国際大学グローバル・コミュニケーション・センター(GLOCOM)

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終了 GLOCOM研究交流会 第2回「ネットは社会を分断するのか?」

GLOCOM研究交流会は、GLOCOMネットワークの皆さまと研究員が、カジュアルに研究について意見交換・交流をすることを目的として開催している会で、四半期ごとに開催しております。

第2回となる本会では、国際大学GLOCOM主幹研究員/慶應義塾大学経済学部教授の田中辰雄氏より、「ネットは社会を分断するのか?」というテーマで話題提供いただきます。30分ほどの話題提供の後、フリーディスカッションを予定しております。

多くの方と意見交換できるのを楽しみにしております。ご参加を心よりお待ちしております。

日時

2019年10月8日(火)15:00~16:30

会場

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター

定員

30名(先着順)

講演概要

タイトル:「ネットは社会を分断するのか?」

報告者 :田中辰雄(国際大学GLOCOM主幹研究員/慶應義塾大学経済学部教授)


インターネット草創期にはネットは議論を通じて多くの人の相互理解を進めると期待された。しかし、現在ネットはネトウヨ、パヨクなどど呼ばれる極端な意見の人の罵倒と中傷ばかりの荒れた世界である。このまま社会は二つの罵倒し合う勢力に分断されてしまうのだろうか。この問いに答えるべく大規模調査を実施した。結果は意外なことにネットは社会を分断しないというものであった。この荒れた状況下で、なおネットは分断ではなく相互理解を促進している節すらある。ネット草創期の人々の期待はまだ死んでいない。

※会場にて10月公刊予定の新著を先行販売する予定です。


司会進行:山口真一(国際大学GLOCOM主任研究員/講師) 

申込み

→定員に達したため、お申込み受付を終了させていただきました(9/26 17:30)

問い合わせ先

国際大学グローバル・コミュニケーション・センター
 GLOCOM研究交流会事務局
 小島安紀子 akiko[at]glocom.ac.jp ※[at] を小文字の @ に置き換えて送信してください。
 〒106-0032 東京都港区六本木6-15-21 ハークス六本木ビル2F
 TEL:03-5411-6677 FAX:03-5412-7111

イベントレポート



レポート概要

GLOCOM研究交流会は、研究員と参加者が、カジュアルに研究について意見交換・交流をすることを目的とし開催している会です。第2回となる本会では、10月10日に発売となった田中辰雄研究員(GLOCOM主幹研究員/慶應義塾大学教授)の書籍「ネットは社会を分断しない」の内容をベースに、30分の話題提供の後、1時間のフリーディスカッションを行いました。講演では、5万人の追跡調査・分析によって、ネットの利用が人々を極端化するような傾向はみられなかったばかりか、むしろ若い世代の穏健化に貢献していることが示され、ディスカッションも大いに盛り上がりました。


◆ 分断化がすすむ現代

インターネットの創世期は、対話と理解が進み民主主義を良くするという期待が持たれていた。しかし、現在のネット上の言論空間をみると、誹謗・中傷によって分断化が起きてしまっている。分極化とは、保守とリベラルが偏り、中庸が少なくなることを指す。行き過ぎた分極化は対話ができず、討論による政策の改善が行われないため、民主主義が機能不全になる恐れがあり問題だ。ピュー・リサーチ・センターのアンケート調査結果では、過去10年の間にアメリカ国民の分極化が進んだことを示している。日本においては、客観的なデータはないが、安倍政権への両極端な評価やネット上の言論での荒れ具合など、その兆しをうかがわせる材料は出てきている。

◆ ネットメディアを使うとむしろ穏健化する

分極化のネット原因説の理由として選択的接触とエコーチェンバーが挙げられる。選択的接触とは、ネットは既存メディアとは異なり自分でSNSの接触相手や訪問サイトを選択可能なため、自分の意見に近い人の意見のみに触れるようになることを指す。エコーチェンバーは、自分の意見を支持する情報ばかりに接していると自分の意見が強まることを指す。これらによってネットは分極化され、社会が分断すると言われている。

政治傾向を調査して分極化指数を算出し、ネットの使用頻度と相関があるかを検証するため、2017年8月に10万人、2018年8月に5万人の大規模なアンケート調査を行った。その結果、Twitterとブログの利用頻度が上がると分極化が進むことが言え、これはネット原因説と整合する。また高齢者のほうが分極化している。

しかし、SNSをしているから分極化したのではなく、もともと政治的に過激な意見を持っているからSNSで発信する可能性もある。また、ネットのせいで分極化するならネットに親しむ若年層が分極化するはずが実際は逆である。そこで、2回目の調査では、SNSを全く使っていない人と新規に使い始めた人を調査比較した。すると、ネットメディアの利用開始で、すべての分極度は低下し、むしろ穏健化の傾向が見られた。統計的に有意なサブグループを調べると、39歳以下ではブログを読み始めると穏健化し、若年層はネットメディアと触れ始めると穏健化する傾向にある。

◆ 選択的接触とエコーチェンバーは発生していない

なぜ穏健化したのか、また選択的接触は本当にあったのかについて調査した。日本の政治に関する論客(27名)とネット上で接触があるかを調査したところ、接する保守論客が増えるとリベラル論客も増えることが明らかとなった。接する論客の中で自分と反対の政治傾向の人の割合をクロス接触比率と定義すると、クロス接触比率の全体平均は0.389で、ほぼ4割となった。「選択的接触でエコーチェンバーが起こる」というには高すぎるように思われるが、他の研究をみると一般性はある。新聞やテレビ番組でのクロス接触比率は0.373で、ネットよりもむしろ有意にやや低い。ブログと紙の雑誌のクロス接触比率を比較すると、雑誌の方がはるかに低い。つまり、ネットで選択的接触をする傾向はみられなかったといえる。エコーチェンバーが起こらない理由として、コストの問題があると考えられる。ネットではノーコストで好きな意見ばかりを集められるが、反対意見を聞くことにもコストが掛からない。

以上より、ネットでは選択的に情報源を選び、自分に賛同する意見ばかりを集めることは可能だが、実際は従来よりも自分と反対の意見にも接していることが明らかになった。そのため、ネットの利用を開始すると、むしろ分極化は抑制される。また、ネットに親しむ若い人ほど分極化せず穏健化するのもそれゆえと考えられる。ネットによって自分と異なる意見に接し、理解の幅を広げることがネット草創期の人の考えた期待であったが、この期待は若年層によってまさに実現しつつある。

◆ ディスカッション

山口:極端な意見を持っている人のほうがネットに多くの書き込みをする。例えば私の研究では、憲法改正について極端な意見を持っている人は14%しかいないにも関わらず、ネット上の言論の半分を占めていた。これをどう捉えるか。影響を受けないのならこのままでいいのか。 田中:「影響を受けないなら問題ない」とも考えられるが、ネットが良い言論空間になるためには極端な意見ではない中庸な人たちのための言論空間の潜在需要はあるだろう。

――極端な意見を排除して「中庸が良い」というのは妥協になるのではないか。
田中:中庸の部分があればコンセンサスができる。現在は両極端の部分の人のみが発信し、罵倒しあっており、何が多数意見かすらわからない状況である。中庸の人は合意形成に参加すらしていない。これは民主主義には良くない。

――年齢を重ねると今の若者も先鋭化していくと考えられるかもしれないが、どう考えるか。
田中:5年位の調査が必要なので、エビデンスベースでは不明。経験則上は、歳を取ると穏健化すると思う。
山口:クレーマーの研究では、クレーマーの特徴として男性で年収が高く、地位もあった人が定年退職後に満たされずにいろいろな人を叱りつけるといわれている。そのため、必ずしも年をとったら穏健化するとは思わない。その一方で、教え子が「Twitterを利用してはじめていろいろな意見があることを知った」という話もしている。今後こうした世代が年を経ることで状況が変わってくるかもしれない。

――情報の量について考えてみたい。ブログはFacebookより文章の分量が長く、文章を書く過程でいろいろな角度から考察することになるから極端な考えに流れないのではないか。長い文章を読み書きするには時間がかかるため論理的な発想も生まれてくる。
田中:確かにブログは穏健化要因になっている。そういう理由もあるかもしれない。

――Twitterの画面のUIが言論に向いていないのではないか。意見表明までにかかる時間によって言論空間が変わると思う。Twitterのような機能で異なるUIと比較すると面白い結果ができるかもしれない
山口:Twitterで著名な人が発言する際に、差別的な表現ではないか確認させるアラートが出るような実験が行われていた。一回間をおいて投稿するようになればもっと良い言論空間になると思う。

――アンケート調査結果で『ネットメディアの利用』とは具体的にどういうことを表しているのか。
田中:アンケート調査において『週に2回以上利用する』と答えたものを集計しており、書くのではなく読んでいることが多いことを想定している。

――ただ読んでいるだけの人は流されてしまいやすいのではないか。また、書く行為を初めたことで極化するのかあるいは穏健化するのかどう考えるか。
田中:おそらく異なるだろう。ただ、数の上では政治について書いている人は5%しかいなく、大勢は変わらない。

――中庸はグレーの意見を表明しているのか、そもそも興味がないのか。政治的分野に興味がないだけというのを表している可能性もあるのではないか。
田中:選択肢の中では、「どちらでもない」「わからない」で分けられており、興味がない人はサンプルからすでに外れている。

――結論は日本の分析だが、米英など他国でも普遍なものなのか。
田中:クロス接触比率や若年層が分極化していないのはアメリカなど他国でも同じなので、同じことが言えるのではないかと考える。

――ネットが社会を分断しないなら、何が分断しているのか。
田中:残された課題であり、今すぐには答えられない。ネット以外のなにかと考えられ、例えば所得格差、移民の急増などいろんな説がある。

――ネットが社会を分断しないのに、なぜネットの議論は過激化して荒れているのか。
田中:ネットは極端な意見ばかりが強調され、それ以外の意見が消える特殊な状態である。それが原因であり、別途対策を立てる必要がある。

――荒れ果てたネットに必要な工夫は何と考えるか。
田中:ゆるいメンバーシップ性だと思う。コミュニケーションツールの最初期は良い言論空間だが、ある程度拡大すると荒れ始める。メンバーシップをある程度で制限することは有用だろう。

――インターネットが、マスメディアやジャーナリズムをビジネスモデル的に壊し、一次情報による事実検証機能、マスメディアによる国民共通の議題設定機能がなくなるから言論が劣化するといわれる。メディアの役割についてどう考えるか。
田中:おっしゃるとおりで、事実検証機能や議題設定機能は残す必要があり、なくなってしまうなら公共的にでも作る必要があるだろう。
山口:情報の量ではなく質を考える時代に来ている。マスメディアがビジネスモデルとして成り立たなくなってくるのは大きな問題だが現状の解決策はない。ファクトチェックのコストを誰が負担するのかという問題もある。
田中:新聞が紙を完全に捨てると解決するかもしれないという説がある。取材のコストしかかからないのであれば、クラウドファンディングなどで運営できる可能性がある。



執筆:永井公成(国際大学GLOCOMリサーチアシスタント)