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chikyu_chijo - April 2, 2008

第34回: コンテンツビジネス、事業構造の変化

April 2, 2008 [ chikyu_chijo ] このエントリーをはてなブックマークに追加

福冨 忠和(国際大学GLOCOM 客員教授)

ネットコンテンツは拡大しているか?

2006年の国内のメディアコンテンツの市場規模は、13兆9890億円にのぼる。これらを流通メディア別に分類すると、パッケージ流通(図書、新聞、音楽CD、ビデオソフト、ゲームソフトなど)が49.6%の6兆9415億円、放送が28.7%の4兆158億億円、映画、カラオケなどの拠点サービスが12.6%の1兆7678億円。これに対し、インターネットは5.6%の7857億円、携帯電話が3.4%の4782億円となっている。

この5項目の流通別の比率は、インターネットでのコンテンツサービスが開始された90年代末からの調査・分類にはじまり、わずかづつ変化している。たとえば、インターネットおよび携帯電話を通したコンテンツの流通規模は、2002年からの5年間で比率、数値共に倍増している。コンテンツ市場全体の成長率が、毎年1~3%の間で推移してきたことから考えると、インターネット、携帯電話を併せたネットコンテンツは急成長分野だと考えられなくはない。

しかし、市場全体の中での比率からは、「微増している」というほかなく、旧来のコンテンツの市場流通規模には遠く及ばない。

21世紀に入って、国内のインターネットの利用者人口は5000万人増加、携帯電話人口は8000万人増加、ブロードバンド利用者数も3000万人に届く。一般消費者向けの電子商取引も2004年時点で5兆6430億円(経済産業省)の規模となっている。にもかかわらず、ネット・携帯を通じたコンテンツ流通の規模は、市場の1割にやっと届いたところなのだ。伸び率から単純に試算すると、コンテンツのネット配信が旧来のメディア産業に届くには最短でも数十年かかってしまう。

2005年にはCurrentTVが米国で開始され、インターネットテレビ・GyaOが開始された。また、同年はYouTubeのサービスもはじまり、ブログ、SNSなどともに、Web2.0型ビジネスの可能性が大いに語られた。あわせて2005、6年を一括りに「動画配信元年」と呼ぶ向きもある。気の早い論者はネット動画やCGM(Consumer GeneratedMedia)が、旧メディア産業を駆逐するという寓話を描いたり(「EPIC2014」)、メディア産業が「総表現社会」(梅田望夫)に代替されると予測した論もあった。しかし、そういう社会は、そんなに早く実現しないと見るべきだろう。

その原因について、筆者はすでに幾つかの文章で触れてきている(たとえば 『デジタルコンテンツ白書2007』(財団法人デジタルコンテンツ協会)や『月刊ウィンドウズモード』(毎日コミュニケーションズ)2007年8月号特集「ネット動画ビジネスのゆくえ」での拙論など)。

ここでは、こうした近年のネットコンテンツの希望的観測に溢れた喧噪とは違うところで、コンテンツ産業の側で静かに進行した収益構造、環境の変化について、述べておきたいと思う。

ウィンドウィングとグッドウィルモデル

コンテンツ産業で進行しているのは、マルチユース化とメディアミックス化であり、もう一つは海外市場の開拓である。この2つの動向の中で、本来創造の原資を担ってきたにもかかわらず、下請け企業としてバリューチェーンの最下層にあった制作会社が最上層に浮上する機会が生まれた。同時に作品あたりの予算規模や事業規模も拡大しつつあり、そのための資金調達手法が開拓され、制度としても整いつつある。

一般に、(ワンソース)マルチユースと呼ばれる事業化のスタイルは、劇場用映画の旧作をテレビ放映やビデオパッケージとして発売する、いわゆるウィンドウ戦略として知られている。しかしメディアミックスと呼ぶ場合には、もう少し広範で、小説原作を映画化することや、マンガ、アニメ作品から商品化が行われるキャラクターマーチャンダイジングなども含まれる。後者については1961年のテレビアニメ版の『鉄腕アトム』が国内の初期の例であることも知られているとおり、いずれにしても日本国内市場では、古くから行われてきたビジネスの形である。

木村誠は、これらのコンテンツビジネスをウィンドウィングモデルとグッドウィルモデル(後述)の2つの理念モデルに分類している*1。ウィンドウィングモデルは、「同一コンテンツを供給時期と画面サイズの異なるメディアに対して、価格差異化を行いながら提供していくモデル」である。このモデルには本質的に、 1)規模の経済、範囲の経済の追求 2)安全な配給経路の保によるリスク削減 3)排他的配給経路により参入障壁を築く などの傾向が進む特長があるとされる。

ハリウッドビジネスとして確立したこのウィンドウズモデルは、単純に言えば収益機会の最大化を目指すため、コンテンツ制作から流通整備までを伴う大規模なモデルであり、その結果、多くのハリウッド資本では、撮影スタジオ、映画配給、興業、ビデオ発売、放送、出版、ネットなどを含めた企業合併・吸収が1990年以降活発化し、メディアコングロマリッド化を推し進めることになったと考えられる。

『鉄腕アトム』以来行われてきた日本のメディアミックスのモデルでも、長らくウィンドウィングのように、特定メディアの中で評価を得た一作品の影響力、波及力を、別のメディア展開や商品化によって活用するだけの、二次利用、再利用の側面が強かった。

しかし、近年一般化しているのは、単なる再利用ではなく、最初の創作・制作立案の段階で、コンテンツの構成要素である物語、シーン、キャラクター等を抽出し、それを元にした二次的創作などによって、商品化や、そこから派生する別のコンテンツを、同時に展開・事業化させるような試みである。木村がグッドウィルモデルとして理念化すること事業モデルでは、コンテンツが同時に複数のメディア配信、商品化そのほか多面的な展開の中からユーザーに訴求され、それが総体としてグッドウィル(goodwill、質的資産)を形成し、それらの著作権、商品化権、意匠権ほかの権利化を通し、総合的な収益化が図られるていく。

木村はそれを、図3の4つのコンテンツの変換パターンとして分類している*2

コンテンツビジネスの転換点

もともとグッドウィルモデルは、戦略的に考案されたものではない。たとえば、『鉄腕アトム』では、テレビ局にアニメ放送の前例が乏しかったため、極めて低く設定された制作費を補うため、製菓会社とのキャラクターマーチャンダイジング契約が進んだ経緯があったようだ。つまり、ウィンドウウィングモデルが「収益の最大化」モデルであるとすれば、グッドウィルモデルは後述する製作委員会方式ともども、「リスクの最小化」モデルとして日本特有のメディア、コンテンツの市場環境から生まれてきたと言えるだろう。

このグッドウィルモデル=メディアミックスの戦略化がコンテンツ市場で前景化してきたのは、1980年代末から90年代初頭にかけてである。この時期、普及した家庭用ゲームソフトとマンガ、アニメ作品などとのメディアミックスが進行し、エニックス(現スクウェアエニックス)のように、出版ビジネスに参入するゲーム会社も登場した。

たとえば『オバケのQ太郎』『ドラえもん』などでアニメ作品にマンガ原作を提供してきた小学館は、1990年にメディアミックス編集部を設置し、98年にキャラクター事業センターを設立。出版社に初めて映像プロデューサー職を導入し、同年にアニメ「ポケモン(ポケットモンスター)」テレビシリーズを開始させている。同時期、小学館、集英社、講談社、秋田書店などのマンガ出版の大手で、マンガ誌の販売部数が減ったことを受け、読者年齢が拡大しすぎた少年誌を、再度、実年齢の少年層へと回帰させる戦略がとられたことも背景にある。

『オバケのQ太郎』の成功から本社ビルがオバQビルと呼ばれることもある小学館が、こうした経験からメディアミックス展開を積極化したことは推測できる。しかし著作権法上は、原作を出版するだけの出版社は著作物の著作権も隣接権も持たない(たとえば『鉄腕アトム』の発行は単行本、雑誌掲載含め、数社の出版社で行われている)。したがって、出版以外のメディア展開に出資者・事業主として主体的に関与する必要が生まれたと考えられる。キャラクター事業センターの成功を受けてか、2004年には、日本国内の映画興行収入ベスト10作品中、6作品の原作が小学館発行のものとなっている(アニメ4作品、小説2作品)。

1991年にはテレビ東京が6局の大都市圏ネットワーク(メガトンネットワーク)を完成させたことで、テレビアニメの全番組数は80年代の週40本程度(30分番組換算)から90年代末には週80本以上に増え、アニメビジネス全体が拡大したことも大きな要因だろう。この時期に広がった衛星放送、CATVなどの多メディア化と、ゲーム、出版、映画などを含めたメディアミックス展開が市場規模を広げ、市場競合で作品の質が向上することで、マンガ、ゲーム、アニメを中心とする日本コンテンツの評価が国内外で大いに高まる契機となったといえる。

事業モデルと資金調達の新たな可能性

これらの変化は、事業モデルや資金調達にも変化をもたらしている。

従来のテレビアニメ番組などの場合、キー局が広告代理店を介して調達した広告費の一部が、制作費となり、制作会社は放送局の下請けとして制作を受託する。制作会社にリスクは無いが、番組(作品)の権利の大半は放送局に帰属し、その後の番組の再販の権利もそこからの収益も、本来バリューチェーンの最上流に位置すべき制作会社に無い。

しかし、メディアミックス、マルチユースによって、マスメディア外の収益比率が高まることで、徐々に製作委員会方式などの事業形態が広まっていった。この方式では、メディア企業(テレビ局、映画会社)以外に、原作権を持つ出版社、広告代理店、玩具メーカー、商社などによる製作委員会(民法上の任意組合)が設立される。出資者である組合員各社には出資比率に応じて利益が配分されるが、それとは別途に、個々の権利(興行権、放送権、出版権、商品化権、海外販売)の窓口権を得ることになる。つまり、製作委員会方式では、各組合委員が投資と事業化の両方を担う形で、二重の回収方法が用意されており、そういう意味でも「リスク最小化」モデルと考えられるのである。

しかし製作委員会方式でも、コンテンツの制作会社は、自己資金を持たない限り、下請け会社であることにかわりは無い。製作委員会方式には、各分野の会社が直接関わるため、事業の専門性が高く、成功確率が高いというメリットがある。反面、成果物の著作権は出資者の共有となり、事業運営も長年の信頼などに頼って展開されるため、権利の管理については逆に複雑となったり、外部からの資金を調達しにくいなどの短所もある。

90年代末以降は、業界外部からも出資ニーズが生まれ、並行して進んだ制度整備と相補的に、事業モデルと資金調達にも新たな形態が採用されるようになっている。

たとえば、1998年に施行されたSPC法(特定目的会社の証券発行による特定資産流動化に関する法律)を元に、著作権の証券化が可能になった。この方式を用いアニメ制作会社ゴンゾが資金調達を行った例が知られている。

2004年の信託業法改正(受託可能財産の制限の撤廃)による知的財産信託を用いた資金調達では、シネカノンの作品に対して行われ、映画『フラガール』で大成功した事例もある。このほか、2005年施行のLLP法(有限責任事業組合契約に関する法律)に基づくLLP設立による資金調達(日本テレビとNTTドコモによる事例など)、2006年施行の会社法の合同会社(LLC)の設立による資金調達(フジテレビとチームラボビジネスデベロップメント)のなど、リスクの低い潤沢な資金調達で、メディアミックス化の中で作品の質を向上させながら、制作会社の権利を確保していく道筋も見えてきた。制作会社の株式公開(プロダクションIG、GDHほか)などと相俟って、新たな制度整備がコンテンツ産業の可能性を広げつつあることも間違いがない*3

コンテンツビジネスは、、グッドウィルモデルと新しい資金調達・事業方式の採用によって、その都度ビジネスの局面を切り開いてきた。マスメディアを中心に縦に階層化され、最下層に位置づけられていたクリエイターやコンテンツ制作会社が、表現能力を原資にして、本来あるべきバリューチェーンの最上層に浮上してきたというふうにも見える。そうしたコンテンツ産業から見ると、市場の新たな出口であるインターネットや携帯電話によるコンテンツ配信の可能性は無視できないだろう。

しかし逆に、インターネットや携帯電話などのネット配信ビジネスが、旧来のマスメディアの地位に代替し、コンテンツ産業を配下に置く、というようなイメージを持っているとすれば、ネットコンテンツの可能性は閉ざされることになるだろう。

参考文献

*1 木村誠「コンテンツビジネスの基本モデル」、長谷川文雄・福冨忠和・編著『コ ンテンツ学』(世界思想社 2007年)第六章。

*2 木村誠「コンテンツビジネスを射程とするプラットホーム戦略の試み」『経営 情報学会2006年春季全国研究発表会予稿集』。

*3 戒野敏浩・著『デジタルコンテンツマネジメント』(同文社出版 2007年)など 参照。

プロフィール
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<ふくとみ・ただかず>
専修大学ネットワーク情報学部教授。デジタルハリウッド大学客員教授。国際大学グローバルコミュニケーションセンター客員教授。『デジタルコンテンツ白書』編集委員会委員長、デジタルコンテンツグランプリ、グッドデザイン賞他の審査員を務める。『インターフェースの大冒険』(アスキー 2000年)、『ヒット商品の舞台裏』(アスキー 2003年)、『メディア学の現在(新訂)』(共著 世界思想社 2007年)『コンテンツ学』(共編著 世界思想社 2007年)ほか。