中国の環境問題

我妻 伸彦・辻 昌美(注1)


1 中国の環境問題(概要)

1) アジア・太平洋における中国

アジア・太平洋地域は広大であり、生態系、歴史、文化、民族性、政治形態、経済の発展段階等多くの局面で多様な情況を示している。

地域内には、依然として深刻な貧困問題に直面する国がある一方、いくつかの国は目覚しい経済成長を示し、世界経済の成長の中心となっている。同時に、これらの経済成長の著しい国では、急激な工業化、人口増加、都市部への人口集中の下に、大気汚染、水質汚濁等の産業公害、都市型公害等の環境問題が深刻化しつつある。また、同地域は、エネルギー消費増大に伴うCO2排出増加による気候変動、開発による生物多様性の減少、酸性雨問題等の地球環境問題でも世界の焦点の一つとなっている。

実際、環境庁等でまとめた「エコ・アジア長期展望プロジェクト」の暫定報告書(注2)によると、1990年から2025年の間に(注3)アジア・太平洋地域のエネルギー消費、SO2、NOxの排出量はそれぞれ2.4倍、2.4倍、2.8倍となると予測されている。また、同地域のCO2排出は、既に1985年に西欧の排出量を上回っており、2025年には世界全体の36%程度を占めると予測されている。

現在の一人当たりの所得こそ低いものの、12億の人口を持ち、石炭を大量に消費しつつ年率10%前後の経済成長を続ける中国は、このアジア・太平洋地域の環境問題を考える上では、核心ともいうべき存在である。

2) 中国の環境の情況

背景

中国の環境を考えるにあたっては、いくつかの基本的な背景を押さえることが重要である。第一には、現在の公定レート換算の一人当たりGDPは620$(1995年;世銀)(注4)と途上国の中でも低めであるが、人口が多いことから、経済全体のGDPは7449億$(1995年;世銀)と決して小さくはないこと。また、中国国内の物価構造の歪み、為替レートの問題があり、実質的な経済活動水準はさらに大きく、例えばCIAでは購買力平価換算の一人当たりGDPを2500$(1994年;CIA)(注5)、経済全体のGDPを2兆9788億$(1994年;CIA)と推定しており、経済規模に由来する環境負荷はかなり大きい。

第二に、中国の国土は広大(9597千H2)で資源も多様かつ豊富にみえるが、可住地面積(arable land)は国土の10%(CIA)に過ぎず、水や耕作地を始めとする生産資源的要素を持った環境資源は相対的に不足している。豊富なのは、むしろ環境負荷の重い重金属やレアメタル及び、灰分、硫黄分の多い石炭等の地下資源である。北西部の草原、南西部の山岳・高原、南部の熱帯性の山岳・森林等、生態系・生物多様性の観点からは貴重な環境資源を持つがむしろ脆弱性が著しい。

第三に、人口が多いことと可住地面積が少ないことの系として、国全体としての都市人口比率は30%(世銀)と、そう高くはないが、都市は巨大であり、人口及び経済活動は、比較的狭い範囲に集中しており、環境負荷をその地域の受容能力(assimilative capacity)との相対関係において高める結果となっている。他方、経済活動の集中の結果として、沿海部等と内陸部の経済格差は拡大してきており(注6)、政治的安定のためにも、経済発展の追求の優先順位を下げることができないのみならず、環境面で脆弱な内陸部の開発を進めざる得ない情況にある。

他方、第四の点としては、産業構造と生産技術の問題がある。近年の中国の経済発展の発端は、沿海部を中心とする労働集約型産業であるが、歴史的に中国経済の沿革をみれば重工業が重要な役割を担っている。少なくとも今世紀前半においては、重工業は中国にとって、石炭等の地下資源に由来する比較優位産業であったと考えられ、日本の中国進出においても工業面では、重工業が中心であった。その後、共産革命以降も、共産主義においては、サービス業が否定されていた(注7)ことや、旧ソ連の重工業偏重路線の影響もあって、重工業は相対的に重視され続けた。一方、中ソ紛争以降、技術面では長く世界から孤立していたこともあり、開放改革路線への転向まで、生産設備が体化している技術は今世紀前半のままであった。その後の開放改革路線自体は、労働集約型産業を先行させる形で進められたため、重工業における設備・技術の更新はさらに遅れ、今なお、旧式の環境負荷の重い設備も稼動している。

最後に、旧共産主義的教義においては、社会・経済活動の発展は物的生産量に集約されたが、現在の社会主義的市場経済においては、金銭的生活の向上が全てに優越するかのごとき風潮もみられ、いずれにおいても環境に対する配慮は極めて少なかった。最近にいたって、中国首脳による環境問題重視の姿勢が打ち出されており、基本となる法・制度・基準等は形式的にはかなり整備されているが(注8)、環境問題が社会全体としての優先順位を獲得しているとは言い難くまた、環境政策を強力に推進・実施するための政府自体の体制整備も遅れており端緒についたばかりと言える(注9)。

中国の環境の情況

・ 大気汚染

中国の大気汚染問題はそのエネルギー消費構造と密接な関連を持っている。即ち、基本的に産業、民生(家計・事務所)の両部門とも、技術的古さのために熱効率が低く、また一部地域では気候的に暖房用需要が多いこともあり、単位GDP当たりのエネルギー消費が多く、消費総量でも米国、ロシアについで世界第三位となっている上に、一次エネルギーの76%が石炭で占められていることからCO2排出量は相対的に一層多くなっている。

同時に、その石炭は、四川省産出のもの等を中心に硫黄や灰分の含有量が高く、燃焼前の洗炭や、燃焼後の脱硫等処理が殆ど行われていないこともあって、二酸化硫黄の排出量は、日本の20倍にも達する。

特にSO2汚染が厳しいとされる重慶市の環境保護局の資料によれば、同市で年間に1,500万t消費される石炭の平均硫黄含有量は4.0〜4.5%であり、灰分は25%に達しているとされる。この石炭燃焼に伴い年間80万tのSO2が排出され、盆地性で風が弱く気温逆転層を生じ易い条件ともあいまって、大気を汚染しているとされる。重慶市の中でも最も厳しい地区である淪中区の呼吸器系疾患の罹患率は34.3%、呼吸器系疾患による死亡率は人口10万人当たり177.88人に達し、肺ガンの死亡率も73年の10万人当たり21.8人から92年には10万人当たり62人に上昇していると伝えられる(注10)。

表1 92年における経済活動とエネルギー消費、CO2排出量
指標中国日本米国欧州OECD
人口1,162124255439
GNP(実質、1987年価格、10億ドル)4912,9884,9245,767
エネルギー消費量(石油換算100万t)7104511,9841,439
  一人当たり(石油換算t/人)0.613.647.783.28
  GNP当たり(石油換算t/100万ドル)1,445151403250
CO2排出量(炭素換算100万t)7333491,5811,071
  一人当たり(炭素換算t/人)0.632.816.202.44
  GNP当たり(炭素換算t/100万ドル)1,493117321186

(注)欧州OECDにはトルコを含む
(資料)井村 秀文・勝原 健 編著(1995)「中国の環境問題」東洋経済新報社(一部省略)
(原資料)「EDMC/エネルギー・経済統計要覧(1995年版)」pp.189〜220

表2 各国の硫黄酸化物と窒素酸化物排出量
国名硫黄酸化物(万t)窒素酸化物(万t)
旧ソ連2,500-1989
米国2,0731,8761991
中国1,7956001993
英国3572751991
旧西独942611990
旧東独476631990
韓国160881991
日本881301989
(資料)井村 秀文・勝原 健 編著(1995)「中国の環境問題」東洋経済新報社
(原資料)「中国の環境問題」、「中国統計年間1994」、OECD(1993) "Environmental Data Compendium 1993"、「韓国環境白書1992」等

・ 水環境

治水は中国歴代の課題であり、それは現在にも通じている。中国の平均年間降水量は660mmとあまり多くはなく(注11)、特に内陸の砂漠・半乾燥地帯や人口・経済活動に比して水資源の少ない華北・東北部では、水自体の確保が問題であり、一部では地下水の過剰汲み上げによる問題が生じていると伝えられる(注12)(注13)。他方、全体としての水の希少性にも関わらず、揚子江以南等では、降雨に季節変動が大きいこともあり、しばしば洪水が発生しており、そのための対策がさらなる環境懸念を惹起している場合もある。

水への環境負荷は、現在のところ産業系が中心であり、93年に、219億tあった中国全土の工業排水には、16tの水銀、134tのカドミウム、377tの6価クロム、907tの砒素、2,480tのシアン化合物、4,996tのフェノール等の重金属、化学物質が含まれ、CODは622.4万t、浮遊物質は681.8tであった(注14)。特に、都市周辺や経済活動が盛んな地域の湖沼(太湖、巣湖、デン池)、周辺の環境負荷が重い地域であって、相対的に水量が不足がちな東北部・華北部の河川(遼河、海河)や勾配のあまりない河川(淮河)等を中心に汚染が目立ち、これらの三湖三河は中国の水環境対策の重点地域に指定されている。

なお、中国の下水の処理率は都市部で4.5%、全国平均で3.9%程度と伝えられており、また処理レベルも一次処理にとどまっているものが多いとされている(注15)ことから、今後都市化の進展や、生活向上に伴う消費活動の活発化に伴い、生活排水による汚染が急速に進む恐れがある。

・ 自然環境

中国は古くから文明が開けた地域であるだけに、大運河を始めとして様々な自然の改変がなされてきている。他方、広大な国土の下に中国の自然環境は基本的には多様であり、中国全土では、32,800種の高等植物と104,500種の動物が生息している(注16)。殊に、雲南省等の南部山岳地帯は世界的な生物多様性の宝庫といわれる。しかし、膨大な人口からくる農耕・畜産活動、工業活動を含めた環境負荷と平均年間降水量の少なさに象徴される相対的に脆弱な環境資源の下に、自然環境全般についても様々な劣化が伝えられている。特に、森林破壊・表土流失・砂漠化等は北部・西部を中心に相当に進行しているといわれ、森林面積は国土の14%(CIA)にすぎない。また、揚子江、メコン川といった大河の開発や、郷鎮企業と称される村営や民営の中小企業のブームを中心に開発は次第に中国の中でも相対的に環境が脆弱な奥地にも浸透しはじめており、自然環境・生物多様性の保全が重大な課題となってきている。


2 中国への環境協力と日本

以上に見てきた中国の環境問題は必ずしも中国国内の問題にとどまるものではない。その経済規模の急速な拡大に伴って、地球全体の温暖化や生物多様性の減少、東アジア地域の酸性雨や東シナ海・黄海といった海洋の汚染問題、動地域の生態系保全等の問題に大きく関わってくる蓋然性が極めて高い。

しかし、日本との関わりをこのような、日本からみた環境面の利益のみに求めることは余りに卑近であろう。日本は現在、豊富な環境対策の経験と、より進んだ環境管理・対策技術をもっているが、これらはかつての激甚な公害の深刻な経験を経て、政府、企業、国民の真剣な努力と様々な側面の多大な犠牲の上に培われたものであり、これを無駄にすることは許されない。かつて我々に多大な犠牲を強いた問題と同種の環境問題に途上国の人々が苦しんでいるのを座視することは、かつての犠牲に対する冒涜ともいえようし、また、知識・情報・技術といったもののひとつの特徴がその非競合財(non-rival goods)的性格にあり、追加的利用に関する社会的費用が低いことにあることを想起すれば(注17)、途上国がかつて我々が対策手法確立のためにかけたコストを再度、重複してかけることは世界全体にとって貴重な資源の無駄遣いでもある。

もちろん、今なお日本自身、地球環境問題や複雑な化学物質、廃棄物処理といった様々な新しい環境問題と格闘を続けており、途上国が今後において直面していく環境問題も様々に変化していくと考えられる。この点では、全ての途上国の、現在及び将来に発生しうる全ての環境問題に対処することは、たとえ日本等の先進諸国が一致して対処するにしても、困難であるし、不合理でもある。従って、日本等に求められることは、「途上国の環境問題の解決」自体というよりは、「途上国が自前で自立して継続して環境問題に対処していけるよう、途上国自身の自助努力を支援する」ことと考える必要があり、これは中国に対しても当てはまる。

途上国自身の自助努力を支援するためには、@人材育成、A組織・制度強化、B政策対話の一環としての、科学的知見の共有に基づくコンセンサス・ビルディング等についての協力を行うことが重要である。

これらの協力を重点的に行うことにより、途上国自身の@環境保全の重要性に対する意識の向上、A環境改善を行うことに対する意志の確立、B環境問題への対処能力の強化が図られ、ひいては途上国内の環境担当部局のみならず政府としての政策の中での環境問題の優先順位が高まることとなる。このような状況になってはじめて、公害防止設備の整備、環境関係インフラ整備、開発事業実施に際しての環境配慮が十分な理解の上に円滑に行われ、環境保全に十分配慮がなされた、持続可能な開発が可能となる。


3 日本の環境協力

日本の環境分野のODAは1995年度で2760億円に達しており(注18)、その主力は国際協力事業団(JICA)による技術協力、外務省による無償資金協力(案件によってはJICAが調査及び実施促進のための業務を行う)、海外経済協力基金(OECF)による有償資金協力及び多国間の枠組による国際機関等への出資・拠出である。中国との関連では、無償、技術、有償の協力が関連を持つことになるが、その仕組みはJICA、OECFで異なったものとなっている。

表 3 環境ODAの形態別内訳の推移(単位:億円)
年度無償資金協力有償資金協力技術協力マルチ合計(%)
1991241.5(23.4)666.6(7.0)131.0(11.6)77.5(2.7)1127(7.1)
1992310.6(26.7)2212.5(24.3)174.1(13.5)105.7( 2.9)2803(16.9)
1993377.1(29.6)1526.5(15.3)214.1(16.3)162.0( 4.4)2280(12.8)
1994414.3(31.0)1055.7(12.4)218.7(15.9)253.3( 6.5)1942(14.1)
1995428.2(31.3)1708.2(15.3)222.9(15.8)400.3(10.2)2700(19.9)
(資料)我が国の政府開発援助(ODA白書)1996

JICAは外務省の所管する特殊法人であり、在外公館を通じて要請された協力案件は、案件の分野・内容に応じて、外務省・JICAを通じて関連する省庁に連絡され、外務省・JICA、関連省庁の密接な協議の下に案件の採否が決定されれる。採択された案件の実施においても、それぞれの関連省庁による内容の技術的検討、人材の提供等の密接な協力の下に、要請国と具体的協議が行われながら進められる。

OECFは経済企画庁の所管する特殊法人であり、在外公館を通じて要請された協力案件は、経済企画庁、外務省、大蔵省、通産省(関係四省庁)及びOECFによって検討され、OECFによる専門的見地からの審査をを行った後、案件の採否が決定される。プロジェクトの実施主体は借入国であり、OECFは適宜助言・確認を行う立場にある。

これらの援助実施機関によるプロジェクトの他、各省庁においても各種技術協力が行われている。


4  中国における個別の取組み

1)国際協力事業団(JICA)

JICAでは上述のようにODAのうち技術協力の実施及び一部の無償資金協力の事前調査・実施促進・フォローアップを中心に事業を行っている。特に中国において注目すべきプロジェクトとしては、1988年、日中平和友好条約10周年記念事業として、日中友好環境保全センターを国家環境保護局の下に建設することとなったことが挙げられる。90年から95年まで、無償資金協力「日中友好環境保全センター設立計画」により、センター施設の建設及び機材の調達(105億円)を行い、それと並行して、92年から95年までの3年間、センター職員となるべき中国側カウンターパートに、センターの活動に必要となる基礎技術を移転することを目的としたプロジェクト方式技術協力(注19)「日中友好環境保全センタープロジェクト(フェーズ氈j」を実施した。同プロジェクトのフェーズについては、これら従来の協力を基盤とした本格協力として、96年5月のセンター開所にあわせて96年2月より開始されている。

プロジェクト方式技術協力としては、同センターの他、これまでに「黒竜江省木材総合研究」('84-'91)、「黄土高原治山技術訓練計画」('90-'95)、「福建省林業技術開発計画」('91-'96)、「大連市省エネルギー教育センター」('92-'97)が行われている。

また、技術協力の一種である開発調査については、近年の環境案件として、「天津市地下水源開発計画」(調査期間'84-'87。以下同様)、「大連市省エネルギー・工場診断計画」('84-'86)、「上海市大気汚染対策調査」('85-'87)、「ウルムチ市地下水開発計画」('87-'90)、「西安市生活廃棄物処理計画」('88-'90)、「産業廃水処理・再利用計画」('88-'90)、「ポーヤン湖水質保護対策計画調査」('90-'93)、「柳州大気汚染総合対策計画及び広域酸性降下物モニタリング調査」('93-'95)、「太湖流域水管理計画調査」('94-'98)、「漓江水環境総合管理計画調査」(''95-'97)、「岷江江成都地区水環境総合計画調査」('96-'98)、「大連市環境モデル地区整備計画調査」('96-'98)等を行い、個別地域における環境対策についてそれぞれ検討を行っている。

我が国による技術協力分野の国別実績をみると、94年度実績では中国は約168億円となっており、インドネシア、フィリピンに次ぎ、第3位になっている。

無償資金協力については、上記日中友好環境保全センター建設の他、「林業部パンダ保護機材」('84)、「華南熱帯作物学院(農牧漁業部)気象観測機材」('84)、「長春市浄水場整備計画」('86,'87)、「大興安嶺森林火災復興計画」('87)、「長春市浄水場施設改良計画」('90-'91)、「貴州省飲料水供給改善計画」('90)、「淮安市飲料水改善計画」('91)等が供与されている。

2) 海外経済協力基金(OECF)

OECFでは上述のように主にODAのうちの有償資金協力(円借款)を実施している。中国における環境分野でのこれまでの案件としては、上水道分野では「観音閣多目的ダム建設事業」(借款契約'88、'89、'90。以下同様)、「北京市上水道整備事業」('88、'89)、「四都市上水道整備事業(南京、成都、徐州、鄭州)」('88、'89)、「三都市上水道整備事業(天津、合肥、鞍山)」('90)、「三都市上水道整備事業(厦門、重慶、昆明)」('91)、「西安市上水道整備事業」('93)、下水道分野では「北京市下水処理場建設事業」('88)、上下水道両方のものとして「青島開発計画(上水道・下水道)」('93)がある。また、日本政府は第4次対中国円借款(1996〜2000年度)について、前半3年間(1996〜98年度)に40プロジェクトに円借款を供与する旨表明しているが、このうち15のプロジェクトが環境案件であり、環境分野への取組が重点事項のひとつとなっていることがわかる(対中国第4次円借款については中国側の核実験実施に関係し、スケジュール等変更になる可能性もある)。具体的には、上水道分野では「フフホト上水」、「貴陽西郊浄水場」、「北京第9浄水場3期」、「引黄済煙」、「湛江上水」、「大連水資源開発」、大気分野では「柳州酸性雨対策事業」、「本渓大気汚染対策事業」、「蘭州都市総合環境改善」、「フフホト・包頭大気汚染対策事業」、「瀋陽大気汚染対策」、水質分野では「河南淮河汚染総合処理」、「黒竜江省松花江都市汚染処理」、「湖南湘江流域汚染対策」、「吉林松花江都市汚染処理」が予定されている。

3)環境庁

上記JICAの項で紹介した無償資金協力及びプロジェクト方式技術協力を行ってきている日中友好環境保全センターや、技術協力の一種である環境関連の開発調査を企画・運営するに当たり、環境面での専門的な助言を行っているほか、環境分野の専門家派遣に当たっての調整を行っている。

また、日中環境保護協力協定に基づき、毎年日中環境保護合同委員会を開催し、両国の環境問題とその取組についての情報交換とともに、同協定の下における具体的な協力案件の実施についての意見交換を行ってきている。

さらに、東アジア酸性雨モニタリングネットワーク、環日本海環境協力会議等、中国を含めた多国間の環境協力の場において、情報や意見の交換を行う等、相互の協力を図っている。

4)通産省

通産省では、開発途上国のエネルギー・環境分野に対する協力を「グリーン・エイド・プラン」と命名し、推進している。この中で、中国においては、太原及び青島発電所における簡易式脱硫装置の実証試験をはじめ、調査協力、モデル事業、実証試験を実施することにより協力を行っている。

5)その他の省庁

環境の保全・改善に資する分野の協力としては、上水道分野については厚生省、下水道分野については建設省、熱帯雨林保全、砂漠化防止分野については林野庁等、環境各分野について関係する省庁により、各種技術協力プロジェクトへの専門的見地からの助言指導等を中心に、協力が行われている。

6) 地方自治体による協力

我が国のいくつかの地方自治体においては、中国の自治体を相手方として研修員の受入、共同調査等を通じて環境協力を行っている。代表的な例としては、北九州市と大連市(研修員受入、技術協力)、広島市と重慶市(技術者受入、専門家派遣、共同研究)、広島県と四川省(研修員受入、専門家派遣、共同研究)が挙げられる。なお、96年11月には北九州市において、日中環境協力都市会議が開催され、両国の自治体、国等から関係者が出席し、広く意見交換が行われた。


5 今後の協力の方向

今後の中国への環境協力の方向性を考えるに当たってのキーワードは、「重点化」、「緊急性」、「意識・意志・能力」の3点にあると考えられる。

まず、重点化とは、広い中国の国土に対して、広く拡散して協力するのではなく、重点的地域・案件を定め、そこに協力活動を集中させるとともに、そこで確立された中国側の経験を各地に普及させていこうということである。96年5月に開催された第一回日中環境協力総合フォーラムでは、日本側から、東北地域の遼寧省(大連市、瀋陽市)、松花江と南西地区の四川省(重慶市)、猫跳河が重点地域として提案された。もちろん、この重点地域は、他の地域における協力を排除するものでも、中国側の環境協力の要請案件を拘束するものではないが、何らかの重点化は効率的な環境協力に必須と考えられる。

次の緊急性は、いうまでもないであろう。中国の環境問題の現状をみたとき、人身被害のレベルにある問題、生態系等への重大な危機等の緊急性の高い問題へ日本の経験を生かしていくことは喫緊の課題である。特に、重金属による汚染問題については、深刻な経験をした日本の知見を生かしていくことが責務でもある。同時に、こうした緊急性の高い問題について対応していく中で、中国の主体的取り組みを確保し、中国が自前で継続して環境問題に対処していけるよう働きかけていくことが重要である。

環境協力はその利益が直接的には見えにくい分野である。道路や港湾の建設への協力であれば、その道路・港湾が完成すれば、それは経済活動を活発にし直接に金銭的利益を生むものとして活用されようし、その生み出す利益に応じて現地で自らメンテナスもされよう。しかし、環境分野では、環境モニタリングのための実験室であれ、エンド・パイプの装置であれ、稼動させるためには追加的運営費用と能力を必要とし、同時にその利益は少なくとも金銭的には直接には見えない。環境問題の源泉でもある「環境に値段がなく市場が存在しないこと(外部不経済性)」は、環境協力でも問題なのである。従って、環境協力はハードよりもソフトの側面がその本質なのである。「意識・意志・能力」の重要性は既に詳述したが、やはり、意識・意志を政策対話や環境教育への協力によって強化するとともに、環境モニタリング(注20)をはじめとする行政能力を強化することが全ての環境協力の基本となる。この点でも、モニタリングや環境教育等の能力強化を目指す日中友好環境保護センターへの協力等のプロジェクトにおいて真の成果を挙げることこそが当面の最大の課題である。


  1. 我妻 伸彦;環境庁 地球環境部 環境協力室長、辻 昌美;環境庁 地球環境部環境協力室 室長補佐。本小論に示された見解は、著者の個人としての見解であり、所属する組織の見解とは無関係です。
  2. Secretariat of the Project: Environment Agency, Government of Japan (1996) "DRAFT FINAL REPORT ON ECO ASIA LONG-TERM PERSPECTIVE PROJECT "A LONG-TERM PERSPECTIVE ON ENVIRONMENT AND DEVELOPMENT IN THE ASIA-PACIFIC REGION" AND REPORT OF THE THIRD INTERNATIONAL WORKSHOP"
  3. ここでの、アジア・太平洋地域は、以下の国々の合計である。日本、中国、韓国、豪州、ニュージーランド、シンガポール、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナム、カンボジア、インド、パキスタン、バングラディシュ。
  4. The World Bank (1996), "Trends in Developing Economies 1996" The International Bank for Reconstruction and Development。以下、「世銀」と略記。
  5. Central Intelligence Agency (1995), "The World Factbook 1995" USA。以下、「CIA」と略記。
  6. 中国統計年鑑のデータから計算すると、95年の上海の一人当たりGDPは17,400人民元を超えるのに対して、貴州省のそれは、1,796人民元に過ぎない。
  7. 世銀によれば、95年時点でも、GDPに占めるサービス業の割合は31.5%に過ぎず、他方、産業(industry)部門は48.0%、製造業だけでも37.6%に達している。
  8. 96年7月には、江沢民国家首席、李鵬首席の出席の下に、第四回全国環境保全会議が開催され(第三回同会議は89年に開催されている)、「あらゆるレベルの政府及び部門は、誠実に環境保全任務を遂行するとともに、総合的な環境保全基本政策を実施し、持続可能な開発と言う戦略を実効あるものにすることが肝要であり、もって、経済発展と社会進歩を促進する」ことが決定された。
  9. 中国では78年には憲法に環境保護の規定が盛り込まれ、79年には環境保護法(試行)が定められ「汚染者処理」の原則が確立されている他、「排汚費」なる独自の経済的手法の導入、各種規制の導入(但し、濃度規制が中心で総量規制は今後の課題)、国による環境法規違反企業への操業停止命令権の確立(96年改正中華人民共和国水汚染防止法)等、法・制度面ではかなり整備されており、96年には実際に淮河流域の小規模紙パルプ工場等を中心に50,000を超える工場の閉鎖命令が出されている。しかし、全体としてみた場合、環境当局のモニタリング能力は質・量とも充分とは言えず、また、地方毎にも厳しさに濃淡があるとされる他、排汚費もその水準が低すぎるといわれている(排汚費に直面する企業にとっての機会費用(opportunity cost)は、製品の輸出価格又は、対策設備の輸入価格となり、国内価格に比較して高い国際価格水準で評価されることになることが原因と見られる)。
  10. 重慶環境保護局(1996)「重慶市的酸沈降汚染及防治対策」
  11. 井村 秀文・勝原 健 編著(1995)「中国の環境問題」東洋経済新報社
  12. Brown, Lester R. et al (1996) "STATE OF THE WORLD 1996" W. W. Norton & Company
  13. 内蒙古では、地下水自体に自然状態で砒素が含まれているとの報道もある(川名 英之(1996)「ドキュメント 日本の公害 第13巻 アジアの環境破壊と日本」 緑風出版)。
  14. 井村 秀文・勝原 健 編著(1995、前出)。原資料「中国環境年鑑1994」。
  15. 井村 秀文・勝原 健 編著(1995、前出)。
  16. "China's Agenda 21" (1994)
  17. 例えば、ある技術がx企業のy製鉄所で鉄鋼を生産するのに用いられていたとしても、そのこと自体は、知的所有権の話を除外して考えれば、同一の技術が他の企業、他の場所で(他の目的のために)同時に利用されることを妨げない。これを情報・技術は非競合性を持つという。このことは、溶鉱炉等の他の資本設備や機械等の通常の物的財の場合、同一の溶鉱炉は同一時点では一ヶ所でしか利用できないことと著しく異なる。非競合財である技術=情報は、物理的には無視可能な(社会的)費用で内容の複製が可能であり、同時に複数の経済主体による利用が可能となる。
  18. 日本は、1992年にブラジルのリオデジャネイロで開催された「地球サミット(UNCED)」で、「環境面の国際協力を、今後5年間で、9,000億円〜1兆円をめどに拡充・強化する」と表明した。その実績では、94年度までの4年間で累積の環境ODAは9,800億円に達し、1年前倒しで目標を達成した。
  19. プロジェクト方式技術協力:途上国側が技術協力の場となる建物や土地、運営経費を用意し、日本側が研修員受入、専門家派遣、機材供与の3つの形態の協力を有機的に関連させて、協力期間内(通常5年)に設定した目的を達成するもの。
  20. 環境政策が直接規制型(command and control policy)であれ、経済的手段(economic instruments)によるものであれ、当局によって汚染源からの汚染物質排出情況と環境一般の情況が把握されていることが、政策対応のための前提条件である。