| Lyuba Zarsky Jason Hunter |
ノーティラス研究所
Nautilus Institute for Security and Sustainable Development)
人口と産業の集中している沿岸都市は、海洋汚染の問題源または解決策として、重要である。沿岸都市は、水道インフラへの融資、企業による水質汚染の規制などにより、重要かつ独自の役割を果たすことができる。たとえ国家政府の行動が鈍くても、海洋管理を改善するために、都市は大幅な進展を図ることができる。汚染とともに生活しなければならないのは沿岸都市市民であることから、沿岸都市の市民および政府は、汚染を緩和することについて強いインセンティブをもっている。さらに、国家政府に比べて、沿岸都市は、市民グループやNGOに対し、パートナーとしてより開いた態度をとることができるため、汚染管理の費用を削減し、規制の執行を改善しやすい。また、都市政府は、国家政府が縛られがちな地政学的制約から逃れやすいので、共有の分水嶺、沿岸地域または海洋を保護するために他国の都市と集団行動をとることができる。
本書の目的は4つある。第一の目的は、政府、産業界および地域社会の協力活動に基づく環境管理の「新しいモデル」の骨子を提供することである。第二の目的は、a)水源インフラへの投資の増加、およびb)水質汚染および保全に関する産業界の活動を促す、という2つの次元で海洋汚染に対応するにあたって、そのような新しいモデルがいかに重要であるかを追求することである。第三の目的は、このモデルが、都市国家という文脈に、何故、どのように、根づくことができるかについて考察することである。そして、第四の目的は、このモデルを北東アジアおよび日本海沿岸国という文脈で検討することである。
| 1. | 革新的なアプローチ導入の必要性 |
| 2. | 複数のアジェンダ:環境管理の新しいモデル |
| 2-1 正式な規制 | |
| 2-2 非公式な規制 | |
| 2-3 産業界 | |
| 3. | 内陸活動による汚染の削減 |
| 4. | 沿岸都市 |
| ・ | 参照 |
国際化は、ゆっくりしかし確実に世界の統治方法に変化を与えている。経済成長の追求により国家予算が制約されるにつれて、各国政府は、政府権力の主な領域を急速に地方政府へと委譲しつつある。地方政府により大きな政治的権限と責任が移っていることは、多くの都市にとって歓迎すべき現象ではあるが、その一方で、地方政府は、急速に増えている社会的、経済的、環境的要求を満たさなければならないという、途方もない試練に直面している。
さらに都市は、脆弱な財政基盤、乏しい経験、弱い統治能力に悩まされており、これにより世界の多くの都市は基本的なインフラを維持することができずにいる。これらの政治経済的弱点が、健康、経済および政治的安定性に最大の影響を与えている分野の一つに、沿岸都市が上水道インフラを持続可能な方法で出資、建設、運営するに際して直面している困難がある。そして、この課題が最も重くのしかかっている地域は、東アジアである。
環境問題に対する国家政府の態度が劇的に変化したにもかかわらず、東アジアの都市は、内陸活動による海洋汚染の主な原因地域であり、この傾向は急激に高まりつつある。地域汚染を管理するための試みが「泥沼に入った」理由は数多くあるが、アジア太平洋地域において特に顕著な理由は3つである。第一の問題は、財政的制約である。環境行動一般そして特に水質管理を改善するためには、多額のインフラ投資が要される。投資範囲は、水質管理および配水システム等の「施設および設備」のみならず、環境に関する情報システム(特に行動指標)の開発および保守や技術トレーニングにまで及ぶ。多額の投資の必要性は、--恐ろしいものであるが--財政危機の状況では特に途方もない問題である。特に東南アジアでは、環境インフラへの公共出資は削減または横ばいとなっている。
第二の問題は、規制および政策能力の欠如である。工業排気物は、内陸活動による海洋汚染の主な原因となっている。問題の一部は、低い水道料金にある。工業(および他の)目的で水を使用している利用者が、配水サービスのコストを全額負担している例はほとんどない。実際、配水サービスは通常、政府により補助されている。しかし、効果的な計量システムには投資が必要であり、この問題は、財政的制約の問題に戻る。水道料金の改革を行わなくても、効果的な産業規制を行うことにより、低予算の戦略で、三角州、河川および沿岸地域の水質を改善できる可能性がある。しかし、現行規制の執行が-伝統的な統制と管理モデルに基づくと-東南アジア(そして、北アメリカでも)では困難であることは証明済みである。執行が困難な理由はいろいろあるが、これには、環境官僚に対する予算が足りないこと、腐敗、そしておそらく最も重要な理由として、インセンティブが充分に与えられていないこと、が含まれる。
第三の問題は、政治的意志の欠落だ。主に、国際環境問題は貧しい諸国とは往々にして異なった優先課題をもつ裕福な諸国によって主導権が握られている。政府主導者や官僚が条約に調印し、「行動アジェンダ」を策定しても、これらのアジェンダを実行にうつす有効な政治的要求が--エリートからも、市民グループからも--国内的にほとんどない。同様に、国内環境立法が可決されても、執行されることは稀である。多くの場合、急速な経済成長が優先され、環境行動への支出に対するインセンティブはほとんど与えられない。さらに、財政困難時には、--現在の危機のように--政府歳入を増やすための安易な手段として、しばしばインフラ・プロジェクトが最初に削減される。東南アジアの多くの諸国では、地域社会および非政府グループが懸念を表明する経路が少ない、という現実が優先順位の歪曲化に拍車をかけている。政府が市民の行動に過敏になったり、市民の行動を疑問視する場合もある。
これらの制約を克服するためには、インフラ融資および環境規制とその執行に対して革新的なアプローチをとらなければならない。また、これらの課題を満たすことと、人口の大部分に清潔な上下水へのアクセスと提供すること、産業の成長のための清潔な水質確保を含む東アジアの水質管理の主な優先課題、を関連付ける必要がある。さらに、問題の克服には、より大きな地域社会の責任と行動を目指さなければならない。
本書は、水道インフラへの融資および工業活動による水質汚染の規制において沿岸都市が重要かつ独自の役割を果たすことができるということを提起するものである。人口および産業が過度に集中している沿岸都市は-例えば、内陸活動による海洋汚染などによる-実質的な汚染原因地域となっている。一方、たとえ国家政府の行動が鈍い場合でも、都市は、大幅に沿岸管理を改善させることができる。さらに、汚染とともに生活しなければならないという事実により、都市は汚染緩和に対して特別なインセンティブを与えられている。
沿岸海洋汚染について行動をとるにあたり、国家政府よりも都市が優位にある可能性がある。都市は、パートナーとしての市民グループや他のNGOに対して、より開いた態度をとることができ、そのことが汚染を緩和し、規制執行の改善することに役立つかもしれない。また、都市は、国家政府が縛られがちな地政学的制約から逃れやすいので、共有の分水嶺、沿岸地域または海洋を保護するために他国の都市と集団行動をおこすことができる。
本書の目的は4つある。第一の目的は、政府、産業界および地域の協力活動に基づく環境管理の「新しいモデル」の骨子を提供することである。第二の目的は、水源インフラへの投資の増加、および水質汚染および保全における産業活動を促す、という2つの次元で海洋汚染に対応するにあたって、そのような新しいモデルがいかに重要であるかを追求することである。第三の目的は、このモデルが、都市国家という文脈に、何故、どのように、根づくことができるかを考察することである。そして、最後に、これらのアプローチを実行するにあたっての課題ならびにこれらの障害を克服するための潜在的な方法を探る。本書は、これらの問題を東アジアの都市という視点から検討する。世界最大の沿岸都市集中地域であり、先進国と発展途上国が混在しており、急速に経済発展をとげている東アジアの都市は、都市が直面している問題を幅広く体現しており、都市環境管理への革新的アプローチの試験的地域として、優れた土台を提供している。
伝統的な環境管理モデルでは、規制、規制執行および公共物への融資、公共事業運営の役割は政府、通常は国家政府、に課される。米国であれ、中国であれ、政府は、企業および地域社会に対して、-規制者と被規制者、提供者と消費者-という2者関係にある、と伝統的に理解されてきた。この「統制と管理」モデルでは、政府は、直接アメとムチを握り、公共物を提供する「良い親」としての役割を与えらている。
この伝統的モデルは、米国および他の地域で、環境行動を改善することにある程度成功したものの、費用がかかり、厳密であるという理由で、再検討されている(Ruckelshaus 1998)。規制に関しては、統制と管理モデルでは、規制執行に多額の資源が要される。公共物に関しては、政府によるサービスの提供には、腐敗、派閥の利害の衝突、価格の政治的決定、といった問題がつきまとっている。
東アジアでは、 管理統制モデルはあまり効果的ではなかった。1990年代初期には次々と環境立法が可決されたが、その執行は鈍く、その原因の一部は資金難(および政治的意志の欠如)にあった。国家政府は、非効率的な税制、他の支出(特に軍事)を優先すること、腐敗、そして最近では財政危機などにより、公共物の提供者の役割を担うにあたって、制約をうけた。さらに、東アジア諸国のなかには、堅固な法的伝統のない国もある。
新しい環境管理モデルは、支配-―被支配という2者間関係ではなく、複数の関与者と複数のインセンティブという概念に基づいている(Afsah他1996)。新しモデルは、環境管理に関する社会的規範を設定するにあたって、主に3つの関与者、つまり政府、産業界、地域社会、が相互に関連しあうことを提起している。政府は、他のセクターに影響を与えるために直接行動するだけでなく、非直接的な行動、例えば地域社会が産業界に対して働きかけることを可能にする政策を策定し、権限を与えること、またはその逆、によって環境行動を改善するという社会的目標を達成することができる。特にこれは、地域社会が産業規制に一役かうことができること、また産業界(および地域社会)が公共物の提供に一役かえること、を意味している。
最も重要な点は、「三角モデル」が、政府が、環境行動の促進にあたり、他の2つのセクターをてことして利用できること、を意味しているという点である。このてこの作用こそが、前述した3つの障害、すなわち、財政的制約、規制能力の欠如、政治的意志の欠落、を克服する鍵となる。
産業界の環境行動を改善させるにあたっての地域社会の役割は「非公式な規制」という言葉で表現することができる。Afsah他 (1996)によると、「アジア、ラテンアメリカ、北米の最近の事例は、近隣地域社会が工場の環境行動に強力な影響を与えることができることを証明している。非公式な規制の関与者は、地域宗教機関、社会的組織、地域社会の指導者、市民運動または政治家など様々である。工場が工場廃棄物による損害を削減できない場合、工場は、社会的規範および/または明示的、非明示的な社会的、政治的または物理的な制裁という脅しに応え、地域社会と直接交渉することができる。」
非公式な規制により、地域社会は、規制を査察し、執行する費用を削減することができる。地域グループの助力により、政策ギャップや歪曲したインセンティブを識別し、技術的支援を提供し、政府のイニシアティブに対する市民の支持を得ることができる。環境規制における地域社会の役割を認識するにあたって、政府は地域社会の関与と地域社会による圧力をどのように効果的に利用できるか、に焦点をあてる。政府にとってその鍵となるのは、情報収集および情報開示ならびに市民と企業グループが直接互いに交渉できる場を提供することである。
地域グループはまた、水の供給および管理を含む公共財の提供者としての役割を果たすことができる。例えば、パキスタンのカラチにあるオランギのスラムでは、地域グループが協力して下水を敷設した。資金と労働力を貢献することにより、地域社会は、政府によるプロジェクトの5分の1の費用で地下下水道パイプを敷設することができた。12年間にわたり、200万ドルを投資し、90,000世帯に下水を提供する下水道を敷いたのである。このプロジェクトは非常に低額の助成金で開始された(World Resources Institute、Box 6.2)。
新しいモデルのもう1つの重要な関与者は、公共財の提供者または提供パートナーである産業界である。水の供給および管理の分野では、特に発展途上国では、国家は非常に非効率的である。ADBの調査によると、1987年には、アジアの都市人口の40%以上が、適切な衛生設備へのアクセスを持たなかった。下水システムが敷設されている地域では、90%以上の下水が未処理のまま放水されていた。さらに、上下水システムの設置は非常に困難で、--国家の助成価格で--通常、裕福な人々だけが、上下水をつなぐことができた。民間の配水業者から水を購入しなければならない貧しい人々は、裕福な人々の10倍以上もの支出を余儀なくされている(Lohani, 1997)。
こういった状況で、政府はますます水の公共サービスを民営化する方向へと傾いている。しかし、水道料金が大幅に助成されていることを考慮すると、水供給ビジネスで利益をあげることは容易ではない。水の保全およびインフラ投資を促すという両方の意味で、おそらく唯一最も可能性がある市場化へ向けた政策イニシアティブは、政府が水道料金を全費用負担価格にまで、確実かつ着実に、少しずつ上げていくことだろう。全費用負担価格ベースの水の計量システムを導入することにより、家庭および企業に対して、水保全のインセンンティブを与えることができるだろう。
しかし、水道料金を上げることは、政治的に微妙で反撃をうけやすい。これは民間の投資家が見逃さない事実である。例えば、マレーシア政府は、東アジアのどの国よりも大規模な民営化を行った。65%の廃棄物が未処理のまま直接水道管へ流入するという状況で、マレーシアは、財政的技術的制約を克服するために、1993年に国営下水処理システムを民営化した。譲渡契約(concessions agreement)に基づき、Indah Water Consortiumは、28億ドルの契約で下水処理設備を修復し、新たに敷設するよう依頼された。最初の指標では廃棄物の削減が表示されたものの、消費者が料金について抗議しているため、進展は遅れている。数回にわたって、政府が関与して料金を下げることを余儀なくされた(Kohli 1997)。
マレーシアの事例は、地域社会が政府の目的達成の助けとなるだけでなく、障害となる可能性もあることを証明している。地域社会への影響と予想される地域社会の反応を無視する政府-産業界は、反撃を受けやすく、麻痺する可能性がある。反対をまねく原因の一つは、計画作成過程における参加の欠如である。複数の関与者モデルでは、政府は、水道料金変更などの重要な政策イニシアティブを実行する前に、少なくとも地域社会の支持を得ることの重要性を認識すると考えられる。
沿岸都市の内陸活動による海洋汚染源を削減するためには、1)水の供給および管理インフラに対する多額の投資、2)産業界(および政府)による環境行動の大幅な改善、という広く2つのイニシアティブが必要である。序論で指摘した障害、すなわち、財政的制約、規制能力の欠如および政治的意志の欠落を鑑みると、複数関与モデルの採択が、内陸活動による地域汚染源に対応する唯一の方法である可能性が高い。以下に、このモデルの2つの広い応用例について述べる。
アジアにおける水の供給および管理に対する投資ニーズは停滞している。UNEP(1997)によると、太平洋に放出された廃棄物の70%までもが未処理のまま排出されている。生態学的に破壊的な養分の排出のみならず、未処理廃棄物は、コレラ、肝炎、サルモネラなど下水で生成される病原菌の主な原因となっている(WRI, 1996)。バンコクの年間死亡者の6%は水中で生成された病原により死亡している。問題は、アジアの貧しい国々に限られたものではない。1991年の段階でも、韓国は、地域廃水の僅か3分の1のみが処理工場へ送られた、と報告している。ADBは、安全な飲料水へのアクセスがあるのは、地域全体で、都市人口の僅か60% および農村地域の僅か40%のみで、2億7000万以上の都市住民が適切な衛生状態におかれていない、と見積っている。
適切な水および衛生インフラに対する必要資金額を見積ることは難しい。技術および設計の選択に加え、都市地域への水供給に対する将来的な費用は、大変不確実である。その理由の一部は、過去の汚染のために、新たな水源が都市部からより離れた所へおかれるために、都市部までの配水費用がよりかかることにある。さらに、社会的選択がある。たとえ人口の100%にサービスを提供することを目標にすると全員が合意したとしても、需要を満たす料金に関して選択をしなければならない。
水および衛生インフラに対する投資必要額の見積りとしては、1994年にADB調査のために行われたPaul Weatherleyによるものがある。Weatherleyは、通常の業務の場合と、加速累進の場合、の2つのケースを想定した。通常の業務の場合とは、過去7年間から2000年までの動向を予想したもので、過去7年間に利用者数が減ったことを考慮して、この見積りは、投資レベルを同水準に保ったとしても、清潔で衛生的な水へのアクセスをもつ人の率はより少なくなるだろうとした。この想定の下で、Weatherleyは、ADBの発展途上市場国では年間78億ドルの投資が必要であろうとした。加速累進の場合については、1994年の利用率より大きくなると考えて、年間投資要求額は131億ドルとした(Weatherley 1994, 表1.7-1.10)。
水のインフラ融資の伝統的なアプローチ--公共セクターと多国的銀行による融資--では、試練を乗り越えることができない。多国的資金および二者間援助予算は縮小している。さらに、公共セクターの投資と水の供給および衛生に関する業務は非効率的で非最適である。最近の調査では、「数少ない例外を除けば、」「公共セクターによるインフラの提供は非効率的で費用がかかり、社会的、環境的問題にはあまり注意が向けられない。多くの公共サービスは赤字で政府から多額の助成金を受けている。それにもかかわらず、サービスの質は低く、サービスの範囲も限られている。」(Panayotou, 1997, 1)。
インフラ一般、特に水の管理、に対するニーズの増加に対応する唯一の方法は、民間セクターの参加を高めることである。しかし、インフラ投資には、政治的リスク、長期的および/または低いリターン、高い人件費、長い投資期間という特徴がある。水および衛生投資は特に問題が多い。固定費投資の年間収益に対する比率は10対1である(Panayotou 1997, 3)。発展途上国で活発な投資が行われている電力と違い、民間投資家は水インフラへの投資には積極的ではない。「上下水」は、世界銀行のJohn Briscoe氏の言葉を借りると、「リターンを回収するのに時間がかかる、高リスクのビジネスである」(Economist, 1998年3月21-27日号より引用)。
こうした状況で、政府には2つの選択肢がある。第一の選択肢は、資産の公的保有を維持しつつ、管理、運営または投資を委託することだ。これには、サービス契約、管理契約、リース、または免許制などの手段が考えられる。第二の選択肢は、全部又は一部の、一時的又は恒久的な、民営化だ。これまでに利用されたり、または提案された革新的な手段のなかには、政府による保証、事前に決定された収益流列、免許制、共同所有およびさまざまな自主建設譲渡または自主建設運営(BOT/BOO)プログラムなどがある。
このようなパートナーシップにおける政府の重要な役割の1つは、双方に対するマーケット・リスク、技術リスクおよび/または政治リスクを管理し、削減することである。投資家に対して特定の保証を与える他に、政府は国内の安定統治を維持し、民間投資家の優れた環境行動、社会的行動を保証しなければならない。また、政府は譲渡税政策、裁量融資、および官民投資家を組み合わせることによって、金融ブローカーとしての役割を果たすこともできるだろう。
アジアにおける内陸活動による海洋汚染の主な原因が産業廃棄物であることは、データがほとんどないとはいえ、明白である。例えば、1993年の世界銀行のインドネシア調査は、ジャバの複数の河川の汚染の25-50%が産業汚染によるものであるとの結論を出している(世界銀行、1993年、p. 70)。さらに最近では、ADBが、バンコクの排水の25%、マニラの排水の35%が産業廃水であると見積っている(Lohani, 1997)。
東アジアの都市の急速な経済成長の多くは沿岸都市に集中しているが、環境規制はほとんど、または全く執行されていない。伝統的な方法で産業を規制することはあまり効果的とはいえない。産業界の環境行動を改善させる必要性は下記のとおり明白であるにもかかわらず、伝統的規制モデルが僅か最低限の効果しかあげていないこともまた明らかである。
複数関与者モデルは、「非公式な規制者」として地域社会と消費者を利用する新しいアプローチに目を向けるものである。例えば、インドネシアでは、有力企業の環境行動を評価するシステムとして、5色の評価システムが導入された。黒(つまり、標準以下の行動)と評価されることに対する危機感が、多くの企業にとって環境管理に投資を増やす動機となった。フィリピンの環境天然資源局(Department of Environment and Natural Resources, (DENR))は、インドネシアのモデルを模倣して、エコ・ウォッチという公開プログラムと組み合わせた。中国の水質汚染税に関するある調査では、たとえ国中の公式税率が同じでも、有効税率は各省によって異なり、都市部、特に東部沿岸地域で最も高いことが判明した。課税の有効性を決定する重要な要因は「情報、教育、および交渉力などで計ることができる地域環境問題に対する地域社会の理解力と行動力である」との結論が出された(Afsah他1996)。
地域社会が-特にアジアで-産業界の行動を改善させるにあたって、重要な役割を果たすことができるとすれば、政府の役割は地域社会の能力を高めることである。その中心となるのは、情報の収集と開示である。水の使用および排水を含む環境行動の指標は産業界および地域グループ双方にとって特に効果的だろう。そのようなデータは工場に基盤をおいたより大規模な環境管理システムの一部に利用することもできるだろう。情報公開は非常に重要となりうる。さらに、政府は地域社会が技術的情報をよりよく理解できるように助け、地域社会と地元企業間の議論と交渉の場を設ける必要がある。
情報の重要性を考えると、政府は企業に情報提供のインセンティブを与えることについて検討する必要がある。企業は、優れた環境行動に対して、公的に見返りを受ける必要があり、逆に、悪質な環境行動に対しては評価がさげられる必要がある。さらに、企業は、水の管理を改善させるための技術および管理能力の向上について政府や地域社会からの支援を必要としている。米国環境保護局(EPA)の最も効果的な環境管理方法の1つは有害物放出調査(Toxic Release Inventry (TRI))という1986年の規制だが、これは一定の産業セクターに対して環境排気および化学物質の移転を公的に報告することを要求するものである。1998年に、EPAはこのプログラムを、リアル・タイムの査察データを市民に提供するために複数の関係者を関与させる公共評価および地域社会のトラッキングのための環境査察プログラム(Environmental Monigoring for Public Access and Community Tracking(EMPACT))へと拡大した。
前記では、沿岸海洋汚染問題に対処する(そしてその他の環境行動を改善させる)ためには、環境管理における複数関与者モデルが重要であると主張し、革新的インフラ融資と産業の地域規制という同モデルの2つの応用方法を提案した。三角モデルを構成する「産業界」と「地域社会」については検討したが、「政府」に関する議論にはまだ焦点をあてていない。次章では、都市および地方自治という観点から、上記の問題に取り組むにあたり、このアプローチをとることの利点について考察する。
沿岸都市は、内陸活動による海洋汚染の主な原因である。都市は、一般に人口増加および産業活動の面で活発な地域といえる。ADBの調査によると、アジア太平洋地域の経済活動の80%が都市部で行われており、現在東アジアの人口の57%が都市に住み、2015年までには67%が都市に住むことになるだろうと考えられている(Torrie, 1997)。驚くべきことに、この人口の大部分が沿岸地域に住んでいる。人口1000万人以上の世界の6沿岸都市のうち5都市がアジアの都市であり、また人口100万から1000万人の世界の都市のうち半分がアジアの都市である(WRI, 1997)。将来25年間に都市人口が125%以上増加すると予想されている中国だけでも、4億人以上の人々が沿岸地区で生活しており、中国の生産力の60%を支えている(Dua,1997)。
都市は、産業および人口の面で絶対的に重要なだけでなく、国際経済への入り口でもある。輸出産業、金融サービス、輸入会社は驚くべきほど都市に集中しており、その多くが沿岸都市にある。20世紀末において、都市は、国際的、国内的に重要な要因となったといえる。
環境管理を改善させるためのインセンティブ、--つまり、都市の人々および企業は汚染とともに生活しなければならないということ--を考えると都市には国家政府より迅速な行動をとれるだろう。さらに、都市は政治的負担がより軽い立場にあり、衝突する利害のバランスをとらなくてはならないケースが国家ほど多くない。また、都市は、都市生活の改善を目的とした実際的な目標に明白な焦点をあてている市民グループや地域グループに対して、より開いた立場とることができるかもしれない。地域レベルで行動すれば、イデオロギー重視のNGOさえも、建設的で積極的になる傾向がある。
環境行動、特に水およびエネルギーの管理、の改善に対して都市が特別の利点と機会をもっているという考え方は、過去10年間の間に浸透した。エネルギーの保全と効率化を促進する地域プログラムを開発するという点で最も進んだ都市は、アメリカ、オレゴン州の都市ポートランドかもしれない。ポートランドには、圧倒すべきイニシアティブがあり、これには、貧しい地域の住宅をエネルギー効率の良い住宅へ改良することに対する融資援助や、より効率的な供給業者からの電力の購入、また公共サービスの共同パートナーシップなどの様々な方法で、企業と地域社会が共同行動をとることが含まれている。同市は、公共サービスとの関係は「教育機関、民間企業のパートナー、融資機関、規制機関、購買機関そして集合体としての、市の役割」に発していると説明している。
インフラ融資において都市が行動をとることの利点の1つは、都市が国際市場で借入れを行う際に独自の信用格付けを利用できることである。多くの場合、都市の信用格付けは国家の信用格付けより高い。例えば、バルセロナは、スペインの格付けが下がっている時に、バルセロナ債の格付けを維持し、上げることができるようイニシアティブをとった(Anders 1996)。
地域政府に大幅な管理権を与えるという点でアジアをリードしたのはフィリピンである。フィリピンの1991年地方政府法(Local Government Code)に基づき、地方政府はより大幅な自治権、より多額の地方交付金、地域資産税増税権、および独自課税権を与えられた。歳入を管理する権利を地方政府に与えることにより、地方自治体は管理することを学び、様々な歳入源を利用することに対してより大きなインセンティブを持った。
マニラは、この新しく考えられた柔軟な手段を利用して、民間セクターの組織に権利を譲渡し、推定50-70億ドルという上下水システムを改新するための費用要件を満たした。このプロジェクトは、多額の資金コストへの都市の負担を緩和するだろう。権利譲渡は安全な歳入フローで構成され、国際金融公社(IFC)により保証されている。また消費者は低い費用で水および環境の質を改善することができた(ADB 1997、Box 5)。
南フィリピンの都市セブでは、地方政府がフィリピンの40大企業と非政府組織からなるセブ投資促進センター(Cebu Investment Promotion Center(CIPC))(APCF 1998)を設立した。このコンソーシアムの目的は、インフラ・プロジェクトに対する海外の民間セクターの関与を誘致、促進することである。同様に、同市は、開発による有害な影響に対応するためのNGO/政府のイニシアティブであるセブ・インターエージェンシー・コミッティーを設置した。この2つのプロジェクトは、投資を誘致し、開発課題に取り組み、民間セクター、政府およびNGOのパートナーシップを形成することにより、セブの開発にとって不可欠な一部となっている。
都市内における水、海洋および沿岸管理慣習を改善するのみでなく、都市は、国境を超えた海洋沿岸管理体制を促進するのに一役かうことができるかもしれない。例えば、東北アジアでは、地政学的な緊張により、共通の沿岸地域管理プロトコールを作成しようとする地域的協力体制が行き詰まっている。日本海沿岸国は、共通の基準および慣習を築くために、共同して自発的に動くことができた。
環境管理において都市が主導権を握ることの欠点の1つは、地方政府が地方開発、不動産またはその他の経済的利権にとらわれる危険性があることである。さらに、地方レベルでの行動が地域社会にとってアクセスしやすいことには、長所と短所がある。潜在的に衝突する利益をもっている多くのグループが関与することによって、政策が麻痺することもありうる。産業界および地域社会と共に効果的に行動するためには、都市は3つのパートナー(政府、産業界、地域社会)の間、および産業界と地域社会の間、で政策を形成し、議論を行なうための制度的メカニズムを意識的につくる必要がある。また都市は、環境、社会、経済情報を収集し、市民に提供することの重要性を真剣に捉える必要がある。
さらに、これらの戦略を実行するために、国際的協力体制により、都市が効果的に統治を行う能力を高めなくてはならないことは明白である。最も優れた慣習、ノウハウ、および技術を共有するための数多くの国際的プログラムはすでにいくつかあり、こういったプログラムを模倣したり、拡大するべきである。北九州の技術訓練センター、日本海(東海)沿岸国の都市間の環境問題に関する協力体制を築こうとする富山市の試み、そして本会議開催にあたっての東京都の試み、など本会議の主催国である日本で行われているいくつかの試みは、優れた事例といえる。これらは全て、環境行動を改善するために都市が協力できる方法へ目を向けたものである。
20世紀末に、都市は国際的舞台における重要な参加者として台頭した。上記に記載されたものと類似のアプローチが、20世紀における都市の新しい役割にとって役立つことを希望する。
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