HOME > コラム > 設計未来 > 電波オークションをめぐって > 湧口清隆/第1信 (3)

往復書簡シリーズ 設計未来 : ポスト情報化社会を展望する

鬼木 甫×湧口清隆

電波オークションをめぐって

湧口清隆/第1信 (3)

2010年11月21日

経済政策としての電波オークションへの危惧

ここで、電波の物理的、経済的特性を復習しておきたいと思います(図1参照)。電波は電気振動で発生させた電磁波なので、誰でも発生させることができる。しかも、近隣から発射された同一周波数の電波は干渉する。発射される電波は非排除性と競合性を備えています。そこで、政府は免許制度によって発信人を限定し、経済学的意味で「私的財」化しています。

図1

一方、電波はいったん発射されると、アンテナさえ立てれば誰でも受信することは可能で、大きなアンテナによって電波が遮蔽されない限り、一人の受信によって他人の受信が妨げられることはない。したがって、非排除性と非競合性が備わっており、経済学的には「公共財」と言えます。いま、我々が問題にしているのは、政府が私的財化した電波の発射権を電波利用者にどのように賃貸させるのかという問題です。政府が独占的に供給する発射権を2005年以前のわが国の電波利用料の発想のように管理費用だけで賃貸させるのか、2005年以降の発想のように経済的価値を多少勘案し、市場価値よりも大幅に安い使用料も徴収するのか、あるいはオークションにより電波利用者の支払意思額を把握し、その消費者余剰をそっくり政府に移転するのかなどの選択肢が挙げられます。

私がオークションで一番危惧しているのは、その収入が一般会計に繰り入れられること。情報通信市場の消費者余剰が、例えば「子ども手当て」のような他の政策に用いられることです。資源配分の効率性を高める政策の結果生じた余剰を他の政策に用いるだけならば、さしたる問題は生じません。しかし、他の政策で財源が必要なので、電波で稼いでくれ、そのようなオークション制度を工夫しろという構図になると本末転倒です。財政難の政府がこのようなスタンスをとらないか不安なのです。オークションで落札した事業者はその費用を(少なくとも資金調達費用だけでも)消費者に転嫁し、料金値上げにつながる一方、政府はオークションで民間事業者が自発的につけた価格ですからと涼しい顔をする。体の良い形で事実上の増税を図れるのです。

余談ですが、私の学生に聞いたところ、携帯電話への支払いが月5,000円の増額程度ならば、ほとんどの学生は携帯電話を手放しません。年6万円で1億人の携帯電話利用者がいることを考えると6兆円。携帯電話事業者が支払う現行の電波利用料の約100倍の額です。国の平成22年度一般会計予算における所得税収12.6兆円、法人税収6兆円、消費税収9.6兆円と比較すると、もしオークションでそれだけの収入が得られれば、消費税を3ポイント程度(つまり5%を8%にすること)、所得税を50%増税することと同じ効果が得られるということです。しかも、携帯電話であれば所得税が徴収されない、あるいは低率に抑えられている低所得者からも一律に徴収できるという効果が生じます。

このようなリスクを冒すぐらいならば、私は電波利用料という料金制度を活用するほうが良いのではないかと考えます。なぜなら、現行の電波利用料制度のもとでも、定期的に実施される電波利用調査と周波数再編計画の策定や、周波数再配分のための給付金制度、無線局登録制度など他のしくみと組み合わされることにより、わが国の電波監理政策は、オークション導入国と同程度かそれ以上の電波の効率的利用につながっていると思われるからです(図2参照)。

図2

ずいぶん長い書簡になってしまいましたが、先生は周波数オークション制度についてどのようにお考えでしょうか。以前、先生がご主張になられたリース・オークションなどについても分かりやすくお話をうかがえると幸いです。

最後になりましたが、寒暖の差が激しい今日この頃、ぜひご自愛ください。

2010年11月21日

湧口清隆

電波オークションをめぐって

プロフィール写真:湧口清隆
湧口 清隆
(ゆぐち・きよたか)
1972年東京生まれ。一橋大学商学部・大学院商学研究科、フランスHEC(学部時代に1年間交換留学)で学んだ後、2000年~2004年に国際通信経済研究所に勤務。九州大学大学院比較社会文化研究院客員助教授を経て、2004年から相模女子大学で教鞭を執る。2001年に一橋大学で「博士(商学)」を取得。専門は交通・公共システム論、情報通信の経済学。
プロフィール写真:鬼木甫
鬼木 甫
(おにき・はじめ)
1933年生、東京大学経済学部卒業、スタンフォード大学大学院(1968年PhD)、東北大学助教授、ハーバード大学助教授、クイーンズ大学准教授、大阪大学教授・大阪学院大学教授等を経て2009年より(株)情報経済研究所代表取締役・所長。主著『電波資源のエコノミクス』(2002年、現代図書)。