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chikyu_chijo - May 10, 2006

第16回 : eデモクラシーの展開から考える地域SNS

May 10, 2006 [ chikyu_chijo ] このエントリーをはてなブックマークに追加

庄司昌彦 (国際大学GLOCOM研究員・助手)

eデモクラシーへの期待

情報化の進展とともに、政府も地方自治体も様々なルールの変更が求められている。その中で、「ルールの決め方」や「ルールを決める場のあり方」(政策過程)にも変化が現れてきている。本稿では、地方自治体における電子掲示板等のネットコミュニティの活用状況を、日本における「eデモクラシー」の展開という観点から整理し、今後を展望してみたい。

「eデモクラシー」という言葉は、1994年の米国ミネソタ州での取り組みが起源とされている。大学院で政治学を学びインターネット関連のプロジェクトに取り組んでいたスティーブン・クリフトに、ミネソタ州政府が上院議員選候補者のポジションペーパーの掲載や、候補者同士が討論する電子掲示板の設置をする「ミネソタeデモクラシー」プロジェクトの実施を依頼したのである。彼によるとeデモクラシーとは、「ICTを活用してデモクラシーを再生・発展させていくこと、すなわちICTによって市民の参画を促し、政治や行政の活動の質を高めていくこと」である 。

このようにeデモクラシーという言葉は、情報技術の双方向性や公開性、多数参加などの特性を生かすことによって、上意下達で閉鎖的な政策形成プロセスの改善や、市民・企業・専門家等のさまざまな立場の人々の政策形成への参加、より多くの人々が納得する合意の形成、政策形成過程の透明化などを実現しようという期待を込めて使われてきた。

また、eデモクラシーとは、政治学や社会学の概念である「討議民主主義(deliberative democracy)」や「公共圏(public sphere)」をインターネット空間上で具体化することである、などとも語られてきた。討議民主主義とは、政策案の討議過程の充実を重視し、熟慮に基づく議論を尽くそうとする考え方である。また公共圏論は、自律的な市民が自由で民主的な世論形成を行い権力に対抗する、という理想的な議論の場を作り出そうと考えるものである。

ポスト開発主義時代における政策形成過程の変化

一方、これまでの日本の政策形成過程では、行政とりわけ中央省庁がアジェンダ設定や利害調整などの政策論議をリードしてきた。高度経済成長期の産業政策に代表されるように、中央省庁が業界と密接に連絡を取りながら許認可や行政指導によって利害関係者の調整を進め、与党が承認したうえで国会に法案を提出するというものである。このように官が主導して政産官の密接な関係(「鉄の三角形」)の中で行う政策形成は効率的・効果的で、産業の近代化や諸外国へのキャッチアップが必要な開発主義段階ではたいへんよく機能した。

だが、1990年代からいくつかの大きな変化が政策形成過程に起きている。ひとつは連立与党間の政策調整プロセスの登場で、もうひとつは内閣機能の強化である。これにより、従来の政策形成過程では合意形成が難しいテーマでも、政治主導でトップダウン的に政策決定が行われる例が出てきた。その他、公務員倫理法(2000年)も企業関係者と官僚の非公式な情報交換を減少させ、「鉄の三角形」を弱めている。

さらに新たな「政策市場」形成の萌芽も見られる。その大きな原因の一つは、特定非営利活動促進法(1998年)の成立で、この法律によって非営利組織の活動が活性化し、地域経済振興や医療福祉、教育、環境問題、地方自治といった生活に近い社会的な問題の解決に取り組む人々が行政の外部に増えてきている。また情報公開法(1999年)によって、政府関連の公開情報が飛躍的に増加し、入手がしやすくなり、NPOや大学、シンクタンク、企業などの民間主体が政策研究や政策評価などを行いやすくなってきている。この二つの動きを、情報技術の普及やそれに合わせた人々の知識生産や協力行動の変化、つまり社会の「情報化」が後押しをしている。開発主義的な政産官の鉄の三角形に支えられた行政国家体制が揺らぎ始め、さまざまな主体が政策形成のための連合や競争を行う政策市場の形成の条件が少しずつ整ってきているといえよう。

自治体BBSの盛衰

このような背景があり、様々な人々が街の問題などについて議論をする電子掲示板(BBS:Bulletin Board System)を、政府や地方自治体が設置するという取り組みが、1990年代後半から相次いだ。藤沢市(1996年開設)、大和市(1998年開設)、札幌市(1999年開設)や、政府の教育改革国民会議と連携した「教育改革ラウンジ」(2000年開設)が代表例である。慶應義塾大学SFC研究所とNTTデータ システム科学研究所が行った共同研究 によると、2002年には全国で733の地方自治体が電子掲示板を設けていた。

これらの取り組みの目的は三つに分けられる。一つは「インターネットへの初心者の導入」で、初心者にインターネットに慣れ親しんでもらうために、身近な話題でコミュニケーションを楽しめる安全・安心な場を提供するものである。二つ目は「住民自治・地域ガバナンスの構築」で、防犯・防災やまちづくり、子育てなどに関する情報を、住民や地元企業など様々な主体が交換することで、地域に自律的なガバナンスを構築しようというものである。三つ目は「政策形成への住民参画」で、行政や議会に住民の知識を導入することを目指すものである。この「政策形成への住民参画」には、何らかの合意形成まで取り組むものと、アイディアや情報の収集にとどめるものとがある。全体としては、「ICTによって市民の参画を促し、政治や行政の活動の質を高めていく」というクリフトのeデモクラシーの定義ほど政治や行政への参画に特化せず、「インターネットへの導入」「住民自治・地域ガバナンスの構築」のために電子掲示板が使われることが多かった。

だが現在、地方自治体の電子掲示板は大きな壁に突き当たっている。筆者が2003年7月と2005年7月に行った地方自治体の電子掲示板の運用状況調査では、2003年調査の上位16自治体のうち、2005年にさらに活性化していたのは三重県と神奈川県藤沢市のみで、6自治体では電子掲示板を廃止し、8自治体では平均発言数が減少し活性度が著しく低下していた。16自治対中14自治体で廃止や活性度が低下していたということは、他の地方自治体も同様の状況であると推測される。

成功例と課題

そのような中で、三重県と神奈川県藤沢市で発言数が増加していた要因は何だろうか。三重県では、初心者も安心して参加できるよう、投稿前の事前確認に力を注いだり、GISや子供向け電子掲示板など新規開発や改良も積極的に行ったりするなど、充分な人的・資金的リソースを割いて電子掲示板の運営を支えていた。藤沢市も、スキルが高い進行役や世話人、ユーザーによる「運営委員会」の組織など掲示板の運営を支える体制が充実していた。つまり、オフラインでの活動も含めて、活動の場を丹念に整備し、ユーザー同士の人間関係の構築を支援することに力を注いでいることが、発言数の増加や安定した運用につながったと考えられる。

逆に、地方自治体が電子掲示板を設ける場合、高い理想を掲げる割にはコストも人員も十分には手当てせず、また電子掲示板の議論を実際の行政過程に取込む手順なども整備せずに、中途半端な取組みで終わっていることも少なくない。そのため、一部の職員が属人的に低コストで取組むものの、盛り上げや「荒らし」への対応などで疲れ果てたり、部署異動してしまったりして、目的に沿ったコミュニケーションが盛り上がらず、尻すぼみになってしまうというパターンに陥っている。

注目が集まるSNS

転機を迎えている地方自治体の電子掲示板では、現在、おおまかに二つの方向が模索されている。ひとつは「政策形成への住民参画」というeデモクラシーの定義に沿った方向で、今後は目的やテーマ、メンバー、期間などを限定した運営をしていこうというものである。このような取り組みは北海道が「赤レンガインターネット会議室」で行っている。三重県も従来の「eデモ会議室」を閉鎖し、現在、公聴機能に特化した仕組みへの転換を準備している。このように今後は、「意見募集用」や「専門家向け」など、目標に応じて機能を使い分けて現実的な運用が行われていくだろう。

もう一つの方向は、「インターネットへの導入」や「住民自治・地域ガバナンスの構築」の発展として、従来の電子掲示板よりももっと普段から使える居心地のいい場所を作ろうという考え方である。

そこで注目されているのがSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)だ。総務省の定義によればSNSとは、「新たな友人関係を広げることを目的に、参加者が互いに友人を紹介し合い、友人の関係、個人の興味・嗜好等を登録していくコミュニティ型のウェブサイト」である。ユーザー各自が自分のページを持ち、友人と互いにリンクしあい、互いの日記やブログの更新状況を把握しコメントしあう。またテーマごとのコミュニティを形成して電子掲示板によるコミュニケーションもできる。

国内最王手のmixiが約300万人、米国ではMySpaceが4000万人以上、韓国ではcyworldが1500万人以上など、SNSは世界各地で短期間に多くのユーザーを集め、急成長を続けている。国内の地方自治体では、2004年12月に熊本県八代市が、市が運営する住民ポータルサイト「ごろっとやっちろ」にSNS機能を導入したところサイトが活性化し注目を集めた。2005年末には総務省も新潟県長岡市と東京都千代田区で「地域SNS等を活用した地域社会への住民参画に関する実証実験」を行っている。

SNSの特徴

SNSの第一の特徴は、緩やかな実名性である。SNSでは各ユーザーのプロフィールや友人関係を閲覧することができるため、ハンドル名で表示されていても、その人の人となりを想像することができる。そのため、ユーザーは完全な匿名になることはなく、「荒らし」が起きにくくなっている。八代市の「ごろっとやっちろ」では、誹謗中傷発言等の削除を検討するときに一時的に他のユーザーから見えないようにする「グレイマン」という仕組みがあるが、SNS導入後は、ユーザー数も書き込み数も飛躍的に増えたのにこの仕組みを一度も使用していないという。

第二の特徴は、サイトの設計がグループよりも個人としての活動に重点が置かれている点である。SNSでは、ユーザー各自にページが与えられ、そこで日記を書いたり写真を登録したり、友人や興味のあるコミュニティの情報を見たりすることができる。従来の電子掲示板ではコミュニティが先にあり、ユーザーは文脈やタイミング、作法などを考えながらコミュニケーションに合流しなくてはならないという難しさがあったが、SNSは各ユーザー自身の日記や友人とのコミュニケーションを強調しているため、ユーザーの参加障壁を下げている。

三つ目の特徴は、「日記」や「足あと」など友人間コミュニケーションを誘発する仕掛けである。携帯電話でのメールのやりとりのように、身近な人とのつながりは、それ自体が有力なコンテンツである。日記やメールに対してコメントやメール、足あとなど様々な形で反応が返ってくることは、各ユーザーにとってはサイトを訪問する動機付けとなり、サイト滞在時間を長めたり、アクセス頻度を増やしたりしている。

四つ目の特徴は、コミュニティ形成の容易さである。多くのSNSは趣味や関心事などに応じて、誰でも簡単にコミュニティを作り、仲間を募ることができる。つまりSNSは、自由なグループの形成や再編成を容易にし、人々のコミュニケーションや協働を支援するネットワーク(GFN:グループフォーミングネットワーク)である。デービッド・リードが提唱する「リードの法則」によると、SNSのようにN対Nの関係を自由に作ることができるGFNの経済的な価値は、1対1(電話など)や1対N(放送など)よりもはるかに大きい。

続々と立ち上がる地域SNS

コミュニケーションを活性化させ、また「荒らし」が起きにくいという意味では、SNSは電子掲示板が直面していた課題を解決する可能性を持っている。

このようなSNSの特性が広く認識されるようになり、また大手サイトよりもメンバーを限定してSNSを使いたいというニーズや、仕事と趣味とで「顔」を使い分けたいというニーズ、SNSをビジネスに活用したいというニーズなどが高まっていたところ、2005年秋頃からオープンソースのSNSプログラムが普及し始め、様々なSNSが作られるようになってきている。

その中には、「地域」をテーマとするSNSも少なくない。2月末時点では、総務省の実証実験を含めると22ヶ所以上で地域SNSが生まれており、福岡県や香川県などの県レベルを対象地域とするものから千葉市西千葉地区などより狭い地域を対象とするものまで様々なものがある。また運営者も地域ポータルサイトを運営する企業や、地域で活動するNPO、別に仕事を持つ個人など、さまざまである。規模はユーザー数約1900人の「ごろっとやっちろ」が最大だが、約1ヶ月で1000人以上を集めるサイトも現れるなど、電子掲示板ではあまり見られなかったような急成長を遂げているものもある。機能面でも、地図表示機能を連携させているものや、地域のニュースや天気予報を表示するもの、メニューが方言で書かれているものなどバラエティに富んでいる。これらの目的も、「行政への住民参画」から、防災情報や不審者情報の伝達、地域経済活性化、観光情報の生成・発信、友達作りなどまで、多様である。だが、いずれの地域SNSも地域の人々のコミュニケーションを活性化させ、自律分散的な協働の場となることが目指されているといえる。

地域SNSの将来とeデモクラシー

日本のeデモクラシーは、行政への住民参画という点では壁に突き当たりながら、SNSを地域で活用することによって人々のコミュニケーションを活性化させ、人々の自律的な協働を支援しようというところにまで進展してきた。

もちろん、行政への住民参画にSNSを活用できる可能性もあるが、基本的にSNSは友人・知人間のコミュニケーションを活性化するように作られているため、多くの人々が特定の目的のためにじっくりと議論を重ねる道具として活用できるかどうかは未知数である。SNSは「荒れ」が起きにくい反面、発言とプロフィールが結びつくことが、率直な発言をしようとする人の障壁となってしまう可能性もある。また、藤沢市や三重県の取り組みで例示したように、オフラインの活動を含めたユーザーのフォローや、提言を行政に取り入れるプロセス作りなどを行うことが、住民参画を活性化させるカギであることは、今後も変わらないであろう。

政府や地方自治体がSNSの機能に注目して活用に取り組み、民間でも活用の動きが広がり、様々なSNS型のネットコミュニティが乱立しようとしているという現在の状況は、おそらく世界的にも珍しいことである。今後は、地域SNS間の競争や棲み分け、連携などが起きていくであろうが、いずれにしろ地域SNSの発展は、人々が地域についてのコミュニケーションを増やしていくことを意味する。それによって今後、地域社会のガバナンスとネットコミュニティの新しい関係が拓かれ、eデモクラシーの新しい形となることに期待をしたい。

参考文献

新開伊知郎・春日真紀・山田英二・金谷年展『eデモクラシーという地域戦略』、小学館スクウェア、2002年。

山内康英・前田充浩・澁川修一「情報政策とポスト開発主義:理論的考察」、『GLOCOM Review』、2001年7 月号、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター。

野中郁次郎、永田晃也、泉田裕彦編著、『知識国家論序説 新たな政策過程のパラダイム』、東洋経済新報社、2003年。

慶應義塾大学SFC研究所・株式会社NTTデータ システム科学研究所、「地方自治体における市民と行政のための電子市民参画・協働ガイドライン策定に関する共同研究」、2002年、http://www.riss-net.jp/edemo/guideline.html

プロフィール
shoujimasahiko

<しょうじ・まさひこ>
1976年生まれ。2002年、中央大学大学院総合政策研究科修士課程修了。国際大学GLOCOM研究員として、情報社会学を柱に、さまざまな調査研究 活動に従事。主な関心は情報社会論、政策過程論、電子政府・電子自治体、地域情報化など。オンラインジャーナル『政策空間』の編集にも携わる。共著に『情報アクセシビリティ やさしい情報社会へ向 けて』(NTT出版)、『eデモクラシーシリーズ第3巻 コミュニティ』(日本経済評論社)がある