湧口清隆/第1信 (1)
2010年11月21日
鬼木甫 先生
大学キャンパスの並木のイチョウはたわわの銀杏を実らせ、桜の木々は赤や黄色の葉に包まれ、夏暑かったぶん色鮮やかな秋を演出しているようです。先生は如何お過ごしでしょうか。
家電量販店の前を通ると、エコ・ポイント制度の変更を前に、地デジ対応テレビの販売に熱が入っています。アナログ放送終了の2011年7月24日はずいぶん先のことと思っていましたが、残すところ8か月余りとなり、もう目前に迫ってきました。そう言えば、この9月には、総務省は、地デジ化で生み出されるVHF帯の空き周波数を利用する携帯端末向けマルチメディア放送の免許をNTT DoCoMo陣営のマルチメディア放送に付与しています。KDDI陣営のメディアフロージャパン企画と1枠をめぐり競願するなかで、総務省は電波監理審議会に諮問して比較審査方式でマルチメディア放送を選択しました。比較審査、これは如何にも日本的な選択方法のような印象を受けます。常々、周波数オークションの導入を主張されていた先生ならば、これこそ最初のオークション事例に最適な免許だとお考えなのではないでしょうか。
周波数オークションをめぐる議論の来歴
テレビジョン放送の免許では、電波監理上の大論争が繰り返されているようです。昭和28(1953)年にわが国でテレビ本放送を開始する際も、国産技術を採用するか、輸入技術を基礎にするかで1チャンネルあたりの帯域幅が異なり、電波監理委員会で大いにもめたと聞きます(注1)。また、1959年に「連邦通信委員会」(注2)、現代日本に置き換えれば「総務省」というタイトルで論文を執筆し、電波の経済学の祖とされるR. コースが着想を得たL. ハーゼルの1951年の論文(注3)も「カラー・テレビジョン放送規制における公益と市場」というタイトルでした。両論文は比較審査方式の事業者選択は良くない、周波数オークションを導入すべきだという主張を展開しています。米国で実際に最初のオークションが実施されるのは1994年ですから、実に35年近い歳月を要しています。
私の個人的な関心から周波数オークションの導入にかかわった人たちの何人かにインタビューし、その結果をもとに電波政策の歴史をまとめた論文(注4)があります。先生はお読みになっていらっしゃると思います。米国やニュージーランド、オーストラリアなど、電波の利用密度が比較的低い国では、オークションのない世界からオークションを直接導入するという選択肢を選択し得たのに対し、利用密度が高い英国など欧州諸国では、オークションを直接導入するのではなく、いったん市場価値を反映した電波利用料制度を導入して、それからオークションを導入するという段階を踏んでいます。わが国も2005年の電波利用料改定の際に、市場価値を勘案した電波利用料制度を導入していますので、5年という年月が短いか長いかという問題は別にすれば、周波数オークションを導入する下地はできていると考えます。
今回の携帯端末向けマルチメディア放送は全国免許ですので、市場を地理的にどのように分割するのか、入札者がない地域はどのようにすれば良いのかなどの心配をしなくても良い、その意味で制度設計上、比較的リスクの少ないオークションですので、初めて実施する際にはやりやすいオークションではなかったかと思います。また、VHF帯のテレビジョン放送の周波数を開放する(アナアナ変換の)ために莫大な費用がかかっている、その費用を新たな利用者がきちんと負担するという意味でも、オークションの実施が良かったのではないかと思っています。
注1)NHK放送文化研究所編、『20世紀放送史』、日本放送出版協会
注2)R. Coase[1959]:The Federal Communications Commission, Journal of Law & Economics.
注3)L. Herzel [1951]:Public Interest and Market in Color Television Regulation, University of Chicago Law Review.
注4)湧口清隆、「変革期にある欧州の電波政策とその背景―英国の政策形成過程を中心に」、和気洋子・伊藤規子編著、『EUの公共政策』、慶應義塾大学出版会、第5章