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2005 - November 14, 2005

セッション:012 - 地方政府のIT調達改革

November 14, 2005 [ 2005 ] このエントリーをはてなブックマークに追加

  • 前川 徹 : 株式会社富士通総研経済研究所主任研究員
  • 大和田崇 : 株式会社ストック・リサーチ代表取締役
  • 石川雄章 : 国土交通省東京国道事務所所長
  • 座間敏如 : 財務省情報化統括責任者(CIO)補佐官/ベリングポイント株式会社シニアマネージャー
  • 廉 宋淳 : イーコーポレーションドットジェーピー株式会社代表取締役社長
  • 庄司昌彦 : 国際大学GLOCOM研究員

 GLOCOMでは、地方自治体の情報システム開発に関する調達(IT調 達)の改革を促進するために、2004年6月、「地方自治体IT調達協議会」を 立ち上げ、施策の効果や進捗状況の調査・評価を行ってきた。現在、第一次・ 第二次調査の報告がまとまってきているところであり、本セッションではそ の報告を踏まえて議論するとともに、IT調達改革について先進的な取り組 みをしている自治体の事例が紹介された。

地方自治体におけるIT調達の現状

 まず、庄司昌彦氏より、地方自治体IT調達協議会の調査研究活動の成果 について報告が行われた。

 「e-Japan戦略」や「ミレニアム・プロジェクト」を契機に行政部門の情報 化が加速度的に進み、経済産業省によると、公的部門に対する情報サービス 産業の市場規模は1.6兆円にのぼる。その中で、情報システム開発の調達に 特有の問題が浮上してきた。すなわち、「技術革新のスピードが速く、技術 がすぐに陳腐化してしまう」、「プロジェクト・マネジメントや開発手法がな かなか成熟しない」などである。また、平成12~13年には大手ITベンダー による安値入札が相次ぎ、問題となった。これらを受けて、政府ではIT調 達、情報システム開発を見直そうという動きが起こり、経済産業省などを中 心に研究が進められて、現在では省庁横断的に次のような取り組みが行われ ている。

  • 総合評価方式一般競争入札の利用推進
  • EA(Enterprise Architecture: 業務プロセス最適化計画)の導入
  • CIO(情報統括責任者)補佐官の登用

 では、地方自治体はどうなのか。長崎県や岐阜県などの先進的な事例が取 り沙汰される一方で、網羅的な調査がないために、全体としてどうなってい るのかが見えてこない。そこで地方自治体IT調達協議会では、まず全体的 な調査が必要と考え、全国の都道府県と市町村のIT調達の実態を調査し、 その分析と評価を試みた。

 その過程で改めて認識させられたのが、地方自治体の多様さである。自治 体によって、業務内容、予算規模、職員のスキル、情報担当課部署の権限な どが全く違う。特に、規模という点では、東京都や横浜市のような巨大な自 治体と人口数百人の村とを、ひとくくりにはできない。また、IT調達の目 的が、地元事業者の育成に重点を置く場合と、単に良いものを安く買いたい という場合では、対応が異なってくる。

 これらの多様性を反映して、各地方自治体のIT調達が抱える問題もその 原因も、それに対する改革手法も実にさまざまであった。これらを整理、分 析して得られたのが、開発プロセス改善の四類型と調達制度改革の二分野で ある。

 開発プロセス改善の四類型

  • ガイドブック型
  • SI連携型
  • 自前設計型
  • 限定改善型

 調達制度改革の二分野

  • 入札制度適正化
  • 地域産業振興

 このほか、2002~ 03年度に都道府県と政令指定都市の公募型のIT調達 で、どのような事業者が落札しているかを情報公開請求によって調査し、人 口規模別に分析を行った。また、都道府県別にプロセス評価(改革がどの程 度進んでいるのか)と事後評価(コスト・パフォーマンス、地域経済の活性 化)を行い、ポイント化してランキングしている。

 調査の結果、すべての都道府県で何らかの改革に着手していた。しかし、 その内容は入札制度適正化がほとんどで、開発プロセスの改善には手がつけ られていないことが多い。また市については、JV(ジョイント・ベンチャー) による入札参加、CIOの任命は行われているが、全般的にIT調達改革はあ まり進んでおらず、自治体の規模が小さいほどその傾向が顕著だということ であった。

地方自治体の先進事例

 地方自治体の先進事例については、佐賀市、高知県、長崎県の取り組みが 紹介された。

佐賀市の事例(SI連携型)

 佐賀市は、2003年に韓国のサムソンSDSに新しい基幹システムの開発を 発注したことで話題になったが、開発プロセス改善の四類型ではSI連携型 に当たる。佐賀市の電子自治体のプロジェクト・マネジメントやコンサル ティングを行っているのが、廉宋淳氏が代表をされているイーコーポレー ションドットジェーピー(株)である。廉氏によると、佐賀市の基幹行政情 報システムの特徴は次の四点である。

  • (1)利便性:全面的にWebのシステムとして設計
  • (2)拡張性・柔軟性:国際標準となっている技術を使用
  • (3)地元企業への技術移転:開発技術をすべて地元企業に移転することが契約条件
  • (4)著作権の確保:システムの著作権を佐賀市とサムソンSDSが共有(日本初)

 廉氏は「時間とコストをかけたからといって、おいしい料理ができるとは 限らない」と比喩的に述べた。実際に佐賀市では、Webベースの新しい手 法を使うことによって開発を大幅にスピード・アップさせ、従来のやり方で は三年かかると言われたシステム開発を、約一年四カ月で行うことができた ということであった。

高知県の事例(ガイドブック型)

 ガイドブック型では、IT調達を特定の部署が一元的に担うのではなく、 マニュアルを作成することで、地方自治体全体のIT調達能力を向上させる ことを目指す。昨年まで高知県理事(情報化戦略推進担当)をしておられた 石川雄章氏によると、ガイドブックを作る目的は次の二点であった。

  • (1)IT調達のコストを下げる。そのためには業者の言いなりになるのではなく、自治体側が一定の責任を果たさなければならない。
  • (2)システムのブラック・ボックスを改善することで、地元企業などが参入しやすい環境を作る。

 そもそも、「コストを下げていいものを作りたい」というときに問題になっ たのは、行政職員とIT専門家とで会話が成立しない、ということであった。 議論を進めるには、共通の言語と一定のルールが必要であり、それをマニュ アル化しようということである。また、企画・立案から予算手続き、調達、 開発、管理、運用保守、評価、という一連のプロセスの中で、「どういう場 面で誰が何をどのようにすべきか」を文書化することで、行政職員の責任範 囲を明らかにしたいということもあったという。

 二つめは、できあがったシステムのドキュメントがないために、どこに問 題があるのかも、どこを改善すればいいのかも分からないということがあ り、とにかく文書化して、その中で問題を整理していこう、ということで あった。

 この文書化の大きなメリットとして、他の自治体と課題やモデルを共有で きるようになったことが挙げられる。2002年に「高知県情報システム調達 ガイドブック」の作成を始め、2003年には問題意識を同じくする他の自治 体と全国研究会を立ち上げて、互いのノウハウを交換しているということで あった。

長崎県の事例(自前設計型)

 自前設計型に分類される自治体は長崎県のみである。長崎県では、県自 らが詳細なシステム設計書を作成する。これは、島村秀世氏という強力な CIOが組織内部にいることによって可能となっている。

 二カ月ほど前に現場を取材された前川徹氏によると、長崎県のIT調達の 特徴は、(1)自前設計と(2)小分け発注の二点である。

 自前設計といっても、県の職員がいきなり設計書を書くわけではない。ま ず、職員が業務を遂行する上で必要な状況をイメージして、ラフに画面を描 く。それをデザイナーにきれいに書き直してもらい、それをもとに関係職員 が集まって議論する。入出力のインタフェースが決まることで、システムの 全体像がほぼできあがり、これをもとに専門家がデータ設計を行う。それを レビューした上で、専門家にシステム設計書を書いてもらう。さらに、でき たシステム設計書をもとにテスト仕様書を外注する。

 これによって発注を行うのであるが、そのとき、大きなシステムの場合 は500万円以下の規模に小分けする。これは、地元企業が受注しやすいよう にという工夫である。サブシステムに分けて入札にかけ、発注してできたも のを集めてテストし、納品させて合体させる。島村氏の話によると、この方 式を採用することで、開発コストは、画面デザインやシステム設計を含めて も、従来の約半分~三分の一になったということであった。

随意契約か、一般競争入札か

 これらの報告を受けて、参加者も含めて意見交換が行われたが、そのなか で一般競争入札か随意契約かという議論があった。今回、調査できたのは公 募型の一般競争入札だけで、随意契約の部分については不明瞭な部分が多 い。庄司氏によると、「すべて競争入札にすればいいのかというと、よく分 からない。理想は信頼関係に基づく随意契約という話も聞く」という。前川 氏は「随意契約でも、調達側にそれなりの人材がいれば、緊張関係が生まれ てうまくいくのではないか」と述べた。ただし座間敏如氏によると、「中央 省庁でもそういう人材がいないことが多い」。そして、競争入札か随意契約 かについては、「一般入札=善、随意契約=悪とは思わない。ただ随意契約 で行う場合は、新規の案件であれば、企画競争をやって点数を公開する。継 続案件では、昨年度の実績とコストをきっちり検討して、適正な価格になっ たという説明責任が果たせる状態までもっていく。一般競争入札の場合は 極力、総合評価落札方式を用いて、価格点だけではなくて技術点も見る。 技術的に優れたものについてはデモンストレーションやプレゼンテーション をやってもらう。そういう機会も含めて、きちっと精査していくべきだと思 う」とコメントした。一方、石川氏は県の発注規模という点から、「一般的 に契約はこうあるべきだ、という議論はできない。数百万円ぐらいの発注で いちいち細かい手続きをしていると、それに要する行政マンのコストが引き 合わない。発注の規模も含めて、どうするのが適切なのかを考えていかなけ ればならない」と述べた。

 問題は、発注側が内容をよく理解しないままに、業者との馴れ合いで随意 契約を結んでしまうケースだろう。大和田崇氏が述べたように「随意契約で あれ、総合評価方式一般競争入札であれ、どういう目的のシステムで何を実 現するためにどのくらいのコストで作る、という基本原則がしっかりしてい れば、どういう方式でもきちっと行くはず。それを外部から監視するには情 報公開しかない。あいまいなままで発注したいので随意契約、というパター ンに落ち込まないためには、なぜそのシステムをその業者に発注するのかを 明確な形で情報公開していくべきだと思う」。

専門の人材をどう確保するか

 またプロセス改善で、「専門知識を持つ人材を組織の内部に持つのと外部 に求めるのとどちらがいいのか」という問題が話し合われ、廉氏から韓国の 事例が紹介された。

 韓国では、電子自治体分野に関しては、行政職公務員と技術職公務員に分 かれるそうである。情報政策にかかわる行政職は二、三年で異動するが、係 長・主査クラスの技術職は異動しない。ただ、これだけでは技術革新につい ていけないので、契約公務員という制度が導入された。契約公務員は二年契 約で、その時の最新技術を持っている人を採用する。また電子政府局の局 長クラスは、外部から契約公務員として採用することが多いということであ る。日本でもそういうやり方をしながら、公務員が学ぶ環境を作っていくこ とが大切ではないか、ということであった。

 このほか、「地元企業をどうやって育成するか」についても意見が交換さ れた。なお、本セッションにおける調査報告や議論は、『日経BPガバメン トテクノロジー』(2005年秋号)に掲載されている。

(濱田美智子:『智場』編集部)

  • 主催:地方自治体IT調達協議会(http://www.glocom.ac.jp/project/procurement/)
  • 協力:日経BPガバメントテクノロジー(http://itpro.nikkeibp.co.jp/govtech/)
  • 日時:2005年8月20日(土)13:00~ 14:30