日本の地方自治体(local government)の
環境援助における取り組み

九州大学工学部環境システム工学研究センター助教授 藤倉良
Dr.Ryo Fujikura, Associate Professor, Institute of Environmental Systems,
Faculty of Engineering, Kyushu University


1. はじめに

本ペーパーは,環境協力のなかで公害分野(pollution control)を対象として,日本の地方自治体が東アジア諸国と行っている国際協力をレビューする。最初に,日本の公害防止のなかで地方自治体の果たした役割について述べる。次に,公害防止の分野で政府のODAにおいて地方自治体が果たしている重要な役割について概説する。さらに,地方自治体のイニシアチブで実施されている環境分野の国際協力について,2,3の具体例を紹介する。最後に,環境分野の国際協力を促進するための課題を指摘する。


2. 日本の公害防止における地方自治体の役割

日本は1950年代後半から1970年代前半にかけて,高度経済成長に伴う著しい公害問題に直面した。1970年のいわゆる公害国会("Pollution Diet")と1971年の環境庁(Environment Agency)設置を契機として産業公害の時代は収束し,公害問題を克服した国といわれるようになった。このような歴史の中で日本で公害対策にまず取り組んだのは地方自治体である。そして環境庁が設置された以後も地方自治体は公害対策における最も重要なアクターでありつづけた。

公害の歴史をかえりみると,1950年代後半には水俣病(Minamata disease)やイタイタイ病(Itai-Itaidisease)などの公害病(pollution related disease)が顕在化し,60年代には全国的に各種の公害が顕在化していた。しかし,政府にとっては60年代までは高度経済成長政策がより重要な課題であり,公害対策の優先順位は高くなかった。そのような状況のなかで,東京都,横浜市,大阪市,北九州市など工業地帯を抱えていた大都市は,特に深刻な公害問題に直面し,独自に条例を定め組織を整備して公害問題に取り組んでいった。最も先進的であった東京都を例にとれば,東京都工場公害防止条例(Ordinace for Factory Pollution Control, Tokyo)は戦後間もない1949年に制定され,1960年には事業者の公害防止対策の経済的助成制度を開始している。

地方自治体は,公害の状況をよく把握し,被害者の声が届く立場にある。直接選挙で選出される首長は地元の公害問題を看過しえなかったし,国に比較すればタテ割行政の弊害も小さかった。従って公害という新しい問題に機動的に対処できた。さらに,地方自治体は技術者を含めた優秀なスタッフを数多く抱えていたため,制度の効果的な運用が可能であった。

国がようやく公害対策関連の法制度及び組織を整備した1971年以降も地方自治体の重要性は変わらなかった。公害対策関連の法体系では,制度を運用するのは基本的に地方自治体である。また,一般的には地方自治体の条例は,国の定めた法令の範囲内でなければならないが,排出基準(emission standards and effluent standards)においては,地方自治体は国で定めた基準より厳しい基準を設定することが認められている。公害対策においては地方の独自性が大きく認められている。このような制度の元で,地方自治体は公害防止に関する技術的ノウハウと経験を蓄積していった。


3. ODAにおける公害対策の技術移転

日本のODA大綱(Japan's ODA Chater)が環境問題を中心に取り組むべき4課題の一つとして取り上げているとおり,環境問題とりわけ公害対策は政府がODAのなかでの重点課題である。とりわけ,急速な工業化を進展させつつある東アジア諸国では,かつて日本が経験したのと同じような公害問題に直面している。日本は,自らの公害克服の経験と技術を,これら諸国に移転すべく努力しているところである。

インフラ整備や産業技術移転などと異なり,公害対策は実施したからといって短期的な利益が目に見えにくい作業である。従って,問題が多発するまでは,どの国の政府も公害対策に高い優先順を与えようとはしない。その結果,公害対策に割り振られる人的,経済的資源は,政府であっても企業であっても限定されたものになりやすい。また,優れた技術が企業に導入されたからといって,それを適正に運転するインセンティブが必ず存在するとは限らない。公害対策は実施する人の技術力と意識の有無に大きく作用される分野である。すなわち,「人づくり」(capacity building)が重要な分野であるといえる。

日本における公害防止に関する人材と経験は中央の政府ではなく地方自治体に蓄積されている。したがって,政府ベースのODAであっても地方自治体の職員が重要な役割を果たすこととなる。環境庁の推薦を受けてJICAベースで開発途上国に派遣される専門家は,毎年80人以上になるが,そのうちの約20%は現役の地方自治体職員である。また,地方自治体を退職後に民間人として派遣されている職員も少なくない。派遣専門家のなかには,技術移転には直接携わらず,現地調査や相手国との交渉のために短期で派遣される専門家も含まれているので,このような専門家を除いた実際に現地で技術移転に携わっている専門家に占める地方自治体職員の比率はさらに高くなるであろう。

JICA(Japan International Cooperation Agency)は,開発途上国の環境モニタリングの能力向上等を目的として,環境に関するセンターを設立し,専門家を派遣して技術指導(technology transfer)を行っている。これまでに,中国,インドネシア,タイの3カ国でこのようなセンターが運用段階に入っている。ここにでも地方自治体の職員または出身者が中心的な役割を果たしている。

地球サミットの成果をふまえ,1993年11月に制定された環境基本法(The Basic Environment Law)でも,「地球環境保全等に関する国際協力を推進する上で地方自治体が果たす役割の重要性("the importance of the roles played by local governments in promoting international cooperation with regard to global environmental conservation etc.,"」が確認(consider)され,国及び地方自治体は,国際環境協力を含め,「環境の保全に関する施策を講ずるにつき,相協力する("shall cooperate on imprementing policies for environmental cooperation")」こととされている。また,環境分野には限定されないが,日本のODAの基本方針を定めたODA大綱においても,ODAの効果的実施をはかるために,地方自治体との適切な連携・協調を図ることが明記されている。JICAの設置法も,JICAが事業を展開する上で自治体との連絡を密にし,地方自治体も業務の運営に協力することを求めている。環境分野の国際協力においては,国と地方の協力が不可欠なものであることが認識されている。


4. 地方自治体のイニシアチブで行う環境協力

地方自治体も自らのイニシアチブで公害分野の環境協力に取り組み始めている。その多くは,国際会議の開催や専門家の比較的短期の派遣などであるが,その範囲や規模も徐々に広がりつつある。以下にその具体例を紹介する。

  1. 北九州市の国際協力

    1. 公害の歴史

      北九州市は九州の北部日本海に面する工業都市である。1901年に官営八幡製鉄所が操業を開始して以来,それまで小さな漁村にすぎなかった同地域は飛躍的な経済発展を遂げることになる。

      第2次大戦の復興の中で,政府は国の基幹産業として石炭と製鉄に集中的に投資し,さらに重化学工業を育成する政策を実施した。炭鉱を後背地に有し,良港に恵まれた北九州市では,製鉄を中心に重工業が集中する日本有数の工業地帯に成長した。この経済成長のなかで,同市は1960年代から激甚な公害問題に直面することになる。大気は激しいスモッグにみまわれ,喘息患者も増加した。重要な港である洞海湾(DokaiBay)は,重金属,シアン,有機物で著しく汚染が進み,その水に魚を漬けると数分で死んでしまうことから「死の海(Death Sea)」といわれた。

      1960年代中頃から市は独自に本格的な公害対策に取り組んだ。主要汚染源は新日鐵をはじめとする大企業であったので,市は企業との連携をはかりながら,しかし厳しく対策を進めていった。公害対策は市政の最重要課題であった。市の指導を受け企業も自らの社会的責任を自覚し,積極的に公害対策に乗り出すようになった。公害防止技術を独自に開発する企業もあった。このような官民あわせた努力の結果,1980年代には北九州に青い空と豊かな海が戻ってきた。

    2. KITA

      北九州市は市長の強いイニシアチブのもと,1988年に「北九州ルネサンス構想(Kitakyushu Renescance Master Plan)」をとりまとめた。ここでは21世紀にむけて「水辺と緑とふれあいの国際テクノロジー都市(An international city of techonolgy rich on water flont greenary, with a friendly atomosphre)」づくりがめざされている。ここでイメージされている都市像は,快適な自然環境と創造的な産業都市,東アジア諸国を中心とする国際協力・貢献であり, 快適居住, 福祉・文化,学術・研究,交流,国際技術情報の5つの目標が掲げられている。

      北九州市は,このように国際貢献を政策の大きなテーマとして掲げている。その中核的機関となっているのが,北九州国際技術協力協会(Kitakyushu International Techno-Cooperation Association, KITA)である。KITAの前身である北九州国際研修協会(Kitakyushu International Training Association)は1980年に地元企業500社と北九州市,福岡県が出資して発足した。このころは,2度のオイルショックや製鉄業の不振などで地域の経済が低迷を始めた時期であり,新たな地域活性化対策のひとつとして国際協力が考えられていた。したがって,KITAの目的は「北九州市の潜在的な工業技術力を発展途上国の人々に伝え,それら国々と長期的な技術交流を行うことによって,北九州市の国際化を促し,ひいては経済的浮揚をはかる」ことであった。このように,同市の国際交流の当初の目的は経済活性化にあった。

      JICA九州国際センター(JICA Kyushu International Centre)が北九州市内に開設されてからは,JICAの委託事業として環境研修コースの実施が大きなウエイトをしめるようになった。1992年8月には,「発展途上国の持続可能な開発に資するため( to contribute sustainable development of developing countries)」に環境部門がさらに充実され,研修協会はKITAに改組された。さらにKITAの一部門として,KITA環境協力センター( KITA Environmental Cooperation Center)が設置され,公害対策部門の交際協力が強化されるに至った。 KITAは1996年10月現在で環境関連で525人のJICA研修の研修員を受け入れているほか,北九州の姉妹都市である韓国仁川市の環境関連公務員の研修を独自に実施するなど,数多くの研修員の受け入れを実施している。

      KITAの特徴は官民の強いパートナーシップにある。九州全域及び隣接する山口県下の民間企業,大学,研究機関等200を超える団体がKITAの協力機関として登録されている。また,研修にあたるインストラクターとして企業や行政のOBを含む専門家が1,000人以上登録され,約300人の市民が途上国からの研修生のホームステイ先として協力している。図1にKITAを中心とした,北九州市の環境国際協力の基本的枠組を示した。

      Fig.1

      KITAの活動で特筆すべきことは,援助を受ける側の意向をきめ細かく探っていることである。後述する大連(Dalian)市との関係では, 「工業診断」を実施している。ここでは,官民の技術者が大連に派遣され,工場長クラスの幹部を対象に,現場での実習,演習を行うと共に,工場の経営診断も実施している。対象工場は,鉄鋼,化学,セメントなど12社に及び,そのなかから現場の多様な要望が把握されている。

      北九州市自身もJICA専門家として職員の途上国への派遣を積極的に行っておいる。1996年9月末までにのべ46名が長期あるいは短期専門家として,主として東アジア諸国に派遣されている。

      北九州市の公害克服及びその技術を積極的に海外に移転しようとするこのような貢献は国際的に認められ,1990年にはUNEPのグローバル500賞が,1992年にはUNCEDから国連地方自治体表彰が行われた。

    3. 大連市との環境協力

      北九州市はかつて日本から中国大陸への窓口であり,市内にある門司港と中国の大連港は1929年から1944年まで定期旅客船で結ばれていた。このような経緯から1979年に旅大(Luda)市(現在の大連市)と北九州市は友好都市提携に調印した。友好都市あるいは姉妹都市といわれる関係の中には,締結されてから数年もすると実質的な活動が行われなくなることが多い中,両市の間には各種の研修生の交換を始めとする積極的な交流活動が続けられている。

      1993年12月に宋健(Song Jian)国務委員が北九州市を訪問した際に,KITAの水野理事長が大連市を環境モデル地区に指定することを提案した。宋健氏はこれに賛同し,帰国後,中国国家環境保護局(National Environment Protection Agency)にこれを指示した。これをうけて同局は大連市を1994年に環境モデル地区とすることを決定した。さらに中国政府の指示をにより大連市は「大連環境モデル地区建設計画案」の策定にとりかかり,北九州市に技術協力を依頼した。

      両市が検討を行った結果,環境モデル地区の具体的な事業内容は,条例制度等の整備,行政能力の強化,人材育成システムの構築,都市環境改善,自然保護対策,道路や地下鉄,住宅等の都市基盤の整備,産業の近代化という,非常に広範囲なものとなった。この内容は大連市の独自計画に基づいているが,日本の協力により実現期間の短縮が図られることになった。そのために緊急性の高いものを中心としたプロジェクトをまとめた「環境マスタープラン」の作成が行われることになった。

      北九州市では,マスタープランの作成はODAである開発調査として行うことがふさわしいと考え,外務省,環境庁,JICAなどに働きかけを行った。また,基本的に開発調査は被援助国の要請に基づき実施されるものであるため,大連,中国側への働きかけも行った。この結果,環境マスタープランの作成は開発調査案件となることが認められ,1996年末から約2年間の計画で実施されることになった。この中で,提案されることとなるインフラ整備など多くのプロジェクトの実施には多額の費用がかかるため,日本からの無償及び有償資金協力,あるいは世界銀行やアジア開発銀行などからの借り入れも視野に入れた計画案の策定を行っている。また,移転すべき技術は北九州市が保有しているものと,市内の民間企業が保有しているものとがあるが,この中から移転可能性をふまえた技術の選定作業が行われている。

      このプログラムに特徴的なことは,北九州市はすべてを単独で実施しようとするのではなく,市がイニシアチブをとりつつも,JICAというODAのスキームを利用しておこなわれることである。また,将来的には円借款や国際開発金融機関の援助案件を発掘しようともしている。国の環境ODAが地方の協力を前提としているのと同様に,地方の国際協力も国あるいは国際機関の協力を見込んで行われている。

  2. その他の地方自治体における環境国際協力

    北九州市以外にも,多くの地方自治体が環境協力を実施している。1996年3月に環境庁が把握している情報によれば,都道府県,政令市のうち,政府ベースの国際協力に協力している自治体が36,独自で行っている自治体が39であった。北九州市以外にも,国際環境協力を目的として地方自治体が設立した機関が4機関ある(表1)。

    表1 地方自治体が設立した国際環境協力機関

    名称設立母体設立概要
    International Center for Environmental Technology Transfer (ICETT)三重県四日市市1990産業公害防止技術の移転等を目的として研修,専門家派遣研究開発等を実施。
    International Lake Environment Committee Foundation (ILEC)滋賀県1986世界の湖沼環境の健全な管理等を目的として研修・セミナーの開催や情報収集等を実施。UNEP国際技術センターの支援団体としても活動
    Global Environment Centre Foundation大阪府大阪市1992世界の大都市の総合的環境保全等を目的として,研修,調査研究,セミナー等を実施。UNEP国際技術センターの支援団体としても活動
    International EMECS Center兵庫県1994国際的な閉鎖性水域の環境保全活動の推進を目的としたEMECS会議の開催支援,件数,情報収集・提供などを実施。

    出典)環境庁1994

    環境協力の相手方としては特に中国が多い。表2に示したように,37のプロジェクトが進行している。これらに関与している自治体の数は33に及ぶ。その交流内容は研修員の受け入れや共同調査などが多いが,北九州市以外の事例で特筆すべきは,広島県及び広島市が共同で実施している酸性雨対策である。

    表2 地方自治体が実施している中国との環境協力プロジェクト数(1994年12月現在)

    研修員受け入れ17
    専門家派遣8
    調査団派遣5
    技術協力2
    共同調査7
    情報交換・会議開催7
    プロジェクト数36

    Source: Global Environment Department, Environment Agency

    広島県及び広島市の例

    広島県と四川省およびそれぞれの県庁所在地(省都)である広島市と重慶市は相互に友好関係を結んでいた。一方,重慶市では石炭の使用による大気汚染と酸性雨が極めて深刻な問題となっている。このことから,1993年6月に,広島県,広島市,四川省,重慶市の4者が共同で重慶市に「酸性雨研究交流センター」を設置することとした。同センターの目的は酸性雨に関する共同研究,企業間の技術協力,研修等であり,広島県及び市は機器の一部の整備のために3千万円を支援した。同センターは1993年10月に開所され,日本から県,市及び民間企業から専門家が派遣されることになっている。


5. 地方自治体の環境国際協力推進に向けての提言

ここまでにも述べてきたとおり,公害対策を中心とする環境国際協力のアクターとして,日本の地方自治体は欠かすことのできない存在である。国の定めた環境基本法やODA大綱にも,その必要性は明確に認識されている。環境庁が市民に対して行ったアンケートでも,約70%が地方自治体の環境国際協力の積極的推進を支持している。そして,北九州市などは,すでに積極的な環境協力を展開している。

しかし,地方自治体の場合には国際協力は首長の強いイニシアチブがないと,そこに国際協力に有効な人材,技術が蓄積されていても,ボトムアップからでは進みにくい。自治体の上層部,とりわけ首長や人事・予算担当部局が消極的な場合には,「なぜ自治体が国際協力をするのか」という問に対して説得力を持つ答えは容易には見つからない。いうまでもなく,地方の予算は地方の住民のために用いられるものである。

環境国際協力のメリットは,間違いなく当該国の住民や地球環境全体に及ぶものであるが,地方自治体が自らの資金と人材を使ってまで行うべきことなのかという問には容易に答えられない。現在,日本は中央政府のみならず多くの自治体が深刻な財政的危機に直面している。市民への直接的なサービスさえ不足している中で,遠く離れた外国の環境問題になぜ税金を支出するのか。保守的な自治体の幹部がそう考えるとき,地方自治体の国際協力には大きな障害となる。さらに,地方自治の根幹を定める地方自治法では,国際協力は自治体の事務として明記されていないことが問題をさらに困難にしている。

環境庁は,地方自治体の環境協力を促すためのメニューづくりを行い,より積極的な環境協力を促そうとしている。基本的には市民は国際交流活動を支持しているのであり,国もその必要性は認めている。従って,自治体がさらに活動を進めやすくするような,制度作りが重要であろう。財政的には,地方交付税の積算根拠に「地域の実情に応じた国際化推進対策費」がすでに計上されている。次には,地方自治法における自治体の事務としての国際協力の明示,あるいはこれに類する自治省の行政指導に類する行為が必要であろう。また,環境庁及び外務省は更に積極的に自治体への働きかけを進めるべきであろう。

すでに国際協力を始めている,あるいは始めようとしている地方自治体の側にも課題は残されている。地方自治体側には,特に公害関係に関する技術の蓄積はあるが,それは海外への技術移転を目的として集積されたわけではない。しかも1970年代以前の,途上国にとって重要なノウハウが散逸しつつある。地方自治体は各自で,このような経験を技術移転のために集積しておく必要がある。また,現在,地方自治体の現役職員が技術移転に携わるためにはトレーニングが必要である。JICAや環境庁,通産省などは,このためのトレーニングの制度を徐々に拡充させており,このような制度の積極的活用が望まれる。

財政難も大きな課題である。しかし,その一方で国のODA予算は,他に比較すれば恵まれた状態にあり,むしろ近年では援助の質の拡充が求められている。したがって,財政面からも国との連携,役割分担がさらに重要となろう。市がイニシアチブをとりつつも,国際機関,国,市との分担を当初から考慮にいれつつ進められた「北九州方式」はひとつの参考となろう。

国際協力を進めている自治体間の経験や情報の交換も重要である。環境庁はこのためのネットワークづくりを進めているほか,カナダのトロントに本部をおく国際環境自治体協議会(The International Council for Local Environmental Initiatives, ICLEI)も,その機能を果たすであろう。日本から35(1996年現在)の地方自治体がICLEIに加盟している。


6. まとめ

日本の地方自治体は,日本が公害を克服したときの最も重要なアクターである。公害防止のノウハウと経験,技術は地方自治体に蓄積されている。これらは,東アジアの開発途上国の環境対策に対して有効なものである。日本政府はODAにより技術移転を図っているが,その際,地方自治体の職員は技術専門家として重要な役割をになっている。一方,地方自治体も独自のイニシアチブによって環境協力をすすめている。地方自治体が進めながらも,国との連携をとってプロジェクトを進めていく例も存在する。公害防止については,政府と地方自治体とがそれぞれの役割をにないつつ,共同で国際協力を進めているのが日本の特徴であるといえよう。今後の課題としては,自治体における国際協力の位置づけの明確化と,国を含めた自治体間のネットワークの強化にあろう。


参考文献

環境庁 1994:地方自治体による環境協力のあり方に関する調査報告書
北九州市 1995:大連市との環境国際協力のあり方に関する調査報告書

エグゼクティブ・サマリー

地方自治体は,日本が直面した公害問題に対して,政府に先がけて取り組み,その後の克服の過程の中で最も重要な役割を演じてきた。日本の公害防止に関する技術的ノウハウと経験の多くは,地方自治体に蓄積されている。日本政府はODAにより技術移転を図っているが,その際,地方自治体の職員は技術専門家として重要な役割をになっている。

地方自治体も自らのイニシアチブで公害分野の環境協力に取り組み始めている。その最も先進的な例として,北九州市があげられる。その中核的機関となっているのが,北九州国際技術協力協会(Kitakyushu International Techno-Cooperation Association, KITA)である。 KITAの特徴は官民の強いパートナーシップにある。民間企業,大学,研究機関がKITAの協力機関として登録されて,企業や行政のOBを含む専門家がインストラクターとして研修にあたっている。また,北九州市は友好都市である中国の大連市の「大連環境モデル地区建設計画案」策定に全面的な協力を行っている。このプログラムに特徴的なことは,北九州市はすべてを単独で実施しようとするのではなく,市がイニシアチブをとりつつも,JICAというODAのスキームを利用しておこなわれることである。将来的には円借款や国際開発金融機関の援助案件を発掘しようともしている。

北九州市以外にも,多くの地方自治体が環境協力を実施している。都道府県,政令市のうち,政府ベースの国際協力に協力している自治体が36,独自で行っている自治体が39であった。北九州市以外にも,国際環境協力を目的として地方自治体が設立した機関が4機関ある。

地方自治体の場合には国際協力は首長の強いイニシアチブがないと,そこに国際協力に有効な人材,技術が蓄積されていても,ボトムアップからでは進みにくい。自治体の上層部,とりわけ首長や人事・予算担当部局が消極的な場合には,「なぜ自治体が国際協力をするのか」という問に対して説得力を持つ答えは容易には見つからない。

基本的には市民は国際交流活動を支持しているのであり,国もその必要性は認めている。自治体がさらに活動を進めやすくするような,制度作りが重要であろう。地方自治法における自治体の事務としての国際協力の明示,あるいはこれに類する自治省の行政指導に類する行為が必要であろう。環境庁及び外務省は更に積極的に自治体への働きかけを進めるべきであろう。

すでに国際協力を始めている,あるいは始めようとしている地方自治体の側にも課題は残されている。1970年代以前の,途上国にとって重要なノウハウが散逸しつつある。地方自治体は各自で,このような経験を技術移転のために集積しておく必要がある。また,現在,地方自治体の現役職員が技術移転に携わるためにはトレーニングが必要である。

国のODA予算は,他に比較すれば恵まれた状態にあり,むしろ近年では援助の質の拡充が求められている。したがって,財政面からも国との連携,役割分担がさらに重要となろう。市がイニシアチブをとりつつも,国際機関,国,市との分担を当初から考慮にいれつつ進められた「北九州方式」はひとつの参考となろう。


要旨

日本の地方自治体は,日本が公害を克服したときの最も重要なアクターである。公害防止のノウハウと経験,技術は地方自治体に蓄積されている。これらは,東アジアの開発途上国の環境対策に対して有効なものである。日本政府はODAにより技術移転を図っているが,その際,地方自治体の職員は技術専門家として重要な役割をになっている。

一方,地方自治体も独自のイニシアチブによって環境協力をすすめている。最も先進的な例として,北九州市があげられる。 北九州市の国際協力の特徴は官民の強いパートナーシップにある。行政のみならず,企業,大学,研究機関,一般市民が協力しながらの技術移転が進められている。また,国ベースのODAも積極的に活用している。

北九州市以外にも,多くの地方自治体が環境協力を実施している。都道府県,政令市のうち,政府ベースの国際協力に協力している自治体が36,独自で行っている自治体が39あった。

公害防止については,政府と地方自治体とがそれぞれの役割をにないつつ,共同で国際協力を進めているのが日本の特徴であるといえよう。今後の課題としては,自治体における国際協力の位置づけの明確化と,国を含めた自治体間のネットワークの強化にあろう。