定方正毅(東京大学工学部)
このような認識から、1988年から97年の10年間で500億ドルを超える様々な国際援助が石炭利用の効率化・クリーン化の分野(具体的には、石炭火力発電、いわゆるクリーンコールプロジェクト、省エネルギープロジェクト)に投入されてきた。しかし、このような国際援助活動や中国自身の活動にもかかわらず、現状においては、中国における石炭利用に伴う大気環境等の悪化が改善されたとは言い難い。
そこで、これまでの国際援助活動に関する総括として、また、今後の技術選択や援助政策を検討する手がかりを得るために、1999年1月18日に東京大学において「国際援助と中国におけるクリーンかつ効率的石炭利用技術に関する国際会議」が、東京大学、マサチューセッツ工科大学(MIT)、スイス連邦工科大学間の環境に関する共同研究であるAGS(Alliance
for Global Sustainability)の年次会合に一環として、日本、欧米、中国からの研究者の他、日本など各国政府や国際機関、様々な民間企業等の関係者を招いて開催された。以下では、その会議で議論された概要について紹介したい。
石炭利用のクリーン化対策を何も行わない場合には、2010年には中国における硫黄酸化物の排出量は現在の2倍になるとの予測が示された。そのような状態に対応するため、中国政府においても「酸性雨規制地域」、「硫黄酸化物規制地域」の設定を含む硫黄酸化物規制が導入され、例えば硫黄分1%以上を含む石炭を使う発電所はFGD(排煙脱硫)を必ず設置することが義務づけられることになっていることを述べられた。しかし、このような規制を実効的なものにしていくためには、中国の現状に見合う低コスト技術開発が行なわれる必要があるとし、そのような視角から、中国においてどのような技術選択が適切なのかに関する議論が提起された。
まず、種々の高効率発電技術については、IGCC(複合発電)やSC(超臨界技術)は高コストであり、中国の現状からみて難しく、FGD(排煙脱硫)が低コストで最適であることを示された。
さらに、その上で、さまざまな脱硫技術について、その脱硫率、コスト等の現状を示され、中国において有望な技術が指摘された。具体的には、従来先進国で用いられており、中国においても国際援助等によって導入されつつある湿式FGDは、初期の資本コスト及び運転コストともに高いために、中国においては未だに普及が難しく、他方、中国で普及する可能性のある脱硫技術は、資本コストも相対的に小さく、特に運転コストの低い、水膜法による脱硫やCFBC(循環流動床)による脱硫である旨述べられた。
そして、現状では中国に移転するにふさわしい発電技術はIGCCではなく、SC(超臨界技術)であると結論された。その理由は、中国の現在の基盤技術を考えたとき、IGCCではあまりに技術ギャップがあまりに大きすぎ、現状の中国が中心となって開発するのは難しいのに対し、SCの開発は中国の現状の基盤技術と連続性があるので可能であることである。
また、CFBCなどFBC(流動燃焼)発電技術については、N2Oの排出抑制技術がポイントであると述べられた。その上で、APCFB(常圧循環流動層)等は、中国では小規模ユニットとして(小規模ユニットでは別途脱硫装置をつけることは不経済である)、あるいは低品位炭用として部分的に使われるだろうと述べられた。
また、世界銀行のエネルギー部門担当の高橋氏も、世界銀行が作成した、先端的発電技術も含めた各種発電技技術のコスト比較を紹介し、中国において可能性が高いのは、不確実かつ高コストのIGCCではなく、SCであるとした。また、FGDも途上国において可能性があることが指摘された
MITのBeer教授の報告や元中国の国家計画委員会の王氏の議論にみられるように、先端的発電技術の実験場として中国を使うことも論理的には可能であるという議論も行われた。しかし、大勢とすれば、現在の中国の経済的余力と不十分な国際的支援体制等を考えれば、現状では、各種の低コストの効率改善・クリーン化の技術について、開発・蓄積・普及を図って図っていくべきだというのが、MITのOye教授、定方等多くの参加者の意見であったように思われる。具体的には、将来中国に適合する技術として、例えば、FGDとしては中国と先進国で共同で開発するGASIN(図1)、水膜法等(図2)等、低コストの技術が選ばれるべきであろうとする点で一定のコンセンサスがあった。
第1の規制は、エネルギーの価格規制である。中国においては、石炭等のエネルギー価格は、社会政策的配慮から、低価格に抑えられていた。その結果、エネルギー利用者である企業にとっては、省エネルギーのインセンティブが働かず、エネルギー利用効率の低い設備が利用され続ける結果となっていた。その後、経済体制変容の中で、エネルギー価格は徐々に自由化されていった。しかし、予期に反して、価格自由化にもかかわらず、石炭価格は上がらず、期待された省エネルギーのインセンティブも生じなかった。その原因は、安全基準も十分には守らない低コスト生産を行う非国営の郷鎮企業等が、大量に市場に参入したことであったという。
第2の規制は、環境規制である。中国においても、1987年9月には全国人民代表大会で大気汚染防止法が採択され、1995年8月には改正された。その改正条項に基づいて、酸性雨規制区、二酸化硫黄汚染規制区が決定された(この点は前述の清華大学の徐教授の報告でも述べられた)。しかし、これらの規制区においても、低硫黄炭を利用できない場合の脱硫・除塵装置の義務づけは文字通りには実施されていない。二酸化硫黄の排出に対して、二酸化硫黄1kg当たり0.2元の排汚費が徴収されているだけである。しかし、0.2元の排汚費というのは、二酸化硫黄削減対策をとるインセンティブを企業に与えるためには不十分であり、排汚費を3−5倍程度にすることが最低限必要であるといわれた。
中国においては、特に国営企業の場合、雇用には社会政策的意図もあるためリストラが難しく、他方従来の政府からの補助金は銀行からの融資に肩代わりされているため、企業債務は極度に膨らむ一方、利益率は極度に低下している。そのため、銀行も企業への融資を避けるという、悪循環が生じている。このため、企業にとっては銀行等外部からキャッシュフローを確保することが難しくなり、新規の投資を行うことが極めて難しくなっているということである。
ヘルシンキパッケージの内容は、次のようなものである。第1に、タイド援助とするためには、CL比率(援助の譲許性を示す指数であり商業的融資だと0、贈与だと100となる)を35%にすることが最低限要求される。第2に、CL比率が35−80%である場合には、タイド援助にする条件として、「非商業性」が求められる。「非商業性」とは、一定の市場金利を仮定して、キャッシュフロー分析を行った場合、収益が得られないということである。しかし、個々の事例の分析によって判断されることに論理的にはなっているものの、実際には、事実上、当該案件のセクターによって、「非商業性」が認めら得るのか、「商業性」案件となりタイド化が否定されるのかが決まるようである。例えば、火力発電においては多くの場合「商業性」案件となりタイド援助が否定されるのに対して、水力発電や再生可能なエネルギー源に関しては「非商業性」案件となりタイド援助が認められる。また、産業用ボイラーの効率改善のようなものも「商業性」案件になると思われるに対して、上下水道事業のようなものは「非商業性」案件になる。
このようなヘルシンキルールの存在は環境援助に対して2つの影響を与える可能性があることが議論された。第1に、アンタイド化を進めることで援助の効率的利用を促進する反面、援助に対する国内的支持を減らし、その結果として援助の総量が減少する可能性がある。第2に、援助の案件選択に影響を及ぼす可能性がある。ドナー国が、国内支持等を考慮してタイド援助を維持しようとした場合、案件が石炭を利用する火力発電や産業セクターから、水力発電、再生可能なエネルギー源、上下水道事業等へ移ることとなる。
ただし、このような影響の可能性は論理的には認められるものの、現実には、ODAに関してタイド化が否定されたとしても、定義上タイド化が認められている輸出信用等によって、ODAに準ずる条件での資金が供与できるので、それほど影響が大きいとは思えないとの議論も行われた。
しかし、CDMプロジェクトとして認められる条件としては、追加的であること(additional)が求められる。これは、当該プロジェクトがない場合の将来の温暖化ガス排出量よりも、プロジェクトの実施により排出量が少なくなることを意味する。この要求を具体的にいかに解するのかというのは難しいことについては、多くの参加者の意見が一致した。
当該プロジェクトに商業性のある場合(投資に対する一定の収益が見込める場合:これは、前提となる金利、プロジェクト実施国での社会的配慮に基づく規制を考慮するのか、収益率をどう仮定するのかによって、具体的判断は異なってくるが)、当該案件はCDMがなくとも商業ベースで実現される可能性があるので追加性がないと判断されるとすると、追加性を認める範囲はかなり狭くなる。例えば、火力発電プラントの改修、新設、あるいは産業用ボイラーの効率改善等は追加性が認められない可能性が高い。他方、当該案件に関して提案の時点で具体的な競合する投資主体が認められない場合には追加性が認めらるとすると、その範囲はかなり広くなる。
つまり、追加性等の条件がいかに定められるかにより、石炭の効率的かつクリーンな利用のためのプロジェクトのための国際的資金移転が実際に増えるのかが決まるというわけである。
少なくとも、技術に関しては、中国の状況に合致する低コストのものを幅広く議論する必要のあること、国際援助の計画・実施過程においては、ローカルなレベルからグローバルなレベルに及ぶ複雑な制度的条件を考慮する必要があることが、理解できたのではないかと思われる。
謝辞
本稿をまとめるにあたってご助言をいただいた東京大学法学部城山英明助教授に深く感謝致します。
(図1)GASIN
(図2)水膜法