第140回国会衆議院

安全保障委員会議録

第5号

平成9年3月25日(火曜日)
午後一時一分開議

出席委員

出席政府委員

委員外の出席者



委員の異動
三月十九日
 辞任 川崎 二郎君  補欠選任 栗原 裕康君
同月二十五日
 辞任 臼井日出男君  補欠選任 砂田 圭佑君
    達増 拓也君       鰐淵 俊彦君
同日
 辞任 砂田 圭佑君  補欠選任 臼井日出男君
    鰐淵 俊彦君       中野  清君
同日
 辞任 中野  清君  補欠選任 達増 拓也君


三月十九日
沖縄の米軍基地の縮小・撤去、特別立法反対に関する請願(深田肇君紹介)(第一一七一号)は本委員会に付託された。


本日の会議に付した案件
国の安全保障に関する件(東アジアにおける我が国の安全保障問題)


伊藤委員長 これより会議を開きます。

 国の安全保障に関する件について調査を進めます。

本日は参考人といたしまして元統合募僚会議議長佐久側一君、青山学院大学教授渡邊昭夫君、外交評論家岡崎久彦君、軍事アナリスト小川和久君に御出席を願っております。

 この際、委員会を代表いたしまして、参考人の方々に一言ごあいさつを申し上げます。

 参考人の皆様には、御多用中のところ御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。

 当委員会におきましては、国の安全保障に関する件について調査を行っておりますが、本日は、特に東アジアにおける我が国の安全保障問題について、それぞれの立場から忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じます。

 なお、議事の順序についてでございますが、参考人にそれぞれ二十分ずつ御意見をお述べいただき、次に、委員からの質疑に対してお答えいただきだいと存じます。

 それでは、まず佐久間参考人にお願いいたします。


佐久間参考人 御紹介いただきました佐久間でございます。

 安全保障という国にとって最大の命題につきまして、国民を代表してその重責を担っていらっしゃいますこの委員会におきまして意見を申し上げる機会をいただきましたことを、大変光栄に存じております。本日のテーマは非常に大きなものでございますので、お手元にございますレジュメに従いまして、それぞれの項目の骨格について申し上げたいと思います。

 まず、情勢認識であります。御承知のとおり、冷戦後の国際情勢は、不透明という言葉であらわされるとおりだと思います。東西対峙の構図が消えまして、全世界的な紛争の危険はなくなりました。しかし、その一方で、各種の要因に基づく地域紛争等が多発し、あるいは今後も予想される状況が続いております。この要因は、例えば価値観の対立、民族、領土、宗教問題、さらに経済力の格差、あるいは資源問題、国際テロ、もろもろの要素が絡み合っております。また、冷戦後、近代兵器を含む武器の拡散というのが大きな趨勢になっておりまして、特にアジア・太平洋地域においてその傾向は顕著であります。

 世界のうちでも、私どもに関係がございますアジア・太平洋地域につきまして、若千述べさせていただきます。

 まず、朝鮮半島であります。これは、御承知のとおり、いわゆる冷戦構造が現在も存在している地域であります。南北両地域の軍事力整備の最近の趨勢を見てみますと、韓国におきましては、海軍力、空軍力の近代化、そして北朝鮮におきましては、前方展開兵力の充実あるいは兵力の前方展開、さらにいわゆる奇襲戦力の充実ということに重点が置かれていると考えております。

 この朝鮮半島の将来がどうなるか、予断を許さないところがございますが、その将来の統一のプロセスによっては、我が国にも大きなインパクトを与えることは容易に想像できるところであります。また、将来、朝鮮半島が統一された場合、その地域が国際社会においてどのような姿勢を見せるのか、これも未知数の大きな課題であると考えております。

 いずれにせよ、この地域は大陸と太平洋を結ぶいわゆる戦略上の要衝であるという地理的条件は今後とも変わらないわけでありまして、それだけに、この地域の安定のために国際社会が努力する必要があると考えております。

 次に、中国であります。

 中国につきましては、近年、その国家政策が次第に鮮明になってきていると私は考えております。すなわち、その国家目標は国力の増大、昔の日本の言葉で言いますと、いわゆる富国強兵であります。それと社会主義体制下の経済力の発展、これが国家の目標であると考えます。

 また、1992年には、中国の軍隊の任務として、従来の主権の防衛に加えて海洋権益の防衛という任務が加えられました。同じく同年には、領海法の制定によって我が国の尖閣諸島を含む地域をその領域と宣言したことは、ご承知のとおりであります。これらの要素から、中国がいわゆる海洋進出という方向を目指しているのは間違いのないところだと考えております。

 この中国の軍事力の近代化あるいは海洋進出の動向というのは、国際社会がどのようにアプローチをしても、私は、基本的には変えることはできないだろうと思っております。と申しますのは、これは中国にとっていわば国家の目標であり、また、エネルギーの確保という要因が背景にあると考えております。

 そして中国の軍事力につきましては、いろいろな評価がございます。例えばアメリカは、そのみずからの強大な軍事力を物差しにして、中国の軍事力を見て、これは大したことではないという評価をいたしますが、一方、同じ中国の軍事力でも、周辺の地域の各国から見るならば、それは非常に強大なものに映るだろう、その認識のギャップというものを常に留意する必要があると思っております。

 また、中国は、いわゆる台湾の問題、あるいは香港の変換、新彊ウイグル地区、チベット問題等、幾多の内政問題を抱えております。これは内政問題であると思いますけれども、ただ、台湾海峡においてもし武力が行使されるという事態になるならば、それは単なる中国の国内問題ではなくて、わが国を含む関係諸国にとっての国際問題としての意義を持ってくるというふうに考えております。

 中国は、ご承知のとおり、長い歴史と伝統を持ち、それだけに物事を判断し、政策を推し進める場合に、2年とか3年という短いスパンではなくて、10年、50年、100年という長いスパンで物を考え、着実に目標に向かって歩んでいくという体質を持っていると思います。

 これと対照的なのがアメリカでありまして。アメリカは、情勢の変化に応じてドラスチックに政策を変えます。それはそれで一つの特徴でありますが、こういう対極的な両国の政策のはざまにあって、我が国がどのように正しい道を歩んでいくのか、非常に難しい立場に置かれていると思っております。

 次はロシアであります。

 ロシアの軍事力は、ソ連邦の解体後、大幅にその規模において縮小されてまいりました。ただし、現在の時点においても、極東ロシアには地上軍が約19万、艦艇が約115万トン、空軍の作戦機900機というレベルを維持しております。ただし、報道されておりますように、軍の規律が乱れあるいは燃料の不足等による訓練の低下ということから、即応態勢が著しく落ちているのは事実だと思います。

 ただ、近年、ソ連の軍事戦略といいますか、政策の中で、核戦力を重視しているということは注目すべきだと思います。すなわち、厳しい状況の中にあっても、戦略核の近代化、あるいは戦略核部隊の訓練、即応態勢の維持ということには最も重点が置かれているというふうに見ております。

 ロシアの軍が将来どのような態勢になるのか、当初、2000年までに再編を計画いたしましたが、それが5年間延期されております。ただ、もしこの軍の再編が成功した場合には、従来のソ連のケースと違って、近代的でスリムな軍隊が誕生することになります。

 また、ロシアという国、民族は、御承知のとおり、伝統的に力、特に軍事力を信奉する、これは歴史的な背景があると思いますが、さらにいわゆる大国意識、そういった体質を変わらず持っているということを私は感じております。

 東南アジアにつきましては、冷戦が終わり、あるいはそれぞれの国の経済力の進展に伴いまして、軍事力の近代化、なかんずく海軍力と空軍力の装備の近代化に力を払っております。これはある意味では当然の帰結だろうと思いますけれども、ただ、結果的にこの地域の安全保障環境が従来と異なってきている。例えば我が国のシーレーンの安全確保という観点から見るならば、この地域の安全保障環境が変化しつつあるということは留意する必要があると思っております。


 以上のような情勢認識を踏まえまして、それでは今後の我が国の安全保障はどうあるべきかということになるわけでありますが、最初に、冷戦終結後のアメリカ及び我が国の安全保障政策の見直し、再構築について振り返ってみたいと思います。

 御承知のとおり、米国におきましては、冷戦後、各種の安全保障政策を見直し、策定してまいりました。例えばボトムアップ・レビューあるいは関与及び拡大の戦略と言われます国家安全保障戦略、東アジア・太平洋地域における安全保障戦略、そういったもろもろの政策を再構築してまいりました。

 その新しい政策に共通する基本的な構想を私なりに分析してみますと、まず、脅威として四つ挙げております。第一は、地域の不安定あるいは地域紛争であります、二番目が、大量破壊兵器の拡散。三番目が、テロ、麻薬等の国際犯罪行為。第四が、地球規模の環境の悪化ということであります。

 そうした情勢認識に基づいて、米国としては、国家の安全保障の目標として、こういった情勢に積極的に関与し、経済の活性化と民主主義を拡大するという、関与と拡大ということを政策の目標にしております。

 また、これらの政策の見直しを通じて兵力の再編成が行われつつありますが、代表的な考え方は、一つはボトムアップ・レビューに示されております二つの大規模な地域紛争に同時に対処し得る戦力を保持することであります。また、その政策の一環として、アジア及びヨーロッパにそれぞれ約十万人の兵力規模を維持するということを方針にしております。さらに、アジア・太平洋地域においては、日本との同盟関係をこの地域の政策の柱として位置づけております。

 一方、我が国におきましては、御承知のとおり、冷戦後、平成2年の暮れに中期防衛力整備計画が策定されました。この計画は、2年後の平成4年12月に規模の縮小を基軸とする見直しが行われたわけであります。そして一昨年、平成7年11月に新防衛計画大綱が閣議で決定されました。これら冷戦後の日米両国の安全保障政策の再構築のゴールが、昨年4月の日米安全保障共同宣言であると私は考えております。

 この共同宣言は、恐らく歴史的な意義を持つものだと私は高く評価しているところであります。この宣言が発せられるまでに、日米両国の関係当局の緊密な協議、連携と、橋本総理のリーダーシップ、その成果であると私は考えております。

 今、冷戦後の政策の再構築を申し上げてまいりましたが、要するに、冷戦が終わった、共通の脅威であったソ連は消えた、だから、今後どのように国が生きていくのかといういろいろな論議がありました。例えば日米安保条約の破棄論、見直し論、そういったもろもろの論が日米両国においても唱えられたわけであります。その立場はそれぞれ違ったと思います。

 しかし、一方において、冒頭に申し上げました不透明、不確実な世界情勢の中で、我が国がどのように生きていくのか、本当に大きな課題であったと思います。

 そういった情勢のもとで、この共同宣言を通じて、将来とも日米両国が同盟関係を基軸としていくということを国際社会及びそれぞれの国内に宣明した意味は非常に大きいと思うわけであります。この宣言によって日米安保条約は再確認された、あるいは再定義されたということが言われておりますが、私は個人的には、同盟の再選択である、歴史的な視点で考えるならば、この時期両国は同盟を再選択したということが言えるのではないかと思います。

 ただし、後ほど申し上げますが、この共同宣言によって日米両国の基本的な枠組みは明らかになりました。それを肉づけし、具体化することが今後の課題であり、それが実現しなければこの共同宣言は単なる言葉の宣言になってしまうだろうと思っております。

 そして、我が国の基本政策としては、今申し上げました日米同盟が第一であり、また、我が国は国際社会の平和と安定のためにしかるべき責務を遂行していくということを大きな柱にすべきだと思います。我が国だけのことを考えて平和と安全だけを求めるというかつての単なる一国平和主義と言われる姿勢は、この際、捨て去るべきだろうと思っております。

 また、ツートラックのアプローチの書いておりますが、私は、安全保障を確保するためには二つの道を同時に歩むことが必要だと思います。第一の道は、平和が壊れないように、必要な軍事態勢、安全保障態勢を堅持すること。もう一つは、同時に、平和をより確実なものとするために、平和をつくるために各種の努力、すなわち、信頼醸成と、安全保障の対話、そういった努力を行ってより安定した世界をつくっていく。この二つの努力を同時にやっていく必要があると思います。片方だけでは極めて不安定で、もろい安全保障の政策になるだろうと思っております。

 次に今後の努力の方向ということを書いておりますが、基本的な枠組みは、先ほど申し上げました新しい防衛計画の大綱と日米安全保障共同宣言に示されているとおりだと思います。

 そして、先ほどツートラック・アプローチということを申し上げましたが、第一の安全保障の体制、すなわち、日米同盟関係に基づく軍事態勢を今後とも確保していくことが大切だと思います。我が国にとっては新防衛計画の大綱及び安全保障共同宣言あるいは新大綱に基づく現在の中期防衛力整備計画を着実に推進することが我が国のとるべき道だと思います。

 現在、我が国の厳しい財政事情のもとで中期防を含む各種の政府計画が見直される、これは当然だと思います。ただ、ご理解いただきたいと思いますのは、この中期防あるいは大綱というのは、先ほど申し上げましたように、冷戦後の国際環境、我が国の厳しい財政事情、そういったものを前提にしつつ懸命の努力を経てつくり上げられた政府の計画であるということであります。

 もう一つ申し上げたいのは、昭和50年代、冷戦時代でありますが、1980年代の当時の冷戦の厳しい情勢の中で、我が国は税制債権という大きな課題を背負っておりました。各省庁の予算が毎年ゼロシーリングあるいはマイナスシーリングという時代が続いた中で、防衛費の突出とたたかれながら、批判されながら防衛努力を我が国はそれなりに続けたわけであります。

 その結果は、我が国が当時の西側陣営の同盟の一員であるということの意志の表明であり、同時に、我が国を含む各国が当時のソ連の軍事的な冒険を許さないということを明確に、具体的に示した結果をもたらしたと思います。歴史的に見るならば、あのとき我が国が非常に苦しい中で努力をした、それが冷戦を終結に導いた一つの要因であると私は考えております。

 また、我が国の努力にあわせて、米国のアジア・太平洋地域における戦略あるいはコミットメントを確保するための努力を我が国自身も怠ってはならないと思います。

 現在、戦略核の削減ということがおこなわれておりますが、計画はできましたが、しかし現実にはまだ膨大な核が存在しているわけであります。そういった時代が続く以上、やはり米国の核抑止力というのは、我が国の安全にとって不可欠であると思います。あわせて、我が国を含むこのアジア・太平洋地域において、海上、地上あるいは航空の戦力を維持するというコミットメントを確保することも必要であります。

 また、日米安保体制の信頼性向上、これは日本だけで行うことでなくて、両者が行うことでありますが、例えば政策協議あるいはガイドラインの見直し、緊急事態対応策の検討、さらに日米の同盟にふさわしい相互支援体制の整備あるいは共同訓練、在日米軍の駐留の円滑化、これらの努力を今後ともやっていく必要があると思います。

 もう一つは、国際協力活動であります。これは、先ほどツートラックということを申し上げましたが、いわゆる平和な環境をつくるための我が国の努力を重視していくということであります。

 時間が非常に迫ってまいりましたので、最後に政治に対する期待、これは私の個人的な希望、お願いを申し上げたいと思います。

 冷戦時代は、我が国の政治の場におきましては、日米安保体制あるいは自衛隊の存在そのものについての論議か交わされた、私は、それは入り口における論争であったと思います。それだけに、より現実的、建設的な安全保障論議を行っていただきたいということであります。

 また、安全保障というのは、冒頭に申し上げましたように、国家、すなわち、政治にとって最大の共通の任務であろうと私は考えております。それは、ある意味では党派を超えて、与野党という枠組みを超えて共通の課題だというふうに考えております。したがって、国家国民の安全というその基準を認識しながら、建設的な論議と政策の確立を心から希望しております。

 以上で陳述を終わらせていただきます。ありがとうございました。(拍手)

伊藤委員長 どうもありがとうございました。

 次に、渡邊参考人にお願いいたします。

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渡邊参考人 青山学院大学の渡邊昭夫でございます。

 本日、このような場で意見を述べさせていただく機会を与えていただきまして、心から感謝申し上げます。

 私は、軍事問題の専門家というよりも、安全保障とか政治、外交を専門としている者でございますので、そのような観点からお話をさせていただくことになるかと思います。大きく分けて、まず第一に冷戦の終焉とアジアの安全保障問題というテーマについて、第二に我が国としての対応という、大きな二つの項目に分けてお話をさせていただきたいと思います。

 第一の冷戦の終焉とアジアの安全保障問題でございますが、冷戦の終焉というのも、もう何年も言い続けてきていささか陳腐にすぎるという感じがございますけれども、あえて使わせていただくことにいたします。全般的な特徴とアジア・太平洋の特徴というふうに分けてお話をさせていただきます。

 全般的な特徴と申しますのは、別にこの我が国周辺の地域について言えるだけでなくて、世界的な特徴として言えることではないかというふうに思います。簡単に申しますと、いわゆる冷戦時代というのは特定の脅威というものがあって、いわば集中した形で脅威というものが存在していた。それが非常に拡散してまいりまして、形が定まらない、非定型的な危険へというふうに拡散といいますか、分散しているというふうに言えるのではないかと思います。

 よく冷戦が終わったのに軍事的危機があるのはどういうことだろうかとか、逆に、軍事的な危機があるからまだ冷戦が終わっていないのではないかというような議論がございますが、そういう議論は当たらないのではないかと思います。冷戦というのは、ある非常に特徴的な構造を持った脅威というものであって、そのような構造的な特徴は、確かにソ連の崩壊という形でなくなったと思うのですけれども、しかし、別の形でいろいろな危険に発展し得るものがあるということは間違いがないのではないかと思います。

 では、どういうところに今の特徴があるかというと、やや大胆に申し上げますと、しっかりした国家の枠があって、その国家間の全面的な、組織的な武力衝突というもの、これを我々は戦争というふうに呼んできたと思うのですけれども、そういうある意味で古典的な戦争というものから、国家の枠自体が余り定まらない、そういう国家的な秩序の崩壊に起因するさまざまな暴力的な抗争、それを内乱と言ったりあるいは地域紛争と言ったりすることがあると思いますが、そういうものあるいはゲリラ的な行動が頻発するというふうな形へと変わってきているのではないか、これがまず第一の前提でございます。

 その上に立ってアジア・太平洋のことを考えてみますと、アジア・太平洋についても同じようなことが言えるといえば言えるのですけれども、ここでやや相反するような二つの面があるように私は思います。一言で言えば、地域的な安全保障環境が非常に流動的であるということではございますが、私はプラス面とマイナス面があると思います。

 時に、世界全体は冷戦後非常に穏やかな方向に行っているのに、アジアだけは非常に危ない、極端に言うと一触即発の危機にあるというようなことを言う人がいないわけではないのですが、私はそうではないと思っております。

 プラス面といたしますと、先ほど申しましたように、内乱とかそれに近いような状態が実はあちこちにございます。日々ニュースになっているのは今改めてここで申し上げることはないと思うのですけれども、ところがアジア・太平洋地域を見ますと、むしろそういった内乱ないしそれに近い混乱状態からは遠いというふうに言っていいのではないかと思います。むしろ目覚ましい経済的な成長と、それを根拠にした、インドネシアの人の好む言葉で言うとレジリエンスというふうな、一つの国としての秩序維持あるいは地域的な秩序維持というふうな健全な方向がむしろ伸びているというふうに言えるのではないかと思います。

 私の見るところ、多分一つの例外は、ここ2、3日ニュースになっているパプアニューギニアというところでございます。あるいはもう一つ、カンボジアは一応おさまったわけでありますが、まだ安心し切るわけにはいかないかもしれないというような幾つかの例外があるにしても、全体として見れば、この地域では国家の建設というものが着実に行われてきていて、それを安定的な形にするための経済社会の建設も、いろいろな問題を抱えているとしても、他との比較でいえば全体としては明るい方向に向かっているのではないか、その意味ではプラスの面があると私は思います。

 マイナスの面は、どちらかというとむしろ国家と国家の間、国家の枠は次第にでき上がってきているわけでありますが、国家と国家の間の関係が非常に流動的であり、形がはっきり定まったいないということになると思います。これは無理もないといえば無理もないわけでありまして、この地域に一人前の国家ができて、その一人前の国家同士の間のつき合いという形で国際関係というものができるようになったのは、ここ近々、三十年とかいったようなことであるわけでありますから、言うなれば国際システムというものとしては非常に若いというふうに言っていいと思うのですね。

 したがって、幾つかの国境の未確定問題を持っていたり、多角的秩序と申しましょうか、この地域を一つの秩序であるという形でとらえていくようなことがまだ十分にできていない、そういうやり方が十分にできていないということになるでしょうし、よく使われることで言うと信頼醸成ということが必ずしもまだ十分いっていないということであって、つまり、国家同士の間のつき合い、一つの地域的なシステムとして問題をどのように議論し、どのように扱っていくのかという行き方をいわば学習している最中であるということになると思うのですね。そういうのがこの辺の特徴であろうと思います。

 もう少し具体的に申しますと、アジア・太平洋地域のこうした特徴は、安全保障協力ということにとって有利な環境なのであろうか、それとも不利な環境なのであろうかという問題になろうかと思います。これまた白黒はっきりと決めるわけにいかないのですが、非常に難しい話をごく−焦点を合わせるためにあえて申し上げますと、その中でやはり中国の動向というものが、これからの長い将来を見る場合にかぎを握っているのではないだろうか。

 よく言いますように、中国が脅威であるかどうかというふうな議論があります。あるいは、むしろ中国はこれからの安全保障を考えていく場合のパートナーとして考えるべきかというふうに議論されます。アメリカでの言い方によると、いわゆる封じ込めなのか、それとも抱きかかえ論なのかというふうな議論の仕方をするわけでございます。

 私は、ここで中国脅威論というふうなことで中国がかぎだと言っているわけではないわけでございまして、むしろ中国というのは非常に大きな存在であり、かつ、ますます経済的にも軍事的にも重要な国になろうとしているということを当然大前提としているわけでありますが、その中国というのは、一つの国家の形成の過程ということから見ますと、やはりまだ未完成のところがあるということがあると思います。

 そこで、これからのこの地域の安全保障問題を考えていく場合に、中国との関連でいろいろな問題を見ていくということが一つの行き方、やり方として大事ではないかという意味で申し上げております。

 もう少しわかりやすく言うために、地図を念頭に置きますと、我が国に一番近いところから始めますと、北東アジア−北東アジアというのは、一言で言えば朝鮮半島とその両側の海域という一つの固まりだと思います。

 それから、左回りにぐっと行くわけでありますが、その次には、今度は台湾海峡と東シナ海という問題でございます。ここには尖閣諸島という問題が我が国に直接関係する問題としてあることは言うまでもございません。

 さらに左回りに行きますと、今度は南シナ海と東南アジアという一つの固まりがございます。ここでは、御承知のように、南沙群島というのが問題になっているということになります。

 このあたりが我々が普通考える場合に一番関係の深いところだということになるわけでありますが、さらに回っていきますと、中央アジアとの国境問題を中国は抱えておりますし、ここにチベット問題を含めてもいいかもしれません。そして、さらにミャンマーを経てインド洋へというふうな出口がございます。ここにも一連の問題がある。

 今度はぐっと上へ回っていきますと、モンゴルからシベリア、沿海州、そして環日本海というふうに一回り回ってくるわけでありますね。これはお互いに少しずつダブっていると思いますが、ぐるっと取り巻いている。いずれも中国が関係するということであるわけですね。

 最後に、もう一つは、オホーツク、千島、カムチャッカからベーリング海、アリューシャンというところになりますが、これは中国は直接関係がないということになる。しかし、日本としては忘れ去るわけにはいかない。大体こういうふうな状況になるのではないかと思います。

 私がここでわざわざそういうことを申し上げるのは、いずれも中国がどう動くかということと関係せざるを得ないという問題であるわけですね。こういうのがアジア・太平洋の大きな特徴であろうかというふうに思っているわけであります。

 その場合に、東シナ海、南シナ海、狭い意味での東アジアというふうに言っていいでしょうか、この問題を考えるときに、これらはもちろんそれぞれ別個に考えなければいけない面があると同時に、お互いに関連もし合うということになろうかと思います。

 やや話をはしょることになりますけれども、今問題になっております沖縄の戦略的な地位がどうか、あるいは沖縄を中心にした日本列島というものがこの中でどういう位置を持つかというふうに置きかえてもいいかもしれませんが、そういう問題を考えるときに、先ほど申しました三つの安全保障上の地域というものと深くかかわりを持つところに実は存在しているのだというふうに言っていいのではないかと思うわけであります。これについては当然後ほど議論があると思いますので、とりあえずそこで終わることにいたします。


 次に、我が国の対応でございますが、これは長期的な目標と当面の対策というふうに二つに分けて申し上げさせていただきます。

 最初に、長期的な目標というのは、先ほど申し上げた言葉で言いますと、しっかりとした国家、なかんずく大きな力を持った国家というものが自分たちの間の紛争を解決するために全面的に軍事力を動員して戦い合うというような状態よりは、いわゆる地域的な紛争、地域紛争という言葉はもう少し性格に本当は考える必要がある言葉だと思うのですが、とりあえず地域紛争という言葉を使っておきますと、そういう地域紛争というものを抑止する。不幸にしてそれが起こったときには、できるだけ早目に手を打って拡大しないようにするという、早期的な対処ということを国際社会が共同で取り組んでいくというのがこれからの安全保障の課題であろうと思います。

 そういうふうな地域紛争の抑止または早期対処を共同で保証するあるいは担保するためにはどうしても−国際社会全体というふうに言うと漠然としてしまうので、そういう国際社会秩序を担っていくために特に重要な席にを持っている諸国間、大国というふうな言葉をもし使うとしますと、大国間の基本的な協調というものをグローバルな規模であるいは地域的な希望でどうやってつくり出していくことができるかという問題であろうと思うのです、大きく言えば。

 アジア・太平洋に関して言うと、どうしてもそこで日本とアメリカとが中心にならなければなりません。それで、プラス中国というものをどうその中に組み込んでいくかという新しい日米中関係を構築していくということが長期的には一番大事な問題ではないかと思います。

 例えば、ヨーロッパでは、いわゆる冷戦が終わって、東西の間の新しい安全保障関係が進んでいるというふうに言われておりますが、ついこの間のクリントン・エリツィン会談でも問題になりましたように、NATOの東方拡大ということをめぐってかなり激しい議論の相違がございます。つまり、アメリカとロシアは、もちろんかつての状態ではないけれども、それでは地域的なあるいは世界的な安全保障問題を考えていくときの気の合ったパートナーかというと、そこまではいっていないだろうと思うのですね。それを我がアジア・太平洋に引きかえますと、中国との関係、中国を安全保障上の本当のパートナーとして考えていくようにするにはどうしたらいいかという大きな問題があるのではないかと思います。

 当面の話としてはどういうことかということでありますが、ここも二つございます。

 一つは、流動的で不定形な地域的な国家関係というものにどういう形で安定性をもたらしていくかという問題であります。これについては、ASEAN諸国を中心にしたいわゆるASEAN地域フォーラムというような多角的な話し合いの場が少しずつ形をとり始めておりますし、そのほか、日本を中心として見ますと、日本と韓国とか、日本と中国、日本とロシア、その他そういう二国間の安全保障対話の積み重ねというのがございます。あるいは、もう少し焦点を合わせれば、朝鮮半島をめぐる何カ国かの間の協力という形でその問題を処理していこうという動きが、なかなか突破口はないようでございますが、しかし一時期に比べるとかなり形をとってきているように思うわけで、その種類のことであろうと思います。

 それからもう一つは、きはさりながら、何か突発的な自体が起こったときにどう備えるかということで、ここはどこの国でもそうでございますが、今非常に重点が置かれているのは、いわゆる即応性ということであろうと思うのですね。いかに早期に対処して事が大きくなるのを防いでいくかという、即応性を備えていくということだろうと思うわけです。

 そういう即応性の維持と向上という観点から、どうやって日米安全保障関係を立て直していくかということが課題なのであろうと思います。いわゆる日米安全保障関係の再確認、再定義、再選択ということが今問題になっているわけであります。少なくともそれを日本側から見た場合には、今申しましたような即応性ということをどう維持し向上していくかという目的から、それをどう立て直していくか。別に今まである枠組みを全部解体してつくり直すという意味ではございません。そういう方向での課題が求められているのであろうかと思います。

 時間が参りましたので、とりあえず私の意見の陳述とさせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)

伊藤委員長 どうもありがとうございました。

 次に岡崎参考人にお願いいたします。

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