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2005 - August 8, 2005

『勝者のIT戦略 ユビキタス時代のウェブメソッド革命』

August 8, 2005 [ 2005 ] このエントリーをはてなブックマークに追加

  • 講師:中島洋
  • GLOCOM主幹研究員/日系BP社編集委員

http://www.glocom.ac.jp/img/chijo/103_055.jpg

 6月1日、GLOCOM主幹研究員/日経BP社編集委員(兼MM総研代表取締役所長)の中島洋氏を講師に、IECP読書会が開催された。

 テーマ書籍『勝者のIT戦略』の主題は、システム統合によっていかにビジネス・プロセスを改革していくか、である。副題に「ユビキタス時代のウェブメソッド革命」とあるように、現在この分野で最も進んだサービスを提供しているウェブメソッド社へのインタビューや事例研究を交じえながら、IT(情報技術)が推進するビジネス革命の大きな流れと企業の経営課題を明らかにし、解決策を提案している。

 本書は、講師の中島氏がビジネス革命の部分を、ウェブメソッド(日本法人)代表取締役社長(当時)の小泉明正氏がそれを支える技術の部分を担当され、2月17日に開催された「ウェブメソッドインテグレーションワールド東京2005」に向けて、ほぼ十日間という短い期間で執筆されたということである。

インターネットの標準技術をEAIに応用

 ウェブメソッド社の特色は、インターネットをベースにした標準技術を一般のビジネス・システムに応用していく点にある。つまり、B2BなどのWebサービスのために標準規格化されたSOAP/UDDI/WSDLといった技術を、そのまま企業のシステム統合(Enterprise Application Integration: EAI)に使ってしまおうというアイデアである。

 EAIとは、従来企業の中にあってバラバラに開発されてきた業務アプリケーションを全体として連携させることである。ウェブメソッド社の手法は、その際にアプリケーションを1対1でつなぐのではなく、いったん標準技術であるWeb技術に変換する。ミドルウエアとして統合プラットフォームを作っておいて、そこにそれぞれのシステムを変換してつないでいくのである。例えば五つの異なるアプリケーションを1対1でつなごうとすると、新たに5C2 = 10通りのプログラムを開発する必要があるが、この方法だと五つのプログラムで済む。それだけ時間とコストを削減でき、トラブルも回避できるのである。またこの手法は、企業合併や企業間のコラボレーションにも柔軟に対応できることから汎用性が高い。

買収が可能にした最先端のWebサービス

 本書で扱われている技術の流れは次のとおりである。

  • (1)Web技術によるシステム統合(EAI)
  • (2)ビジネス統合
  • (3)BPM(ビジネス・パフォーマンス/プロセス・マネジメント)BAM(ビジネス・アクティビティー・モニタリング)
  • (4)洞察(insight)

 (1)のシステム統合は同時に、(2)のビジネス統合をひき起こす。システムが統合されたことで、今まで見えなかったビジネス・アクティビィティーの全体を見渡せるようになる。その結果、ビジネス・プロセスの無駄や不整合が明確になり、そこを改善することでビジネスの仕組みが変わる。(3)のBPM、BAMでは、ビジネス・プロセスをリアルタイムでモニターし、関係者に情報を共有させることができる。プロセス全体が見えることで経営者は効率化を図ろうとするだろうし、迅速な意思決定ができることで変化の激しい市場にも対応できる。これを中島氏は「ビジネス統合による敏捷性」と呼ぶ。また、可視性の高いシステムはコンプライアンス(法令遵守)経営の保証となるために、BAMを導入する企業も多いという。

 (4)の洞察では、AI(人工知能)によるパターン認識の技術が応用される。リアルタイムで流れているデータの構造をスナップショットで捉え、パターンとして認識する。異常事象(エンタープライズ・イベント)が起きると、近辺の状況をパターンとしてデータベースに記憶しておき(これをフィンガープリント=指紋という)、次に異常が起きそうな徴候を察知すると警告し、場合によっては回避する操作を自動的に行うのである。  実は本書には前段階の書籍がある。昨年3月に出版された『ウェブメソッド革命』(小泉明正・高島健夫共著、日経BP企画)である。ただしこの書籍が扱ったのは、(1)のWeb技術によるシステム統合だけであった。2003年10~11月、ウェブメソッド社はBAMソフトウエアのダンテ・グループ、ポータル・ソリューションのデータチャンネル社、SOA技術のマインドエレクトリック社を相次いで買収する。これらの買収で得た技術によって、ウェブメソッド社は(2)、(3)、(4)の機能を取り入れた製品群を昨年9月に発表、最先端のWebサービスを提供できるようになったのである。

システム統合の次の照準はRFID

 次世代がユビキタス社会であるのは間違いないと言われている。ユビキタスの要素技術の一つがRFID(無線ICタグ)である。  RFIDとは個体識別情報を記録した超小型の無線ICチップで、小型の無線アンテナを装備していて、読取装置に近付けると情報を知らせる。すでに実用化されているものとして、JR東日本の「suica」やNTTドコモの「おサイフケータイ」があり、また社員証に収納して施設への出入りや勤怠管理に利用している例もある。これがごく近い将来、さまざまなモノや人に貼付されて、食品トレーサビリティーやSCM(サプライ・チェーン・マネジメント)、あるいは環境・医療・福祉の分野にも応用されると期待されている。米国では、国防総省が調達品について本年中にRFIDを導入するようにサプライヤーに義務付け、またFDA(食品医薬局)が医薬品の偽造防止に利用しようという動きもある。

 ウェブメソッド社は、RFIDを「リアルタイム・ビジネス・インテグレーションを実現する道具」であり、「RFIDを統合プラットフォームと結び付けることで、情報を基点として業務プロセスの一貫化、自動化が可能になる」、さらに「BAMの機能を結び付けると、ビジネスの状況を可視化して端末画面に表示し、経営者や担当者らが直感的に問題を理解することを容易にする。その結果、ビジネス・プロセスの最適化、サプライ・チェーンの最適化などの行動が取れるようになる」と位置付け(本書、p. 173)、他のベンダーとの提携を進めている。

企業IT化の着目点

 最後に中島氏は、企業IT化において着目すべきポイントをいくつか挙げた。

  • (1)支配的技術を見通せるか
    • 急速に価格性能比が向上する技術
    • 社会システムを決定的に変える新技術
  • (2)消費者・市場の変化を見通せるか
    • 製品・サービスの選択基準は変化していないか
    • 新しい市場は生まれないか
  • (3)制度の変化を見通せるか
    • 環境規制の強化、個人権利保護の強化、国際基準
  • (4)環境に応じて企業組織を再編成できるか
    • コア事業の選別、合併・買収・システム統合の機動性
  • (5)社員の「やる気」を起こせるか
  • 熟練高齢者の活用、仕事の仕組みの変化

 中島氏によると、支配的技術とはWeb技術である。そして技術を予測するだけではなく、それを早く的確に使うことが重要である。市場や制度の変化を踏まえて、ふだんから自社の課題は何かということに気が付いていれば、新しい技術や道具が出てきたときにすぐに使い方が分かる。これを活用しながら(2)~(5)を達成することができれば、まさにそれが「勝者のIT戦略」だということであった。

質疑応答から

【会場から】本書ではウェブメソッド社の技術や製品が中心に取り上げられているが、他社のWebサービス、例えばIBMのWebSphere?やMicrosoft.NETと比較してどうなのか。

【中島氏】WebSphere?やMicrosoft.NETが提供しているのはB2Bまでで、企業内のシステム統合までは考えていない。ウェブメソッド社のソリューションがそこに移っていったことで、少なくともこの分野で他に比較できる企業がなくなった。また、RFIDについても、この方法でコントロールしようというアイデアは他社から出ていない。RFIDの標準化は現在、VeriSign?とウェブメソッド社が中心になって進めており、RFIDから流れてくるデータを認証する仕組みづくりについてはVeriSign?が、収集してコントロールする方法についてはウェブメソッド社が寄与するという形で進んでいる。その規格ができれば、IBMなども採用するだろう。ウェブメソッド社はまだ歴史も浅く、経営基盤はそれほど強固ではないが、そういう先鋭的な技術を持っている会社だと思う。

【会場から】RFIDのアプリケーション全般の方向性について、中島先生はどういうところに注目しているのか。

【中島氏】私は生産履歴情報の問題にかかわってきたが、そこでRFIDは基本的に不正を防ぐ道具になる。農林水産省はあらゆる農産物にトレーサビリティー・システムを適用しようとしていて、2002年3月には全国農業協同組合連合会(全農)に対して、「約七万件の農協ブランドを点検した結果、表示と違う産地や成分が約八千件あった」という警告を発している。日本では2001年9月にBSE(牛海綿状脳症)が発見されたという問題があり、牛肉に関してはトレーサビリティーが進んでいる。2002年10月に運用を開始したところ、一週間ぐらいで小売業大手のイオングループが記者会見を開き、「グループで取り扱っている牛肉について当分の間、産地表示をやめる」と発表した。それほど偽装表示が多かったということだ。今はコストの問題からRFIDではなくバーコードで運用されているが、コストが下がればRFIDに移っていくだろう。コストについては将来見通しで、全く心配はない。この分野のデバイスのコストは十年で百分の一になり、おそらく現在の50円がすぐに50銭になる。物流管理だけではなく、例えば、洋服の材料で焼却したときに有害物質が出るという注意情報があれば、それによって洋服を焼却処分する際のコントロールができる。そういったさまざまなところに仕組みとして応用されていくだろう。RFIDはモノの流れをトレーサブル(追跡可能)にする究極の道具だと思う。これを、人間のビジネス活動をトレーサブルにすることに使えば、ビジネス・プロセスを改革できる。

【会場から】個人情報保護について、先般、金沢地裁と名古屋地裁で正反対の判決が出たが、プライバシー保護の考え方や価値観は国によっても、個人によってもずいぶん違う。技術の進歩はアメリカに追い付けということで進んでいるが、そういう価値観が他国と違うことで、技術の進歩にブレーキがかかるという危惧はないだろうか。

【中島氏】個人情報保護法は住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)とセットになっていて、住基ネットに対する反対を抑えるために、総務省(旧自治省)が譲歩を重ねて、個人情報「過」保護法になってしまったきらいがある。零細企業は大変で、厳密に運用されると仕事ができない。二年ほど前に私個人の会社である「中島情報文化研究所」でプライバシーマークをとろうとしたところ、コンサルティングを受ける費用などに180万円かかるということだった。今は500万円という話もある。公共事業では、下請けの下請けまで「みなし公務員」となるために、自治体からの仕事は下請けに出すなという指導もされている。「こういう場合はどうなるのか」と総務省に問い合わせても、判例が出てみないと分からないという。日本の企業は裁判沙汰になると信用を失うために、それを避けようと、より厳しいやり方を採る傾向がある。そうすると、例えばプライバシーマークのない下請けには仕事を出さないということになって、日本の中小企業は身動きが取れないことになる。

【会場から】個人情報の管理コストが上がってしまって、国際競争力がそがれるということはないか。日本では個人情報が管理できずに、データベースが海外に出てしまうということもあるのでは……

【中島氏】個人情報が漏れるおそれのあるところに出してはいけないことになっているので、海外には出せない。現在、すでに中国にコールセンターがあるが、厳密に運用すると中国には委託できなくなる。国際的に見て、日本のプライバシー保護は厳しくなりすぎているということがある。

【会場から】イギリスでは監視ビデオについては緩いとか、歴史的な背景から政府に対する警戒心の違いもあると思う。それを説得するには時間もコストもかかるということか。

【中島氏】今や政府だけが個人情報を集められるという時代ではない。民間企業が政府よりはるかに豊富に個人情報を持っており、政府だけが危険という議論は成り立たない。住基ネットは氏名・性別・生年月日・住所しか持たないようにしているわけで、危険でもなければ、それほど役にも立たない。よく勧誘の電話がかかってくるが、住基ネットに電話番号はないので、あれは住基ネットから漏れているわけではない。そうすると住基ネットについては筋違いの議論が多かったわけで、そのせいで個人情報保護法が化け物のようになってしまった。このことは、確かに日本の国力という点からも不幸なことだと思う。揺り返しが必ず来るだろう。

……

 以上が読書会の概要である。講師の中島氏も述べておられたが、非常に短期間での執筆であったために、本書では語り切れなかったことも多かったという。特に読書会の後半では、身近な日本企業の具体例を交じえ、中島氏のビジネス革命についての考え方を分かりやすく解説されていた。参加者からは、本書に記されている以上の知見が得られて参考になったという感想も聞かれた。

2005年6月1日開催(編集部)