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chikyu_chijo - October 24, 2007

第30回: 仮想資産(Virtual Property)は誰のものか?

October 24, 2007 [ chikyu_chijo ] このエントリーをはてなブックマークに追加

森田 沙保里(国際大学GLOCOM 研究員)

はじめに

仮想世界の黎明期が来ていると言われる。

米リンデンラボが提供するセカンドライフがその代表格である。ネットワーク上のサーバが作り出す3D仮想空間は、「メタバース(Metaverse)」とも称され、参加者がアバター(分身)を通じて仮想世界を構築し生活を営むこともできる。そして、仮想世界がもう一つの世界を形成していく中で、現実の世界が経験してきたような様々な現象や問題も発生し始めている。

昨年、セカンドライフの中でドイツ人のアンシェ・チャンという女性が、仮想の土地不動産業で100万ドルものリアルな富を獲得したことが話題になった。一方、セカンドライフの土地やその他のオンラインゲーム内の仮想アイテムの取得を巡る利用者と運営会社間のトラブルや訴訟も多発している。

かつてはテレビゲームのコインやアイテムはゲーム内、つまり閉ざされた仮想空間に限って価値をもち、現実からは切り離されていた。しかし、現在の仮想世界に存在するアイテムや通貨は、新たな資産としての価値を持つようになってきており、仮想資産(Virtual Property)の扱いを巡る議論がアメリカなどを中心に加熱しつつある。

本稿では、急速な勢いで拡張する仮想世界の中で特に財産権(仮想資産)の問題に注目し、法的な観点から、仮想世界の法秩序と現実世界の財産権制度との関係などについて概観していくこととする。

拡大する仮想世界の波紋

セカンドライフの中では、既に700万を越える世界各国の参加者――いわゆる「住人」が自ら作り上げた仮想環境の中でコミュニケーションをとり、経済活動など様々な活動に参加している。そこでは「リンデンドル」と呼ばれる仮想通貨が流通し、現金との取引が容認されており、その年間取引量は、2008年に1兆2500億円に拡大するとまで予測されている*1

セカンドライフの魅力の一つは、セカンドライフ上で住人が作ったアバター、キャラクター、衣服、スクリプト、テクスチャ、オブジェクト、デザインなどのデジタルコンテンツの著作権、知的財産権がすべて利用者に帰属すると利用規約で定められていることである。他方で、アカウントやそれに基づくデータはリンデンラボに帰属することも規約で定められており、利用者がビッグ6と呼ばれる禁止事項に違反した場合の処分など、最終的なコントロール権はリンデンラボが持つことになっている。

セカンドライフは無料で遊ぶことも可能であるが、月額9.95ドルを払うと仮想の土地の所有権も取得することができ、その土地でビジネスを行うことも可能である。日本でもセカンドライフには多くの企業が注目し、広告や新たなビジネスチャンスを求めて参入している。

こうしてセカンドライフの新しいビジネスモデルが注目を集める一方で、利用者が仮想不動産(土地)の所有権をめぐってリンデンラボを提訴するといった仮想と現実とが交錯するような事件もおきている。例えば、8000米ドル相当の仮想の土地を所有する弁護士のMarc Braggは、不正な方法により安価で土地を取得したことを理由にリンデンラボからアクセス制限をされた。これに対しBraggは、リンデンラボの行為が「土地の競売契約違反、詐欺、ペンシルバニア州法法取引行為・消費者保護法違反」にあたるとして、仮想土地の所有権を求めてペンシルバニア州で提訴した*2

仮想の土地(資産)を現実と同様に扱い、現実のルール(法)に基づいてその権利を主張するという現象は、仮想世界の拡大に伴って頻繁に発生しうるまったく新しい権利問題である。

仮想世界の権利

それでは、仮想世界の資産は現実世界においてどう法的に位置づけられるのであろうか?

仮想世界の土地、アイテム、通貨は一種の「仮想上の資産」といわれているが、当然ながら現行法には「仮想資産」の定義や扱いを定める条文はない。これは日本でもアメリカでも、おそらく他国においても同様である。仮想世界の法秩序を考える上で、その保護対象である仮想資産の扱いをどのように捉えるかは根源的な問題となる。

それでは、仮想資産の権利は無体物に対する著作権なのだろうか? あるいは、「土地の所有権」のような有体物に対する権利なのか? そして、仮想資産の所有権が存在するとすれば、それは運営会社、利用者のどちらに属するものなのだろうか?

こうした点を考察する前提として、仮想の土地やアイテムなどの権利関係を考えてみると、セカンドライフという仮想空間上では島や土地を所有していることとなっていても、セカンドライフ上の「土地」は、現実世界においてはもちろん土地ではない。これらの実態はサーバー領域の一部や、デジタルコンテンツであり、無形の財産として知的財産権や著作権によって保護されうるものである。ただ、著作権の保護を受けるには、新たな創作性(独創性)が前提となるし、特許法や商標法などで保護を受けるためには、一定の要件を満たした上で公的機関の承認を得なければならない。つまり、仮想世界の土地やアイテムなどのうち広義の知的財産権(著作権、特許権、意匠権、商標権などを包含する概念)として認められ保護の対象となるものは一部にしか過ぎない。

そこで、仮想世界における知的財産権の核となる著作権はどのように整理されてきたのかを簡単に振り返りつつ、その流れの中でセカンドライフ的な仮想世界がどう位置づけられるのか考えてみよう。

かつてのゲームでは、運営者がゲーム内で現れるキャラクターなどあらゆる著作物の著作権を持ち、当然ながらその運用についても一元的にコントロールしてきた。

日本のゲームに関する過去の判例を振り返ってみても、1982年の「スペースインベーダⅡ事件」、その翌年の「パックマン事件」など、初期の段階から違法な複製行為や不正な改変行為に対し、権利者が著作権を行使し対抗してきたことがうかがわれる。

この頃は、運営会社の作った世界の中でプレーヤーが単独で楽しむゲームが主流であり、運営者(権利者)側の想定するストーリーの中で物事が完結していた。よって権利者の著作権によるコントロールも効きやすく、権利者と利用者という一対一の構図も明確であった。

ところが、一つの世界に複数のプレーヤーが参加するMMORPG(多人数同時参加型オンラインロールプレイングゲーム)が出現するようになると、こうした一対一の構図では収まらない状況が現れるようになる。 MMORPGでは行動が逐次サーバーに記録され、前日にプレーヤーがレベルアップしていれば、次の日からはよりレベルアップした状態から再スタートできることになる。そして、高いレベルに達したプレーヤーはゲーム上のアイテムを集める上で有利になるため、過去の蓄積を活かして貴重なアイテムを長期間かけて収集していくことも可能となる。こうして異なったアイテムを収集した複数のプレーヤーがゲーム上に現れると、仮想世界でありながら人間社会が存在するような状態となり、プレーヤー間でアイテムの取引などの経済活動が生まれる。

もちろん、運営者側はそうしたアイテムの「所有権」などが運営者に帰属することを利用規約によって定めているが、莫大な時間、労力、コストを費やし、キャラクターを育て、アイテムを獲得した利用者は、それらをあたかも自分が所有するものと認識しがちである。

つまり、利用者側は数百時間もの投資と、さらには自分が手を加えた仮想世界の新たな創作性を保有したいと考え、時にその権利を主張することになる。実際、多数の利用者が参加することで仮想空間内に起こるストーリーや展開に幅が広がっていくため、スタート時点でのゲームと比較すれば、共同著作物とは言えないまでも、ある種の独創的な価値が利用者によって加えられるようになる。しかし、こうしたアイテムに対して現実社会の著作権が認められるためには、利用者による新規創作性が認められるだけでなく、ゲームの運営管理者がゲーム内で産まれた著作物に対する著作権を利用者に開放していなければならないが、以前にはそういうことを認める運営管理者はほとんど存在しなかった。一方、ゲーム上のアイテム等に対し、現実世界における所有権はストレートには成り立ちえない。

そうだとすると、利用者の側にすれば、せっかく時間をかけて育てたキャラクターやアイテムに権利が認められないことになり、多大な時間を投資してそういったキャラクターを育てるインセンティブを失うことになる。

セカンドライフはこのような従来の著作権のあり方を覆した。

実はリンデンラボも、2002年のβ版開始当時には、「すべての著作権はリンデンラボ側に帰属する」という従来のゲームと同様の方針を示していた。しかし、利用者数が1万人を突破した2003年、クリエイティブコモンズの提唱者でもあるスタンフォード大学のローレンス・レッシグの助言に従って、著作権を作成者に帰属させることを利用規約に盛り込んだのである。

リンデンラボは、「従来の仮想世界のコンテンツは、その世界を開発提供する会社の財産となっていた。セカンドライフは利用者の功績によるものであり、コンテンツを作成した利用者が著作権およびその価値を所有し、そこから生み出された価値を共有できるようにすべき」*3であり、「著作権の保有により仮想世界を構築することができる」との見解を示している。

セカンドライフはクリエイティブコモンズのルールを援用しており、利用者は自らが作成したコンテンツの著作者表示や改変の禁止などについて、自分でコントロールの程度を決めることができる。セカンドライフの場合、仮想世界を住人が1からつくりあげるというコンセプトであるためにこのようなルールとの親和性が高い。また、クリエイティブコモンズのルールを援用することで、法秩序を一から創り上げる手間の煩雑さも回避している。これは、多数の利用者が参加する仮想世界における法秩序の一つのあり方を提示しているといえよう。

2003年の開設当初の5ヶ月間で1000人に満たなかったと言われているセカンドライフも、今では全世界の700万人が参加している。こうした急速な発展の大きな要因の一つとして、仮想資産(デジタルコンテンツ)の著作権を利用者に帰属させるというオープンなポリシーがあったと言われる。つまり、自分で創ったものに対する著作権が認められ、場合によってはその売買で巨額の富を得られる世界だからこそ、より多くの人がその世界に参加意欲を持つようになり、独創的な工夫を凝らすようになるのである。そうやって多くの人が参加し、独創的な様々なアイテムが創られるようになれば、クリエイターだけでなく、単なるオブザーバーや、商人のような人たちも集まり、仮想世界は一層賑わう。

こうした点について非常に示唆的な経済史研究がある。

ノーベル経済学賞受賞者のダグラス・ノースらはかつて、欧米諸国が他の地域に比べて持続的に経済発展した歴史的要因について分析し、その大きな要因として、国家が所有権制度を早い時期に整備したことを挙げている(North and Thomas 1973)。ノースらは、ロナルド・コース、オリバー・ウィリアムソンらの取引費用(transaction cost)についての研究を経済史研究に応用し、国家が所有権についての法制度を整備したことで、各種の契約にかかる取引費用が大幅に削減され、人々の活発な取引参加意欲と、取引の拡大を呼び込んだと指摘した(North 1990; Williamson 1998)。

こうした指摘はまさに、ノースらが研究の対象としたかつての欧米社会と同様に生成発展を続ける現在の仮想世界において当てはまる議論ではないだろうか。セカンドライフが、参加人員数的にもその中で行われる経済取引の量でも、今までのMMORPGを圧している一つの理由として、新しく整備された著作権(仮想世界の中では所有権)のルールがよく挙げられるからである。そういう意味で、歴史は、仮想世界と現実世界を超えて、繰り返すのかもしれない。

RMTとデジタルコンテンツの新たな資産価値

仮想世界を法的な面などでさらに複雑としているのは、そこで通貨が流通し貨幣経済が成り立っていることである。そのため、現実世界側から見たデジタルコンテンツとその著作権という話だけではくくれない、様々な権利関係が生じることになる。

この背景にあるのが、ゲーム内の仮想通貨やアイテムと現実の通貨との取引、すなわち、RMT(Real Money Trade)である。MMORPGを中心に行われているRMTの取引市場は、物々交換の域を遥かに超えて急激に拡大し、現在ではその規模は、韓国・アメリカで1000億円以上、中国は500億円、日本でも150億円にも及ぶと推定されている*4

仮想通貨やアイテムと現金との取引は、仮想世界の発展における非常に重要な要素であると同時に、詐欺やマネーロンダリングなどの違法行為の温床になるという潜在的な危険性をはらむ。組織的な犯行が多発するような事態になれば被害は大きくなり、仮想世界の場合は国境を超えて被害が一気に広がる可能性も高い。また、RMTを直接的に取り締まる法律もない。そこで、多くのゲーム運営会社はリスク回避のために利用規約でRMTを禁じ、違法なRMTに対しては利用規約違反としてアカウントを解除するなど、厳格なコントロールを施している場合が多い。

こうした事情を背景に、仮想資産をめぐるまた新たな対立が生じている。例えば、RMTと関連した仮想資産をめぐる権利については、02年にアメリカでおきたBlackSnow対Mythic Entertainmentの事例において争われた。オンラインゲームを運営するMythic社は、BlackSnow社がメキシコ人労働者を雇い長時間かけて高度なキャラクター育てさせ、それをオークションで販売し利益を得ていた行為に対し、規約違反であるとBlackSnow社の全アカウントを削除した。これに異論を唱えたBlackSnow社が更に提訴し、自らの行為は「著作権の譲渡を行ったわけでも著作権を侵害する行為でもない」と主張した。この件では結局、Blacksnow社が数ヶ月後に提訴を取り下げ、事件の解決前に倒産してしまったために、仮想資産に対する権利についての判断は出ないまま終わってしまった。しかし、RMTと関連しつつ、長時間かけて育てたアイテムや仮想資産は誰のものなのか、という疑問を問いかけるものとなった。

セカンドライフにおいては、多くのMMORPGと違って仮想通貨による取引が推奨されている。ビジネスや経済が存在すれば現実世界と同等の問題が生じる可能性もあり、仮想資産に現実と同様の財産的価値をみとめるのか、現実と同様の法規制を適用するのかという課題が生じている。

仮想資産は誰のものか?

それでは、仮想資産にはすでに述べた著作権だけでなく、所有権のような財産権が設定されうるのだろうか? 

著作権はあくまで作成者に強い独創性が認められるものに対してのみ認めうるため、その他の様々な仮想資産に対し所有権的な権利が認められるかは、今後の仮想世界の発展にとって大きな意味を持つ。

現実世界の(日本の)法制度では、著作権は著作物の創作と同時に発生し、思想または感情を創作的に表現したものであり、本来的に無体物を客体とする排他的支配権である。また作成者の独創性も強く要求される。一方、所有権は有体物を客体とする権利であり、そうした有体物を直接排他的に支配する権利である。美術品の所有者とその作者が同一とは限らないように、著作権と「物」の所有権とは別のものとして存在する。

ノースらの研究でも明らかにされたように、現実社会での経済・産業の持続的発展は、私有財産制とそれを担保する所有権制度の上に成り立っている。しかし、仮想世界において財産権制度は未発達である。仮想の土地の「所有権」という概念はセカンドライフの出現によって話題にはなったが、現実世界の所有権という概念は有体物の支配を想定しており、これをそのまま仮想世界に適用することは難しいだろう。といって、著作権で保護される対象は、あくまで独創性のある一部のアイテムやキャラクターに限られるため、非常に限定的な範囲に留まる。

Fairfieldは「Virtual Property」(2005)において、ドメインネームやURLやメールアドレスなどを仮想資産として取り上げ、MMOPRG内の資産はそれがより高度に発達した形態と位置づけている。

この論文の中でFairfieldは、仮想資産として保護される対象の性質としてrivalrousness、persistence、interconnectivityの3つをあげる。まず、競合性があるという点で著作権や知的財産権と区別し、本の著作者の権利と所有者の権利が別に存在するのと同様に、仮想資産の財産的権利は知的財産権を排除するものではないという。また、仮想資産には永続性があり、サービス提供者側の都合で勝手に消失させてはならないとする。このような仮想資産に対する財産権が認められれば、利用者の立場はより強くなり、運営者側もリスク回避を検討する必要が生じるだろう。

現時点のアメリカ連邦法下の判例では、仮想世界の一部資産としてドメインネームなどに所有権が認められているが、それ以外のオンラインゲーム内のデジタルコンテンツの所有権等については、利用規約によってゲームの運営会社にコントロールする権利があるとされるのが一般的*5であり、仮想資産の定義や法概念はまだ確定していない。判例もいまだ少ない。

たとえば中国では、ゲーム内アイテムの所有権を利用者側に認める判決があるといわれているが、この様な問題は世界的に生じており、今後も判例を蓄積して判断されていくことになるだろう。セカンドライフの土地所有権を巡るペンシルバニア州の裁判にも注目が集まっているが、ここで利用者の所有権を認める判決が出れば、従来ゲーム運営会社がコントロールしていたデジタルコンテンツの権利制度は新たな局面を迎えることになる。

アメリカでは、仮想資産に対する課税や法的保護についての検討が進められており、2008年初頭までに議会が方針を出すと言われている。問題となっているRMTの規制や課税、法制度の検討の前提としても仮想資産の価値や権利概念は重要であり、更なる議論が必要となる。

セカンドライフが抱えるその他の法的課題

セカンドライフでは自治もすべて利用者に委ねられているため、今まで論じてきた仮想資産に対する権利関係を含め、どのようにして秩序を保っていくかが大きな問題となる。たとえば運営者による利用者のアクセス権の剥奪などによって利用者の仮想資産が喪失する事態となったときや、利用者間において仮想世界内部で財産権をめぐる争いになったときの紛争処理機能について課題が残る。

リンデンラボは紛争処理的な機能を持たない。セカンドライフ上の住人が自主的に作る裁判所も全体の紛争処理施設として機能しているわけではない。よって、利用者は結局のところ現実世界における紛争処理機関に頼らざるを得ないことになる。実際、セカンドライフの利用規約には仲裁条項があり、紛争が生じた場合は訴訟を提起する前にサンフランシスコの国際商業会議所の仲裁を受けるべきことが定められている。ただし、Bragg対リンデンラボの土地所有権を巡る裁判では、仲裁条項による解決を主張するリンデンラボに対し裁判所がその効力を否定した。

また、裁判管轄権の問題も今後の課題となりうる。国境のない仮想空間では国際的な交流は容易であり、セカンドライフ内で「他人」に話しかけてみたら外国人だったということはごく当たり前に起こる話である。このように仮想空間には国境はないが、紛争問題を裁く法的機関やその該当者のいる現実社会には国境がある。仮想世界を構築するリンデンラボのサーバーは米国にあり、利用規約でも「(本規約に基づく当事者の)権利と義務は,統一商事法典を含むカリフォルニア州の法律に準拠する」旨が記載されている。今後、仮想資産の財産権を巡って国際的な裁判となることも容易に想像でき、裁判管轄権が問題となる事例も起こりうるだろう。

おわりに

セカンドライフが仮想世界における著作権や仮想資産の所有権について新たなパラダイムを提起したことは確かである。しかし、仮想世界そのものが黎明期と称されるように、仮想世界の権利関係や仮想資産の法的扱いについての議論は未成熟であり、今後の検討課題である。

セカンドライフの世界の総加入者数は、2008年末に2億5千万人に到達*6し、2010年以降は、多様な仮想世界が誕生する「マルチバース」時代になるとも予測されている。

このままセカンドライフ人気が続き仮想世界の人口がセカンドライフに集中していくのか、あるいは他の新たな仮想世界が発展していくのかはまだわからない。しかし、所有権制度をはじめとする法秩序の整備がなければ拡大した仮想世界はトラブルの渦となるであろうし、そもそも仮想世界自体の発展は法秩序なしには実現しないだろう。ノースらが過去の現実世界で指摘した事象が、仮想世界において再現されようとしている。

仮想世界ではゲームを運営する主体(企業)が存在し、権利の設定についての裁量権を持つ。つまり、運営会社の利用規約はその世界の憲法的な役割を担うことになる。しかし、仮想世界の拡大とともに利用規約だけで様々な権利関係の紛争解決をはかることには限界が生じるため、仮想世界における権利の概念を明確に議論し整理しておくことが、仮想世界の持続的な発展をもたらす制度設計やルール作りの上でも不可欠となる。

現在の仮想経済における現象は、「すべての権利は運営会社のもの」という当然の概念を変えつつある。エンターテインメントや社会、技術の発展は法の変容をも迫るのである。混沌とした仮想世界をどのように発展させていくか、新たな法秩序の検討はまだ始まったばかりである。

*1 野田総明、山口勝、「セカンドライフ」に見る仮想世界・仮想経済の可能性、Mizuho Industry Focus vol.57

*2 Mark Bragg,plaintiff, v Linde Research,Inc.and Philip Rosedale, Defendants.Civil Action No.06-4925

*3 http://secondlife.com/world/jp/commerce/press-release.php

*4 井上明人、2006、「オンラインゲームと経済 リアルマネートレード(RMT)の動向」

*5 渡辺弘美、2007、「仮想世界を巡る法制度的な議論」

*6 野田総明、山口勝、「セカンドライフ」に見る仮想世界・仮想経済の可能性、Mizuho Industry Focus vol.57


<参考文献>

Fairfield, Josha. 2005. VIRTUAL PROPERTY. Boston University Law Review, Vol. 85, page 1047,

North, Douglass C. 1990. Institutions, Institutional Change and Economic Performance. Cambridge. Cambridge University Press.

North, Douglass C. and Robert P. Thomas. 1973. The Rise of the Western World: A New Economic History. Cambridge. Cambridge University Press.

Reuveni, Erez. 2007. Our Virtual Worlds:Copyright and Contract Law at the Dawn of the Cirtual Age. 82 Indiana L. J. 262, 290

Williamson. Oliver E. 1998. The Economic Institutions of Capitalism. New York. Free Press.




プロフィール
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<もりた・さおり>
国際大学GLOCOM研究員。2000年慶應義塾大学法学部法律学科卒。同年、東日本電信電話株式会社入社。法人営業、知的財産業務を経て、2006年より現職。