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第20回: 地域情報化とソーシャル・キャピタル

November 8, 2006 [ chikyu_chijo ] このエントリーをはてなブックマークに追加

 庄司昌彦 (国際大学GLOCOM 研究員)

「地域情報化」の偏在

2006年5月、丸田一、国領二郎、公文俊平編著『地域情報化 認識と設計』(NTT出版)が出版された。本書は、地域情報化のさまざまな事例に基づいて、認識科学にとどまらず設計科学(政策論等、「あるべきもの」の探求)の議論まで行っている。情報社会学における、地域情報化研究の到達点を示す重要な著作であるといえるだろう。

この本の冒頭(p6)で、「さらなる解明が期待される」と、今後の研究課題として述べられているテーマがある。

(略)ブロックとしての地域や地方の諸活動を俯瞰した場合、「西高東低」がみられる点に触れておきたい。(略)地域づくりの道具とは、情報技術を活用して地域づくりを進める自前の仕掛けや社会装置であるが、発祥地域だけでなく伝播地域も大きく西日本に偏っていることがわかる。また、玉野井芳郎は、(略)「地域別にみて気づいたことの一つは、九州をトップに西から東へと反響の度合いが漸減していることだ。『西高東低』というのが日本の農村社会におけるムラやマチの自立度を示すパターンだといわれているが、そういえばここでも同じパターンが検出されるように思われて面白い」と述べている。最近では平成の大合併「西高東低」の傾向がみられる。このように、地域がもつ自立性や能動性には、以前から特徴的な地域偏在傾向がみられるが、その要因などは明確ではない。ソーシャル・キャピタルなどの概念を用いて、更なる解明が期待される。

つまり、地域情報化は全国一律で起こっているわけではなく、地域によって偏在傾向があるというのである。そして、それは「ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)」という言葉で示唆されているように、地域が持つ自立性や能動性などの「要因」の分析によって解明されることが期待されている。

そこで本稿では、地域情報化の進捗状況や潜在的可能性を表すための「指標」を検討するという切り口から、試論的に地域情報化の「要因」の解明に取り組むこととしたい。

地域情報化とは何か

はじめに、「地域情報化」とは何か、そして情報社会学において地域情報化研究とはどのように位置づけられるものであるのかということを確認しよう。前掲書では、地域情報化を次のように定義している(p14)。

地域で住民等が進める情報化。地域が進める情報化。 (情報技術で知的にエンパワーされた住民等が、地域において、アクティビズムを発揮し、プラットフォームの設計やイメージの実体化などによって、共慟型社会を形成するプロセス)

情報社会学における地域情報化の本質は、地域の人々のアクティビズム(能動性、主体性)の発現や共働型社会化に注目するところにある。公文俊平が「智民とコンピューターの共進化*1」と述べているように、技術の発展や普及と同時に人々の振る舞いや社会のあり方においても社会は変化している。したがって情報社会学で地域情報化の進展について考える場合には、行政のIT化や物理的なインフラ整備の状況だけではなく、地域社会におけるアクティビズムの発現や共働型社会化の状況、およびその可能性についても考えるのだ。

また、ここで情報化が「共働型社会の形成」であるとしている背景には、情報社会学における次のような考え方がある。それは近代文明が「公の原理」に立脚する国民国家の成立に始まり、次いで「私の原理」に立脚する産業企業の台頭があり、そして今後はコミュニケーションによる説得や誘導など「共の原理」に基づく行為や社会集団形成の重要性が増していくであろうという考え方*2である。

地域情報化の指標を考える

次に、上記のような考え方にもとづく地域情報化が各地域でどの程度実現されているのかということを把握する方法について考えたい。

地域情報化の指標としては、たとえば「Jマトリックス」が代表的である。Jマトリックスとは、特定の地域において、(1)インフラ(家庭、企業、優先の競争状態、無線の競争状態)、(2)場所(企業、行政、小中高校、大学、医療、家庭)、(3)サービス(企業、行政、小中高校、大学、医療、地域機関)、(4)経済効果(革新、勤務環境、消費者)、 (5)社会要因(ユビキタス、安全性、プライバシー、政策キーパーソンなど)の23指標の進展度合いを調査し、その地域の情報化の程度を項目毎に1~4のステージで自己評価するためのベンチマークシート*3である。米国のCSPP(Computer Systems Policy Project)が開発したReadiness Guideをもとにし、2001年、任意団体SVJ(スマートバレージャパン)を中心に、法政大学、日本政策投資銀行などが開発した。東京都渋谷区や兵庫県龍野市、大阪府千里ニュータウン、愛知県岡崎市、東京都多摩ニュータウンなどにおいて実際に適用された実績がある。

この指標では「経済効果」指標の小項目として「革新」や、「社会要因」指標の小項目として「安全性」「政策キーパーソン」といった項目が含まれており、狭い意味でのインフラの整備状況や利用状況の評価にとどまっていない。だが全体としては、情報社会における人々の振舞いや社会関係についての視点はほとんど盛り込まれていない。

Jマトリックスの他にも、日経BP社の『e都市ランキング』や平成12年度総務省の「地域の情報通信ポテンシャル指標」研究など地域のインフラ整備状況や電子政府の進展度合いなどを指標化してランキングを作成したりすることはこれまでも行われてきた。しかし、ブロードバンドインフラが整備されていない地域や大都市圏から離れた地域からでも、「いろどり(徳島県上勝町)」、「住民ディレクター(熊本県山江村)」、「インターネット市民塾(富山県)」、「鹿児島建築市場(鹿児島県)」、などの大変優れた活動が登場していることを説明するような指標はまだ生まれていない。地域の人々の活動まで含めて情報化の進展を表現する指標は、まだほとんど研究が進んでいないといえるだろう。

ではどのような指標を作ればいいのか。地域の人々の行動や活動の情報化に注目するというここまでの議論を踏まえ、またそれを支えるのは「ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)」であるという仮説に立ち、表1.のように考え方を整理する。以下ではこの表の「人々の行為や活動の情報化」を表す指標のひとつ「ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)の状況を表す指標」について検討をしてみよう。

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表1.地域情報化指標の整理 (筆者作成)

ソーシャル・キャピタルと「イ・ト・コ」

「ソーシャル・キャピタル」という概念はアメリカの政治学者R.D.パットナムによるイタリアの研究「Making Democracy Work(邦題;『哲学する民主主義』)(1993年)」とアメリカの研究「Bowling Alone(邦題;『孤独なボウリング』)(2000年)」が契機となり、1990年代後半から多くの研究者の関心を集めている。政治学や経済学、社会学、NPO政策論などさまざまな分野で、ソーシャル・キャピタルの概念を用いた議論や研究が行われている。内閣府も、2003年に『ソーシャル・キャピタル:豊かな人間関係と市民活動の好循環を求めて』という報告書を公表している。

パットナムの定義によればソーシャル・キャピタルとは、「人々の協調行動を活発にすることによって社会の効率性を改善できる、信頼、互酬性の規範、市民参加ネットワークといった社会組織の特徴」である。彼の研究によれば、ソーシャル・キャピタルが豊かな社会では人々は互いに信頼しあい、利他的・互酬的な行動をとることができ、そのような人々の協調関係が自発的に形成されることで社会制度などを効率的に機能させることができる。地域の人々が主体的に行動し共働型社会化を作るという地域情報化の定義にたてば、さまざまな指標によって各地域のソーシャル・キャピタルの豊かさを計ることは、その地域における地域情報化の進展度を計ることと近しいことであるといえるだろう。

また本稿では、地域情報化の基本要素としての「イ・ト・コ」という考え方も参照したい。これは総務省「地域における情報化の推進に関する検討会」住民サービスワーキンググループ(2004年度)の議論において、さまざまな事例の分析を踏まえてまとめられたもので、前掲『地域情報化 認識と設計』でも敷衍されている。

「イ・ト・コ」の「イ」とは「インセンティブ」のことで、地域情報化を担う人々の郷土愛や経済的利益、やりがいなどである。また「ト」は「トラスト(信頼)」のことで、地域情報化に関わる主体間の信頼関係である。「コ」は「コネクター」であり、活動に必要となる人材や財源、知識を地域の内外から調達し全体の調整を行う役割のことである。地域情報化の先進事例では共通してこれらが機能しているという。

指標の体系と具体的な検討

以上の議論を踏まえて、ソーシャル・キャピタルの重要な要素とされる「互酬性」、「ネットワーク」、「信頼(トラスト)」と、地域情報化の基本要素とされる「インセンティブ」、「トラスト」「コネクター」の考え方を合わせて、表2.のように指標の体系を整理してみた。

大分類がソーシャル・キャピタルおよび「イ・ト・コ」の各要素にあたり、中分類はそれをさらにブレークダウンしたものである。指標(例)は、筆者が都道府県を対象として実際に算出してみたものである*4。

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表2.地域情報化におけるソーシャル・キャピタル指標の分類と具体的な指標例(筆者作成)

紙幅が限られているため個々のデータを掲載することはできないが、「インセンティブ」を表す「ソフト系IT産業事業所開業率」や「人口10万人あたり大学発ベンチャー企業数」では、西側の地方に上位県が多く東側で下位が多い「西高東低」の傾向が現れた。また受動的・個人的な時間の量を表す「平均テレビ視聴時間(の短さ)」においても、西高東低であった。このほか、「人口の増減率」「携帯電話・PHS契約数人口比」「インターネット人口普及率」などでは、東京、名古屋、大阪、福岡等の都市圏を結ぶ地域(太平洋ベルト)に上位の県が集まっていた。また「東低」および「太平洋ベルトに集中」という結果が目立つのは、東北地方の県が下位になる指標が多いためであることも明らかとなった。

示唆されること

本稿は、地域によって異なる地域情報化の進捗状況を把握するために、情報社会学における地域情報化の定義を明らかにしたうえで、ソーシャル・キャピタル論などを参照しながら、地域情報化の「要因」を分析するための枠組みを検討してきた。これにより狭義のインフラ整備やIT化にとどまらない、個人の行動や社会活動の変化にまで踏み込んだ地域情報化指標のあり方についてはある程度示すことができたのではないかと考える。今後、地域情報化事例の地域的偏在性や、評価指標についての検討を深める際には、本稿のように、「地域のアクティビズムの発現や共働型社会化を表現する」という観点を取り入れていくことが望ましいだろう。

また冒頭で、「地域情報化事例は西日本に多い」であるとか「自立性や能動性は西日本の方が高いのではないか」という「西高東低現象」が経験的に語られていることを紹介したが、試行的に行った本稿の検討からもその傾向がインセンティブ指標では存在することを示した。ただし本稿の分析は都道府県に対する大まかな分析にすぎず、地域情報化事例の出現に直接影響があると考えられる市町村単位での分析や、指標項目の洗練は今後の課題である。また、今回は限定的な調査であったため、結果をとりまとめて総合的な評価を行うということもしていない。総合的な評価をする場合には、目的に応じて指標の項目を入れ替えたり、重み付けを行ったりする必要がある。そのような課題にどう取り組むかも、今後の課題である。

今後の地域情報化政策や地域情報ビジネスを検討する場合には、インフラの整備とともに、各地域においてさまざまな利活用の形態を分析し、さまざまな主体との連携を行っていくことが重要であることは言うまでもない。その際に、「情報技術で知的にエンパワーされた住民等が、地域において、アクティビズムを発揮し、(略)共慟型社会を形成する」という意味での地域情報化の理解や、本稿で行ったような要因(指標)による分析は参考になるのではないだろうか。


*1. 公文俊平「第三章 共進化する智民たちとコンピューター」『情報社会学序説 ラストモダンの時代を生きる』、NTT出版、2004年。
*2. 公文俊平「第四章 共の原理と領域」前掲書を参照。リナックスを開発するオープンソースコミュニティの行動原理が典型的である。
*3.NPO法人電子コミュニティ推進協会 プレスリリース「電子コミュニティ推進協会、Jマトリックス方式による電子コミュニティ白書2003を発表」、2003年5月20日等を参照。URL:http://www.j-matrix.net/press.html
*4. 指標(例)の検証は入手可能なデータで試行的に行ったため、中分類および指標(例)の選定が、元データの入手可能性に大きく影響されている。したがって内容や項目数の妥当性については注意が必要である。


プロフィール
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<くしょうじ・まさひこ>
1976年生まれ。2002年、中央大学大学院総合政策研究科修士課程修了。国際大学GLOCOM研究員として、情報社会学を柱に、さまざまな調査研究 活動に従事。主な関心は情報社会論、地域情報化、政策過程論、電子政府・電子自治体など。オンラインジャーナル『政策空間』の編集にも携わる。共著に『情報アクセシビリティ やさしい情報社会へ向けて』(NTT出版)、『eデモクラシーシリーズ第3巻 コミュニティ』(日本経済評論社)がある。