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往復書簡シリーズ 設計未来 : ポスト情報化社会を展望する

鬼木 甫×湧口清隆

電波オークションをめぐって

テレビの完全地上デジタル化にともなうアナログ放送の停止も、いよいよ目前。そこで、空いた周波数帯を市場メカニズムによって有効利用するための手法として導入を検討されているのが、自由な競争入札方式で事業者に周波数帯域を割り当てる「電波オークション」だ。

去る12月14日には、総務省が将来の4G(第4世代移動体通信)向けの周波数を電波オークションで割り当てる方針を示すなど、いよいよ議論は活性化しているが、官民それぞれのプレイヤーの利害と思惑が錯綜する中で実現へのハードルは高く、いまだ道筋が見えたとは言いがたい。

はたしてその導入は、未来の放送と通信の基盤を築く制度改革として、あるいは日本経済再生のための新たな成長戦略として、有効性を持つのか否か。

日本における導入推進の議論を先導してきた情報通信政策の第一人者・鬼木甫氏と、有限の公共資源としての電波の配分問題を研究する立場から慎重な見方を示してきた湧口清隆氏による対話から、改めてその可能性を根本的な視点から探っていく。

湧口清隆/第1信 (1)

2010年11月21日

鬼木甫 先生

大学キャンパスの並木のイチョウはたわわの銀杏を実らせ、桜の木々は赤や黄色の葉に包まれ、夏暑かったぶん色鮮やかな秋を演出しているようです。先生は如何お過ごしでしょうか。

家電量販店の前を通ると、エコ・ポイント制度の変更を前に、地デジ対応テレビの販売に熱が入っています。アナログ放送終了の2011年7月24日はずいぶん先のことと思っていましたが、残すところ8か月余りとなり、もう目前に迫ってきました。そう言えば、この9月には、総務省は、地デジ化で生み出されるVHF帯の空き周波数を利用する携帯端末向けマルチメディア放送の免許をNTT DoCoMo陣営のマルチメディア放送に付与しています。KDDI陣営のメディアフロージャパン企画と1枠をめぐり競願するなかで、総務省は電波監理審議会に諮問して比較審査方式でマルチメディア放送を選択しました。比較審査、これは如何にも日本的な選択方法のような印象を受けます。常々、周波数オークションの導入を主張されていた先生ならば、これこそ最初のオークション事例に最適な免許だとお考えなのではないでしょうか。

周波数オークションをめぐる議論の来歴

テレビジョン放送の免許では、電波監理上の大論争が繰り返されているようです。昭和28(1953)年にわが国でテレビ本放送を開始する際も、国産技術を採用するか、輸入技術を基礎にするかで1チャンネルあたりの帯域幅が異なり、電波監理委員会で大いにもめたと聞きます(注1)。また、1959年に「連邦通信委員会」(注2)、現代日本に置き換えれば「総務省」というタイトルで論文を執筆し、電波の経済学の祖とされるR. コースが着想を得たL. ハーゼルの1951年の論文(注3)も「カラー・テレビジョン放送規制における公益と市場」というタイトルでした。両論文は比較審査方式の事業者選択は良くない、周波数オークションを導入すべきだという主張を展開しています。米国で実際に最初のオークションが実施されるのは1994年ですから、実に35年近い歳月を要しています。

私の個人的な関心から周波数オークションの導入にかかわった人たちの何人かにインタビューし、その結果をもとに電波政策の歴史をまとめた論文(注4)があります。先生はお読みになっていらっしゃると思います。米国やニュージーランド、オーストラリアなど、電波の利用密度が比較的低い国では、オークションのない世界からオークションを直接導入するという選択肢を選択し得たのに対し、利用密度が高い英国など欧州諸国では、オークションを直接導入するのではなく、いったん市場価値を反映した電波利用料制度を導入して、それからオークションを導入するという段階を踏んでいます。わが国も2005年の電波利用料改定の際に、市場価値を勘案した電波利用料制度を導入していますので、5年という年月が短いか長いかという問題は別にすれば、周波数オークションを導入する下地はできていると考えます。

今回の携帯端末向けマルチメディア放送は全国免許ですので、市場を地理的にどのように分割するのか、入札者がない地域はどのようにすれば良いのかなどの心配をしなくても良い、その意味で制度設計上、比較的リスクの少ないオークションですので、初めて実施する際にはやりやすいオークションではなかったかと思います。また、VHF帯のテレビジョン放送の周波数を開放する(アナアナ変換の)ために莫大な費用がかかっている、その費用を新たな利用者がきちんと負担するという意味でも、オークションの実施が良かったのではないかと思っています。

注1)NHK放送文化研究所編、『20世紀放送史』、日本放送出版協会

注2)R. Coase[1959]:The Federal Communications Commission, Journal of Law & Economics.

注3)L. Herzel [1951]:Public Interest and Market in Color Television Regulation, University of Chicago Law Review.

注4)湧口清隆、「変革期にある欧州の電波政策とその背景―英国の政策形成過程を中心に」、和気洋子・伊藤規子編著、『EUの公共政策』、慶應義塾大学出版会、第5章

電波オークションをめぐって

プロフィール写真:湧口清隆
湧口 清隆
(ゆぐち・きよたか)
1972年東京生まれ。一橋大学商学部・大学院商学研究科、フランスHEC(学部時代に1年間交換留学)で学んだ後、2000年~2004年に国際通信経済研究所に勤務。九州大学大学院比較社会文化研究院客員助教授を経て、2004年から相模女子大学で教鞭を執る。2001年に一橋大学で「博士(商学)」を取得。専門は交通・公共システム論、情報通信の経済学。
プロフィール写真:鬼木甫
鬼木 甫
(おにき・はじめ)
1933年生、東京大学経済学部卒業、スタンフォード大学大学院(1968年PhD)、東北大学助教授、ハーバード大学助教授、クイーンズ大学准教授、大阪大学教授・大阪学院大学教授等を経て2009年より(株)情報経済研究所代表取締役・所長。主著『電波資源のエコノミクス』(2002年、現代図書)。