで、研究組織として知識生産性を追求する必要があります。しかし、確立された方法があるわけではありません。GLOCOMでは、研究分野や関心領域だけではなく、組織内の共感や研究作法の共有を重視して組織ユニットを作り、しばらくは実験的に組織運営を進めるべきだと考えています。

 そこで、「研究実施層」では、独自活動を志向する意欲的な研究者にリーダー(研究室長)として研究室を運営してもらうことにしました。各研究室は、研究領域や志向性はもちろん、規模やマネージメント方法もまちまちですが、それぞれの特性に合わせて経営ミッションや経営基盤層からの提供サービスを設定します。一方、研究員は、自分に適した研究環境を求めて、ある程度自由に所属を変えながらリーダー(研究室長)を目指します。

 このように、研究室単位で研究基盤のリソースを活用しつつ、さまざまなプロジェクトの立案と実施を進めます。一方で、研究室の島宇宙化が懸念されますが、現在ではむしろ研究室間の相互触発、相互交流が進んでいます。

 この経営計画に基づき、昨年9月から経営改革がスタートしました。若返りや組織体制の大幅な変更は、少なからず痛みを伴うものです。そこで、公文代表のリーダーシップのもとに改革を推進することにしました。目標としての二層制という水平的組織づくりを、責任体制が明確な階層的組織を手段に達成するという考え方です。

図3:組織図 図3

 現在の組織体制は、図3のとおりです。公文代表の下に、五つの研究室から成る「研究局」と「事務局」を配置しています。また、所内のネット環境やWebによる情報発信に注力する方針をとり、「発信編集局」を研究局と同格に位置付けています。ここでは、若手研究員が自前の環境づくりに取り組んでいます。私は公文代表のスタッフである副所長として改革を推進する立場にありますが、移行期間が終わり二層制に移行した段階で、研究室長に戻る予定でいます。

 改革はまだ始まったばかりですが、すでに多くの優秀な若者が参集しつつあり、改革の意欲が日増しに高まっています。こうした中で、「ポスト公文」という真の継承が進むことを期待しています。