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往復書簡シリーズ 設計未来 : ポスト情報化社会を展望する

鬼木 甫×湧口清隆

電波オークションをめぐって

鬼木 甫/第2信 (1)

2012年6月25日

湧口清隆 先生

第二信を頂きありがとうございました。第一信以来1年余りが経ちましたが、その間東日本大震災と福島第一原発の重大事故に加え、湧口先生が直接に経験された紀伊半島大水害が起きました。われわれの生活や社会全体の雰囲気も大きく変わったと思います。長いようで短い1年間でした。

電波オークションにつきましても、この1年間で様々な動きがありました。以下、その経過をまとめることから始めたいと思います。

1. 経過について(2010年末~2012年3月)

2010年末の「ICT政策に関するタスクフォース基本方針」については小生の第一信冒頭で説明しました。2011年3月からその後段(I⑤)に述べられた方針により総務省に「周波数オークションに関する懇談会」が設置され、オークションの骨子が検討されました[1]。小生もメンバーの1人として参加しました[2]。第4世代移動電話(IMT-Advanced)からの導入を想定した懇談会報告書が2011年末に公開されています。その後総務省によってオークション導入のための電波法改正案が作成され、本年3月初旬に閣議決定の上、国会に提出されています[3]

同案でオークション導入は携帯電話と無線インターネットに限られ、かつ電波が新規に割り当てられる場合の免許人選定に限定されています。オークション実施も義務化されているわけではなく、オークションが有用であると総務大臣が認めた場合にのみオークションを採用する案になっています。同案には改良すべき点がいくつか含まれていますが、小生は日本で電波オークション導入の一歩を踏み出すために、同案が国会を通過することを望んでいます[4]

他方、タスクフォース基本方針の前段(I④)が定めた「オークションの考え方を取り入れた制度」はプラチナ周波数帯(700/900MHz帯)に適用され、こちらではおおむね従来からの比較審査方式による割当が進行中です。同周波数帯は近未来の汎用一般技術(GPT)[5]として期待されている無線ブロードバンドに使用予定で、その経済価値が大変に高くなっています。2012年4月の時点で900MHz帯のうち30MHzがソフトバンクに割当てられ、また700MHz帯については残りの既存3事業者(ドコモ、KDDI-AU、Eモバイル)に各20MHz計60MHzが割当てられると予想されています。小生はオークション導入を先延ばしにするこの方針に賛成できず、700/900MHz帯から導入することを主張し、2011年11月に実施された行政刷新会議「提案型政策仕分け」[6]でもその旨を述べました[7]。しかしながらこの提案は受け入れられず、上記のようにタスクフォース基本方針に沿ったプレミアム帯の比較審査割当が進行中です。

以上はもとより湧口先生がよく御承知のことですが、本信の読者のために「日本におけるオークション導入の経過」を簡単な年表にまとめておきます(表1)。

表1:日本におけるオークション導入をめぐる年表
年月事項
2000年ごろから 欧米諸国における周波数オークションの導入を受けて総務省が日本における採用の是非を検討。時期尚早との結論。当時政権にあった自民党はこの総務省方針を容認。
2004年 民主党が「電波オークション導入法案」を国会に提出したが否決。
2009年 民主党「政策集INDEX2009」中に電波オークション導入の提案が掲げられた。しかし同党「マニフェスト」には入れられなかった。
2009年9月 民主党政権成立。
2009年10月 原口総務大臣(当時)のイニシアティブによる「『光の道』構想に関するタスクフォース」が発足。翌年夏ごろから周波数問題が検討された。
2010年12月 同タスクフォースが基本方針を発表。
2011年3月 上記基本方針(項目後段)を受けて総務省「オークション導入に関する懇談会」が発足。
2011年6月 同じく同基本方針(項目前段)に沿って電波法を改正。特定基地局を建設する事業者(主に携帯電話事業者)がそのための周波数帯の旧利用者に(政府機関を経由することなく)移転費用を支払うことを可能にした。
2011年11月 内閣府行政刷新会議「提案型仕分け・情報通信」が、(実質上上記タスクフォース基本方針を見直して)プレミアム周波数帯(700/900MHz帯)割当にオークションを採用することを提言。しかしながら総務省はこれに同意せず、基本方針による割当を進行させた。
2011年12月 総務省がプレミアム周波数帯の割当方針を発表。オークションを採用せず、同年6月の改正電波法にしたがって移転費用負担を伴う比較審査方式を採用。
2011年12月 総務省「オークション懇談会」が報告書を発表。2015年ごろからのオークション採用を提案し、そのための基本方針を示した。
2012年2月 総務省がプレミアム帯のうち900MHz帯(30MHz幅)をソフトバンクモバイル(株)に割り当てる旨を決定。また同時に2011年6月改正電波法により、700MHz帯(60MHz幅)を携帯電話用に割り当てる方針を示し、意見募集を開始した。
2012年3月 総務省によるオークション導入のための電波法改正案を閣議決定し、国会に提出。

注) 本表各事項についての資料参照先については、鬼木「日本における周波数オークションの導入と電波法改正案について」、『周波数オークションのわが国への導入をめぐるディスカッション』、相模女子大学、2012年3月21日、VI.Aへの注を参照。<http://www.ab.auone-net.jp/~ieir/download4/201204a-doc.pdf>

[1] 総務省「周波数オークションに関する懇談会」<http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/syuha/index.html>。

[2] 筆者による同懇談会でのプレゼンテーション資料につき、鬼木「周波数オークション導入について」<http://www.ab.auone-net.jp/~ieir/jpn/publication/201103a.html>。

[3] 衆議院議案審議経過情報「閣法の一覧」180-61議案名「電波法の一部を改正する法律案」<http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index_gian.htm>。

[4] 同法案の概要説明とコメント・改良点について、鬼木「日本における周波数オークションの導入と電波法改正案について」、『周波数オークションのわが国への導入をめぐるディスカッション』、相模女子大学、2012年3月21日、VI.Dを参照。<http://www.ab.auone-net.jp/~ieir/download4/201204a-doc.pdf>,<http://www.ab.auone-net.jp/~ieir/jpn/publication/201204a.html>。

[5] FCC (U.S.), Connecting America: The National Broadband Plan, March 2009, Washington, DC, USA. <http://www.broadband.gov/plan/>, pp.29-31.

[6] 行政刷新会議[2011a]「『提言型仕分け』提言一覧」p.11、および「行政刷新会議ワーキンググループ『提言型政策仕分け』提言集」のうち項目「B3-1」および「B3-2」<http://www.cao.go.jp/sasshin/kaigi/honkaigi/d23/pdf/s1.pdf>, <http://www.cao.go.jp/sasshin/kaigi/honkaigi/d23/pdf/ss1.pdf>, <http://www.cao.go.jp/sasshin/kaigi/honkaigi23.html>。

[7] 「電波行政のあり方(新たな周波数の割当等)、電波利用料の活用」(意見発表用メモ)、内閣府行政刷新会議 『提言型政策仕分け・情報通信』、2011年11月21日。<http://www.ab.auone-net.jp/~ieir/jpn/publication/201111a.html>。

電波オークションをめぐって

プロフィール写真:鬼木甫
鬼木 甫
(おにき・はじめ)
1933年生、東京大学経済学部卒業、スタンフォード大学大学院(1968年PhD)、東北大学助教授、ハーバード大学助教授、クイーンズ大学准教授、大阪大学教授・大阪学院大学教授等を経て2009年より(株)情報経済研究所代表取締役・所長。主著『電波資源のエコノミクス』(2002年、現代図書)。
プロフィール写真:湧口清隆
湧口 清隆
(ゆぐち・きよたか)
1972年東京生まれ。一橋大学商学部・大学院商学研究科、フランスHEC(学部時代に1年間交換留学)で学んだ後、2000年~2004年に国際通信経済研究所に勤務。九州大学大学院比較社会文化研究院客員助教授を経て、2004年から相模女子大学で教鞭を執る。2001年に一橋大学で「博士(商学)」を取得。専門は交通・公共システム論、情報通信の経済学。