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various - June 15, 2010

「より良い社会を創る」デンマークのICT国家戦略 / 猪狩 典子 (シリーズ第1回)

June 15, 2010 [ various ] このエントリーをはてなブックマークに追加

北欧諸国のひとつ、デンマークには、日本にとって羨ましい二つの特徴がある。

第一に、ICT利用先進国として世界の先頭グループを走っている。ダボス会議を主催する世界経済フォーラム(WEF: World Economic Forum)の「ICT競争力ランキング」において、デンマークは2007年から2009年まで3年連続第1位、2010年も第3位を獲得した。調査内容を詳しく見ると、デンマークは「基盤」「環境」「利用」の三分野でバランスよく世界トップレベルの評価を得ている[1]。一方、日本はインフラ整備などの「基盤」で優位性を持ちつつ、ICTを活用するための法律・制度などの「環境」や個人の「対応力」、行政における「利用」などの評価が低く、14位、19位、17位と低迷し、2010年は21位と後退した。

第二に、デンマークにおける「国民の幸福度」が世界一である。内容の異なる二つの調査(スウェーデンの調査機関World Values Surveyの幸福度ランキング(2008)とイギリスのレスター大学による国民の幸福度調査(2006))において、デンマークは「世界で一番幸せな国」と認定された[2]。また、ギャラップ社の世論調査の一つである「Well-Being」を基にした「国民の生活者満足度の国際比較」(OECD Facebook, 2009)においても、世界第1位の評価を得ている。対する日本は、上記二つの幸福度調査では中レベル、満足度調査ではOECD諸国平均を大きく下回り、ロシアに続く第27位と低迷している。

このようにデンマークは、日本が伸び悩むICTの「競争力」と「幸福度」において国際的に極めて高い水準にある国といえる。デンマークは、高福祉国家としてよく知られているが、言い換えれば、デンマークは経済力と社会福祉の適正なバランスを保ちながら、世界一幸せな国づくりを実現しているということである。このようなデンマーク社会のあり方は、「北欧モデル」の一つとして、EUを中心とした政策担当者や経済学者たちの注目を集めている。

なぜ、デンマークはICT利用を促進し、高い競争力を維持できるのだろうか。そして、幸福度世界一の社会にはどのような社会システムが構築され、その社会とICTの利用にはどのような関係性があるのか。

国際大学GLOCOMでは、これらの問題意識に基づき2009年11月、デンマーク政府を中心に現地調査を実施した。そこから見出されたのは、ICTを社会基盤として活用し、たくましく成長し続けるデンマーク社会の姿であった。本連載では、デンマークの行政、教育、医療、イノベーションなどの各分野をICTという軸で多面的に掘り下げ、デンマークが高い競争力と幸福度を創り出している成功の要因を考察していく。

[1] ただし、デンマークのブロードバンド基盤はADSLベースである。日本と比較して貧弱な基盤であるにもかかわらず、ICT利用が進むという日本と正反対の事象が起きている。

[2] 幸福に関する研究には多くの議論と蓄積がある。ダイアン・コイルは『ソウルフルな経済学』(2008)のなかで、「高水準の一人当たりGDPは、高水準の平均幸福度と対応する」という定説に疑問を呈し、幸福という概念の多元性と幸福研究の複雑性を指摘している。

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