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往復書簡シリーズ 設計未来 : ポスト情報化社会を展望する

鬼木 甫×湧口清隆

電波オークションをめぐって

湧口清隆/第2信 (2)

2012年3月5日

4.わが国の周波数分配上の課題

わが国の場合、2.5GHz帯のWiMAX等の広帯域移動無線アクセス・システム(BWA)に割り当てられた周波数の両側をN-Star(携帯移動衛星通信システム)が利用しているために、BWAでの利用に制約がかけられているほか、BWAの帯域の拡張ができない問題を抱えています。経済的な効率性の概念からすれば、加入者数4万余りのサービスに対して、加入者数が数百万のサービスが影響されるというのはおかしいという疑問が出るでしょうし、後述する周波数オークションが導入されれば、N-Starに割り当てられている周波数もBWAに分配されることになるかもしれません(注1)。2回も立て続けに未曾有の自然災害に直面する中で、経済的な論理を根拠に、民間が提供する災害に強いサービスの供給を阻むことが許されるのか、私自身が悩んでいる問題の一つです。

図1

5.電力確保の問題

もう一つ大きな問題は、自然災害が多発するなかで、災害時の情報伝達にかかる通信政策に関心が集まっていますが、電力確保をどのように進めるのかも同時に議論しなければ意味がないということです。つまり携帯電話のみならずデータ通信、非常通信のネットワークも機能しなくなるということです。熊野市役所が典型例となってしまいましたが、井戸川の氾濫で市役所地下にあった変電設備が水没・故障、災害から1週間たっても停電が復旧できず、インターネットを使った情報発信もメールの送受信もできない、職員の方々の携帯電話の電源の確保だけで手一杯という状況です。そのことも遠因か、被害の規模の割に熊野市の状況がメディアで伝えられていないのです。井戸川は紀勢本線の鉄橋が損壊した2箇所のうちの1つです。その意味で、この水害に際し、孫正義氏が送電網に着目していた点は注目に値します。問題は、そのような緊急通信網・送電網を誰がどのように整備・運営するのか、有事のための専用線網とするのか、平時と有事双方で利用するシステムとするのか、大いに議論しなければならないことでしょう。ある意味、有事のためのシステムとすれば「冗長性」が問題となり、「無駄遣い」という発想になってしまうからです。突き詰めると、原子力発電所の非常電源確保の問題にも関係してくると思います。

6.資源配分の効率性の観点からみたオークションの優位性

先生がご返信ですでにまとめられていらっしゃるように、オークションが「電波」という資源を割り当てるうえで経済学的な効率性を実現するという点では、オークションを含む市場メカニズムは優れたシステムであることに疑いはありません。市場メカニズムを採用すれば、ある地域あるいは全国で、ある時間帯あるいは一日中、ある周波数帯を利用するための調整の際に、この電波資源に最も高い価値を見いだす者が利用権を手に入れて、この電波資源を「活用」することになるからです。ここで私はあえて「活用」という表現を使いたいと思います(理由は後述)。

それはさておき、一般には電波資源をオークションで割り当てれば、過程の透明性が確保でき、そのために割当にかかる時間が短縮され、かつ高額が入札額の回収のためにサービスも早く開始されるだろうと考えられています。もちろん、欧州の3Gのように、落札した事業者が経営難に陥ってしまいサービスの開始が遅れるという問題も一部には発生しました。また、地域的に落札されずに残った周波数帯は未活用のままになるという問題も発生しています。1つのサービスに対して一定幅の帯域幅が必要である(例えばBWAでは最低20MHz幅は必要)一方でオークションにかけられる帯域幅は狭いことから、事業者の独占が生ずるとともに落札費用が高いことからサービス料金が高止まりするなどの問題も生ずることでしょう。これらの諸問題はオークションそのものよりもオークションの制度設計に起因します。

したがって、制度設計がうまくできれば、オークションは多くの経済学者が指摘するように、他の手法に比べて優れた資源配分制度となると思われます。制度設計が下手な場合、政府が事業者にさまざまな制約を課すことを前提に比較審査方式で周波数を割り当てるほうがより良い結果をもたらすかもしれません。例えば、ネットワーク・インフラを構築する事業者を比較審査方式で選定する一方、事業者にMVNO(サービス部分を提供する事業者)への開放を義務づけ、サービス・レベルでの競争を促す方法です。鉄道や電力で議論されている上下分離や発送電分離に見られる方法です。わが国の携帯電話サービスやBWAサービスでは近年この方法が採用されています。日本でなぜこの方法が好まれるのか、裏返すと規制官庁が制度設計に自信を持っていないからだと私は考えています。

(注1)加入者数データは、株式会社NTTドコモ「Sバンドを用いる国内移動体衛星通信システムの高速化に伴い今後期待されるサービス・アプリケーションについて」(平成20年8月5日)に基づく。
http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/joho_tsusin/idou_eisei/pdf/080805_1_si10-2-2.pdf

電波オークションをめぐって

プロフィール写真:鬼木甫
鬼木 甫
(おにき・はじめ)
1933年生、東京大学経済学部卒業、スタンフォード大学大学院(1968年PhD)、東北大学助教授、ハーバード大学助教授、クイーンズ大学准教授、大阪大学教授・大阪学院大学教授等を経て2009年より(株)情報経済研究所代表取締役・所長。主著『電波資源のエコノミクス』(2002年、現代図書)。
プロフィール写真:湧口清隆
湧口 清隆
(ゆぐち・きよたか)
1972年東京生まれ。一橋大学商学部・大学院商学研究科、フランスHEC(学部時代に1年間交換留学)で学んだ後、2000年~2004年に国際通信経済研究所に勤務。九州大学大学院比較社会文化研究院客員助教授を経て、2004年から相模女子大学で教鞭を執る。2001年に一橋大学で「博士(商学)」を取得。専門は交通・公共システム論、情報通信の経済学。