着々と進む脱硫石膏による中国アルカリ土壌改良
東京大学工学部 教授 定方正毅
(財)都市経済研究所 評議員 石川晴雄
1.はじめに
1994年(H6年)夏、筆者の一人石炭化学工学専門の定方正毅と砂漠など乾燥地農業の指導を数多く手掛けている東大・松本聡教授およびマクロエンジニアリングの(財)電力中央研究所・新田義孝部長(四日市大学教授)の3人が、砂漠緑化の討論中に、土壌改良材として脱硫石膏を利用するアイデアに思い当った。そして、全国土の27%が荒漠化(水土流失、土地の砂漠化、アルカリ化等)し、それが毎年2,400km2も進行している中国を対象に、アルカリ土壌を改良出来れば、農地減少も解消出来る。さらに、中国における産業エネルギーの75%を占める石炭利用、その結果、日本の酸性雨にも影響を及ぼしている火力発電所などで排出する二酸化硫黄防止の脱硫装置普及のインセンティブになる。すなわち、食糧と環境問題を一石二鳥に解決出来るのではないかと考えた。
そこで、関係者が本手法の研究実現にむけ奔走し、1995年(H7年)に環境庁地球環境研究総合推進費の砂漠化防止の一環とし、工技院資源環境技術総合研究所(請川孝治部長・稲葉敦室長)からの受託研究として、(株)環境リサーチ(1997年迄、石川在籍)によりF・S(フィジビリティスタディ)としてスタートした。
研究は、1995年より、中国アルカリ土壌現地調査(瀋陽、フフホト、東営市)、中国アルカリ土壌による室内ポット試験、中国アルカリ土壌現地試験(瀋陽市康平県、小規模圃場200u、大規模圃場1ha)といった順序で実施し、多くの知見を得た。なお、本研究は1998年から実施機関が(株)環境リサーチに変わり、東京大学となり、定方正毅の研究テーマとして実施しており、1999年も引続き大規模圃場試験を実施中である。
本研究は、多くの方々の協力を得て今日に至っており、前述研究者、機関の他、主な方々は、慶応大学産業研究所・吉岡完治教授、中国瀋陽市人民政府・王克鎮参事、元(株)テクノサービス青木正則部長、元(株)川崎重工業・川真田直之部長、電源開発株式会社、三菱重工業(株)中国水利水電科学研究院・王連祥主任、中国瀋陽市科学技術委員会、東大・定方正毅ならびに松本聡研究室である。
2.研究の目的・経遷
1)研究の目的
石炭火力発電所などの脱硫装置から副産物として排出される石膏を用いて、不毛の土地であるナトリウム集積アルカリ土壌(写真1、2、3)を農耕地に土壌改良出来ることを、現地圃場試験で実証する。併せて経済効果の検討も行ない、将来中国火力発電所脱硫装置普及のインセンティブになるように、本手法の実用化を図る。
写真1
写真2
写真3
2)研究の経遷
研究は次の順序で実施された。
@ 1995年
a. 現地調査(フフホト、瀋陽、東営市)。水利水電科学研究院機関、カウンターパートOKの返事を得た。
b. 室内ポット試験(中国アルカリ土壌に小麦を播種)。湿式脱硫石膏混入0.5、1%で通常の生育を得た。
A 1996年
a. 現地小規模圃場試験(瀋陽市康平県、200u、トウモロコシ播種)。湿式脱硫石膏を重量比で混合、0.5、1%で通常の生育を得た。康平県の平均雨量は400o。なお、諸事情によりカウンターパートは瀋陽市人民政府・科学技術委員会とした。
B 1997年
a. 現地小規模圃場試験(200u、継続)。脱硫石膏2年継続効果を確認した。
b. 現地小規模圃場試験(100u、トウモロコシ播種、半乾式脱硫石膏施用)。0.5、1%で通常の生育を得た。
C 1998年
1997年a、b を継続実験。脱硫石膏3年継続効果を確認した。
c. 現地大規模圃場試験(1ha、湿式脱硫石膏)。脱硫石膏0.5、1%で生育を得た。本年は、雨が多く圃場に水溜りが数カ所出来た。土壌には白く塩類が集積した現象(パッチ状)が出現した。
D 1999年(H11年)
1998年a、b、c の継続試験。そして、1ha圃場試験を追加した。
3.研究成果
1)1995年
中国瀋陽のアルカリ土壌を用いて、小麦の室内ポット試験を実施した。脱硫石膏は、日本の湿式脱硫装置からのものを用いた。表1、2に脱硫石膏と土壌の分析値を示した。
試験は、脱硫石膏を重量比で混合0、0.5、1.0、1.5、2.0、2.5、5.0%の7種類について行った。その結果、脱硫石膏をわずか0.5%加えることで、0%と比較にならないほど小麦の成長が良くなることがわかった(写真4)。
水素イオン濃度PH、電気伝導度EC、土壌の交換性ナトリウムの占める割合ESP(後述6の温類土壌で説明)についてみたのが、図1、2、3である。PHは脱硫石膏1%以上の混合により、8以下に改良出来た。ECは3%以上加えると、4ms/cmに近づくことがわかった。ESPは脱硫石膏を5%加えたときに15%を下回った。土壌の物理性は、その土壌の塩類含量あるいは粘土鉱物と腐植の質と量によって異なるので、15%という境界値(アルカリ土壌の分類値)も便宜的なものである。表2からもわかるように、この土壌中のカリウムとマグネシウムとは微量であるため無視して、全陽イオンをカルシウムとナトリウムであると仮定すると、元来の土壌はESP45%となる。
2)1996年(H8年)
現地小規模圃場試験は、200uのアルカリ土壌にトウモロコシを播種した。試験は、中国の脱硫石膏を用い、重量比で混合0、0.25(0.6s/u)、0.5(1.2s/u)、1(2.3s/u)%について行った。
写真4
表1
表2
図1
図2
図3
写真5
写真6
その結果、0%に比較すると0.5および1.0%の場合の生長がよく、1.0%の場合がもっともよかった(写真5、6)。そして、背の高さ、実の重さ、生長速度は、通常の農地で育ったものと変わらないという好結果を得た。PH10のアルカリ土壌に脱硫石膏を混合すると、乾燥時でも土が軟化し、トウモロコシの栽培が可能であることがわかった。
3)1997年(H9年)
本年は、200u規模の継続試験の他、新規に100u圃場を追加し、半乾式脱硫石膏施用を試みた。作物はトウモロコシ。その結果は次のとおりである。
@ 一度加えた脱硫石膏の土壌改良効果は、2年以上継続した。
A 半乾式脱硫石膏を混合しても、1%(2.3s/u)までなら、湿式脱硫石膏とほとんど同程度の土壌改良効果が認められた。
B Aの試験では、同一混合量であっても、圃場の位置によってトウモロコシの育ち具合が異なった。この原因として排水の関係が考えられた。
C @の継続試験では、初年に劣った場所でも2年目になると育ち具合が向上した。このことから、石膏と土の混じり具合が年を追うごとによくなり、その結果土壌改良効果が現れることが期待された。
D 図4に脱硫石膏混入率とPH、図5に脱硫石膏混入率と収穫量の関係を示した。1996年データも示してある。共に混合1%がPHを10→8.5に下げ、収穫量は3650であり、ha換算すると約3,000sとなっている。写真7、8に生育状況を示す。
図4
図5
4)1998年(H10年)
本年は、小規模圃場試験の継続の他、新規に大規模圃場試験を実施した。その結果は次のとおりである。なお、収穫量等については現在、取りまとめ中である。
@ 1996年に始めた小規模圃場試験の継続試験は、脱硫石膏の継続効果3年を確認出来た。また、半乾式脱硫石膏も継続効果2年を確認出来た。
A 1996年に始めた小規模圃場試験では、脱硫石膏0.5、1%混合し、トウモロコシの生育が良かった場所でも土壌表面に白く塩類が集積していた。
B 本年実施した1ha規模圃場試験では、上空100mの空中写真(写真9、10、11は生育トウモロコシと筆者の一人、石川)で判るように、塩類集積が白く島状になって分布(パッチ状)しており、そこの部分では、トウモロコシは殆ど生育しなかった。その理由として下記が考えられた。
写真7
写真8
写真9
写真10
写真11
a. 1997年までの小規模圃場試験では、作業者がスコップで石膏と土を混合したので混合状態が良かった。しかし、1ha規模の試験では、トラクターで耕起したあと、石膏を散布し、もう一度トラクターで細かく耕す所に土と石膏が混合するようにした。その結果、石膏の混合状態が不充分であった。
b. トウモロコシの播種と石膏混合の時期が同じだったので、石膏が土になじまない状態であった。
c. うねが不完全で、塩類が雨で流され水たまりが出来、島状に堆積した。
d. 1998年は、例外的な多雨であったので、石膏が流された可能性がある。
C 東大・松本聡研究室による1ha規模圃場試験地の科学性分析結果(1)を以下に示す。なお、化学記号はレポート末で説明。
a. 評価法としては、トウモロコシを播種した各石膏混合区に対し、トウモロコシが発芽なし、発芽し結実なし、及び結実の3段階に分け、周辺土壌の科学性を分散分析した。その結果、石膏混合0のPHは10.32、石膏混合発芽なし9.46、発芽し結実なし9.01、結実8.38であった。Na+イオンでみると、脱硫石膏の混合によって土壌中の水溶性Na+イオンとCa2+イオンとの分析項目が、トウモロコシ成長段階の差に強く影響され、Ca2+とNa+イオン置換による土壌改良が行われたと思われる。しかし、これは完全な脱塩ではなく、並行した他の試験からはCaSO4によって除去されたNa+イオンの10倍以上のNa+イオンが土壌中に残っていることがわかった。
一方、分散分析結果によりトウモロコシの植物生産の影響要因とし、PHとCO32−があげられ、それと各要因との相関を調べた。その結果注目すべきはPH、CO32−及びSO42−の相関性であり、CaSO4による改良はCa2+とNa+イオン置換による土壌改良だけでなく、SO42−によりPHを下げ、CO32−濃度も低下させていることがわかった。
b. S欠乏
瀋陽土壌と周辺の水質化学性を分析した結果、Sの含量欠乏が示唆された。水抽出でSの濃度をSO42−の形で検討したところ、CaSO4の混合前の瀋陽土壌はSO42−が0.05〜0.15cmol/kg、試験が行われた周辺の水中でも0〜0.2ppmであった。特にトウモロコシ播種期間であり、塩類蓄積が著しい春にはNa+イオンが83.06ppmであったのに対しSO42−は0ppmであった。したがって、CaSO4による土壌改良は、SO42−によりSを供給する効果も期待される。
c. 瀋陽のアルカリ土壌とFe
瀋陽土壌の化学性分析の結果、Feが欠乏していることも考えられる。全Feが1.6〜3.0%であり、その中で遊離Feは0.16〜0.17%である。一般土壌には約10%(灰分のうち)前後のFeがある。Feが欠乏すると植物は全体的に黄化するか枯死する。
・ アルカリ土壌改良におけるFeの導入
植物栄養学的な面だけでなく、Feを瀋陽のアルカリ土壌に供給すれば、Feイオンが持つ電荷により脱硫石膏と同様な粘土コロイド分散を低下させる効果が期待される。そこで、瀋陽土壌のCa及びFe化合物添加し、粘土コロイドの分散除去効果の比較実験を行った。その結果、Feイオン化合物は粘土コロイドの分散除去効果があり、とくにFe(SO4)3の場合はPHの改良も期待出来ることがわかった。
・ アルカリ土壌改良における転炉スラグ導入の問題点
Feは粘土コロイド拡散・分散の相殺効果と共に、3価の強い電荷により、土壌中の粘土同士の過剰な収縮を引き起こし団粒構造形成(土壌物理性)において望ましくない方向に作用する可能性がある。
また、粘土コロイド全体がFeイオンにcoatingされ、相対的に弱い電荷を持つ植物の生育に有用な塩基が土壌に保持されるのを阻害し、栄養の欠乏をもたらす可能性もある。
Feイオンの供給素材としてのスラグは、PHは転炉スラグ11〜12、高炉スラグ9〜10である。アルカリ性を示すFe2O3とAl2O3の含有量は、転炉スラグのFe2O3が高く、Al2O3は低い。従って、一定の比率で脱硫石膏と転炉スラグを瀋陽のアルカリ土壌改良に併用されることが望ましい。
D アルカリ土壌改良における重金属
東大・定方正毅研究室で、重金属の挙動について調べた結果(2)、次のことがわかった。脱硫石膏施用による重金属濃度の影響は、脱硫石膏中の重金属の存在自体でなく、石膏による土壌の透水性などの改良効果により表われるものと思われる。
そこで試験圃場で収穫したトウモロコシの実中の重金属量を定量した。その結果、重金属量は対照区(無脱硫石膏)の重金属と比較すると、わずかに脱硫石膏施用に伴ない増加している重金属もあるが、施用量との相関はみられなかった。従って、脱硫石膏施用による重金属の影響はないと考えられる。
4.今後の現地圃場試験計画
1999年の試験予定は次のとおりである。
1)1ha規模圃場試験については、塩類が多く集積している島状(パッチ状)の部分を如何にして土壌改良するかを課題とし、白い島状部分をスコップで充分に土を混ぜ返す。白い島状部分に新たに石膏を加える。うね高を大きくとるなどを実施する。
2)白い島状部分
周囲に杭を打ち小規模試験区を作り、石膏0、0.5、1、2%を混合する。他の部分は継続試験とする。播種はトウモロコシ。
3)2つの小規模圃場試験は石膏の継続効果を調べる。
4)新規に、1ha規模圃場を設け、石膏無混合区と乾式脱硫石膏1%混合区を設け試験する。
5.脱硫石膏
火力発電所から排出される硫黄酸化物(SO×)は酸性雨の原因となる。これを除去するために、わが国では排煙脱硫装置を設けている。中国の火力発電所では、脱硫装置設置はまだ数カ所であり、環境問題ともあわせて装置の導入が本格化するのはこれからである。脱硫石膏は、脱硫時の副産物として排出される。
脱硫装置は、湿式と乾式に大別され、ともに石灰石を硫黄酸化物に反応させ、石膏の形にし、硫黄分を固定し除去する。
1)湿式脱硫
本方式は90%を超す脱硫効率を有し、合理化、経済化の進んだ信頼性の高いものである。本方式は、ボイラーからの排ガス中に石炭スラリーを噴霧して脱硫し、これにより生成された亜硫酸カルシウムを、酸化塔で空気によって酸化し石膏にするものである。集じん装置で石炭灰を除去した後で接触させるので、石炭灰はほとんど混合しない。さらに、石膏は石灰石と消石炭と分離されるので、純度の高い石膏がつくられる。
この方式は、石炭スラリーをつくり、それを循環させる動力を必要とし、大量の水と電力を使用し、装置が複雑でプラントコストも高くなる。
2)乾式脱硫
「炉内石灰吹き込み法」もしくは「簡易脱硫法」と呼ばれ、微粉砕した石灰石を石炭と一緒にボイラーの中に吹き込み、石炭の燃焼熱によって石灰石が分解し、生石灰(酸化カルシウム)を形成し、これがSO2と酸素と反応して石膏となる。ボイラー内部でガスと固体が反応すると、その反応時間が短いため反応率はあまり高くない。そこで、石炭中の硫黄分に対して、化学量論的に約3倍の石灰石を吹き込む。
その結果、未反応の生石灰が石膏と石炭灰に混合して排出される。未反応の生石灰はアルカリ性である。水に触れると消石炭になる。故に乾式脱硫から排出される副産物は、酸性土壌の中和材に適している。また、アルカリ土壌への適用の可能性もあり、目下、瀋陽のアルカリ土壌改良で試験中である。
6.塩類土壌(アルカリ土壌)
塩類土壌は、可溶性塩類の濃度が過大な特殊な性質の土壌で、農場の目的からすれば特殊な矯正と管理を必要とする不毛な土壌である。塩類土壌は、乾燥または半乾燥気候の大部分の地域に分布する。その生成は、降水量より蒸発散量の方が多い地域で、塩類の供給量が多く何らかの理由で地下水位が高くなったろころに出現する。アルカリ土壌は塩類土壌の一種である。
1)塩類土壌の分類
米国農業省(OSDA)は、土壌の水飽和溶液の電気伝導度(EC:mS/cm)土壌の交換性ナトリウムの占める割合(ESP=ex.Na+/CEC×100)および土壌のPHから、塩類土壌の分類を表3のように定義している。ただし、CECは土壌の交換性ナトリウムの陽イオン交換座(Cation Exchange Capacity, Cmol(+)/kg soil)である。
表3
ロシア、東ヨーロッパの土壌分類では、炭酸ナトリウム含量が少なく、アルカリ性が弱い土壌で、可溶性塩類としてナトリウム、マグネシウムなどの塩化物および硫酸塩を含む土壌をソロンチャック(Solonchak)土壌とよび、表3の塩性土壌にほぼ対応している。また、炭酸ナトリウムを多量に含み、アルカリ反応が強い土壌で、しばしば柱状構造を呈する土壌はソロネッツ(Solonets)土壌とよび、表3のアルカリまたはアルカリ・塩性土壌に対応している。図6に世界の塩類土壌の分布を、図7に中国におけるアルカリ土壌の分布を示した。
中国におけるアルカリ土壌の分布は、内蒙古自治区、吉林省、黒竜江省、遼寧省、新彊ウイグル自治区、河北省、陝西省、青海省の乾燥地、半乾燥地に広く分布している。特に北緯40度以北の中国東北部、北部に集中的に存在しており、その面積は10万kuと推定されている(3)。中国では恐竜の足跡、草原のアバタなどと呼ばれ、土壌改良が困難で放置されたままになっている。
図6
図7
2)アルカリ土壌の生成
土壌コロイド(主として土壌の粘土と腐植)が、長期間NaHCO3またはNa2CO3を主成分とする地下水と接触する過程で生成される。
岩石が風化される際に放出されたナトリウムイオンが、加水分解を受けNaOHとなり、空気中または土壌中のCO2を吸収して地下水中にNaHCO3やNa2CO3が生成される。土壌コロイド面で起こるイオン吸着が、ナトリウムイオンによってほぼ占められると、土壌コロイド粒子は分散した状態になる。この状態で乾燥過程に入ると、そのままの形で凝集するので、土壌はきわめて緻密な構造となって固化する。土壌の硬度は著しく上昇し、つるはしで土層を破壊しようとしても困難なぐらい固化する。
ナトリウムコロイドが凝集してできた土層はnatric土層とよばれ、作物はもちろん雑草すら生育はほとんどできない状態となる。塩類土壌の中で、アルカリ土壌を除く塩類土壌は、塩類濃度の高くない水によって、土壌をリーチングし除塩することができる。しかし、アルカリ土壌は緻密なnatoric土層の存在でリーチングはまったく出来ず、水による除塩効果はほとんど期待できない。
7.脱硫石膏によるアルカリ土壌の改良
土壌コロイドのカチオン吸着特性は、強い順にCa>Mg>K>Naであることはよく知られている。したがって、アルカリ土壌にカルシウム資材を施用すれば、土壌コロイドに吸着されていたナトリウムは、順次カルシウムと置換反応を起こしながら、土壌コロイドの表面は次第にカルシウムに置き換わることが予想される。また、土壌中でのこのような置換反応は、急激な反応ではなく徐々に行われることが考えられる。
他方、土壌のイオン吸着座から離れたナトリウムは、カルシウム資材を構成する陰イオンと結合して塩を形成し、リーチングを続行すれば、水に溶解しいずれは土壌から消失する。
ただし、このような置換反応は、アルカリ土壌のイオン濃度が施用する改良資材のイオン濃度よりも高いときに進行するので、ある程度以上の改良資材を加えないと、実際の置換反応はみられない。土壌のイオン交換座がナトリウムイオンからカルシウムイオンに置換される。そうすると、土壌のカルシウムコロイドは大きな分散性を示さず、透水性を有するとともに、土壌反応の強いアルカリ性から中性ないしは弱アルカリ性に転ずる。また、カルシウムコロイドの乾燥過程では、粘土に膨潤性が生ずるため、土層に亀裂が発達し、団粒構造を生成するようになるので、土壌の脱塩効果が著しく進行する。
8.おわりに
1995年(H7年)より始まった本研究は、着々と進んでおり、年々新しい知見が得られている。脱硫石膏による土壌改良効果も3年は継続することも確認でき、さらに数年継続することも期待される。
1998年(H10年)の1ha規模試験では、アルカリ土壌のパッチ状の問題、圃場の整地問題など解明事項も残された。試験結果より、本アルカリ土壌ではFe欠乏の問題も指摘された。また、脱硫石膏施用による重金属の影響もないことがわかった。しかし、以上の対策を考慮すべく、さらに試験を継続させ問題の解決を図る必要がある。
一方、脱硫石膏を産出する脱硫装置についても、中国に即した低コスト簡易式のものを東京大学・定方正毅と清華大学・徐旭常教授と共同で提案し、瀋陽市の化学工場設置に向けて動き出した。完成すれば、土壌改良試験地近くで、脱硫石膏が入手可能となり、経済的研究を推進出来る。
今後は、本研究成果を生かし、試験を重ねることにより、脱硫石膏がアルカリ土壌改良に役立つことを確認しつつ、中国の農民に実際に使える技術に発展させたいと考える。
化学記号
Na+: ナトリウムイオン
Ca2+: カルシウムイオン
CaSO4: 硫酸カルシウム(石膏)
CO32−: 炭酸イオン
SO42−: 硫酸イオン
S: 硫黄
Fe: 鉄
Fe(SO4)3: 硫酸鉄(V)
Fe2O3: 酸化第U鉄
Al2O3: 酸化アルミニウム(アルミナ)
NaHCO3: 炭酸水素ナトリウム(重炭酸ナトリウム)
Na2CO3: 炭酸ナトリウム
NaOH: ソーダ石灰
Ca: カルシウム
Mg: マグネシウム
K: カリウム
文献
(1) 定方正毅、中国アルカリ土壌改良P.5〜10要約、東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻報告書、1999年3月
(2)文献(1)、P.12〜13要約
(3)松本聡、青木正則、脱硫石膏を利用した不良土壌の改良と食糧増産、P1042、日本エネルギー学会誌、Vol.74、No.12(1995年)