クリーン・コール技術(Clean Coal Technology)の

選択肢と中国

日本側研究グループ・バックグラウンドペーパー

定方正毅、和田潤、丸山亜紀、山内康英

 

1. はじめに

中国のエネルギー消費における石炭利用の重要性を考え、ESENA日本側研究グループ(ESENA Japan Study Group)は、革新的資金支援という観点から、CCT(クリーン・コール技術)の選択肢を検討した(1)。国家エネルギー計画および環境政策の立案と実行は、中国の主権的決定事項に属している。しかしながら現時点で、国際社会には、数多くのCCT関連の技術要素が存在しており、各国が進めている技術開発と商業化の状況は、技術要素毎に異なっている。他方で最近になって、GEFCDMのような多国間ベースの環境支援や、二国間の外交的協力の枠組みが整備されつつある。したがって中国のような石炭消費国が、CCTを広く国内の商業用施設に普及させようとする場合、多様な技術的・資金的オプションの組み合わせを総合的に評価する必要がある。われわれの判断によれば、中国は今後ともさまざまな形で、大規模な石炭の利用を行うと同時に、CCTの導入について各種の選択肢を検討中であり、したがって本プロジェクトのような調査研究が数多く行われることは、エネルギー・環境問題に利害関心を持つ各国の関係者にとって望ましいであろう。以上のような観点に立って、日本側研究グループは調査研究を行った。なお、ESENA1年間のプロジェクトであり、以下に要約する結論は暫定的なものである点に留意されたい。
 

日本側研究グループの見解

日本側研究グループの見解によれば、CCTの導入について、以下の「a-1」から「a-3」に述べる評価基準を設定することが有効である。IGCCPFBCといった石炭発電技術の現状と、その近い将来における技術的成熟度を検討した結果、われわれは中国におけるCCT技術として、超臨界ユニットと新しいタイプの脱硫装置の組み合わせが有望だと考える。このCCT技術は、GEF等による新しいタイプの資金支援の対象になるであろう。以下の諸節は、この結論を要約している。

a.評価基準

    a-1 持続的普及性(sustainable dissmemination)導入するCC技術は、現地実証プラントの建設で終わるものではなく、現地で普及し、「持続的に普及」するものでなければならない。そのためには、移転技術の支援国と受入国の基盤技術に、大きなギャップのある技術よりは、受入国側が段階的に発展させる可能性の高い技術が望ましい。

    a-2 要素技術組み合わせの柔軟性と総合的評価石炭利用国国内の地理的多様性を前提とし、また、CCTの現地利用は、常に複数技術の組み合わせになることに留意して、石炭利用国が選択するCC技術は、燃料、立地点の周り、地域の環境、環境へのダメージコストに応じて、対費用効果の高い技術要素の組み合わせを選択できるような柔軟性および組み合わせた場合の運用の確実性を保証する必要がある。

    a-3 資金支援と目標レベル間の整合性グローバルな環境目標(温暖化ガスの削減等)と、国家および地域レベルでの環境目標(SO2の削減等)については、国際的な資金支援の設立の経緯から、その制度的枠組みが異なる。他方では現地の環境対策として、国家および地域レベルでの環境目標の達成が急務である場合が多い。CCTの移転が有効であるためには、グローバルな環境目標と国家および地域レベルでの目標の双方をカバーする必要がある。
     

b. 検討する技術超臨界ユニットと新しいタイプの脱硫装置の組み合わせ(以下ではSC+FGD(Super Critical+Flue Gas Desulphalization))

c.  これに伴う新しい資金支援

c-1 GEFOP#5OP#7
c-2 将来的にはCMDや二国間支援の組み合わせ

 

2. 超臨界ユニットと新しいタイプの脱硫装置の組み合わせ(SC+FGD技術)

2-1 超臨界ユニット

石炭火力発電は、ボイラで石炭を燃焼して蒸気を作り、タービンに直結した発電機を回す技術である。石炭火力発電の熱効率は、1950年代の20%程度から始まり、多くの技術的改良が加えられた。その結果、日本の石炭火力発電の熱効率は、1970年以降には40%を越えている。その際に重要な技術要因となったのがSC技術の普及である。1気圧の水を加熱するとき100℃で沸騰が起きるが、臨界点(critical point)の221気圧、374℃を境にして沸騰現象がなくなり、水が直接、蒸気に変化する。臨界点を超える圧力の蒸気で動くように設計された発電プラントが、supercritical(超臨界圧)であって、従来のsubcritical(亜臨界圧)と区別される。subcriticalsupercrticalとでは、沸騰の有無という現象の違いがあるので、ボイラの構造が異なるばかりでなく、運転のコントロールもsupercriticalの方がデリケートである。

日本では、1967年に最初のsupercriticalプラントが導入され、その後、約25年間は240気圧、538℃/566℃が新規プラントの標準であった。CO2問題への対応から、少しずつ設計温度の高いものが採用され、昨年竣工したプラントでは、600℃が採用されており、熱効率もnet4142%に達している(2)

他方、今後、予想される多くの場合、FGDは発電所におけるポンプやファンと同様、発電に必要な装置だと考える必要がある。(この点は「評価基準 a-3」からも裏付けられる。) 従来の先進国のFGDは、プラントおよび運転費用の掛かる湿式脱硫法であり、中国には受け入れられていない。これに対して、低価格な乾式脱硫法が開発されており、副生物の石膏を土壌改良(農業用および植林)に利用する研究が進んでいる(4)
 

3. GEFおよびSupercritical unit

GEF

GEFは、気候変動を含む四つの焦点分野で、通常のプロジェクトに関わる費用と、地球環境に配慮した場合のプロジェクトにかかる費用との差額(incremental cost)を無償資金援助(あるいは、低利特別融資)で出資する。UNFCCCは、GEFを当面に資金メカニズムとして定めている.

SC+FGDへのファイナンス

GEFSTAP Science and Technology Advisory Panel)は、IGCCPFBCが長期的にCO2の削減可能な高効率技術であるが、商用化までのリスクがあり、従来型の技術よりも現在のところ高価なので、GEFFundが適用できる技術としてリストアップしている。他方で、Supercritical技術は、既に商用化され、技術的リスクもなく、コスト的にも従来のsub-criticalよりも経済的になる場合もあることから、技術のリストの中には入っていない。これに対して日本側研究グループは、上記のような中国の状況を考えれば、SC+FGD技術の普及促進が、GEFOP#5(気候変動:エネルギー効率・節約に対する障壁の除去)およびOP#7(気候変動: 温室効果ガス排出量低減技術のコストの長期的な削減)の範躊にあるという意見である。

実際に、OP#5の例として、産業用ボイラーの効率向上プロジェクトがあり、このプロジェクトでは、中国の産業用ボイラーメーカーが、外国のメーカーから高効率のボイラー技術のライセンスを取得するのに必要な費用をGEFが負担している。

技術移転が適切な国際的ファイナンスによって促進されるならば、SCユニットは中国の製造業による国内生産が可能となる。SCユニットは競争的な設備建設費を考慮に入れたCO2削減の費用対効果がより大きい。事実、SCFGDは3つの基準を満たす日本側研究グループの見通しの唯一のオプションである。特に、中国国内生産が容易であることが継続的な普及を可能とし(a-1)、SCFGDのコンビネーションが柔軟性および明確に証明された技術であることの両方を持ち(a-2)、そして、CO2削減のユニットあたりのドル価格に比例するもっとも費用対効果のある方法の中で、SCFGDが世界的、国家的レベルの目標をカバーする(a-3)。

その他の革新的資金支援の可能性:CDM

CDMClean Development Mechanism)は、COP3の京都議定書によって、先進各国(AnnexI締約国)の温室効果ガス削減目標達成に向けて導入された柔軟性措置(京都メカニズム)である(5)CDMは、途上国にGHGの緩和プロジェクトの遂行による各国の排出物への部分的対応を達成させる、持続可能な発展のための道を舗装する重要な役割を担う可能性を持つ。限られた政府の資金リソースと民間部門が所有するclimate-friendlyな技術とともに、CDMの主要な資本源は民間部門から出るものと期待される。したがって、CDMプロジェクトには多様な可能性をもつ資金ツールがあるだろう。

CDMは、先進国が開発途上国の対策事業を支援し、これによる削減量の一部を先進国側繰り入れるものであるが、ルール、手続き、原則などの詳細については、2000年のCOP6で決定される予定である。しかしながら、もし環境ODAあるいは安価なFGDのようなFGDのための追加資金が可能となれば、CDMは費用対効果のあるCO2緩和プロジェクトとして中国にSC+FGDを導入するのに効果的だろう。さらに、クレジット・シェアリングの交渉次第では、それも中国にとっておもしろいオプションとなる可能性がある。
 

4. 暫定的結論

中国でsupercritical unit が普及するためには、manufacturer partuser partの双方に技術革新が求められる。manufacturer partでは、鉄鋼材料の製作からボイラ鋼管などの加工、溶接、従来と全く異なるsupercriticalボイラの設計、スケールアップに伴い大型化する付属機器の設計製作など多岐にわたり、海外からの輸入に依存する状態からの脱却を望むならば、このような製品基盤を整備しなければならない。user partでは、運転手法に習熟することをはじめ、ボイラに使う高度な純水の品質管理(subcriticalよりもシビア)、高温高圧ゆえに痛みやすいボイラ・タービンの品質管理などを習得する必要がある。このような人的、製品基盤を欠く場合には、故障が多い、故障してもなかなか修理できない、部品が届かない、などの事態を招き、せっかくの高性能プラントが敬遠されることになる。このような人材養成と技術移転が、持続可能な発展と環境保護のために必要不可欠であることは、最近、各方面で認識されはじめたところである。

中国にとっては、国産技術の発達、育成が最も重要な政策であり、これを助けるようなメカニズムであれば、それがGEFでもCDMであっても受け入れ易いであろう。しかしながら世銀やADBの従来のローンは、International Competitive Bidding ICB)を前提としており、国産技術優先政策とは相反する。他方で、世銀を例に取れば、Renewableやエネルギー効率向上技術の普及の為には、ICBを強要しないというような例外も認められるなど、新しいメカニズムの議論がようやく始まったところである。これに関連して、supercritical unit を中国の国産技術で始めて建設するプロジェクトには、何らかの技術的リスクが伴なうが、このリスク低減のために海外からの 技術移転費用をGEFが一部負担したり、技術リスクの一部を、insurance guaranteeでカバーする方法が考えられる(6)。いずれにしても、CCTの導入といった技術オプションの選択の際には、異なった技術間に競争原理が働くようなメカニズムを前提として、多様な技術的・資金的オプションの組み合わせを総合的に評価する必要があるであろう。


  1. ESENA日本側研究グループは以下の通りである。
    定方正毅 (東京大学大学院化学システム工学科 教授)
    山田猛雄 (出光興産(株)新燃料部 参与)
    石川晴雄 (アジア環境技術推進機構 中国脱硫&土壌改良委員会事務局長)
    和田潤 (東京電力(株)エネルギー・環境研究所 主任研究員)
    丸山亜紀 (財団法人 地球環境戦略研究機関 研究員)
    原田道昭 (財団法人 石炭利用総合センター基盤技術課長)
    明日香壽川(東北大学東北アジア研究センター助教授)
    堀井伸浩 (日本貿易振興会 アジア経済研究所経済協力研究部 研究員)
    李志東 (長岡技術科学大学 計画・経営系 助教授)
    山内康英 (国際大学GLOCOM 教授・研究教育部長)
     
  1. supercriticalより蒸気温度を高めたものをultrasupercriticalと呼ぶ。supercriticalultrasupercriticalとでは、設計温度が違うだけで、ボイラの構造が異なるなどといった不連続性はない。
  2. より正確に言えば、建設経験を持たないと言うことであり、技術としてはsupercritical units7割から8割くらいは中国国内で製造可能、という現地のヒアリング結果がある。
  3. これは unprovennon-commercial)な技術であり、通産省のグリーンエイドは、このような実績のない技術を対象としていない。なお、土壌改良により発電所周辺に植林すれば一層のCO2削減が可能である。
  4. 柔軟性措置として共同実施(バブル)(第6条)、クリーン・開発メカニズム(CDM)(第12条)および排出権取引き(第17条)がある。
  5. Hosein Razavi, IGCC in China, 1998.