Prospects for Effective Marine Governance in the Northwest Pacific Region1
北西太平洋海域における効果的な海洋統治の可能性
Prof. Peter M. Haas ピーター M. ハース Department of Political Science 政治学部 Thompson Hall トンプソン ホール University of Massachusetts マサチューセッツ州 大学 Amherst, MA 01003 USA アマースト マサチューセッツ州 01003 アリカ合衆国
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概要
本論文は、北西太平洋地域の海洋環境をますます深刻化する汚染から保護するために効果的な地域活動を検討するものである。ここでいう効果的な対策とは、国家の政策に影響を与え、海洋環境の保護を促進する、国際的な規則である。本論文は、まず、既存の地域レジームを挙げ、そのレジームとの協力を困難にする要素を検討する。その後、一般市民、NGO、国の指導者、国際機関、多国間科学ネットワーク等が、地域環境の管理制度の構築に与える影響を評価する。地域環境の管理は多国的枠組みで最も有効的に進められるが、しかし、北西太平洋地域において、効果的な地域環境管理制度が設置される可能性は低い。国際的な機関は貧弱で、環境問題に関する知識がまとまっていないうえ、既存の知識を活用することも難しいと考えられる。さらに、地域環境問題の解決に向けて、積極的にリーダシップをとり、経済的・政治的な資源に進んでコミットする国が不足している。多国間チャンネルと組識的な手段がないというこの状況は、この地域が抱えている問題の根深さを表している。強力な地域組織の構築に関心を持つ国はほとんどない。また、他の地域でもっとも効果的な国際機関は、政府への圧力を拡大したり、社会全体の興味を創造したり強化することによって、市民社会とともに活動しているが、この地域においては、効果的な統治のためのより深く長期的な戦略を呼びかけるこういった傾向が欠落している。北西太平洋地域における効果的な海洋環境の管理制度の構築に向けて、ESENAプロジェクトは二つの提案をしている。
- 他の地域の教訓から学び、その成功例を再現すること。特に、同地域における科学的研究とNGOの可能性に焦点を当てる。
- 地域協力を促進させる基盤をもたない地域において、それを補足する方法を探ること。
第二の提案において、ESENAは、効果的な海洋環境の管理を妨げる政治的・文化的要素を取り除く活動に注力する。ESENAプロジェクトは、他の団体や組織と協力して、中国においては市民社会の強化に向けて努力し、韓国においては民主主義を拡大させ、同地域における政府により管理されない非中央集権的な科学ネットワークの構築を目指している。
目次
1.イントロ
本論文は、北西太平洋地域の海洋環境をますます深刻化する汚染から保護するために効果的な地域活動を検討するものである。ここでいう効果的な対策とは、国家の政策に影響を与え、海洋環境の保護を促進する国際的な規則である。
この地域の環境は、現在様々な脅威に直面しており、抱えている問題を解決できる適切な管理制度が設置されていない。2には、北西太平洋地域の海洋環境の破壊や資源不足問題がはっきりと示されている。抱えている問題の中には、あらゆる陸上汚染源、たとえば産業や都市、農業といった陸上汚染源が含まれている。黄海や東シナ海、日本海の沿岸で行われている大がかりな開発からは廃棄物が海洋に大量に流出している。汚染物質には、PCBやDDTといった化学薬品からタールの固まりや重金属までみられる。そのうえ、海洋は、大規模な資源不足の状況にある。漁業や海中栽培(特にケルプ)は大々的に行われているし、ホッキョククジラ、北ヒゲクジラ、ザトウクジラ、ナガスクジラ、アカウミガメ、アオウミガメ、アホウドリ等は絶滅の危険に瀕している。沿岸水域では、中国や韓国、日本、ロシアといった極東地域へ原油を運ぶタンカーの交通量も多く、船からのオイル漏れや事故といったリスクが常に存在する。日本海では低レベル放射性廃棄物のダンピングが行われたこともあるし、南シナ海には海底油田やガス鉱床があると見られており、海洋探査や海洋掘削による汚染の脅威も存在している。世界資源協会の調査3
によると、この地域における海洋捕獲量は、その半分で補充限界量ぎりぎり、あるいはそれを超えているそうである。この地域は環境問題、特に海洋環境問題に関する効果的な組織活動を妨げる一般的な政治問題の多くに直面している。たとえば、アジア地域における急速な経済成長は、環境の地域外部性を生み、これにより国の経済的成長が相互に干渉しあうことになった。集約的な脅威への認識は最近の現象だが、多くの国は1970年代から環境法を打ち出し実行してきた。日本の環境庁は、1972年に設立され、中国のMinistry of Urban and Rural Construction and Environmental Protectionは1974年に、韓国の環境行政は保健省内に1980年に設置されている。1970年代から各国で実施されてきた環境に関する対応活動の結果4、国家間で矛盾する各国の基準が設定され、効果的な統治を可能にするためには、この異なる基準を調整する必要がある。しかし、多くの国は、既存の基準を修正するために追加予算を配分してまで、競争を脅かす可能性を生じさせることについて乗り気ではない。例えば、中国政府の環境規制の実施5
は一般的に曖昧であり、経済成長を促進させることが優先的な国益として考えられている。本論文では、国連環境計画機関(UNEP)の地域海洋プログラムが、過去25年間にわたる海洋環境の管理において経験を通じて得た教訓を検討する。UNEPは、1976年から1996年の間に、34個もの協定(その内29個の協定が実施されている)6を締結しており、北海とバルト海を汚染から守る協定も打ち出している。これは、異なる経済水準、政治制度、そして文化的背景を持つ数百国が加盟している協定の実例であり、UNEPの協定は、地中海やカリブ海といった極端に異なる経済水準を持つ地域の各国や、あるいは政治面で激しく敵対している環境(地中海やクウェート湾)の実状をも反映している。
2.既存の北西太平洋地域の統治制度
北西太平洋地域に該当する、地球および地域レベルの環境協定は限定されているうえ、既存の協定は、効果的な地域海洋環境の管理制度を構築する土台としては貧弱なものである。地域内でこの協定を支持する者は少なく、海洋に流出する陸上汚染源を規制する拘束力のある規則は存在しない。
北西太平洋地域に適用される包括的な国際環境レジームは、3つしか存在しない。表1は、そのレジームとその批准者を示している。
表1:北西太平洋地域に適用される国際環境海洋レジーム
("x" = ratified, "--" = not ratified)
Country
MARPOL
Whaling
ConventionLondon Dumping Convention
USA
x
x
x
Japan
x
x
x
Russian Federation
x
x
x
N Korea (DPRK)
x
x
--
S Korea (ROK)
1978 but not 1973
x
x
China
x
x
x
1978年の条約議定書(一般的にMARPOL 73/78として知られている)による修正を受けた1973年の船舶による汚染防止条約は、海洋を汚染する油の量を減らすことを目的にオイルタンカーの管理および運用方法に手順的な規制を設定し、新しいオイルタンカーや古い一定サイズのタンカーに設計基準を設定した。1991年に会計検査院(GAO)が実施した調査7によると、作業中の油による汚染に関するMARPOL条約の批准者のうち、報告を提出したのは、わずか30%のメンバーにすぎない。
捕鯨規制条約と国際捕鯨委員会は、年間の捕鯨量を制限しているが、このレジームは政治的に不安定であり、さらに幅広い管理の枠組みの土台として日本による支援は得られにくいと思われる。
1972年のロンドン条約(London Dumping Convention:LDC)は、あらゆる種類の産業廃棄物や都市廃棄物の海洋処理を規制する許可を要求している。その上、環境にとって危険な物資を禁止する「ブラックリスト」8を作成した。しかし、条約の規定を遵守しているのは加盟国の約60%にとどまっており、多くの観察者や研究者によれば、LDCの規制は大幅に無視されているという9
。最も頻繁に違反するとして挙げられる国の中には、ロシアの名前もある。現在、陸上汚染源を規制するレジームは存在しない。1995年に打ち出された、陸上汚染源に対するグローバルな海洋環境保全計画(Global Plan of Action for the Protection of the Marine Environment from Land-based Activities)は、一般的なガイドラインを提案しているが、法律的には規制されていない。日本、中国、韓国、ロシアを含む国々において唯一認められた計画は、北西太平洋計画(Northwest Pacific Action Plan: NOWPAP)である。この計画は、UNEPと国際海事機関(International Maritime Organization: IMO)の下で行われた3年間の交渉の結果、1994年に調印された。10しかし、地域内の政府による公式な支援へのコミットメントが得られず、NOWPAPはこの数年間起動していない。加盟国は、機関が必要としている運営予算を提供しておらず、このプログラムは、UNEPの環境基金からの年間$208,000の資金のみによって、1994年から1996年までなんとか運営されてきた。さらに、日本が北朝鮮を承認していないため、このプロセスに重要なメンバーが参加していないということがNOWPAPの運営を妨げる別の問題となっている。
3.レジーム構築のパターン
国際的な海洋レジームの歴史から、地域環境レジームの構築に必要な5つの要素をよみとることができる。(1)国家的(政治的)リーダーシップの必要性、(2)国際機関の参加、(3)多国間科学ネットワークの設立、(4)非政府組織(NGO)の参加、(5)一般市民の関心、の5つである。これらの要素の組み合わせの割合により、様々なレジーム形態、あるいはパターンが生み出され、レジームのもたらす効果にも影響する。最も成果を上げているレジームには、国際機関からの強力な支援があり、多国間科学ネットワークの協力もある(地中海、東南太平洋、東太平洋、黒海等の地域海洋プログラムは、こういった支援を得て成果を上げている)。国際機関の支援と多国間科学ネットワークの介入は、結果ベースのアプローチをとる環境保全に対する包括的な仕組みの創出という相乗効果を導いてきた。力のある組織はまた、バルト海や北海における効果的なレジームの構築にも貢献してきた。このようなレジームは政治的な妥協により導かれたものであるため、地域の専門家が打ち出す仕組み以上に生産性があり、かつ技術的な組識に発展すると考えることは難しい。これらのどの要素を欠いても、組織的活動の効果は貧弱なものとなり、もっとも関心のない人々だけが耐えうる公約を生みだす(「最小限度」の対応)ことになる。
表2:地域的な海洋環境統治の例
institutionally strong
institutionally weak
Transnational scientific involvement
Mediterranean
Persian Gulf
South Pacific
Southeast PacificNo transnational scientific involvement
Red Sea
Black Sea (?)
Baltic Sea
North Sea (1987-)Caribbean
West Africa
East Africa
North Sea (1972-1987)
NGOと世論
効果的な地域管理に貢献できる可能性が多いにありながら、一般市民とNGOは、今日までに地域海洋管理分野において際だった影響を与えていない。ヨーロッパでは、1980年代までは環境に対する関心は低かったものの、1990年代に入ってその関心度は急速に高まった。11UNCEDのために準備された世論調査の結果は、環境に対する世の中の関心が上昇したことを明らかにしたが、海洋問題に関しては、あまり触れられてはいない。世論は、特定の問題には高い関心を示し、例えば、地域的な計画よりも個々の工場の建築場所、といったようなことに関してより強い興味を示す傾向がある。北海を管理するレジームでは、海洋環境の質に関する一般からの短期的関心を利用して、積極的な環境庁官が強健な組織的活動を実施しているが、一般市民の関心がこのレベルまで高まることは珍しく、一般市民から強い影響を受けている地域的なレジームは少ない。
ESENAプロジェクトに参加している日本と韓国で行われた環境に関する市民調査の結果12は、一般的な調査の結果と一致している。調査によると日本と韓国の人々は、海洋汚染についてほとんど関心がない。「環境に関してかなり関心がある」と回答した日本人が66%、韓国人が80%いたことと比べて、海洋問題への関心度は極端に低い。河川、湖、海洋の汚染を「重要な」問題として認識している日本人の回答者は43%しかおらず、韓国人の場合39%しかいなかった。また、日本人回答者の中で、環境問題が最も重大な問題であると答えた者は12%、韓国人は9%しかいなかった。
最近行われた調査13によれば、国家的な環境政策の強化を支持する声が高まっている。ロシアでは73%の回答者が主要な活動を支持しており、中国では56%の回答者が強力な方法を支持している。大多数の人が曖昧な答えを出した1997年の統計に比べて、極端に異なった結果である。
NGOもまた、地域海洋管理活動にはほとんど参画していない。しかし、1990年代に入って、グリーンピース・インターナショナルは、地中海と北海に関する一般の関心を高める目的のキャンペーンを開始した。地中海のプロジェクトにおいて、グリーンピースは海洋レジームの反行為者を公表し、危険廃棄物の運送に関する規制の設定に成功した。北海のプロジェクトにおいても、グリーンピースのブレント・スパー(Brent Spar)は、使わなくなった石油掘削装置(リグ)の解体を海上ではなく地上で行うことをシェル石油に訴え、成功している。
北西太平洋地域にもいくつかのNGOは存在する。日本、米国、韓国、ロシアの各国からは、少なくとも二つのNGOが、1992年から始まった環境と開発に関する国連会議(UNCED)に参加している。しかし、以下に示す二つの理由により、地域海洋管理政策に関するNGOからの積極的な政治的役割は期待できない。第一に、地域的なスケールでの環境問題を取り上げるNGOが少ないことがあげられる。NGOは、一般的にグローバル、あるいは地域(ローカル)といったレベルに分かれており、温暖化といった地球的規模の環境問題、もしくは工場設置といったローカルな問題を解決するといった目的でそれぞれ運営されている。14第二に、北西大平洋地域の多くの国でNGOが政治的権力と正統性を確保できないことがある。NGOが国内政治プロセスに積極的に参加できる国は日本と韓国くらいしかない。
北東アジア地域では、このような政治的状況は珍しくない。151989年、東欧も同様の状況に直面し、諸外国の救済機関は、地域の参加を得た効果的な環境保全活動には、その地域の(「市民社会的な」)社会的・政治的機関の設立が必要であることを直ちに認めた。このような機関を通じて、地域集団は効果的に国家の意思決定に参画することが可能となり(このようなプロセスにより民主主義的な国家政策に市民の意見や関心が反映されることになる)、環境浄化活動の実施を支援することになる。1990年に米国、ヨーロッパ連合(EU)、ハンガリーは中央・東ヨーロッパ地域環境センター(Regional Environmental Center for Central and Eastern Europe: RECC)16をハンガリーのセンテンドレ市に設立した。この機関は、東ヨーロッパのNGOの設立を支援し、RECCをノードとして活躍するNGOのネットワークができあがった。米国の慈善団体から支援されている農業組識であるCGIARも同様の仕組みをとっている。
国家によるリーダーシップ
率先してリーダーシップをとることのできる一国が模範を示すことは、よく地域協力と統治を成功へと導く主要素とされる。地中海では、フランスが一方的にその外交手腕を発揮し、交渉の初期段階をリードした。アメリカは、カリブ海の交渉ではリーダーシップを取る宣言をしたが、他の加盟している地域海洋プログラムに関してはリーダーシップを取る気はないように見える。国家によるリーダーシップは、交渉アジェンダの設定および流れの調整、そして規制の実行を保証するためには不可欠である。リーダー国が他国からの信頼を得られれば、政治的な影響力をほとんど使わずに、肯定的な誘因を通じて支持と服従を伴うリーダーシップを得ることができる。しかしそうでない場合、他国がリーダーの動機を疑わしく受け止め、また規制の実施による損害の分配制度に関する不満や恐怖を抱いているならば、政治的なリーダーシップを握っている国は、制裁を加えるという脅威によりその規制を実施しなければならない。リーダーシップをとる国の覇権が崩れたり、各国が規制をきちんと守っていることに十分に注意を払うことができなければ、設置された管理制度も崩壊するおそれがある。
現在、北西太平洋地域で、海洋問題に関する明確な展望をもち、リーダーシップを担う政府はほとんどない。この地域の多くの政府は経済問題に悩まされており、アジアの金融危機への対応策を打ち出すのに必死である。米国には、海洋問題における建設的・世界的なリーダーになり得る地政学的な素養があり、北西太平洋地域における航行を妨害されないよう状況を維持するための国家的興味もある。中国は、南シナ海の油資源をめぐる紛争を管理するという動機でリーダーシップを発揮する可能性はある。現在までの議論の大半が、温暖化ガスの排出を縮小するエネルギー効果の高い技術に関することに費やされてきたとしても、地域的な環境管理活動の結果としての環境保全技術の市場は、特定の政府にとって魅力的なオプションとなり得るだろう。
国際機関
国際機関は、加盟国の承認により、地域の管理や持続可能な開発制度の推進において重要な役割を果たすことができる。また、国際的な協力の場の配備、国家的な能力の構築、政治的関心の促進等により、さらに包括的なレジームの構築や、その規制の遵守を可能にすることもできる。特にこれは、持続可能な開発と海洋保全に興味を示している各国の団体に政治的に制御しやすい機器を配備し、海洋問題について国内および国外の政府に圧力をかけることも可能な安定した政治的な連合を構築するという意味である。
地域海洋環境の管理を推進させる国際機関の根本的な機能は、協力条件の改良、環境的な脅威への対応に関する国家能力の強化、そして国家的な関心を構築することである。各々については、以下にさらに具体的に述べたいと思う。
北西太平洋地域の海洋環境の保全にあたってESENAプロジェクトが必要不可欠として定めた手段は以下の通りである。
- 地域海洋監視ネットワークの開発における協力、
- 統合した沿岸水域管理制度の開発における協力、
- 地域内の海峡における海上交通管制の開発に関する強力(特に韓国と日本の間にある韓国・津島海峡)、
- 船舶による汚染の港湾管理制度の標準化における協力、
- 地域内石油流出対策機構の開発における協力。
北東アジアは、世界でもっとも制度化が進んでいない地域の一つである。そのうえ、先に挙げた条件を容易に満たす国際機関はほとんど存在しないであろう。地域を拠点として活動する環境保全団体は存在しない。これまでの環境保全運動は、環境には必ずしも適さない動機をもつ大規模な組織によって、短期的な形でのみ行われてきた。そして、地域的な努力の成果は、環太平洋地域における経済協力や地球温暖化といった、より大きな関心事にのみこまれてしまう。とくに地球温暖化といった分野においては、地域的な努力の動きを鈍くしてしまうほどに、組織が大きくなりすぎている。17APEC, ASEAN, UN-ESCAP, UNEP, UNESCO, IOC, 世界銀行, IMO, UNDP、アジア開発銀行等はこのような機関の例として挙げられる。ESENAプロジェクトの政策研究会(Policy Study Group: PSG)は、上級の政府役人や専門家の参加を得て、彼らに最新の情報や研究成果を公開することにより、また現在進行中のネットワークや専門技術のコミュニティを育てることを通じて、これらの機能のいくつかに役に立てる可能性がある。
国際機関との協力を通じて地域環境の管理を促進する考えは新しいものではない。UNEPは、地域の環境管理機関が存在しない時代に、9つの地域海洋問題について会議を開催した。さらに、世界銀行も黒海地域における管理制度の設立に成功した。地球環境機関(Global Environment Facility: GEF)も海洋環境に関する計画を立てている。北西太平洋地域において国際機関が特定の機能を実行できる可能性はあるのだろうか。
契約によって保証された環境(Contractual Environment)
他の地域では、成功した政府の努力が、契約によって保証された環境を改善している。その環境の中で、環境外交は少数団体による定期会合の規定を通じて広く指導されてきた。それは、環境モニタリング・データを備えて国の政策とその成果を確認し、企業家的な国家を代表する環境大臣が、革新的な政策案を紹介することのできる機会が得られるような適切なレベル、もしくは局面における議論の場を提供する(定期的に行われている北海閣僚会議はその一例である)。また、共通の関心事をもつ他エリアへ交渉と議論とを結びつけることに尽力し、こういったわけで交渉の可能性を改善し、そして一般的な共通の枠組み内に議論を納める、といったことによって行われてきたのである。
北西太平洋地域に所属する少数国は――米国を含めてもたったの6カ国である――、会議や各国の行動の監視および確認という業務役割を大いに推進させている。さらに、海洋問題を、より関心の高い地域の問題、例えば地球温暖化問題等と水平に連結することを促進することもできる。現在、同地域において常に利用可能なモニタリング、あるいは政策情報というものは存在しない。海洋汚染問題の議論を、現在取りざたされている航行や、気候変化問題に関して京都会議によって取り上げられた技術移転の可能性に関する議論に結び付けるのはかなり難しいと思われる。Zarsky氏とHunter氏は、エネルギー効率の向上と使用の縮小、そしてこの二つの要素の結果として生産費用を削減すること、さらに大気汚染を減少させること、という改革を強調することにより、海洋汚染をマクロ経済の政策改革の一部に取り込むことを提案している。18国家経済をさらに効率化する政治改革は、公害対策に必要な資源をも生み出すことになる。海洋汚染問題に関する地域の話し合いに世界銀行を加えることは、このような連携を可能にすることになる。
同様に、地域海洋汚染問題に関する話し合いは、国家的なコミットメントのための前例と枠組みを備えた過去の共同プロジェクトとぴったり重なるかもしれない。この文脈でValencia氏は、同地域の五カ国のうちのいくつかが組み合わせで加盟している40もの航行および油汚染に関するIMO条約を取り上げている。19しかし、現在同地域が注目している問題は金融復興であり、環境保全に関してはほとんど注目していないと言えよう。
国家能力の強化
国際機関は、環境保全に関する国家能力を強化することによって、多国間で行われる環境保全計画に従事することへの国家的な抵抗を克服してきた。このような計画は、環境問題に関心を持たない国に付加利益や誘因を与えるとともに、国内で環境政策を打ち出すことを可能にするという効果を併せ持つ。北方の国の国際的なイニシアティブに懸念を持つ国々、特に発展途上国にとって、国内でこの問題に取り組む機関を構築することは、政府の交渉力に自信を与え、その結果として、共同条約に同意しやすくさせるだろう。
国家能力の強化は、一般的に資金援助やモニタリング用設備の技術移転、あるいは環境汚染防止技術に関する情報センターの設立、その他にも政府関係者を対象に沿岸水域の管理訓練セミナーを開催したり、科学技術者に研究とモニタリングの技術を指導するといった形で行われてきた。短期的見解では、このような国家能力強化プログラムは、科学的な要素を取り入れた政策を打ち出す見せかけとしても捕らえられるが、長期的には、そのコミュニテイの国内における立場を強化すること、さらには、このようなプログラムの実施により得る可能性のある利益を国に知らしめることによって、国家の関心を科学重視の政策へと移すことを可能にする。
北海とバルト海の保全に取り組む欧州諸国は、特定の環境技術の分野において比較的優位性を持っている国によるボランタリーなリーダーシップで、最も優れた技術と手段を得て成功している。それぞれ違う分野で優位性を持つ各国は、それぞれの技術を共有することを通じて、特定の技術を開発している会社に新たな市場を生み出すことができる。地中海地方における貿易フェアを兼ねた定期的な石油流出に関する会議では、各国は独自の技術を売り込む機会を与えられ、同時に互いに技術を学びあうことができる。
さらに、このような国際会議に参加することや、パネルやワーキング・グループの理事を務めることは、国際政治の舞台で自国の地位を高めたいと考える政府にとっても好都合である。
北アジア地域の特徴は、政府の環境政策の策定に関する能力が比較的高いことである。20したがって、能力の向上のためのみに共同会議を開くことに関心を示す政府は、ほとんどないだろう。日本の環境庁は、1972年に設立され、1982年までには907名のスタッフを抱えていた。そのうちの374名は科学の専門家であり、1993年度の国家予算のうち、1.1%は環境のために使われている。21中国のMinistry of Urban and Rural Construction and Environmental Protectionは1974年に設立され、環境保全局は、1982年に413名の科学の専門家を含む1358名のスタッフで創設された。1982−83年の予算は合計215万米ドルであった。韓国は、1980年に保健省の下に環境部を設立、そして1990年には、環境省を設立した。環境部は、当時233名のスタッフを抱えており、そのうちの88名は科学技術者であった。またロシアは、解体したソビエト連邦から複数の国家機関を受け継いだ。水文気象学と環境管理委員会は1973年に設立され、1988年から89年までの国民総生産の約1.3%は環境保全に利用されている。22米国は、1970年に環境保護局を設立。これは現在、世界で最も規模の大きい環境保護局であり、1万7千人のスタッフと、年間約60億ドルの予算を有している。23
国家的な関心の構築
環境に対する国家的な関心を高めることにより、国際機関は、環境保全を目的とする多国間会議の可能性を高めることができる。環境の脅威に対して国家的な関心を高める方法としては二通りある。(1)直接的な方法:国際機関は、政府やその国の名士たちに直接環境保全に関する情報を提供し、環境保全のために、国内むけに、かつ集合的に資源を配分することに関心を促す。(2)間接的な方法:国際機関が一般市民に環境保全に関する情報を提供し、一般市民が政府に環境保全の活動を要求する方法。
環境に関する政府の関心は、高い水準の科学的データや情報をタイミングよく提供することにより構築することができる。共同モニタリング、研究そして政治対策への努力は、すべて、政府の関心を高める直接的な効果がある。この場合、環境問題を専門とするNGOは、国家の環境政策に影響を与える重要な手段あるいは要素となり得る。
また、社会を通じて関心を間接的に高めることもできる。国際機関は、広告と国内のNGOや科学者をプロセスに加えることにより、政府への圧力を拡大することを可能にしてきた。公共教育プログラムの設置や、NGOの設立とその強化、あるいは多国間科学ネットワークに参加している科学者の研究成果や個人の地位を推進させること等を通じて、国家的な関心を高め、さらに、メディアや公共教育、博物館の展示等に情報を提供することによって、環境問題の脅威を伝えることに一役買っている。
北東アジアでは、政府の関心を高める効果をもつ国内の社会的・政治的組識は少なく、無力である。日本や韓国は、民主主義的な政治制度をとっており、国内において環境に対する関心が既に高まっているが、ロシア、北朝鮮や中国の政府は、こういった政治的関心を呼び起こすような組織的な活動に対して、総体的に免疫があるのかもしれない。中国には独立したメディアもないし、地域の海洋汚染問題を中心に取り上げて活動しているNGOも少ない。Freedom Houseは、中国を、報道に際して最も規制の多い国の一つとしてランク付けている。国際機関は、韓国や日本のような「自由」報道国家、あるいは「部分的に自由」なロシアにおいて、公共教育を通じて環境問題への関心を呼び起こす方が得策であろう。24
多国間科学ネットワークと専門的なコミュニテイ
国際機関の3つの条件(交渉環境の構築、国家能力の強化、国家的関心)に加え、このようなことを論ずるためには4つ目の条件を加える必要がある:それは、専門的なコミュニテイである。地域環境の統治に科学を加えることは、組織的活動に強い技術的基盤を与える。これを無しにしては、政治的努力は、妥協と予想され得る可能性により左右されることになる。海洋問題を専門とする地域の科学者たちが組織的な政策の成果に関与している場合にのみ、条約や成果に長期的な計画と研究の構成要素が含まれ、成果は、科学者たちが生態学的に正当化された政策として考えたものに基づくものとなる。科学的なアプローチが正当化され、包括的な結果に結びつくことは事実ではあるが、その発展には、科学的な思考をもたない組識による政策の策定よりも、多くの時間を要すことになる。
UNEPが地域海洋プログラムにおいて行った地域的な専門家のコミュニテイ構築のための努力や、その他の国際環境外交分野における類似した努力からは、専門家のコミュニテイの構築について次のような教訓を学ぶことができる。25
- 科学者の人口を注意深く調査する。あるUNEPのコンサルタントは、国家能力を計り、自ら科学ネットワークを構築するために九ヶ月もの間、地中海にある国立物理学研究所を訪れた。
- 国家と地域組識のために、細心の注意をはらって人材を募集する。審査は、経歴とネットワーキング能力を基準とする。
- 研究および訓練は、一つの国家組識に依存しない。
- 会議や専門的に評価を受けることのできる論文誌等、専門的に研究成果を発表できる機会をメンバーに与える。このような活動は、その専門コミュニティの中での科学者の知名度を国内的に上げるとともに、その科学者に国家政府機関で活動する場を与える可能性もある。
- 国際会議に出席すべき科学者は、政府により一方的に決定されることを避ける。
- 環境リスク評価(Environmental Risk Assessment)では、国内的な評価ではなく国際的な共同パネルの評価を優先する。
- 会議を行う前に調査内容を報告し、共同研究に対する特定の国家からの独占的な支援を避ける。
- 一つの特定の科学的思考や、専門的な分析手法に独占されることを避ける。
- 科学者と政治家の間で集約的に情報交換を行い、環境問題を技術的な面から議論する。欧州酸性雨交渉は、二日間にわたる外交官(政治家)とIIASAの科学者の双方が参加した会合により有益に指導された。26
- コミュニテイ内の気勢を持続させるために、プロジェクトや研究の機会を継続して設けることが重要である。こうすれば、メンバーが徐々に離れて減っていってしまうこともない。これにより、新しく問題が持ち上がる度に、コミュニテイを再構成するような必要もなくなる。
NOWPAPは、北西太平洋地域にこのような教訓を優先的に適用するようにしてきた。NOWPAPは、同地域の海洋環境関係の組識や代表的な研究者のディレクトリを作成することにしており、同時に地域の研究機関が持つ技術能力を評価する計画を立てている。その上、共同研究プロジェクトを実施し、地域全体をモニタリングできる共同計画をも打ち出す予定である。
北東アジアは、専門コミュニテイのための可能性は高いように見える。以下の表は、同地域の各国における科学能力の一般的評価を表している。ただし、ことわっておくと、この評価の基準となったデータはかなり古いものである。
表3 北東アジアの海洋科学者ディレクトリ
Country
# of marine scientists
# of institutions/labs
Disciplinary Strengths
China
Japan
Thousands
Many
Extensive
North Korea
South Korea
121
22
Russia (Vladivostok, Kamchatka, Sakhalin, )
81
9
専門的なコミュニテイが持つ二つ目の重要な要素は、政府からの独立性と多国間ネットワークを構築する能力である。そうすれば、科学者を結ぶ多国間ネットワークは、アドバイザーまたはコンサルタントとして、政策を地域全体に同時に提供する働きをすることができる。
中国の科学者の多くは、組織的、予算的に国家に依存しており、政府の厳しい監視の下で活動する環境にある。中国政府の海洋学および海洋研究への援助は、南シナ海の領土問題、漁業資源の利用、海底油田またはガスの探査、海洋防衛の強化、といった中国の地政学的関心により導かれている。27
4.結論
地域環境の管理は、多国間の枠組みにおいて最も有効に進められる。しかし、北西太平洋地域において、効果的な地域環境管理制度が設置される可能性は低い。国際機関は弱く、環境問題に関する知識はまとまっておらず、既存の知識を活用するのも難しいと思われる。さらに、地域環境問題の解決に向けてリーダシップをとり、経済的・政治的な資源に進んで携わる国がほとんどない。
同地域における多国間チャンネルと組識的な手段の欠如は、この地域が抱えている問題の根深さを表している。強力な地域組織の構築に関心を持つ国はほとんどない。さらに、世界の他の地域において有効な組織的影響のために必要とされた国内情勢が、この地域には欠落している。他の地域では、もっとも効果的な国際機関は、政府への圧力を拡大したり、社会全体の興味を創造したり強化することによって、市民社会とともに活動している。しかし、この地域においては、効果的な統治のための、より深く長期的な戦略を呼びかけるこういった傾向が、概して欠落している。
北西太平洋地域における効果的な海洋環境の統治制度の設置に向けて、ESENAプロジェクトでは二つの提案をしている。(1)他の地域の教訓から学び、その成功例を再現すること。特に、同地域における科学的研究とNGOの可能性に焦点を当てる。(2)地域的な協力を促進させる基盤をもたない地域において、その穴を埋める補足的な方法を探ること。2つ目の提案において、ESENAは、効果的な海洋環境の管理を妨げる政治的・文化的要素を取り除く活動に専念する。ESENAプロジェクトは、他の団体および組織と協力して、中国の市民社会の強化に向けて努力すること、韓国における民主主義を拡大させ、同地域において政府により管理されていない非中央集権的科学ネットワークの構築を構築することを目指している。
注
- 北西太平洋の政治については、Daojing Zha, Kim Hyon-Jin, Ken Wilkeningに助言を賜った。
- The Random House Atlas of the Oceans, 1991. New York: Random House, pp.162-3.
- World Resource Institute, 1997. World Resources 1996-1997, New York: Basic Books, p. 309.
- 日本の対策に関する情報は、 OECD, 1997?, OECD Environmental Performance Reviews: Japan, Paris: OECD Publications、韓国に関しては、Ministry of Environment, 1995, Korea's Green Vision 21, をそれぞれ参考とされたい。日本、中国、韓国における総合的な沿岸地帯の管理に関する政策についての情報はJens Sorensenを参考とされたい。
- Bryan Bachner, 1996, "Regulating Pollution in the Peoples' Republic of China," Colorado Journal of Environmental Law & Policy, Vol. 7(2), pp. 373-408.
- Peter M. Haas, "Save the Seas", Ocean Yearbook 9; Peter M. Haas, 1997, "Scientific Communities and Multiple Paths to Environmental Management," in L. Anathea Brooks and Stacey Van Deveer, eds., Saving the Seas; and Maryland Sea Grant's Marine Policy Center, 1993, Comparative Efforts for Regional International Programs to Control Land-Based Pollution, Woods Hole Oceanographic Instituteを参考にされたい。
- Sand, 1992, pp. 13-14、 USGAO.
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- Olav Schramm Stokke, 1998, "Nuclear Dumping in Arctic Seas," in David G. Victor, Kal Raustiala and Eugene B. Skolnikoff, eds., The Implementation and Effectiveness of International Environmental Commitments, Cambridge, MA: MIT Press.
- UNEP, 1997, Action Plan for the protection, management and development of the marine and coastal environment of Northwest Pacific region, UNEP.
- Russell J. Dalton, 1994, The Green Rainbow, New Haven: Yale University Press.
- Riley E. Dunlap, George H. Gallup, Jr. and Alec M. Gallup, May 1993, Health of the Planet, Princeton, NJ: Gallup International Institute, Figure 1, Figure 3, Table 6.
- "Tougher Enviro Laws Wanted, World Poll Finds," http://envirolink.lycos.com/news/newfeed/jun05-1998-02.html, (1998年6月8日現在)
- Kim Hyon-Jin, Environmental Cooperation in Northeast Asia.
- Robert Keohane and Marc Levy, eds., 1996, Institutions for Environmental Aid, Cambridge: MIT Press.
- The Regional Environmental Center for Central and Eastern Europe のウェブサイトを参考のこと:http://www.rec.org (1998年6月10現在)
- Cho 1993; Mark J. Valencia 1990, "Sea of Japan," Marine Policy, pp. 507-525; Elizabeth van wie Davies, "Global Conflicts in marine Pollution: The Asia Pacific," The Journal of East Asian Affairs, pp. 192-222.
- Zarsky & Hunter, 1998.
- Valencia, 1990.
- Baker, Bassett and Ellingon.
- OECD Environmental Performance Review.
- Pryde.
- J. Clarence Daview and Jan Mazurek Pollution Control in the United States, Washington, DC: Resources for the Future 1988 pp. 21-22. 詳細はOECD, National Reportを参照されたい。
- Freedom House The Economist, 30 May, 1998 p. 98.
- Birnie 1985, Lee Kimball pp. 94-95, Haas in Ocean Yearbook.
- Alcamo et al, 1996.
- Elizabeth Economy, "Chinese policy-making and global climate change," in Miranda A Schreur and Elizabeth C. Economy eds., The Internationalization of Environmental Protection, Cambridge University Press, 1997, pp. 19-41: Yann-Huei Billy Song, "Marine Scientific Research and marine Pollution in China," Ocean Development and International Law, Vol. 20 pp. 601-621, 1989.
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