台湾でのアジア太平洋安全保障フォーラムに出席して:

トラック3とは何か?


渡邉昭夫(青山学院大学教授)
1997/10/21


 去る9月初めに台北で開かれたアジア太平洋安全保障フォーラムに出席する機会が あった。日本からは椎名素夫参議院議員、岡本行夫氏、村田晃嗣氏および私の4人が 参加した。

 台湾のシンクタンクとして重きをなす国家政策中心(Institute for National Policy Research, INPR)が主催者となり、ハワイのCSIS、フィリピンのISDS、フランスのIFRI を共同主催者として組織された国際会議である。「アジア太平洋の安全保障 環境の変動とそのインパクト」というテーマを掲げ、約50名の海外からの参加者を含 めて台湾の多くの関係者が出席した。李登輝総統は会議の冒頭のスピーチをしたばか りでなく、パナマへの出の直前という忙しい日程を割いて、海外からの参加者を官邸 に招いて1時間余のインタビューに応じた。その他、副総統にきまったばかりの連戦 氏、その後を継いで行政院長になった粛万長氏などが、あるいは昼食会のスピーチを するとか、あるいは夕食会のホストをつとめるなど、さながら国を挙げてのイヴェントのような力の入れようであった。

 もちろん台湾海峡を挟んでの安全保障問題が中心的な関心事であり、北京を徒らに 挑発せず自制をして欲しいという外からの注文に対して、「何をもって挑発と見るの か、その判断が北京次第ということであれば納得できない」というのが台湾からの参 加者が異口同音に述べた意見であった。ちょうど、橋本首相の北京訪問の前夜でもあ り、ガイドラインに関していろいろと取り沙汰されていたこともあって、橋本首相が 北京でどういう態度でこの問題を扱うのかという質問が、これまた一度ならず質され た。私自身は、アメリカの核政策の言葉を借りて、周辺事態に台湾が含まれるか否か は「否定もなく、肯定もない」というのが日本の立場であるべきだと答えておいた。

 李総統以下の台湾の要人が口を揃えて訴えたのは、如何にして台湾をアジア太平洋 の地域全体の安全保障に関する議論に入れて貰うかという問題であった。そのような 視点から「アジア太平洋は多国間の安全保障のメカニズムが必要としている」という メッセージが繰り返して述べられた。その際「地域の集団的安全保障」という言葉が 、「多国間安全保障」と厳密に区別されずに使われていたという印象をもったが、要 するに、ARFにもCSCAPにも台湾が北京の反対で入れないという問題にどういう解決 策があるかが、言いたいことであった。それについてはカナダのポール・エヴァンス の報告で提議された「トラック3」という概念が注目された。政府が参加主体である 「トラック1」(ARFがこれに相当する)や民間の(ただし政府と関係の深い)シン クタンクが参加主体である「トラック2」(たとえばCSCAP)に加えて全くの個人が 参加主体である「トラック3」があっても良いというのが、この考えである。言うま でもなく、そこに台湾が参加することには何の障害もないかずだというのが真意であ る。今回の台湾でのフォーラム自身が実はその「トラック3」に当たるのだという意 識があるのは、「アジア太平洋安全保障フォーラムの設立会議」と銘打っているとこ ろからも伺い知ることができよう。合間々々に聞こえてくる声によれば、2年に一度 くらいの間隔でこのフォーラムを定期化していきたいという思惑があるやに思える。 なお、今回の会議には中国本土からも人を呼んだが返事は一切なかったと、主催者側 から聞いた。私自身は「トラック2」と「トラック3」との差がはっきりしないとは 思うが、そのあたりは目をつぶって、日本もこれに参加する姿勢をはっきりしていい のではないかと思う。「トラック2」の参加主体である日本国際問題研究所が動き難 いならば、RIPSが共同主催者となってもいいのではないだろうか。


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