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chikyu_chijo - April 2, 2008

第32回: 政策形成・選挙と、情報技術を使いこなす人々

April 2, 2008 [ chikyu_chijo ] このエントリーをはてなブックマークに追加

庄司 昌彦(国際大学GLOCOM 研究員)

これまでの日本の政策形成

日本は、政策形成において行政府の存在が立法府よりも大きい「行政国家」であるといわれる。立法府は法律案や予算案を審議し、修正し、承認を与える重要な役割を担うが、アジェンダを設定し、対処方針を立て、法律案を作成し、予算を確保し、実施し、評価を行うのは行政府が主導することの方が多いためである。

行政国家的な政策形成の成功例として語られるのは、高度経済成長期の産業政策だ。日本が高度経済成長を達成したのは、通商産業省が業界を監督指導しながら輸出産業を育成するのに成功したからであるといわれる。他の省庁も、たとえば銀行業界に対して大蔵省がとった「護送船団方式」のように、中央省庁が業界と密接に連絡を取りながら許認可や行政指導によってコントロールすることで効率的、効果的に政策運営を行ってきた。官が主導する政産官の密接な関係(鉄の三角形)に基づいて行う政策形成は、産業の近代化や諸外国へのキャッチアップが必要な開発主義段階ではたいへんよく機能した。

90年代以降の変化

だが、1990年代以降、いくつかの大きな変化が政策形成過程に起きている。たとえば連立与党間の政策調整プロセスの登場や、内閣機能の強化である。

1993年の細川政権の成立によって自民党の単独政権時代が終わり、連立政権の時代が到来した。与党が複数になったことで、政権の方針作りや法案の提出にあたっては、連立与党間の調整プロセスが加わった。この与党内調整において、行政から出てこないような政策の実施が合意された例が見られる。代表的なものは、小渕政権で公明党が実現した地域振興券や、自由党が実現した党首討論の導入や政府委員制度の廃止などだ。連立政権を構成する政党が、政権運営や選挙への協力、あるいは協力取り下げの可能性を示すことで、自党が掲げる政策の実現を図るのである。

内閣機能の強化については、小泉政権下では経済財政諮問会議の役割が特に大きかった。この会議は、2001年に中央省庁が再編された際に、経済財政政策の主導権を財務省(大蔵省)から首相へ移すために作られた。小泉政権では、経済財政担当大臣と4人の民間委員らによって、改革の方針(「骨太の方針」)や改革プロセス(「工程表」)の明示、改革のフォローアップなどが行われ、行政からの積み上げ型ではないトップダウンの政策形成を行うルートが確立した。諮問会議のほかには、公務員倫理法(2000年)も機能している。企業関係者と官僚が宴席やレジャーなど非公式の席を共にすることで行われていた情報交換が減少し、政産官の鉄の三角形を弱めていると考えられる。

政策形成への参加と情報化

さらに、新しい変化も起きつつある。それは、鉄の三角形の中に入っていなかった民間主体の活動だ。まず特定非営利活動促進法(=NPO法、1998年)によって、非営利組織の活動が活性化し、社会的な問題の解決に取り組む人々が行政の外部に増えている。

また情報公開法(1999年)によって、政府関連の公開情報が飛躍的に増加し、検索や入手が容易になった。そのおかげで、NPOや大学、シンクタンク、企業などの民間主体が政策研究や政策評価、チェック活動などを行いやすくなってきている。この二つの動きは、情報技術の普及やそれに合わせた人々の知識生産や協力行動の変化、つまり「情報化」とも深く関連している。

行政の側でも、政策課題の多様化や複雑化によって必要となった専門知識や現場の情報を政策形成過程に導入するために、民間の専門家の登用や、パブリックコメントの募集、NPO等との協働事業などに取り組んでいる。また行政における「情報化=電子政府構築」においても、1990年代からバックオフィスの電子化に取り組み、2000年頃からはフロントオフィスの電子化をすすめてきたが、2005年頃からはネットコミュニティを用いた行政への住民参加や行政と住民組織の共働が主要課題になってきている。

ネットコミュニティを用いた行政への住民参加は、先駆的な事例が1990年代後半から存在する。それは電子掲示板(BBS:Bulletin Board System)を、政府や地方自治体が設置するという取り組みで、藤沢市(1996年開設)、大和市(1998年開設)、札幌市(1999年開設)や、政府の教育改革国民会議と連携した「教育改革ラウンジ」(2000年開設)が代表例である。慶應義塾大学SFC研究所と NTTデータ システム科学研究所の共同研究 によると、2002年には全国で733の地方自治体が電子掲示板を設けていた。だがその後、「荒らし」などの問題や利用者が増えないことなどを理由に大半が閉鎖されてしまった。

そしてこの流れを引き継いで登場したのが、人の「つながり」に着目した会員制ネットコミュニティのSNS(Social Networking Service)だ。2004年12月に熊本県八代市で誕生した「地域SNS」の取り組みは、総務省の旗振りやオープンソースプログラムの普及によって全国数百ヶ所にまで広がり、2007年8月には兵庫県などの主催により初の「地域SNS全国フォーラム」が開催された。また総務省では、地方の総合通信局と本省の職員が使用するSNS(SMILE)を開設したり、外部の研究者と情報通信政策に関する議論をSNS(iSpring)上で行ったりするなどの取り組みを行っている。この他、地域経済活性化や、地域住民との情報交換の場としてSNSを活用しようという取り組みが、他の省庁や独立行政法人、地方自治体などにも広がりつつある。

図:iSpringトップ画面

選挙でソーシャルウェアが普及する

次に、話題を「選挙」に向けてみたい。選挙では、どれだけ多くの人が投票に「参加」するかが関心事である。それは投票率によって政党や候補者の有利・不利が変わるからだが、投票率が継続的に低落傾向であることも、よく話題になる。たとえば2007年8月に行われた埼玉県知事選挙の投票率は27.67%で、全国で過去三番目の低さであると話題になった。数年前には「どうせ何も変わらないだろうから投票しない」という有権者の無関心が大きな問題であった。また、公職選挙法が選挙期間中におけるインターネットの活用を禁じているとの解釈がされていることもあり、日本ではインターネットを活用して政治家やその支援者がより多くの人を巻き込もうとする取り組みは、海外と比べるとかなり低調である*1

それでも、選挙が行われるたびにインターネットの活用が話題になる。これは、インターネット上のサービスが持つ双方向性や公開性、効率性などの特徴を生かすことによって、より多くの有権者が候補者の支援に参加したり、資金を提供したりすることが期待されているからだ。そのため選挙運動では、さまざまなインターネット上のサービスが試される。海外まで目を向ければ、インターネットを活用しようという取り組みは、行政的な政策形成過程よりも選挙目的の方が非常に盛んだ。選挙はさまざまな情報技術やサービスが発達する機会でもある、と言い換えることもできるだろう。

特に2000年以降は、ブログやSNS、動画共有サイトなどの「ソーシャルウェア」が選挙で一定の役割を果たし注目を浴びている。ソーシャルウェアとは、情報の共有や新たな知識の創造など、人々の社会的な共働活動を支援するソフトウェアや情報サービスのことだ。双方向のコミュニケーションを促すという意味では「インターネットらしい」サービスだともいえるだろう。

たとえば2004年の米国大統領選挙に向けた民主党の予備選では、ハワード・ディーン候補がブログを活用して積極的な情報発信を行い、支持者はSNSを活用して数多くの集会(meetup)を組織し、ネット経由の献金を集め、有力候補に浮上した。2008年の大統領選に向けた現在のキャンペーンでも、民主党の有力候補たちはYoutubeで演説や活動状況を動画配信し、MyspaceやFacebook、FlickrなどのSNSサイトで支援コミュニティを運営し、またdel.icio.us等のソーシャルブックマークで注目記事を共有するなど、ソーシャルウェアを積極的に活用している。特にバラク・オバマ候補は、非常に完成度の高いSNSサイト*2を独自に運営し、ジョン・エドワーズ候補は22ものソーシャルウェアを活用したり*33D仮想世界のSecond Lifeでキャンペーンを行ったりしている。またYoutubeやMyspaceといったサイトの側でも、大統領選挙の特集ページを設け、有権者の情報発信や交流、候補者とのコミュニケーションを支援している。一部の先進的な人々だけが使っていたソーシャルウェアが注目度の高いイベントである選挙で活用されることによって、より多くの人に利用されるようになったり、新たな試みを生み出したりしている。

図:Youchoose(Youtube)トップ画面

米国以外でも政治とソーシャルウェアの関係は深い。韓国では、市民記者制のインターネット新聞「OhmyNews」が2002年の大統領選挙で盧武鉉候補を支援し当選に貢献した。また盧武鉉大統領の弾劾決議の是非が争点となり最終的には大統領を支える与党ウリ党が議席を3倍増させた2004年の国会議員選挙でも、野党寄りの主要メディアが報じないニュースを報じたOhmynewsや、パロディサイト「Mediamob」「DCinside」などが、インターネットとの親和性が高く盧武鉉大統領支持者が多いとされる若者の投票率を上昇させた。韓国の世論形成では「ネチズン」と呼ばれるこのようなインターネットユーザーの影響力が強く、政党や政治家はインターネット上での情報公開や彼らとのコミュニケーションにかなりの労力を割いている。このほか、2007年に行われたフランス大統領選挙ではニコラ・サルコジ候補、セゴレーヌ・ロワイヤル候補の双方がセカンドライフ上に事務所を開設してキャンペーンを行った。またスペインの地方選挙でも、与党・社会労働党(PSOE)と国民党(PP)のセカンドライフ上の事務所が双方の支持者によって攻撃されたというニュースがロイターによって報じられた。

日本の選挙とソーシャルウェア

2007年は2回の統一地方選挙と参議院議員選挙が4ヶ月の間に行われるという「選挙の年」であった。先述の通り、日本では公職選挙法が選挙期間中におけるインターネットの活用を禁じているとの解釈がされているが、いくつか注目すべき現象がみられた。

その第一は、現職知事の辞任により統一地方選挙に先立って行われた1月の宮崎県知事選挙である。この選挙では元タレントのそのまんま東(東国原英夫)候補が、中央省庁出身で政党の支援を受けた有力2候補などを破り当選した。この当選の要因のひとつに、東候補が早稲田大学大学院の同級生やその友人の専門家たちと作ったマニフェストが挙げられている。このマニフェストは、当事者たちが述べているように「インターネットで県のホームページなどを調べながら数日で」作られた。政産官の「鉄の三角形」の外部の専門家たちが、インターネット上に公開されている情報を駆使して作成したものが実際の選挙で高い評価を受けたという、情報化の申し子のようなマニフェストであった。

第二は、4月の東京都知事選挙できわめて特徴的な演説を行い大きな話題となった外山恒一候補の政見放送が、動画共有サイトのYoutubeにアップロードされ、テレビで見逃した人がいつでも視聴できるようになったことである。しかも、その政見放送にBGMを付け加えたり、音声を加工したり、字幕を付与したりするなどの「二次創作」を行った動画作品がたくさん作られた。東京都選挙管理委員会はYoutubeに削除要請を出し、実際に多数の動画が削除されたが、結局すべてを削除することはできず、この動画は今でも見ることができる。また参議院選挙でも、選挙期間前に動画配信サイト「ニコニコ動画」の公式動画コンテンツとして民主党の小沢一郎代表が出演したところ、誹謗中傷も含む多数のコメントが動画に書き加えられ、さらに様々な改変を行った二次創作作品も多数作られるなどして、選挙期間中も視聴された。

第三は、参議院議員選挙期間中に、政党ウェブサイトの更新が行われたことである。これまで、公職選挙法では、選挙期間中は法定ビラなどを除く視覚的な文書図画の配布を禁止しているため、インターネットでの選挙運動はできないとされてきた。だが今回の選挙では、自民党と民主党は「選挙活動」ではなく通常の「政治活動」であるとして、党首や幹部の演説などをウェブサイトに掲載した。今回のウェブ更新は、法改正が行われていないのに、これまで行われてこなかったことが突如行われたため、「なし崩し」的なネット選挙解禁であるともいわれる。今後も、SNS等の事前登録された会員制サイト内での情報発信は、現行法の解釈内で可能であるなどとして行われていくかもしれない*4

公共的な問題に関心を持つ人々の台頭

以上のように、公共的な問題に関心を持ち、情報技術を活用して情報収集を行ったり、情報発信を行ったりする人々が台頭してきている。このような人々は、従来型の政産官の政策コミュニティに必ずしも属していないが、部分的には現実の政策形成過程や選挙に影響を与え始めている。

ただし、詳しく見るとこのような人々の姿は多様である。マニフェスト作りなど専門知識を生かして個別の政策議論に深く関与する人々から、特に専門知識を持たないが選挙のような物事の可否の判断において意思表示をする人々までが含まれており、両者は属性や具体的な振る舞いが大きく異なる。前者を重視する立場は、政治学ではエリート民主主義論などと呼ばれてきたもので、後者を重視する立場は参加民主主義論などと呼ばれてきた。

次号では、このような公共的な問題に関心を持つインターネットユーザーの行動を分析し、また彼らの存在を踏まえてどのような政策形成過程や選挙制度をデザインすべきかという議論を行いたい。

*1 2005年の衆議院選挙と2007年の参議院選挙では投票率が上昇し、それぞれ自民党と民主党の大勝という顕著な結果が現れた。また、広い意味で公共的な話題や社会問題に関心を持つ人や、それをブログ等で論じる人は増えている。「政治的無関心」への流れは落ち着いてきているようだ。

*2 http://My.BarackObama.Com

*3 2007年9月11日現在。http://johnedwards.com/action/networking/

*4 政党・候補者にとっても、有権者にとっても、グレーゾーンが広くさまざまな行為の法的な可否が明らかではない現在の状況は、本来は民主主義として望ましいはずの情報発信・収集や討議に「萎縮」をもたらしていると考えられ、望ましくない。公職選挙法の改正によって、具体的に可能な行為と禁止される行為が示されるべきである。その際には、選挙公報と政見放送を選挙管理委員会など特定のウェブサイトで見られるようにしたり、届出のあったウェブサイトの更新を認めるなどによって、徐々にインターネットの活用を広げていくのが望ましいだろう。

プロフィール
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<しょうじ・まさひこ>
国際大学グローバル・コミュニケーション・センター助教、研究員。中央大学大学院総合政策研究科修士課程修了。おもな関心は情報社会学、政策過程論、電子政府・自治体、ネットコミュニティ、地域情報化など。共著に『地域SNS最前線 -Web2.0時代のまちおこし実践ガイド』(2007年、アスキー)、『クリエイティブ・シティ -新コンテンツ産業の創出』(2007年、NTT出版)など。