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chikyu_chijo - April 2, 2008

第37回: デザイン戦略による価値創造と日本企業の課題

April 2, 2008 [ chikyu_chijo ] このエントリーをはてなブックマークに追加

宮尾 尊弘(国際大学GLOCOM 主幹研究員)

日本の製品デザインは「世界最高水準」か

いま日本で「デザイン」がブームであるといわれる。確かにいろいろな「デザイナー」がマスコミに顔を出すようになり、デザイン関係のニュースやイベントなども一般に広く話題になっている。しかし、デザインの作品やデザイナーについての文献は多いものの、デザインの機能や活動がビジネスにおいて持つ意味や役割を論じたものはまだあまり見当たらない。ごく最近、ブランド戦略などとの関係で、デザインを議論する傾向が出てきたが、その内容はまだ断片的でよくまとまっていない。
しかもその中で、日本のデザインに対する評価は、絶賛するものから酷評するものまでさまざまのようにみえる。

そもそも「デザイン」とは何であろうか。「デザイン」を辞書で引くと、狭い意味では「意匠」、広い意味では「設計」といった言葉が出てくる。しかし、この二つの言葉の持つ意味はかなり異なる。通常「意匠」とは、物品に施された造形についての計画という狭い意味を持つ。「意匠法」による定義によれば、意匠とは「物品の形状、模様もしくは色彩またはこれらの結合にかかる美的創作物」と定義されている。それに対して、「設計」とは、例えば「制度やシステムのデザイン(設計)」というような表現にあるように、必ずしも物品や造形に関するものでなくても、何かシステムを計画するといった広い意味で使われる。典型的には、技術者が設計図を描くといった場合がそれに当る。

しかしこれらの言葉は、しばしば現実には対立関係に対応する場合も生じる。例えば、企業組織の中で、よく「デザインと設計は水と油でケンカ相手」といった表現が聞かれるが、これは「デザイン対機能」あるいは「デザイン対製造」という対立関係に対応していると考えることができる*1。この背景には、デザイナーが自分たちの感性にしたがって製品の形態などを提案するのに対して、技術者を中心とする設計部隊は、製造の視点から機能や性能を考えて形状などを導くという違いがある。

このように考えれば、日本製品のデザインについて二つのまったく異なる評価が存在する理由が見えてくる。一方においては、「わが国の商品デザインのレベルは世界最高水準で・・・・そのような、優れたデザインに毎日触れている我々のデザインセンスも世界最高レベル」*2という礼賛が出てくる。確かに、「意匠」という意味での製品デザインの考え方や仕事の内容は、戦後米国から導入されたもので、同様に戦後導入されて日本で発展した品質管理と並んで日本の製品の競争力を高めることに役立ったことは間違いない*3。しかしそれは、あくまで製品の機能や性能を第一に考えた上で、できるだけデザイナーの意見を入れて、商品として魅力的なパッケージにするかという問題意識で発展したものとみなすことができる。つまり、それはいわば「機能美」ともいえるデザインのあり方といえる。

他方、日本製品のデザインに対する厳しい見方は、特に欧州のブランドとデザインを評価する立場から出されており、例えば、イタリア式の商品デザインと比較して、「日本のモノ作りは、マスマーケットを前提とした品質、コスト、納期の深化がビジネスだと思い込み、人間の感性をないがしろにしてきた」という厳しい意見が聞かれる*4。さらに、「いいものさえ作っていれば、いつか誰かが認めてくれるだろう」という態度が日本のデザインする側にみられ、「正しい人を探して、その人から正しい情報を引き出し・・できたものの情報を正しい人に正しく伝える・・・この過程を経て、はじめてきちんとしたデザインができる」ことを忘れているという批判も強い*5。このような批判的立場の背景にある考え方は、「職人には、時代の先を行くデザイナーの感覚を持ちにくいし、デザイナーには、思い描いたものを製品にする技術を得がたい・・・・この両輪が必要である」というもので、それが日本の製品デザインには欠けているという*6

デザインは「企業戦略」とみなされているか

以上の二つの見方の差はどこからくるのであろうか。まず、前者の日本デザイン礼賛論の立場は、逆説的であるが、デザインが企業の戦略レベルではなく、技術開発や品質管理に付随したオペレーションのレベルに位置づけられてきた事実が背景にある。戦略ではないにもかかわらず、この分野で日本が「最高水準」と認められようになったのは、これまでの日本企業の経営においては、現場におけるボトムアップの意思決定方式が支配的だったために、戦略のレベルとオペレーションのレベルの違いが明確には意識されず、そのために現場のオペレーションレベルで、商品デザインにかなりの注意が払われたからといえよう。

しかしその反面、いわゆる「デザイン対設計」ないし「デザイン対製造」という対立が生じた場合は、最終的には戦略的に下位にあるデザイン側が企業の戦略的な要請に応じることで解決されてきたと考えられる。そのような日本的なやり方にもっとも適した組織が、いわゆる「インハウス・デザイナー」という会社に属する社員デザイナーの存在である*7。この会社内デザイナーたちは、独立したデザイナーと違い、名前や顔が表に出ない専門家集団で、企業のさまざまな要請によってデザインを調整し、まとめあげるノウハウをもったオペレーション組織といえる。このような組織があるからこそ、日本製品のデザインは高い品質に見合った機能美をもち、その点で世界的に評価されるようになったのである。しかしその反面、企業間で技術的に共通の製品はデザイン的にも似通ってしまう傾向があり、真に独創的なデザインという点では、イタリアやフランスなどの欧州のブランドものに一歩譲ることになる。

この点を批判的に指摘するのが、日本のデザインに対する二つの見方のうち後者の厳しい立場で、それはデザインが企業における「戦略」のレベルまで高められなければならないという主張を反映している。戦略的に位置づけられたデザインの技能と職人的な技術は、対立するものではなく、車の両輪のような相乗作用を持ち、消費者とのコミュニケーションを促進する。日本でこのような見方が浸透してきたのは、近年日本の企業でもグローバルな競争下で、従来のボトムアップ経営ではなくトップダウンの戦略的アプローチが必要であると考えられてきたためであり、それに加えて、デザインの持つ戦略的パワーが広く認識されるようになったことによる。

このようなデザインについての戦略的位置づけの変化は、デザイン関連イベントのあり方にも反映されている。これまでは、デザインそのものやデザイナーに焦点を当てたイベントが中心であったが、最近では企業戦略の立場からデザインを評価する活動「デザイン&ビジネスフォーラム」が主催する「デザイン・エクセレント・カンパニー賞」などが注目を集めている*8。またビジネススクールのレベルでも、デザインと企業の戦略や競争力、およびデザインと企業や社会の創造力の関係などが正面切って取り上げられるようになった。

デザインは「ブランド」とどのような関係にあるか

このように日本でもデザインが企業の戦略的な視点から重視されてきた背景には、デザインと密接に関連した「ブランド」の戦略的重要性が増したことがある。それでは、「ブランド」と「デザイン」はどのような関係にあるのだろうか。この点で明確な答えは、パトリック・ラインメラと米倉誠一郎の共著論文『企業活力としてのデザイン』によって、次のように与えられている。

「ブランドは企業の顧客への約束である。そして、デザインとはその約束を守るための形と考えている。ブランドとは、いうまでもなく無形資産である。したがって、それが具体化するのは最終製品やサービスであるが、それだけではフランドは確立しない。その製品・サービスに結実した・・・企業の思いを絶えず顧客にコミュニケートしなければならない。[ここで]、デザインは約束であるブランドを履行するための形を生み出すプロセスである」*9

この文章の一つの解釈は、ブランドは資産という「ストック」なので、その価値は、ブランドが毎期毎期「フロー」として生み出すものの割引現在価値の合計とみなせるというものである。これはブランドの資産(エクイティ)価値を決める方法のうち、「インカム・アプローチ」あるいは「キャッシュ・フロー・アプローチ」に対応している*10。ただし、上の文章で指摘されているように、ここでの「フロー」は単なる製品・サービスの価値ではなく、それがデザインなどを通じて顧客とコミュニケートして生み出す「付加価値」の流れの割引現在価値が、ブランド・エクイティの価値となるという解釈である。これは、通常の製品デザインを考えると分かりやすい。なぜなら製品デザインは毎期毎期発売される新しい製品のデザインとして「フロー」の付加価値を持つとみなせるからである。

しかし、すでに上の節で見たように、最近ではデザインが戦略的な位置づけを与えられて、ブランドと重なり合う役割を持ちつつあるとすれば、それをどう解釈すればよいのであろうか。そのためには、デザインをブランドと同じ次元の「資産」ないし「ストック」とみなして、ブランド資産とプラスの相互作用を起こし、それが毎期毎期のフローの付加価値を高めると考えればよい。デザインがストックとしての価値を持つ例としては、ブランドを象徴するロゴ(アップルやナイキなど)や模様(ルイ・ヴィトンやバーバリーなど)や企業コンセプト(スターバックスやヴァージンなど)のデザインは明らかに毎期毎期出される商品に固有のデザインという形ではなく、それらを貫いた永続的なデザイン価値を提供し、消費者の心の中にブランドイメージを強烈に焼付ける役割を果たしているといえる。日本の場合は、例えば企業名を言えばロゴのイメージが浮かび上がってくるような企業があまりない。日本企業がグローバルな市場で競争する場合に、このような知的な資産ないしストックとしてのデザインの価値を認識することが必要になっているのである。

実は、海外市場ではブランド以上の重要性をデザインに与える企業戦略が注目されている。具体的には、韓国を代表する企業「サムソン電子」がEU市場において若者世代にアピールする斬新なデザインの携帯電話を投入することでマーケットシェアを獲得し、技術面や品質面では必ずしも確立していない「サムソン」のブランドネームを広めることによって、さらなるビジネスにつなげていく戦略である。これこそデザインを最も重要な武器として競争の緒戦を制して、それに後からブランドや技術がついていくことで長期の優位性を確立しようとするものと解釈できる*11

デザインは真の「企業価値」を生み出すか

「サムソン電子」のようなデザイン戦略については、日本の伝統的な技術を重視する立場からは疑問が提示される傾向がある。その立場からすると、デザイン中心のイメージ戦略はかなり危ういもので、「見た目や連想とか想起というイメージはあくまで二義的なもの」という批判が出てくるであろう*12。しかしこのような批判は、デザインが本質的にもっているアートとしての創造性が、新たな価値感(ないし価値観)を生み出すという戦略的な意味を重視しないことから出てくるものといえる*13。 第1に、企業戦略としてのデザインは、組織のメンバーに創造的なイメージとエモーションを共有させることに役立ち、それによって組織内メンバー間および組織の外部とのコミュニケーションが促進され、新しい企業価値創造に結びつく*14。「大切なことはデザインという創造過程を商品企画から設計、生産、販売といったすべての領域に埋め込むこと」という表現が的を射ているといえよう*15。つまり、「デザイン・エクセレント・カンパニー」とは、単によいデザインの商品を生み出す企業としてだけでなく、企業活動全体が創造的なデザイン思考に貫かれている企業という意味なのである。

第2に、戦略としてのデザインは、これまで日本企業でみられた現場の技術主導の「カイゼン型イノベーション」に対して、現在もっとも必要とされる真に創造的な「破壊的イノベーション」をもたらす力を与えてくれる。創造的なデザインが戦略的として位置づけられれば、「デザイン対設計」や「デザイン対製造」の対立があった場合、基本的にデザインを生かす設計や製造が求められ、それがまったく新しい発想を技術革新面でもたらす可能性がある。日本における最近のデザイン優先の例としては、auのデザイン携帯「INFOBAR」の開発がよく指摘されるが、真に「破壊的なイノベーション」にむすびつくためには、技術部門の人材も創造的なデザイン思考を持つように教育・訓練を行うことが必要不可欠であろう*16

第3に、デザインが、「ビジネス・イノベーション」に対して持っている意味に注目すべきである。例えば、「バリュー・イノベーション」というアプローチからすると、まったく新しいデザインが、市場で消費者がこれまでもっていた価値感(ないし価値観)を覆し、新しい価値次元へと企業と消費者を高める役割を果たす。「サムソン」のデザイン戦略は、それまで技術と機能面で競争していた携帯電話市場の価値感が根本的に変化する上で大きな節目となった。また具体的なデザインでは、キャラウェイがクラブヘッドを巨大にしたデザインのゴルフクラブによって、それまで飛距離で競争していた市場に、ボールへの当てやすさという価値感をもたらしたことがよく知られている。これが、未開拓の市場へ乗り出す「ブルー・オーシャン戦略」と呼ばれるものであるが、そこでデザインが本質的に重要な役割を果たしているのである*17

以上のようなデザインの持つ力に注目して、デザインを最上位の戦略に位置づけてイノベーションを促進しようとするグローバル企業が増えており、またそれを「新しい資源」とみなしてデザイナーを養成し訓練する学校などを充実する国も目立っている。特に、韓国、中国、シンガポールなどアジア諸国が国家戦略としてデザイン力の強化を打ち出している*18。これに対して、日本は戦後を通じて企業内における製品デザインが重視されてきたものの、そのビジネスにおける発想が依然として狭い意味での「意匠」にとどまっているため、それが企業全体の創造性、ひいては社会全体の創造性にあまり本質的な影響を与えていないようにみえる。日本が今後ますます必要となる創造性や革新性を発揮できるようにするためにも、その第一歩として日本が文化の中に本来もっているデザイン力を再発見して、それを企業活動にも社会活動にも積極的に生かす努力をすべきではないだろうか*19

脚注

*1 野中郁次郎・勝見明『イノベーションの作法』(日本経済新聞出版社、2007年)、p. 156-157

*2 木全賢『売れる商品デザインの法則』(日本能率協会マネジメントセンター、2007年)、p. 18

*3 木全賢(前掲書)、p. 230

*4 小林元『イタリア式ブランドビジネスの育て方』(日経BP社、2007年)、p. 8

*5 奥山清行『フェラーリと鉄瓶』(PHP研究所、2007年)、p. 120-121

*6 長沢伸也『ルイ・ヴィトンの法則』(東洋経済新報社、2007年)、p. 204、および遠藤功『プレミアム戦略』(東洋経済新報社、2007年)、p. 140

*7 会社内デザイン集団の役割や問題点は以下の文献に詳しい。山本雅也『”インハウスデザイナー“は蔑称か』(ラトルズ、2005年)、喜多俊之『ヒット商品を創るデザインの力』(日本経済新聞出版社、2007年)

*8 デザイン&ビジネスフォーラム『デザイン思考がビジネスを革新する』(ダイヤモンド社、2007年)、p. 3-12

*9 一橋ビジネスレビュー『デザインと競争力』(2007年AUT.)、p. 7

*10 ブランド資産評価については、以下の文献を参照。榛沢明浩『図解ブランドマネジメント』(2007年、東洋経済新報社)、p. 40-41(「インカムアプローチ」)、広瀬義州・吉見宏『日本発ブランド価値評価モデル』、p. 34-40(「期待キャッシュ・フロー・アプローチ」)

*11 一橋ビジネスレビュー(前掲書)、p. 36-46

*12 菊池隆『実践ロジカル・ブランディング』(日本評論社、2005年)、p. 31-32

*13 坂井直樹『デザインのたくらみ』(トランスワールドジャパン、2007年)、p. 4-5

*14 一橋ビジネスレビュー(前掲書)、p. 11

*15 一橋ビジネスレビュー(前掲書)、p. 75

*16 野中郁次郎・勝見明(前掲書)、p. 154-171

*17 竹内弘高・楠木建『イノベーションを生みだす力』(ゴマブックス、2007年)、p. 108-110、およびキム・モボルニュ『ブルー・オーシャン戦略』(ランダムハウス講談社、2005年)、p. 139-140

*18 喜多俊之(前掲書)、p. 157-170

*19 喜多俊之(前掲書)、小林元(前掲書)、奥山清行(前掲書)などイタリアのデザインを重視する著者は、日本の伝統的な職人のデザインを再評価している。また、社会や生活にデザインを生かす最近のアプローチについては以下の文献が詳しい。紺野登『ソーシャル・イノベーション・デザイン』(日本経済新聞出版社、2007年)、荻原修『デザインスタンス:新世代のクリエイターと仕事1』(誠文堂新光社、2007年)

プロフィール
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<みやお・たかひろ>
慶応義塾大学経済学部卒、同大学経済学修士課程終了(修士号取得)。米国MIT経済学部博士課程終了(Ph.D.取得)。トロント大学経済学部助教授、カリフォルニア大学サンタバーバラ校経済学部准教授、南カリフォルニア大学教授を経て帰国。筑波大学社会工学系教授を歴任。著書『Dynamic Analysis of the Urban Economy』(Academic Press)、『現代都市経済学』(日本評論社)、『日本型情報社会』(ちくま書房)など多数。1997年7月より現職。