日本海の海洋管理レジーム:現在と未来

Mark J. Valencia

イーストウェスト・センター
上級研究員


要旨

北東アジア諸国の関係の緊張緩和、排他的経済水域(EEZ)による司法管轄権の拡張、海洋法条約(UNCLOS)の発効という条件が揃い、今は日本海における包括的環境管理レジーム作りという意味で絶好の機会と言える。日本海の環境は比較的クリーンな状態を維持しているものの、核廃棄物の投棄と最近の原油流出事故をきっかけとして、日本海の将来を危ぶむ声が、一般市民と政策担当者の間で高まっている。日本海に関係する既存のレジームとしては、UNCLOS、IMO条約、ロンドン条約、モントリオール・ガイドライン、そしてAPECと豆満江流域開発計画における環境保全計画などがあげられる。また、WESTPAC、PICES、UNDP/GEFプログラムなどの海洋科学調査が実施されている。さらに、日本海に関するさまざまな二国間漁業協定が結ばれているが、それらは不充分で断片的かつ時代遅れである。上記のレジームや協定には、重複、不充分な知識と低い意識、各国の展望と優先項目の食い違い、レジームの不備などの制約がある。包括的海洋環境管理レジームはこれらの問題と取り組み、日本海の環境を管理する能力と責任の両方の分担を促進する。日本と米国はそのような包括的レジームの創設のため、重要な役割を果たすことができる。


目次

本稿の一部はMark J. Valenciaの"A Maritime Regime for Northeast Asia"(オックスフォード大学出版会刊、1997年)から抜粋した。

1.政治状況と自然環境
2.既存レジーム
2-1 国連海洋法条約(UNCLOS)
2-2 国際海事機関(IMO)
2-3 ロンドン条約(LDC)
2-4 陸地起因海洋汚染に係るモントリオール・ガイドライン
2-5 APEC
2-6 豆満江流域開発計画(TRADP)
2-7 海洋科学研究
2-8 西太平洋作業部会(WESTPAC)
2-9 北太平洋海洋科学機関(PICES)
2-10 UNDP/GEF東アジア海洋汚染防止・管理計画
2-11 その他のイニシアティブ
2-12 漁業
3.既存レジームの問題点と不備
3-1 重複性
3-2 不充分な知識と低い意識
3-3 各国の展望の相違
3-4 制度上の不備
4.日本、米国、地域海洋環境保護レジーム

1. 政治状況と自然環境

この分析で取り上げた国は、日本海と接する朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)、日本、韓国(ROK)、ロシア連邦の4ヶ国、それに中国の国内を流れ、中国から日本海へのアクセスに利用可能な豆満江の存在により、中国を加えた。

日本海(韓国名は東海)は数千年にわたり、アジア本土と日本の間で文化と人と物が往来する道としての役割を果たしてきた。だが、今世紀の大半、この地域の国々の関係は、深刻な政治的・イデオロギー的相違という制約を受けてきた。その結果、日本海は緊張関係と紛争の可能性の存在する場となり、日本海と接するすべての国の日本海沿岸地域における経済は、発展する反対側の沿岸地域に対して遅れをとってきた。

だが現在、この地域の政治状況に変化が起きている。力をつけた北東アジア諸国にとり、生き残りに懸命な状態は過去のものとなり、地域内での相対的な力の増大を追求することが主要な目標ではなくなり、そうした行動の合理性も低下する傾向にある。今ではほとんどの政府が、領土を守ることよりもむしろ富の拡大を指向している。政治の多極化とスターリン主義的経済モデルの放棄により、経済関係がより「自然な」パターンを取り始めた。そのような経済関係は、隣接する地域同士の経済が明らかに相互補完的役割を果たし、「自然経済領土」(NET)を形成するような国境地域、つまり中国南部、環黄海地域、豆満江流域、環日本海地域に集中する傾向がある。

このような状況の中で、日本海の資源の利用は、沿岸地域の経済発展を刺激し、それによって各国内の経済格差を縮める上で役立つ。沿岸国の司法管轄権の水産資源と海洋活動への拡張には日本海も含まれ、領土権の主張がオーバーラップする地域がいくつかある。そのようなオーバーラップと、水産資源の越境的性質を考えると、資源管理における協力は不可欠である。日本海の資源と環境の利用という面での新たな協力体制の幕開けにより、北朝鮮、日本、韓国、ロシアは「太平洋の時代」という期待に応え、日本海を衝突と孤立の地域から、平和と繁栄の地域へと変えることができるだろう。

このような重要性、便益と費用の共有、政治的な危険性の低下を考慮すると、環境の質の管理における協力は、格好の出発点と言える。日本海周辺地域は、新潟沖の水銀やピョートル大帝湾の原油と重金属という重大な例外はあるものの、総体的にはあまり汚染が進んでいない。最近明らかになった旧ソ連による核物質と軍需化学物質の日本海への投棄と、ロシアのタンカー、ナホトカ号からの大規模な原油流出事故は、日本海の環境に対する危惧の念をかきたてた。また、韓国と日本両国が、日本海の中で司法管轄権が不明瞭な海域と、それが重複している海域を投棄場所と定め、利用してきた。これについては、投棄場所に関する協定と、両国共同の監視が望ましい。観光業と、産業として成り立つ漁獲高を維持しようとするなら、日本海を陸海両方の汚染源から守り、クリーンな状態を保つことが必要不可欠だ。日本海のきれいな自然は、イデオロギーをめぐる冷戦時代の皮肉な副産物と言えるが、その命は長くないかもしれない。将来を予想する知識人や産業界が、日本海自然経済領土 の可能性に注目している今、日本海の環境と生物資源を管理するプロセスまたはインフラの整備が、ますます緊急の課題となりつつある。

日本海西部の漁獲高と水産資源の量に関しては、ほとんど情報がない。北朝鮮の漁獲高は非常に多く、250万トンの日本とほぼ同じレベルとも言われる。総生産高は1982年の900万トンから1985年の1200万トンに増えた。普通の種のほとんどは完全に活用されているが、総漁獲高は1300万トンほどに増える可能性もある。漁獲種の構成は時につれて変化してきた。これは一つには使用する漁具の変化にもよるのだろうが、おそらく底生魚と游泳魚両方にとっての生態系の変化を意味するものと考えられる。近海水産資源は比較的良い状態を保っているが、トビウオ、ニシン、ハタハタ、オヒョウ、セイス、イワシの数については不安がある。漁業に関する調査と管理における情報交換と協力が緊急に必要とされている。

生物資源への船舶の影響が最も大きいのが比較的狭い朝鮮海峡である。ここには韓国のプサン港とウルサン港への主要航路があり、また、韓国の港と瀬戸内海とを結ぶ海上交通の経路でもある。また、朝鮮海峡にはクジラの子育ての場が二ヶ所あり、底生魚と游泳魚両方の産卵場所もある。クジラの子育てや魚の産卵が船舶による影響を受けるのは、ここ以外では利用頻度が低い航路2本のみである(朝鮮海峡からナホトカへの航路と、津軽海峡への航路)。それら以外には、日本海では船舶による深刻な害は特にない。だが、これまで疎遠だった日本海周辺国の間の貿易が盛んになれば、状況は変わるだろう。


2. 既存のレジーム

2.1 国連海洋法条約(UNCLOS)

国連海洋法条約(略称は海洋法)は、一貫性のある国内海洋汚染政策を策定するための国際的な包括的枠組みである。 CUNCLOSの第XII部 − 海洋環境の保護と保存 − は、海洋環境に関してこれまでに協議された条約中、最強かつ最も包括的な国際条約であると認識されている。それは少なくとも2つの理由からきわめて重要である。まず、この条約では、すべての国に海洋環境を保護・保存するための総合的な義務があると同時に、海洋環境をあらゆる汚染源から守るために国際的な規則を施行する義務があるものと規定されている。次に、条約批准国には、国際海事機関(IMO)の監督下で協議されるほかの海洋条約において規定され、一般に受け入れられている国際的規則と標準を、自国がそれらの条約の批准国でない場合でも施行する義務があるものと規定されている。XII部第1条では、海洋環境をあらゆる原因による汚染から守り、汚染を削減し、制御するため、条約に従って必要とされるあらゆる措置を講じることを各国に義務づけている。この義務は、陸上起因汚染、投棄、船舶、海底での活動という具体的汚染源を規制する国内法及び規則の制定という第5項の規定で補足されている。海洋汚染に関する法律の施行は第6項で扱われ、沿岸国は自国内の汚染者を取り締まる陸上汚染源に関する法律を施行するものと規定されている。さらに、沿岸国は基線から200カイリまでの排他的経済水域(EEZ)の境界まで、海洋環境を守る責任を負う。

表1
Water Quality Standards in Northeast Asia

Japan
A1B2C3
Taiwan
A5B6C7
China
A8B9C10
South Korea
A11B12C13
Russia
A14B15
T℃<4℃ above ambient<5℃ above ambient
pH7.8-8.37.5-8.5; 7.5-8.5; 7.0-8.57.5-8.4; 7.3-8.8; 6.5-9.07.3-8.3; 6.5-8.5; 6.5-8.56.5, 8.5
COD<1 mg/1
2, 3, 8
(BOD) 2, 3, 6<1 mg/1
3, 4, 5
1.0, 2.0, 4.02.0
DO<1 mg/1
7.5, 5, 2
<1 mg/1
5.0, 5.0, 2.0
5.0, 4.0, 3.0>95, >85, >802.0
Coliform<1,000 MPN4/100ml(A only) <1,000 MPN/100ml10,000/(700 for shellfish culture)<200
<1,000
N-hexane extracts0
Phenols.01.005, .01, .05.00115
Mineral oil and fat2, 2, -.05, .01, .05
Heavy metals(mg/1)
Arsenic.05.05, .1, .1.005.05
Cadmium0.01.005, .01, .01.01.005
Chromium.05.1, .5, .5.05.01
Copper.02.02, .1, .5.05
Cyanide.02.02, .1, .5
Lead.1.05, .01, .1.01.1
Mercury.002.0005, .001, .001.0001
Selenium.05
Silica.01, .02, .03
Sulfide
Zinc.04.1, 1.0, 1.0.01
Agricultural chemicals
Organic phosphorous.10.0
Inorganic phosphorous.015, .03, .045
Organic chloride.001, .02, .04
Inorganic nitrogen.001, .02, .04.1
DDT, DDD, DDE.001.1
Heptachlor and
Heptachlor epoxide
.001.05
Suspended sediment<10; <25;-
Floating materialNo surface oil,
froth, other
No surface oil,
froth, other
Color, odor, smellNormal

また、UNCLOSは共同海洋環境保護レジームの整備を希望する国々のための枠組みも提供する。たとえば、半公海に接している国々に対し、海洋環境保護に関する政策の調整を図るよう呼びかけている。日本海周辺の国々から出る廃棄物には類似性があり、また、日本を除き、廃棄物を処分する技術にも類似性がある。理論上は、類似あるいは均一の基準を設けることも可能だ。それが実現されていないという事実は、相互の情報交換が不足していることと、環境保護全般の各国での優先度、具体的には汚染物質と汚染源の重視の度合いが現状で異なることを反映している(表1表2)。すべての国で排水基準と水質基準が施行されているものの、厳しさという点では大きな違いがある。たとえばロシアの水質基準と排水基準は、法律上は全般的に近隣諸国よりもはるかに厳しい。中国の水質基準は最も緩やかである。もちろん、そういった基準の施行状況はまた別の話で、日本を除いては、全般的にかなり甘い。さらに、規制を受ける物質の種類が異なり、規制に使われる法律も異なる。条約では、批准国が「汚染を防止、削減、制御するために実施可能な最善の手段を自国の能力の範囲内で任意に用いる」 ものと規定されているため、そのような相違は条約と矛盾するわけではない。だが、強力な環境基準を持つ国は、自国の産業にとっての競争上の不利を軽減するため、自国と類似の基準を採用するよう他の国々に促すものと予測されている。

表2
Effluent Standards in Northeast Asia
(mg/1)

ChinaJapanTaiwan
A, B, C
South KoreaRussia
pH5-95-9-
BOD<501av.160
120
400-600-1,20050-300-
COD10av.160
120
600-900-1,800-
Organic phosphorus
suspended solids
<1501av.1.0
200
150
400-600-1,20050-300-
Coliform bacteria<250/ml1
<1,000/ml2
3,000
mps/100ml
200,000-300,000-
N-hexane extracts5 mineral oil
30 animal and
vegetable oil
-
Total oil and fat
Phenols
0.55100
5
70 ppm-
p
Arsenic.55As3+0.01
Cadmium.01.11-
Chromium (total)25-
Chromium (hexavalent).5-
Copper.0332-2-6.001
Cyanide1.05-10-10P, .05
Flourine15-
Dissolved iron10F3+0.05
Lead.11.010Fb2+0.01
Dissolved manganese10-
Mercury (total).001.005.2P mg2+andsubstances
containing it
Mercury (alkyl)0-
Nickel3Ni2+0.01
Zinc1.054Zn2+0.01
PCB
Change to C
1 Japan total oil and fat
.0031,1,--

  1. Sewage released from ships within four miles of the coast.
  2. Between 4 and 12 miles from the coast.

Sources: Japan Law no. 136 of 1970, amended by Law no. 137 of 1970; Marine Environment Protection Policy Analysis, Bureau of Environmental Protection (October 1988), Taipei, Taiwan; Republic of Korea, Law no. 3078, 31 December 1977; USSR Ministry of Water Resources 1984, Regulations Protecting Littoral Sea Waters from Pollution, Moscow; People's Reppublic of China, 1990, Regulations on Protection of Marine Environment from Damage by Land-Based Pollutants in Shi E-hou et al., 1987. Review of China's marine environmental protection in the past 15 years and future prospects. Marine Environmental Science, v. 6, no. 2,
pp. 1-7.

UNCLOSが発効した現在、この地域の国々は、今後発生する国際的な法律上、技術上の義務と国家の方針をどう適合させてゆくか、あるいはそれとは逆に、どの程度まで国際的慣例を無視あるいはそれからはずれることを望むかを決定しなければならない。たとえば、定義があいまいなUNCLOS第192条と第194条の意図を反映させ、導入した国内法の草案作りという基本的必要性がある。これらの条項では、批准国に対して「環境を保護・保存する義務」、「海洋汚染を防止、削減、制御し、また、自国司法管轄権下で行われる活動または規制が他の国に対し、あるいはそれ以外にその主権を行使する海域を越えて、汚染被害を引き起こさないよう保証するために必要なあらゆる措置を講じる」義務を負わせている。 だが、「防止、削減、制御」などの言葉の正確な意味を決めるための合意による科学的基準が存在しない。また、科学技術上の知識が限られていることを考慮すると、法規をいかに正当化し、施行するかを決定することも困難だ。「責任の義務づけ」という形容から「規則と規制の義務づけ」という形容へと流動するなど、あいまいに定義された法的枠組みを受け入れることと、基準と規則を定め、現実に施行することに関する批准国の意欲と能力の間には、大きな隔たりがある。

2.2 国際海事機関(IMO)

日本海に関する地域内の法律の草案作りと政策の策定は遅れており、日本海周辺国すべてが加盟するIMOへの対応と、海洋法関係のイニシアティブがほとんどである。そのような状況でも、参加と履行の範囲とレベルは、国内での様々な利害や優先課題を反映している。IMOによる協定の中で、特に船舶による汚染防止に焦点を絞ったものが13件ある(表3)。署名協定数はロシアと日本が最も多く、それぞれ10件、8件である。中国は5件を批准している。韓国は最初の民事責任条約と船舶による汚染防止のための条約の2件のみである。北朝鮮は同防止条約の付属書3、4、5条に合意し、韓国を除くすべての国が民事責任条約に調印している。1973年の介入条約はロシアだけが批准している。6カ国すべてが1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約と、1978年議定書によるその改正版を批准した(MARPOL 73/78)。

表3
IMO Pollution Convention Signatures

ConventionChinaDPRKJapanROKRussia
Convention for the Prevention of Pollution from Ships, Annex 1/2XXXXX*
Convention for the Prevention of Pollution from Ships, Annex 3XXX
Convention for the Prevention of Pollution from Ships, Annex 4XXX
Convention for the Prevention of Pollution from Ships, Annex 5XXX
Convention on the Prevention of Marine Pollution by DumpingXXX
International Convention Relating to Intervention on the High Seas in Cases of
Oil Pollution Casualties, 1969
XX
International Convention Relating to Intervention on the High Seas in Cases of
Oil Pollution Casualties, 1973 Protocol
International Convention on Civil Liability for Oil Pollution Damage, 1969XXXX
International Convention on Civil Liability for Oil Pollution Damage, 1976 ProtocolXX
International Convention on Civil Liability for Oil Pollution Damage, 1984 ProtocolX
Convention on the Establishment of an International Fund for Compensation for
Oil Pollution Damage, 1971
XX
Convention on the Establishment of an International Fund for Compensation for
Oil Pollution Damage, 1976 Protocol
Convention on the Establishment of an International Fund for Compensation for
Oil Pollution Damage, 1984 Protocol
Convention Relating to Civil Liability in the field of Maritime Carriage of
Nuclear Material, 1971

* with exception of III, IV, V.

2.3 ロンドン条約(LDC)

中国、日本、ロシアは1972年のLDCの加盟国である。北朝鮮と韓国は加盟国ではない。LDC加盟国には、共有水域に投入される廃棄物の種類と量を関連各国すべてが認識できるよう、海洋投棄許可活動について報告する義務がある。調印国は1996年から海洋への有害産業廃棄物投棄を永久に全面禁止することで合意した。この禁止には、最終的に海洋投棄することを目的として非加盟国に廃棄物を輸出することと、海洋上での廃棄物の焼却も含まれる。1993年の全核廃棄物の海洋投棄禁止に関する投票では、中国とロシア両国が棄権した。 ただし、中国は後に禁止条項を守ると宣言した。 世界最大の海洋投棄者として太平洋と日本海に年間450万トンの廃棄物を投棄している日本の産業界にとり、禁止条項は深刻な影響を与えるとして、日本は今後も海洋への産業廃棄物投棄を続けると発言している 。

2.4 陸上起因海洋汚染に係るモントリオール・ガイドライン

1985年、UNCLOSで求められている地域内での調和と越境汚染防止の責任を統合するため、UNEPの専門家が陸上起因海洋汚染に係るモントリオール・ガイドラインを定めた。 このガイドラインの目的は、地域内の条約及び国内法のためのチェックリストとしての役割を果たすことである。チェックリストという観点からは、ガイドラインの中心は規制戦略の策定に関する第13項と、国内法及び手続きの採用に関する第16項である。ガイドラインの本文は妥協によって甘くなったとも受け取れるが、付属書に記載された科学的な勧告内容が信頼性を裏付けている。弱点はあるもの、モントリオール・ガイドラインは、まだ地域内協定を結ぶに至らず、今後も陸上起因海洋汚染法並びに規則の整備に関するガイダンスを必要とする日本海周辺諸国にとって有益と考えられる。

2.5 APEC

地域の環境戦略について討議するため、アジア太平洋経済協力会議(APEC)環境閣僚会議が、1994年3月にバンクーバーで開催された。海洋汚染も討議項目の一つだった。 閣僚らは2つの文書を発表した。最初の文書はAPEC環境ビジョン声明で、その中でAPEC上級官僚に対し、アジア太平洋環境経済円卓会議に関する話し合いを含め、地域内で複数のセクターが関与する意見交換を行うよう求めた。もう一つはAPEC経済環境統合原則の枠組みである。これには持続可能な開発、環境コストの国際化、科学研究の育成、技術移転、予防原則の適用、相互支援的な貿易並びに環境政策、一般国民に対する環境教育と情報提供、持続可能な開発のための資金提供、APECの役割が含まれる。APEC作業部会の海洋に関する環境イニシアティブと目標としては、赤潮/有害藻類に関する技術的意見交換、陸上起因汚染源に関する各国報告書のとりまとめ、沿岸地域管理政策、担当国内機関の設置、そしてUNCEDの海洋に関する章における勧告に従うためのAPEC地域内のほかの組織との調整とネットワーキングなどがあげられる。

2.6 豆満江流域開発計画(TRADP)

国連開発計画(UNDP)によるTRADPの環境部分は、おそらく地域環境活動の中でも最も進んだ内容を持ち、今後、他の地域環境協定に影響を及ぼす重要な法的・政治的前例になるものと思われる。この大規模な試みには、たとえば石炭火力エネルギーを使う金属と木材の再処理など、汚染度の高い業界が関与することになっている。アジア開発銀行(ADB)または世界銀行から元手としての資金援助を得ようとするなら、徹底的な環境影響アセスメントを実施し、重大な影響を緩和するような計画を立案しなければならない。

産業廃棄物、下水、土壌浸食による汚染は、すでに豆満江下流域のほとんどの生物の死滅を引き起こしている。 過去20年間に、豆満江流域では、産業、農業、家庭用上水への各種汚染が記録されている。残念ながら、沿岸を北に向かって流れ、ポシエット湾に流れ込む暖流の朝鮮海流が、北朝鮮のラジン − ソンボン、豆満江などの南の汚染を北へ運ぶ可能性がある。中国側の豆満江流域では、大気汚染も問題になっており、1年の大半を通じ、そこでの大気中浮遊粒子量は全国基準を上回っている。ウラジオストック − ナホトカ地域の一部は、産業廃棄物、下水、炭化水素、沈殿が引き起こす深刻な海洋汚染問題を抱えている。現地の行政機関は、自然資源管理に対して総合的なアプローチを取っていない。これは専門職員の不足、調整と意見交換の不足、極度な予算不足が原因である。豆満江の汚染が湿地に及ぼす影響と、開発プロジェクトの潜在的影響力には、もっと注目を集める必要がある。良質な水が少ないことが、この地域の経済発展を阻む大きな要因となっている。

豆満江流域のもう一つの環境問題は、沿岸海域での原油流出事故の脅威である。ソンボン、ウラジオストック、ナホトカ、その他のこの地域の港湾との間の原油輸送には、原油流出の大事故の危険性がつきまとい、それがもしも現実になれば、生態系と漁業に対して極度に深刻な影響を引き起こす。ここの湿地は渡り鳥の東アジア/オーストラレーシア飛行経路にとり、最も重要な中間地点の一つとしての役割を果たしている。さらに、プリモスキー沖には2つの海洋保護区があり、また、プリモスキー行政区カザン地区の沿岸全域で、数十万羽の渡り鳥が繁殖または越冬する。

豆満江流域及び北東アジアのその後背地の環境的に健全で持続可能な開発を達成することを目的として、豆満江諮問委員会加盟国は1995年にニューヨークで、豆満江経済開発地区及び北東アジアを管理する環境原則に関する理解についての覚書(MOU)に調印した。

MOUの中で、加盟国は同地域の環境を守るための相互協力と調整の意志を確認した。合意の具体的な内容については以下のとおりである。

だが、1995年12月のMOU調印以来、合意された目的と原則の実現に向けた作業はほとんど進んでいない。豆満江環境保護作業部会は設置されたが、これまでの中心的作業は地球環境ファシリティー(GEF)への申請書作成である。この申請書では、コストおよそ550万ドル、期間2年の戦略的行動計画(SAP)の策定が提案されている。GEFの目的に従い、SAPでは国際水域と生物多様性という2つの分野における世界的な問題と取り組む。つまり、通常各国政府の責任と見なされる範囲を超えた問題との取り組みである。

環境に関しては、TRADP参加国は、次の3分野で地域協力を行う。

  1. 近隣諸国に対して外部費用またはコストが生じ、関係諸国間の協力によってのみ解決可能な越境環境問題
  2. 漁業資源など、資産を共有する国の間の協力によってのみ保護可能な越境環境資産
  3. 訓練に関する共通のニーズなど、共同作業によってより効果的に満たすことができるTRADP参加国の共通ニーズ

2.7 海洋科学研究

国家間の協力体制改善の見通しを明るくするには、政策担当者と一般国民両方が汚染の影響を理解することが必要だ。この必要不可欠な情報を提供するのがモニタリングと研究である。また、越境汚染について有効な研究を実施するには、地域全体のデータの総括を可能にするためのハイレベルの協力と総合的サンプリングが必要である。

2.8 西太平洋作業部会(WESTPAC)

日本海周辺国はすべて、10ヶ国で構成されるWESTPACの加盟国である。WESTPACは多国間海洋科学研究計画の立案と調整を目的として、1977年のUNESCO10周年記念会議で創設された。この作業部会では、海洋環境汚染の世界調査(GIPME)及び国際海洋学委員会(IOC)の手法・標準・相互較正に関する専門部会(GEMSI)と共同で、相互較正作業に焦点を絞っている。

WESTPACの目標は次のとおりである。

総合目標を達成するため、WESTPACでは1990年2月に中国のハンチョウ(杭州)で開かれた会議で9つのプロジェクトを指定し、中期計画(1991年から1995年)を採用した。9つのプロジェクトは、生物資源に関する海洋科学、海洋汚染研究及び海洋力学と気候のモニタリング、非生物資源に関する海洋科学である。

これまでの進行は遅く、散発的である。参加しているのは科学者だけで、いまだに相互に不信感があるため、データの共有が進まない。日本海諸国全部が同時に参加するような真の多国間協力科学研究は、まだ実施されたことがない。

2.9 北太平洋海洋科学機関(PICES)

この組織はWESTPAC及びNOWPAP と似た目標、目的、関心、科学プロジェクトを持つ。それにはデータと情報の交換、海洋汚染に関する共通のアセスメント手法、海洋汚染モニタリング技術(たとえばムラサキイガイの継続調査、堆積物のモニタリングなど)、陸上起因汚染源、潮の干満とその海洋環境への影響、北西太平洋地域から公海への汚染物質の越境移動、相互較正、環境基準と標準の決定などが含まれる。PICES/海洋環境の質に関する科学委員会は、北太平洋地域全体の藻類の異常発生と主な化学・生物汚染物質に焦点を絞って作業を行うことになっている。

2.10 東アジアの海における海洋汚染の防止ならびに管理に関するUNDP/GEFプログラム

海洋環境の管理に関して東アジア諸国から出された要請に応え、国連開発計画アジア太平洋地域局地域プログラム課では、世界環境ファシリティーのパイロット段階からの支援を得て、東アジアの海における海洋汚染の防止ならびに管理というプログラムを立案した。この地域プログラムに参加する国は、ASEAN加盟国(ビルマ、フィリピン、マレーシア、インドネシア、ブルネイ、シンガポール、タイ、ベトナム)、カンボジア、中国、北朝鮮である。最初の承認予算額は800万ドルだったが、それに加え、オーストラリア政府から、費用分担金として500万ドルが追加された。

このプログラムの長期目的は、国内及び地域レベルでの長期的かつ自立的な海洋汚染の防止、制御、管理における参加国政府の努力を支援することである。プログラムのコンセプトには、次のような目的を持つ4つの主要プロジェクト分野が含まれる。

  1. 海洋汚染状態の適切なアセスメントにより、海洋汚染問題の防止、制御、管理を援助すること。汚染状態には海洋、沿岸、その他の陸上活動が生物多様性及び環境の質に及ぼす影響が含まれる。
  2. 国内及びサブ地域レベル両方での支援と実施のための手段を含め、海洋汚染の防止、規制、管理に関する政策、計画、プログラムの策定を援助すること。
  3. 国内及びサブ地域の制度上のインフラと実施メカニズムを強化し、海洋環境の汚染防止/規制、管理、改善に関する技能と管理能力を向上させること。
  4. 海洋環境の保護における各国及びサブ地域での努力の長期的持続可能性と自立性のために、適切な財政上の取決め及び/またはメカニズムを定めること。

北朝鮮はこのプログラムの目的に同意し、ケースバイケースで参加している。同国は特に、情報管理及び海洋汚染モニタリング・センターのネットワークに関する提案と、同国の西部海洋学研究所の装置と設備の改善に対する援助に関心を示している。

2.11 その他のイニシアティブ

レジームの状態としては物足りないものの、この地域では各種の総合環境イニシアティブが実施されている。だが、UNEPのNOWPAPを尊重するということもあって、特別に海洋環境を項目の一つとして取り上げている計画はあまりない。取り上げているのは次のような計画である。

  1. ESCAPが組織した北東アジアにおける環境協力に関する高級政府担当者会議がまとめた北東アジア地域環境計画(「陸上起因海洋汚染物質問題の認識」)
  2. アジア財団の環境協力/北東アジア環境協力に関する国際シンポジウムにおける「海洋汚染防止に関する政策」

2.12 漁業

現在、北東アジアでは9件の二国間漁業協定が発効しており、日本海地域の全政府が何らかの協定に関与している。16これらの協定での経験は、多国間協定体制を築く際に確かな基盤として利用できる。網の目にようなこの協定と取決めの集合を分析すると、ある種の共通性が現れる。

まず、北東アジア諸国は科学情報の価値を充分認識しており、水産資源が脅かされれば、多国間で一致協力した措置を講じることができる。17北朝鮮と日本、ロシアと台湾の協定を除き、全協定が特定の漁業委員会を諮問機関として設置している。それら委員会は共同年次会議を開き、資源と水産業の状態について話し合い、次の漁期の漁業条件を改訂する。ただし、会合での話し合いの内容や使われた文書は一般公開されない。

次に、日本は伝統と技術水準の高さにより、この地域で最も重要な水産国であり、地域内のあらゆる国の資源の利用権を得ている。その重要性は、活動の展開の規模と漁獲高、そして他のすべての国と二国間協定を結んでいることからもわかる。だが、日本とこの地域の一部の国との関係が希薄なため、これらの協定はしばしば政府間協定ではなく、漁業団体間の協定として結ばれている。また、これらの協定は、産卵と採餌のために季節ごとに別の水域に回遊する游泳魚よりも、底生魚に適用されることが多い。

第三に、政治全般の関係性が協定の背景として存在するという点である。たとえば日本海に関し、日本と韓国、日本とロシアの協定は、それぞれの二国間外交関係の正常化という背景があって実現したものだ。どちらのケースでも、漁業交渉は外交関係全体の協議に影響を及ぼすと同時に、それによって影響を受けた。全体的には問題も多いが、日ロ、日韓の漁業に関する取決めは、戦後の漁業関係にある程度の安定性と予測可能性をもたらした。これらのレジーム下で毎年開かれる漁業委員会の会合により、関係諸国の漁業の専門家たちは、漁業資源量に関するそれぞれのアセスメント結果を交換し、最適ではないとしても少なくとも容認できる水産業活動レベルと、違反がないものと仮定した場合に理論上そのレベルを達成するために必要な規制措置について、政府に勧告することができる。このようにして、時に閣僚を含むこともある政府代表間の交渉は、双方が受け入れられる協定の締結につながり、このプロセス全体により、各国政府はある程度まで、それぞれの国内政策の調整を余儀なくされてきた。

4つ目の共通点として、漁業水域及び排他的経済水域の宣言以外で、日本とロシア、日本と韓国の間の二国間漁業関係に影響を及ぼしてきた最も重要な経緯は、おそらく1970年代以降のロシアと韓国における水産業界の拡大だろう。2つの漁業レジームはこの傾向に対処できるだけの柔軟性を備えているが、日本の漁民が受けた痛手は大きい。

このような二国間協定群の存在にもかかわらず、現在の日本海漁業レジームは不充分かつ断片的で、時代遅れである。日本海に関係する国々は、自国沿岸水域での外国漁船による漁獲を取り締まるための措置を各々で実施してきたが18、すべての沿岸国または漁業国を含む規制レジームは存在せず、すべての協定に加盟している国もない。領海主張の重複と未解決の境界線問題により、各国の漁業水域に対して明瞭な線引きが行われていない。また、地理的にも、地域全体を考慮に入れた二国間協定が存在しない。このため、日本海の全水産国が一堂に会し、漁獲高の配分を話し合える場がない。

現在の事実上のレジームのもとで、沿岸国は沿岸漁業を自国の水産業者のために留保しようと努めてきた。二国間協定では、共同規制水域内での漁獲高を分け合うよう指示するか、または指定水域内での漁獲割当量の範囲内に収まるよう漁業活動を制限するための試みが、ささやかに続けられている。だが、具体的な割当量について話し合うためには、既存の事実上の割当量を系統立てて検討し、漁業権という面でのこの水域の法制度を見直すことが必要になる。日本海の共有漁業資源の話し合いには、北朝鮮の参加も必要だ。このような状況から、最終的には割当量に関して競争入札が行われる可能性が生じ、それは資源管理に悪影響を与える可能性がある。

また、それは科学情報の共有にも制約を与える。協定のもとで設置された二国間漁業交渉委員会は、決定や科学的議論の結果を公開し、専門家の意見を求めたり一般国民に情報を提供するということを行わない。決定の基礎となる情報が与えられなければ、規制の必要性や合理的根拠を充分理解することができず、成否を評価することもできない。

最近まで、主に自主規制によって決定的な衝突は避けられてきたということではある程度の効果はあったものの、現在のレジームには漁業管理という点で根本的な欠陥がある。1国のみで管理できる種はほとんどない。水産資源はしばしば複数の国にまたがって存在するが、それらを管理するための多国間組織は存在しない。また、関係各国による資源のアセスメントが大きく食い違うこともしばしばだ。日本は、水産業における覇権国として、日本海の水産資源に関する知識には大きな欠落部分があるものの、高水準の情報をほとんど独占している。理論上、このシステム?相互に関連し合う二国間協定の網の目があり、その中で一国が支配的位置を占めることは、特に、隠れた要因によってレジームがより平等になるとすれば、おそらく平等とは言えないだろうが、この地域の漁業をうまく管理できる可能性もある。だが、UNCLOSの発効、司法管轄権の拡張、中国と北朝鮮の沖合漁業能力の発達、従来の種類とは異なる魚種の利用、ほとんどの漁業資源が完全に捕獲あるいは乱獲されているという現状は、レジーム変革の必要性を示唆している。

現に、竹島及び周辺水域の取り扱いと領海線に関して合意に達することができなかったため、1998年1月、日本は一方的に韓国との漁業協定を破棄した。その後、韓国は日本の領海内で操業する韓国漁船に対するすべての制約を解除した。それに対し、日本は領海内の韓国漁船の拿捕を始めた。これが韓国の国民の怒りを買い、反日デモと政治家による東京の韓国大使引き上げ要求が起きた。19


3.既存レジームの問題点と不備

3.1 重複性

WESTPAC、UNDP/GEF、PICES、NOWPAPの賛同を得て構想された活動には、かなりの重複が見られる。WESTPACは原油流出事故の予測と対処のため、沿岸海流のモデリングに関するトレーニングを実施しようとしている。また、UNCEDのフォローアップとして、WESTPAC行動計画の作成も行っている。どちらの活動もNOWPAPが考えている活動と似ている。ただし、WESTPACの活動は、日本海周辺各国の海洋科学技術能力を補足することもできる。さらに、WESTPACのSEAWATCHプログラムは、NOWPAPの実施に役立つかもしれない。大陸棚の海流、海洋力学、古地理学による地図作成、地質構造と沿岸帯、ムラサキイガイの継続調査と藻類の有害異常繁殖に関する日本海WESTPACメンバー(NOWPAPのメンバーでもある)による研究は、小地域ごとの焦点を設けずに、太平洋西部全域で実施されている。UNDP/GEFプログラムの目的も、NOWPAPの目的と重複する部分が多く、また、このプログラムには考慮事項として北朝鮮と中国も含まれる。東南アジアの東アジア海域調整機関(COBSEA)と同じように、WESTPAC及びUNDP/GEFの活動をNOWPAPと調整するためのメカニズムが必要と思われる。

3.2 知識と意識の不足

排他的経済水域(EEZ)という概念は、まだ政策担当者の間に浸透していない。その上、陸地に近い水域では、すでに明白な問題がある上、新たな問題の最初の影響が現れそうな状況があり、各国の関心は沖合いの海域よりも沿岸海域の安全を確保することに集中している。これは特に、日本海のような半閉鎖性の海で著しい。さらに、いかに善意によるものであろうと、国は沿岸水域に他国が関与することには抵抗を覚えるのが普通だ。また、沿岸及び岸に近い部分の物理的・生態的衰退、核廃棄物の投棄、大規模な原油流出を除けば、陸上起因汚染源からの継続的な汚染が、日本海海洋環境に対する最も重要な脅威である。

環境管理における国際協力改善の見通しは、公海での海洋汚染の原因と結果をどこまで正しく理解できるかにかかっている。知識を得ることはレジームの創設にとってきわめて重要であり、世界の海洋汚染防止レジームの拡張と強化の源泉である。20海洋環境問題と対処する上で最も成功した活動では、地域レベルでの制度の整備、科学研究、条約起草などの活動を同時に行い、慎重な育成が行われている。だが、強力かつ持続的な沿岸国の支援と、国内・国際組織によるリーダーシップがあって初めてそれは可能になる。地域での環境意識をさらに高め、新たな制度の取決めを行い、環境便益と汚染費用を取り入れた最新経済理論を応用しなければならない。各法律間の調和を図り、共同モニタリングを行う必要がある。これは特に、今後の産業発展を考えた場合に重要だ。特に重視しなければならないのは、海洋投棄、赤潮、原油輸送、原子力の環境への有害性、核廃棄物投棄である。

3.3 各国の展望の相違

日本海周辺国の間には、環境保護における地域内協力とどう取り組むかという点で根本的相違がある。21中国は、産業汚染、土壌流出、砂漠化、農業生産量の低下、海洋汚染、水産資源の枯渇などの緊急問題に地域協力の焦点を絞るべきだと考えている。中国は環境管理、法律、汚染防止、モニタリングリングとデータ収集、資源調査、価格政策、経済上のインセンティブ、有害廃棄物に関する共同研究、酸性雨と環境管理、発電所の脱硫に関するパイロット・プロジェクト、有毒・有害廃棄物処理施設、湖水の富栄養化の防止と対策、海洋汚染の防止に関する定期的会合と関連情報の交換を支援するための非公式なメカニズムを希望している。さらに、中国はこの地域内の先進国と国際機関が、それら問題分野におけるプロジェクトに対して技術的・財政的援助を行うべきだと考えている。この姿勢は、中国が汚染物質を受け入れるよりもむしろ出す立場にあるという事実を反映している。中国は越境環境問題を大きな危険性をはらんだ問題と見なしている。

地域内での環境協力のためのフォーラム設置に関し、日本はまず情報と知識の交換から始め、徐々に共通の環境問題に関する政策中心の対話に移行することを望んでいる。日本は会合を組織し、ニューズレターを発行し、具体的問題を処理する小委員会を運営する中央事務局の設置を支持している。だが、多国間協力を実現するための枠組みの設置には、かなり時間がかかるのではないかというのが日本の考えだ。新たな制度上のメカニズムに関する討議がまだ不充分であり、二国間のプログラムを先に実施した方がいいと感じている。日本は地域の海洋保全、酸性雨、大気汚染、水質汚染という4つの環境計画優先分野を提起している。

日本はフォーラムには経済閣僚も参加する必要があるという考えから、環境関係の官僚のみで構成される地域フォーラムには反対している。さらに、同国は地域環境協力組織が新たな援助ばら撒き機関にならないよう注意が必要だとしている。その組織は国内での経験の共有、地域の環境状態のモニタリング、越境汚染に関する具体的プロジェクトに着手すべきである。また、それらのプロジェクトは、大阪と滋賀にある既存のUNEP環境技術センターをはじめとする日本の既存の二国間・多国間援助プロジェクトと重複してはならない。

ロシアは環境保護のために明らかに財政支援を必要としている。同国は生態系管理と、実践的で行動中心の協力計画を望んでいる。

韓国は環境保護のための地域協力の必要性を強調する。韓国はそのような協力に、中国が希望するような技術プロジェクトと、日本が希望するような環境状態の共同調査などの環境管理プロジェクトの両方を盛り込むべきだと感じている。現に、韓国はエネルギーと大気汚染という優先プロジェクトを提案し、中国と日本の間の意見調整を試みてきた。また、同国はUNDPとADBからの財政援助を配分し、地域プロジェクトを実施する環境アセスメント及び管理のための調整メカニズムも支持している。韓国の優先課題としては、越境大気汚染、海洋汚染、対策実施能力の育成、技術協力、廃棄物管理などがある。また、同国は北東アジアでの環境協力に関する多数のイニシアティブの調整も必要だと考えている。

最も公式の会議である高級政府担当者会議では、相違点が浮き彫りになる傾向がある。中国は越境大気汚染に焦点を絞ることに反対している。日本は協力のための新たな機関設置とそのための財政援助に反対している。韓国は両方のアプローチを支持している。このような姿勢の相違は、中国が汚染物質の受け入れよりも放出が多く、日本がタンカーからの流出が危惧される原油と、原子力発電所からの廃棄物という点で汚染を出す側であり、韓国は汚染物質の放出よりもむしろ受け入れが多いという点で説明できる。ロシアは確実に海洋汚染物質の放出国であり、北朝鮮はおそらく受け入れよりも放出が多いだろう。このため、現段階では、法的拘束力のあるメカニズムにつながらない比較的非公式のフォーラムの方がはるかに望ましい。矛盾や重複はあるが、各種フォーラムは相互に補い合い、強化し合うことが可能であり、効率の良い地域協力メカニズムの設置という方向性を支持できる。

3.4 制度上の不備

日本海ほど海洋汚染防止のための多国間対策が不足している半閉鎖性海域は他にない。沿岸水域を除いては、日本海の大部分は海洋環境保護という観点からは「空白海域」だ。22国際関係理論の用語を使えば、国際的無政府状態がここを支配している。23にもかかわらず、不安定な政治的関係と不確実な境界のため、環境はもちろんのこと、その他多数の事柄に関する情報の共有と協力という結果を生んでいない。この状況により、国際的環境活動に対する支持の性質と範囲、あるいはそれに関する国としての姿勢さえ判断することが難しい。

全般的に、海洋汚染を共同モニタリングするための能力と意欲が不足している。汚染物質の空間分布とそれによる影響、そして特に、それが国境を越えるかどうかを詳細に説明するために最低限必要な国際協力と、モニタリング並びに研究活動での協力を実現するための公式のインフラが存在しない。そういった構造が欠けていることから、調整の取れた共同基礎研究と、緊急時(原油その他の有毒・有害物質の流出など)の共同作業が妨げられている。モニタリングと研究のためのプログラムは、物理的または化学的境界ではなく、人為的な政治的に定められた境界で止まってしまうため、効果をあげることができない。規制を裏付けるための海洋汚染のモニタリングと研究のレベルと有効性という点で、関係諸国間に大きなギャップがある。日本は海洋環境に関する知識と技術という点で、明らかに他の国々よりもはるかに進んでいる。ロシアには能力はあるかもしれないが、それを活用するための意欲も手段もない。韓国では最近、包括的な海洋研究計画が始まった。北朝鮮がそのような活動を実施したことがあるかどうかは不明だが、その可能性は疑問だ。

沿岸漁場と養殖場に打撃を与えるタンカーからの原油流出事故と、未処理の産業廃棄物による人体への深刻な被害への対応を除くと、近年、陸上起因、船舶、大気汚染が人と海洋環境に及ぼす長期的影響に関する日本海周辺諸国での認識の度合いはきわめて低い。海洋生物種と生態系の健全性に影響を及ぼす要因に関する科学的な疑問点も明確にされず、国内の法律及び政策と地域の環境保護との関連性も、沿岸国は真剣に考えていない。それどころか、国内法を検討してみると、汚染物質の輸送、循環、変成、散布に影響する可能性がある自然の特性またはプロセスに特に関係する法律や規則がほとんど見当たらない。法律と政策は、法律上の正当化と意図を現実の人間、生態系、場所とは切り離された用語で表現されている。この点はこの地域だけに限ったことではない。だが、充分な科学的理解を通じ、法律と自然を直接関係づけることができないことが、この地域が海洋環境問題に関心を抱いていないという全般的な印象を裏付けているため、ここでは上記の点が他の地域よりも重要性を持つ。24

その上、海洋汚染に関する懸念の度合いもさまざまで、実際の対策はさらに多様である。日本が北東アジア地域における海洋汚染政策と汚染防止のリーダーであることは明らかだが、その日本でさえ、今は政策とその施行という点で後戻りしつつある。中国、韓国、ロシアでは、海洋汚染に関する意識と汚染の防止は日本の場合よりもはるかに新しい問題であり、それらの国々の法律と規則は充分厳格だが、法律とその具体化、施行との間には大きなギャップがある。海洋汚染はこれらの国々で重大な問題になりつつあるが、やはり産業と経済の成長が国民の最大の関心事であるという点は変わらない。

馴染みのない、初めて使う規則を施行した結果はさまざまである。環境法の現実というよりも可能性に直面し、経済計画の立案者と政策担当者が、開発の優先順位と資金配分のための従来の基準をその時だけ特別に修正したというケースもある。このため、海洋環境保護を実施するための組織及び制度上の取決めが、一時的で変更可能なものになってしまった。この変更可能性が、海洋汚染規制と水産資源保護を理解しようとする政府の意欲と能力をそいでいる。

日本海には、合意によって決まったEEZ境界がないため、司法管轄権があいまいになり、協力に向けての活動が複雑になり、そのため、仲介者あるいはコーディネーターとして、国際機関の関与が必要になる。現在、すべての沿岸国が200カイリ排他的経済水域(EEZ)を宣言している。だが、自国の領海を特定したがらない国があるため、あいまいな部分が生まれ、緊張関係の原因になっている。だが、日本海での点汚染源からの原油流出を仮定したモデリングと、ナホトカのような現実の流出の経験では、そのような流出がいとも簡単に領海の境界を越えて広がり、貴重で脆弱な水産資源 − 漁場、沿岸養殖場、脆弱な湿地、魚の産卵場所、そして海鳥、クジラ、アザラシ、コビトイルカなどの絶滅の恐れがある種 − に影響を及ぼすことが実証されている。25司法管轄権があいまいであれば、浄化と補償の責任の所在もあいまいになりがちだ。このため、ナホトカのような国境を越えた大規模な環境災害が起きると、司法管轄権と責任の問題が浮き彫りになる。流出後の浄化作業における協力と調整が妨げられる。前もって許可を得ておかない限り、仮説としての中間線を越えて要員と装置を送り込むことが − たとえ海洋汚染処理という目的を明らかにしたとしても − 制約を受けるか、あるいは挑発と受け取られかねない。韓国と日本の両国は、日本海で司法管轄権があいまいか、または重複している水域に投棄場所を持っている。投棄場所に関する合意と、その場所の共同モニタリングが望ましい。

まとめると、一部の汚染の激しい沿岸水域を除き、海洋環境保護の重要性に関する一般の意識は過去も現在も低く、各国政府はいまだに環境問題について、認識はすべきだが、事実上無視できる周辺問題としてかたづける傾向がある。規則作りの試みがあっても、沿岸と沖合いの輸送業、漁業と水産品加工業、沿岸内陸開発に携わる建設業、水産資源管理関係の官僚、港湾当局、農業と産業関係閣僚など、国内と地方レベルの競合し合う関係者間のバランスを取る必要性がそれを妨げてきた。

つまり、海洋環境保護における地域協力を阻む主な制約は、希薄な政治的関係と環境への無関心である。最も緊急の課題は、越境汚染との取り組み、規則とその施行の調整、いわゆる「庶民の悲劇」26の防止である。日本海に関係する最近の傾向は、生物資源への被害という副産物を伴う海洋汚染の増加と、海洋へも波及すると思われる環境全般に対する意識の高まりである。だが、各国間の関係改善と環境に対する意識が支配的になり、取り返しのつかない被害が起きる前に、環境に被害を与える風潮が緩和されるかどうかは明らかではない。


4. 日本、米国、地域海洋環境保護レジーム

海洋環境を保護する国際条約への加盟または遵守という点で、この地域の国々はあまりかんばしい成績をおさめていないが、新たな環境保護運動の高まりと、北東アジアにおける冷戦状態の緩和が刺激になり、環境保護に関する多国間での話し合いとプログラム案が増加している。だが、これら新たなイニシアティブの動機と根拠は、環境に関する憂慮よりも広い意味を持つ可能性がある。政治的には白紙だが、どちらにとっても脅威である環境問題に注意を向けることにより、国はより広い意味の目的を成し遂げることがある。たとえば、北朝鮮は環境問題での協力を、この地域の緊張を和らげる一つの方法と見ている。実際、海洋環境保護は東アジア沿岸国間の関係性の中では、小さな周辺的問題かもしれないが、環境問題に関する交渉または仮協定により、国境の線引きのような大問題を回避できる可能性がある。海洋のような国際的空間の汚染防止は、海洋を利用する国が個別に実行するだけでは不充分なため、この状況は海洋を共同利用する際の制約を調整するための共同意志決定制度の確立により、「相互反感のジレンマ」の解決へとつながるインセンティブと考えることができる。27すでに新たな規範が設けられており、それらを運用できるようにする必要がある。28それはたとえば海洋環境を保護・保存する責任、汚染物質を移転または生成させないようにする義務、良質な海洋環境における人権などである。そのほか、モニタリングと環境アセスメントの責任、海洋環境の保護と保存のための途上国への技術援助提供など、新たな規範が生まれつつある。

また、知識の普及と学習速度の加速、データの記憶と配布を含むデータ収集と情報管理における規模の経済、科学、管理、行政上のトレーニングにおける規模の経済、より良質で低コストの執行メカニズム、知識の普及・輸送コストの削減・安価な情報入手を含む合成の経済性(地域環境管理のためのセンターまたはフォーラムの設置)、共通の環境規制の枠組みから派生する貿易と投資の取引コストの削減、資源のプール、標準の低下につながる地域内競争の撤廃など、地域協力による経済的利益も、徐々に認識されつつある。

日本と米国は協力し、日本海のための公式の海洋環境保護レジームを奨励し、支援すべきである。このレジームは多数の基礎単位の統合であり、相互に関係し合う日米イニシアティブの中心にもなりうる。理想的には、このレジームは国益だけでなく、多数の理論上のニーズを満たさねばならない。何よりもまず、それは既存レジームの不備を正さねばならない。既存及び提案中の国際プログラムの重複部分を合理化する必要がある。また、協力のための諮問機関またはインフラを提供し、同時モニタリング、調整された基礎研究、越境汚染の防止と浄化を提供すべきである。さらに、たとえば潮流と生態系ゾーン − 沿岸、沖合い、温帯、寒帯 − などの自然の特性とプロセスに合うよう、各国ゾーンに関する政策と規則を調整すべきである。個々のゾーンにおける研究結果の調整と共有を実現すべきである。海洋汚染の原因と結果に関し、一般の人々と政策担当者を教育し、それによっていろいろな国の間で知識 − 特に沖合いの生物資源と生態系 − と関心のレベルが揃うようにすべきである。

最も重要な点として、このレジームは海洋汚染を評価、モニタリング、防止、制御し、北朝鮮、中国が汚染と戦うための能力を強化する機会を提供しなければならない。北朝鮮そしておそらく中国も、全面的に交渉に参加し、政策形成に自国の立場を反映させることはができない可能性もあり、その場合には、交渉の結果生まれる協定に従う可能性は低くなる。従って、こうした支援は、北朝鮮、中国、そしておそらくロシアに、このレジームへの参加を促す強力なインセンティブになるだろう。また、日本と韓国にとっては、北朝鮮とのより強固な関係を樹立できる機会という動機が生じる。さらに、科学的知識が増すことにより、汚染の分布、影響、経済コストに関する生態的・経済的不確実性が低下する。地中海地域海洋プログラムと同じく、これは先進国が自分たちが引き起こした汚染の代償を途上国に支払わせ、経済発展のための資金を別のことに使わせて競争力を引き下げようとしている、という途上国の危惧を軽減することができる。

現在、日本海の海洋環境保護レジーム誕生にとって好都合な要因が揃っている。日本海に接している国は4ヶ国のみで、交渉プロセスはあまり複雑にならない。まず、環境保護レジームをめぐる努力において成功をおさめれば、安全保障や貿易などの国際関係の中心的な要素にも有益であるという認識が高まるであろう。海上の境界が未確定であることは、革新的な管理方法を生む格好の機会になる。水域と水産資源を含む生物相が、相互に絡まり合っていることが、しだいに明らかになってきた。さらに、日本海は比較的汚染の度合いが低く、従って、保存のための絶好の候補である。核廃棄物処分問題とナホトカ号油流出事故というショック療法により、レジームの設置が促進される可能性もある。それらの問題は確実に一般の意識を高め、海洋汚染問題を国家の政策問題という地位に押し上げた。さらに、日本海周辺国で、科学者と自然保護活動家から成る運動体が生まれ、国に対して対策の実現を要求している。

放射性汚染物質の長期的影響に関する恐れと不確実性、情報収集に要する高いコスト、各国の司法管轄権を超えた調査を実施する際の協力の必要性なども促進要因である。最後に、投棄を取り締まる法律の管理と履行の継続、そしてより広範な汚染モニタリングと規制措置は明らかに必要であり、それが政策とアプローチを調整するメカニズムの設置の必要性の根拠となっている。1994年11月にUNCLOSが発効し、海洋環境保護を各国に義務づけ、政府に対してそれを求めてきたNGOに強力な援護射撃を与えて以来、堅実な環境政策の立案を促す圧力は増している。もちろん、南北朝鮮関係は障害になるが、両国の関係が少しでも改善されれば、海洋環境保護に関する協力は、両国が互いの思惑を探り合い、より広い事柄に関して協力するための信頼関係を構築できる機会になる。

手探り状態の関係、競争、司法管轄権に関する微妙な問題、相互不信により、日本海のレジームは当初は協議機関的かつ自助努力的なものにならざるをえないだろう。各国で自国水域を管理しなければならない。だが、協議のための緩やかなメカニズムを使い、共通の政策、共同調査、教育、トレーニングなどについて話し合うことができる。そこで韓国という有能な仲介者が先頭に立つことは、関係国すべてが受け入れるだろう。韓国は、歴史的にそうしてきたように、大国間の緩衝帯の役割を果たし、それらの国々の他国の後に従うことを嫌う傾向を和らげることができる。危険性をはらむ微妙な問題を避けるため、竹島とおそらく千島列島南部も含め、領土権の主張が重複している地域は、協議メカニズムの範囲から当初は除外することも考えられる。

この協議メカニズムは、NOWPAP、WESTAPC、UNDP/GEFなど、海洋環境を専門とする各種国際機関によるイニシアティブの合理化と、UNCLOSに基づく環境面での責任を実行する際の調整における焦点となるであろう。信頼感が生まれ、相談と協力という行動が習慣化すれば、組織化も可能である。この組織には、環境閣僚による会議を含むことができ、会議の代表団は国民に対して直接責任を負うため、プロセスの足を引っ張り、進行を遅らせることは難しくなるだろう。29

レジーム創設のプロセスでは、自然な経緯を認め、段階を経て進化する形でレジームを形成してゆけるようにすべきだ。そのプロセスは、まず限定的かつ一時的に、投棄される放射性物質のモニタリングと浄化、そしておそらく原油流出のモデリングと不測事態対応計画が中心となるであろう。だが、政策担当者はこの限定的な特別措置の段階から次に進むことを急ぎ、より幅広い調整レジームへと移行する準備を整えなければならない。その段階では、規則と手続きについて合意が成立し、だが、参加各国はそれらを独自の方法と独自のペースで実施できる。このさらに一歩進んだ段階では、情報交換、データの収集と分析、協議、研究計画の調整、緊急事態における共同対策案の立案など、サービス機能に焦点を絞る。徐々に追加してゆく形で、しだいに水域利用の競合する部分を取り上げてゆくことにより、より一貫性のある包括的でバランスの取れた体制が生まれる。利用中心から資源中心へと向かう傾向により、汚染からの保護から種の保護、総合管理、きめ細かなモニタリングと研究へと、うまく移行することができる。最終的には、参加国は汚染削減目標、実施状況の報告、情報の一般公開の改善について合意できるだろう。

レジームの環境面での範囲は、大気、船舶、投棄、採掘、陸上起因などのあらゆる主要汚染物質へと拡張すべきだが、それを多数のセクターに分けるべきではない。セクター分割式のアプローチには資金がかかり、官僚にとって馴染みがなく、国民からの支持がなく、各セクター間のニーズの衝突がつきものだ。範囲を拡張しても、拡張部分への資金転用や、各参加国が複数の役割を果たすことは可能だ。範囲を拡張することにより、たとえば日本は放射性物質投棄に対する自国の危惧が取り上げられたことに満足し、ロシアと北朝鮮はトレーニングと研究について援助を受けられることで安心するだろう。

レジームはシンプルに、だが、あまりに緩やかすぎないものにすべきだ。最初の一歩は、問題を正確に把握すること、つまり、特に狭い沿岸水域を越えた水域での海洋汚染のモニタリングと規制のために、系統だった方法で協力するための能力と意志に違いがあるという点の把握だ。これには自国に関する徹底的な検討と、ニーズ及び意図の特定が必要だ。権利と規則を定め、それらについて合意しなければならない。当初、各国政府はたとえば韓国の基準を参考にして合意された基準に従い、かつこの地域の最先進国である日本のモニタリング能力を使い、自国の司法管轄圏内を管理する。決定はコンセンサスに基づくものとし、規則に対し自発的に従うことによって決定内容を実施する。この初期段階では、遵守を強制する試みはほとんど意味がなく、また、アジアの国々は国際的なフォーラムでの投票を好まない。規則の遵守は違反の発見、公表、説得、そしてレジームにひとたび参加した以上、レジームから意図的かつ継続的に「離脱する」ことによって生じるコスト − 面子を失うという点も含めて − によって保たれる。意見の食い違いは、作業委員会の会合で、あるいは必要に応じて全体会議で、オープンに討議される。

時がたてば、レジームの機能も法律と政策の調和が取れた高いレベルに達し、共通の標準と規則の設置、モニタリング、実施が、各国の水域で、各国のチームによって行われるようになるだろう。最終的には、各参加国からの技術と政策それぞれの分野の代表で構成される事務局を備えた組織が設けられ、そこで地域の政策、法律、標準、手続き、トレーニング、調査と環境アセスメント、管理に関する勧告がまとめられるようになる。地域の自主的取決めは、効率、柔軟性、規制と利用の簡便さという面で、国際機関が主導・管理する活動よりも望ましいと思われる。だが、UNEPが試みてきたように、国際機関がプロセス開始の触媒役を務めることはできるだろう。また、国と個人両方のレベルで、リーダーシップは不可欠だ。条件は揃ったものの、レジームを政策決定にまで移行させる作業に加わるよう、他の国々の同僚を説得し、誘い込む充分なエネルギーと能力を備えた人物の登場が待望されている。

日米は、具体的に何を行い、どの作業に焦点を絞ってイニシアティブを取るべきなのだろうか。地域協力に最も適しているのは海洋環境のモニタリングとアセスメント、海洋環境法の立法化・改善・調整、31海洋汚染防止技術の移転、特に船舶が関与する事故による緊急汚染事態での海洋汚染との戦いである。教育とトレーニングは、すべての協力分野に盛り込むべきである。環境のモニタリングとアセスメントについては決定を作業の中心とし、高い優先順位を与えられる。優先調査課題としては、日本海の海洋汚染と投棄の状態に関する情報作成で、これはおそらく日本海の生態系、利用状況、汚染に関する動態的なコンピュータ・ベースの地図という形を取るだろう。究極的に必要とされているのは、国内法の調和と、海洋環境保護に関する包括的条約の起草と採択である。それを支える活動としては、水産資源管理の優先順位と最も危険性の高い水域の共同アセスメントなどがある。沿岸水域及び海洋環境の包括的管理に関する勧告を、地域レベルで行うことも考えられる。環境影響アセスメント、海洋公園の協調創設、湿地の管理、産業・農業・家庭廃棄物の規制に関する協力プロジェクトも優先項目である。

国境を越えた問題に関する協力には、相互較正を含む越境汚染に関する研究、基線の研究、緊急事態での協調、紛争中の国境近くまたはそれにまたがる水域での環境法の施行、海洋投棄の複数の国への影響などが含まれる。また、各国のイニシアティブを、国際的な法律・技術上の義務(UNCLOS、LDC、UNEPのNOWPAなど)と適合するよう、また、互いに適合するよう、調整することも含まれる。

全体的な海洋の安全性と環境保護を促進するため、IMOの調整によって定められた国際条約を超えた対策も考慮すべきである。環境汚染の緩和または予防対策としては、沿岸環境を守るためのタンカー立ち入り禁止水域のまたはタンカー周辺の護送船つき移動安全水域の設置などが考えられる。また、多国籍の要員で構成され、影響を受ける水域の司法管轄権とは無関係に即座に行動する権限を持つ地域緊急汚染対応チームの編成も可能だ。緊急対応用船舶、汚染制御機器、タンク、牽引装置、その他の緊急設備を装備した強力なタグボートを、すぐに利用できるよう準備しておかねばならない。既存の調査・救出団体と設備を核として、そのような汚染対応チームを編成することができる。日本海周辺国による汚染事故被害のための地域補償基金の設置も考えられる。

海洋環境保護レジームは有益だが、参加国各々にとって内容が異なる。日本海を廃棄物投棄場所として自由に使うことはできなくなるが、きれいな海はどの参加国にとっても有益だ。現実の利益は莫大だが、汚染の度合いが低下した環境の影響が現れるには時間がかかり、汚染と生態系への被害との因果関係については不確実な要素があるため、利益を数量化することはできない。おそらく最も重要なのは、海洋環境に関する技術と専門知識のレベルが、地域全体で均等になることだろう。この取決めの全体的目的は、日本海の海洋環境の管理である。だが、かなり明白な事実として、平等の実現という目的もある。それは越境効果を持つ可能性がある汚染を規制する各国の能力と責任の増大という意味での平等、すべての国のための豊かな国からの技術と知識の移転という意味での平等である。つまり、最大のトレードオフは、日本と韓国からのトレーニング・装置・技術援助と交換に、中国、北朝鮮、ロシアが共通の最小廃棄基準を伴う予測可能なレジームに従うことによって日本と韓国が獲得する利益である。


脚注[参考資料の題は省略]

24 たとえば、日本海の北部と南部では、水路、潮流、大陸棚の幅、海底地形、沿岸地形という点で大きく異なる。日本海の水路と潮流は、北部と南部ゾーンの水温と塩分の違い、潮流のパターン、ゾーンの交わりという点で、むしろ「ミニ大洋」の状態に似ている。また、大和湾、富山湾のような場所では、沿岸と海底の地形が複雑に結びついた狭い大陸棚と滑らかな海岸線とのコントラストも見られる。