2006年12月21日
『セカンドライフ』とは何か
インタビュー 土居 純 リンデン・ラボ Business Development Manager
聞き手:庄司昌彦 ┼ 鈴木 健 ┼ 田熊 啓
『セカンドライフ』の急成長
庄司昌彦(以下,庄司)── 米国のリンデン・ラボが運営する『セカンドライフ』は,3次元映像で描かれた自分の分身(アバター)を操作して探検やコミュニケーション,ものづくり,ゲームなどを楽しむ新しいオンラインの仮想世界です.世界中で注目を集めていますし,11月からは日本語でのサービスが始まり日本人ユーザーも増えているようです.そこで今日は,この仮想世界についての理解を深めるために,リンデン・ラボの土居さんにお話をうかがいます.
『セカンドライフ』のサービスがスタートしたのは2003年ですが,ここ数カ月で劇的にユーザーが増えていますね.メディアで『セカンドライフ』を見かけることも増えてきました.
土居 純(以下,土居)── そうですね.つい先日まではユーザー数100万人と言っていましたが,今は約177万人です.2006年中に200万人に届くと思います.特にここ数カ月の変化は大きく,いろいろなことが起きています.これはわれわれも想像していなかったことです.しかも,『セカンドライフ』についての広報活動はほとんどやっていませんから,基本的にバイラル(口コミ)で広がっているといえます.それから,IBMや日産,トヨタ,ロイター通信など大きな企業が参入してきたというのは話題性があり,注目を集めました.特にロイター通信が『セカンドライフ』に支局を設けたというのは大きかったですね.彼らは,記者を『セカンドライフ』に常駐させていますから,リンデン・ラボも把握しきれていないようなことをよく調べてくれています.
プラットフォームとしての『セカンドライフ』
庄司── CEOのフィリップ・ローズデール氏は,『セカンドライフ』はプレイヤーが自由に創造的な活動が行える場であり,そのインフラ整備とツールの提供がリンデン・ラボの仕事であると述べています.何を作りどう使うか,ユーザーの自由に任せているところが興味深いです.
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土居── 現在,かなりの数の企業や団体が『セカンドライフ』に参入してきていまして,新しいプラットフォームとしてこれからどう使っていこうか,模索している状態だと思います.たとえばIBMは『セカンドライフ』の中で大量に土地を購入して,社員ミーティングを『セカンドライフ』の中でやっていますね.IBMの米国のウェブサイトではゲームの可能性を大々的に取り上げています.ぼく自身としては,教育や医療関係の利用なども普及して欲しいと考えています.たとえば,身体的なハンデのために外出をすることが難しい人などにも『セカンドライフ』が広がっていければと考えています.
庄司── 先日は,『セカンドライフ』の中で映画を制作するというセミナーをやっていましたね.
土居── マシネマといいます.マシネマというのはマシンとシネマを合成した言葉ですが,3Dレンダリングエンジンを使ってアマチュアでも映画を作ることができるというものです.ピーター・ジャクソン監督が映画『キング・コング』で,エンパイアステートビルのシーンを撮るときに利用したとも聞いており,将来的にはもっと映画に使われていくと思います.
プラットフォームとビジネスモデル
田熊 啓(以下,田熊)── 『セカンドライフ』は,スクリプトを書けなくてもいろいろな物を作ることができるようになりますから,人の表現の幅を3次元にまで広げてくれると思います.マイクロソフトのOSやGoogleの検索エンジンなどと並ぶ,新しい仮想生活の基盤(プラットフォーム)といえるかもしれません.
庄司── そこで,このプラットフォームを維持し発展させていくための収益源についてうかがいたいと思います.いわゆるWeb2.0では,サービスを無料でユーザーに提供し,収益は広告に依存することが多いといわれますが,リンデン・ラボのビジネスモデルはどうでしょうか.
土居── ビジネスモデルはとてもシンプルです.『セカンドライフ』内での土地の販売と有料メンバーシップです.仮想の土地を売って世界を拡大しながらそれを収益にしていくという方向性でして,広告モデルは今のところは考えていないですね.『セカンドライフ』の中で企業が広告を出すことは自由ですが.
庄司── 先日,バーチャルな土地の売買や道具の開発といった経済活動だけで100万ドルの資産を築いた「ミリオネア」が誕生した,という話題がありましたね.
土居── そうですね.すごいユーザーだと思います.羨ましいですね(笑).どういうビジネスをされようが,そこはユーザーにお任せしています.
庄司── 最近はユーザーの急増に伴って,システム投資やトラブル対応など,この場を維持するための苦労も大きくなっているのではないでしょうか.
土居── 返事したくない質問ですね(笑).でも大きな問題はないです.唯一,ロイター通信の報道があったときに予想以上にアクセスが集中して混み合ったことがあります.あのとき一度だけサーバーが落ちましたね.しかし,土地や島を買う人がいればその分のコストはユーザーが払っていますから,それに合わせてシステムの増強をしていけばいいだけの話です.特に予想外の事態でどうこうということはないですね.
鈴木 健(以下,鈴木)── 『 セカンドライフ』はOSとかプラットフォームであるということを宣言するタイミングが重要だと思います.今はベンチャーにしかできない独自の道を進んでいますが,プラットフォームだと認識されると,同じものを作ろうとするライバルが出てきて厳しい競争にさらされるようになります.Netscapeはタイミングが早くて,Googleはいいタイミングでした.私は『セカンドライフ』には期待しているので,宣言は慎重にしたほうがいいと思うんですがね.
ネットコミュニティとしての将来
庄司── SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)が,今後発展していく方向は『セカンドライフ』のような3次元の仮想空間ではないかという議論もあります.『セカンドライフ』が,気の合う仲間と常に繋がっていたい人々のネット上の居場所として発展する可能性はあると思います.たとえばMySpaceのようなSNSサイトはライバルであるとお考えですか.それともSNSと『セカンドライフ』のコミュニティは異質なのでしょうか.
土居── どちらかというとMySpaceはブログを書きたい,ウェブページを作りたいというニーズから発展していったものだと思います.ユーザーとユーザーの間でコミュニティを作っていくということは共通の要素ですが,ルーツが違う.『セカンドライフ』の内部でブログを書くということもできると思いますし,SNSの基本的な機能はすべて『セカンドライフ』の中にあると思いますが,SNSをライバルとは思っていませんね.
仮想世界のガバナンス
庄司── インターネットには数千万人規模のネットコミュニティがいくつもありますから,『セカンドライフ』も将来はそういった規模になるかもしれません.そうなると,仮想社会も複雑になっていろいろと問題も起きてくると思います.その時にリンデン・ラボは,場の雰囲気や秩序の維持に積極的にかかわるのでしょうか.それともユーザーに主導権を渡して控えめに動くのでしょうか.
土居── コミュニティにアクセスできるユーザーを限ることができるように,島のオーナーはパーミッションをコントロールすることができます.しかし,ユーザー間のトラブルがなくなることはないと思っています.現実社会と一緒ですね.リンデン・ラボは,あらかじめ定めてあるコミュニティスタンダード(六つの禁止事項)を侵された場合には対処しますが,それ以外の場合には基本的には対処しません.われわれが常に監視して,特定の人たちを『セカンドライフ』からいなくさせるように何かをするということはしない方針です.ブログや『セカンドライフ』内で行うタウンホール・ミーティングを活用して,ユーザーの声に耳を傾ける機会は設けていて,それによってわれわれの決断を変えるということはあります.
リンデン・ラボとは
田熊── お話をうかがっていると,リンデン・ラボという会社もとても興味深いです.仮想とはいえ百万人以上の人々がいる社会を運営していますし,実際のお金と連動した経済活動もしていますから,社会学や経済学,政治学,金融などの高度な知識をもつ人たちがいらっしゃるのではないかと思うのですが,いかがでしょう.
土居── 8月に入ったばかりなのであまりよくわかりませんが,確かにゲーム,アニメ,スクリプティング,メディカル,物理学などいろいろなバックグラウンドをもっている人たちがコラボレーションしています.彼らのとても哲学的なメールも社内で飛び交っています.頭の良さや人と人との関係を大切にしていますから,博士号保持者やビジョナリーなど,人材の採用にかなりこだわりをもっているGoogleと似たようなところがあるかもしれません.そして,これだけプロダクト・サービスを愛している会社は正直言ってあまりみたことないですね.プロダクトには会社のあり方も反映されていると思います.
『セカンドライフ』はどこへ行くのか
庄司── 『 セカンドライフ』は今後,どこを目指していくのでしょうか.何でもできる場になっていく,というのも一つの方向ではあると思いますが…….
土居── 難しい質問ですね.技術的な動きとマーケットの動きがどうなるかにもよると思うのですが,おそらく最適な答えは,「1年後,半年後にどういう方向に動いているかわかりません」ということですね.ユーザーがどういう方向を求め作っていくのか,というのはわかりませんから.
庄司── なるほど.ユーザー次第というお答えは,とても『セカンドライフ』らしいと思います.今日はどうもありがとうございました.
"Second Life" ©2006 LINDEN RESEARCH, INC
投稿者 noc : 18:18
2006年11月30日
[研究動向]──発展するゲーム学──
伊藤憲二┼井上明人
DiGRADiGRA 2007 [ http://www.gamesconference.org/DiGRA2007/ ] の設立経緯と海外の研究者について
井上明人(以下,井上)── まず,伊藤先生がかかわってらっしゃるDiGRA(Digital GamesResearch Association)についておうかがいします.このような学会が発足し,開催されるようになった経緯はどのようなものだったのですか?
伊藤憲二(以下,伊藤)── DiGRAができたのは私自身がゲーム研究にかかわる前のことです.よく知らないのですが,DiGRA設立の原動力になったのはフィンランドの研究者であるFrans Mäyräのようです.彼が中心となって国際的にゲーム研究者をまとめはじめ,やがてそれが大きな流れになり,DiGRAとして形になったのだと思います.
DiGRA国際会議はアムステルダムで2003年に最初に開かれて,2005年にバンクーバー,その次が東京で2007年に開催される予定です.基本的にはヨーロッパの研究者が中心になって,こういう会議を運営していこうとしたのでしょう.
研究者が現れて,コペンハーゲンIT大学
井上── 今,ゲームを研究の対象としてとらえるという「ルドロジー」という言葉が出ました.現在のゲーム研究の重要なキーワードだと思いますが,解説をお願いできますか.
伊藤── ルドロジー以前の人文系ゲーム研究は,対比してナラトロジーと呼ばれるものが中心だったのです.つまりゲームを文学を扱うのと同様に論じる,文学研究や映画研究の伝統を引く研究が中心だったのです. しかしそれに対して1999年,Gonzalo Frasca
井上── Gonzalo Frascaの名前がでましたが,ゲーム研究で目立った成果を出している他の研究者についてもご紹介いただけますか.
伊藤── まず,ヨーロッパにおけるゲーム研究の中心地であるコペンハーゲンIT大学の研究者たちをあげることができます.ここには重要な人が集まっています.Gonzalo Frascaの他には,まずEspen Aarsethがいます.彼が先述したゲーム研究誌"Game Studies"を主宰しています.彼自身は自称ナラトロジストの理論的な傾向の強い研究者で,ナラトロジーの分野で非常に優れた分析をしています.
あとはT. L. Taylor.彼女はオンラインゲームの研究をしていて,最近著書を出しました.特にオンラインゲームのプレイヤーのコミュニティに着目しており,プレイヤーのゲーム内のコミュニティだけではなく,ゲーム外の実生活も分析の範疇に含めたコミュニティの研究をしています.
それからJesper Juul.彼はコペンハーゲンで最初にゲームスタディーズで学位(Ph. D.)を取得した人物です.彼の研究は,ある意味でルドロジーを体現したものです.
また,Edward Castronovaがゲーム内経済の分野では重要です.
井上── 確かにゲーム研究の中では重要な人物が集まっていますね.北欧以外で研究機関が多く集まっている地域はどこでしょう.
伊藤── 北米の大学は,ゲーム開発者のための教育プログラムを持っているところがいくつかあり,そういうところがゲーム研究の拠点になっています.たとえば,ジョージア工科大学のLCC(School of Literature, Communication, and Culture)には,Janet MurrayやIan Bogostといった研究者が何人かおり,ゲーム研究をしている大学院生もかなりいるようです.
ほかには,ゲーム開発者の養成とは別のところとして,MITのComparativeMedia Studiesがあります.ここにはHenry Jenkinsがいます.さらに南カリフォルニア大学にはメディア研究をしている研究者がいるのですが,Douglas Thomas,伊藤端子がゲームに関係する研究をやっています.
ゲーム開発者養成に特化したという点から見ると,カーネギーメロン大学のエンターテインメント・テクノロジー・センターですね.
"Rules of Play",ルドゥスとパイディア
井上── あげていただいた方々の中には,国際的に注目を集める研究者が多くいますね.研究成果という観点からおもしろいもの,興味深いものはどういったものがあるのでしょうか?
伊藤── 現在のゲーム研究の成果として代表的なものに,Eric Zimmermanの"Rules of Play"という本があげられます.この研究はこれまでのゲーム研究の成果をまとめ,出発点を作ったという意味で重要です.内容は実践的なゲームデザインの教科書なのですが,さきほどのJuulのようなルドロジー的研究と接合する部分があり,ゲームとしてのゲーム,ルドゥス(Ludus,ラテン語)の側面に焦点を当てています.ゲーム研究自体がこの研究に負う部分が大きいと言えます.
ルドゥスとパイディア(Paidia,ギリシア語)の区分については,フランスの研究者であるロジェ・カイヨワの『遊びと人間』という古典から来ています.カイヨワはルドゥスを「ゲームらしいゲーム,競争」とし,パイディアを「子供の遊びやもっと漠然とした何かやっていて楽しいというようなもの」と区分しています.
井上── パイディアではなくルドゥス的な研究が盛ん,というのはどういう理由によるのですか?
伊藤── ゲームを研究すること自体が意義を認められることはあまりないため,ゲーム研究者が仕事を得られるのは,ゲーム開発者養成のためのプログラムであることが多いという事情があるのでしょう.したがって,ルールを策定・設計するプロのゲームデザイナーを体系的に養成するためには,ルドゥス的な側面が重要になります.すなわち,ゲームをどうデザインするかを教えることができる人材がゲーム研究を職業的に行えるのだと思います.
しかし研究動向としては,今後はパイディア的なものが盛んになる可能性があります.たとえば,オンラインゲームの研究です.MMORPG
ただ,私はルドゥスとパイディアのような区別は必要でないかもしれないと考えています.たとえば,パイディア的な文脈で従来語られているシリアスゲーム
井上── パイディアとルドゥスの区別は必要ない可能性がある,という点につい.て,詳しくお聞きしたいと思います.それは,二者を区別する境界線や区分を見分けることが難しいからですか? それとも,そもそもゲームというのはそのようなパイディアとルドゥスの入れ子のようなとらえ方をすべき,ということですか?
伊藤── 私もまだ明確にわかっていません.しかし,やはりシリアスゲームをルドゥスとパイディアの二分法で語るのはうまくいきません.
井上── 伊藤先生の出身分野は科学史ですが,科学史の分野でルドゥス,パイディアのような区分が使われていることはあるのですか?
伊藤── そういう区別はあまりしませんが,科学者のいわゆる「遊び心」が科学には重要で,研究者の生産性に影響していることは研究で確認されています.つまり研究者というのは,科学研究をゲームや遊びのようにすることがある.ゲームのように競争を楽しむとか,遊びのように効率を無視する,といったことですね.そのような「遊び」が新しい発見に繋がりますし,遊び要素をなくすと,研究者として貧しくなってしまう.
井上── なるほど,ありがとうございました.
ところで,先ほどお話にあがった"Rules of Play"の翻訳が現在進行中ですね.この本の中で「meaningful play」という概念が提出されています.これはどのような意味なのでしょうか?
伊藤── ある意味,当然のことです.ゲームにおけるプレイが何らかの意味を持つようにゲームはデザインされていなければならない,という原則を言っています.つまり,プレイヤーがプレイしたことが,ゲームに何らかの形で反映されなかったりすると,それはゲームとしてダメであるということです.たとえば,シューティングゲームで敵を撃ち落とせばその行為が画面に何らかの形で反映されないゲームはダメですね.
「meaningful play」を正確に訳すのは困難な部分があります."play"を「遊び」と訳すと問題が多すぎるので,基本的に訳せないからです.基本的にはプレイヤーの何らかのactionということなのですが,これは先述の区別でいえばルドゥスとパイディア,両者の状況でありうる.しかし日本語の「遊び」だと,後者の意味が強すぎます.この概念を強引に訳すと「意味をなすプレイ」でしょうか.
著者のZimmermanは"play"の定義として「あるリジッドな構造の中での自由な運動」であると言っています.概念的には,車のハンドルの遊びというときのような意味での「遊び」です.Zimmermanのこのような"play"の定義に基づき定義を組み立てようとする試みは,私にはうまくいっていると思えません.この定義だと,"play"が日本語でいう「遊び」の特殊な使い方になってしまう.
"meaningful play"の意味について直接 Zimmermanに聞く機会があったのですが,彼によると「いろいろな意味を重層的に使いたい」とのことで,全体としてプレイした結果が有意義,有意味であるという大まかな意味も意図しているようです.
井上── 当然のこととおっしゃいましたが,逆に言うと,分析概念としては検討の余地がある.しかし,分析のとりあえずの出発点として使えるということですか?
伊藤── そうかもしれません."Rules of Play"は全体的に「とりあえずの出発点」という意味合いが強い.ただし,ゲームデザイナー育成という観点からはそういう当然に見えることを体系的に記述することは重要ですし,研究者にとっても彼の体系づけた概念は参考になります.研究書としては分析が不十分な箇所がありますが,この本が今後の研究のための重要な出発点になるということでもあります.
DiGRA JAPANについて
井上── これまでZimmerman,Juul,Castronovaといった研究者の名前があがりましたが,今度のDiGRA 2007に彼らは来るのですか?
伊藤── Castronovaはキーノートとして招待していて,なんとか来てもらえそうです.それ以外の研究者,たとえばJenkinsは来るかどうかまだ不明ですが,ZimmermanとJuulはDiGRA 2007を楽しみにしていると言っていましたから多分来るでしょう.
DiGRA JAPAN
井上── DiGRA JAPANは学会活動としていろいろな活動をしてらっしゃいますね.月例会議や,学会誌を出すといったことも考えられているのですか?
伊藤── 月例会はほぼ毎月行い,学会誌も今年度中に1号がでる予定です.それから2007年度以降に,年会を開く予定です.
RGNについて
井上── 国内のゲームに関係する研究団体はRGN
伊藤── DiGRA JAPANは産業界との関係を重視しているということと,国際的な組織の一部であるということですね.日本ゲーム学会は主に関西での活動が中心で,東京の研究者には非常に参加しにくいところがあったのですが,DiGRAは全国的な組織を目指しています.年会を1年毎に関西と関東で行ったり,会長・事務局・学会誌の編集も持ち回りにしたいと思っています.しかし,ゲーム研究関係の学会が国内にいくつもあるのは,一方では健全な競争ができる可能性があるとはいえ,他方では事務処理を二重にやっているわけで,望ましくないと思います.今後,学会や研究会を共催するなどして,協力関係を結んでいくのがよいと思います.
研究団体ということでは逆に井上さんにお聞きしたいのですが,井上さんの主宰するRGNはどのような位置づけなのですか?
井上── RGNとしては産業界に近い部分も含めて多面展開していく方針で,12月10日に本職のゲームシナリオライターの方で,最近著書を出された三方を迎えて第四回を開催する予定です.
多面展開をしていくという点に加えて,ゲーム研究をやろうというとき,異なる分野の人を繋ぎあわせられるような場所にしたいと思っています.これまで私が日本でゲームを議論してきた人の言説を見ていて思ったことなのですが,個別の議論のクオリティは低くはないが,研究の作法,あるいは蓄積のしやすさという観点からはまとまりがありません.そこで,国内の流れを何らかの形でまとめていくようなことが目標です.
特に人文系研究者と,ゲーム開発を実際に行っているデザイナー,プログラマーの交流はこれまで難しかったようですが,その対話の促進が狙いです.
伊藤── なるほど.では研究の内容としては,RGNはどのような位置づけなのですか?
井上── 一つにはタイトルどおり,デザインと物語を組み合わせて論じるのが目標です.また物語という概念には“イデオロギー”というような少し広い意味もあります.異なる立場の対話を行うことから,まずは立場の多様性を認識する.そういった前提を作っていきたいですね.
これまでの開催では,成功しているかどうかは別としても,論争を引き起こすことはできているようです.また,ネット上でも議論が盛り上がってくれています.
伊藤── 国際的な研究の趨勢としては,ナラトロジー(物語)とルドロジー(ゲーム,デザイン)の対立はうやむやになり,最近は対比して論じることが少なくなっている部分があります.その点についてはどうお考えですか?
井上── 国際的にはともかく,日本では対立以前の,対話も成立していない状態でしたので,その下準備あるいは議論の参照点をまずは作ることに意味があると考えています.
逆に,今おっしゃられた最近の国際的な研究の趨勢について教えていただけますか?
国際的なゲーム研究の今後
伊藤── ルドロジーとナラトロジーの対立,という観点はあくまでゲーム内部の話でしたが,最近はそれに飽き足らなくなって,ゲームの外の話,つまりプレイヤーの問題をどのように扱うか,という論点が注目を集めています.たとえばDiGRA2007でテーマとされているような,実際のプレイがどのように起こっているのか,そういう方向に向かっています.RGNの第三回で増田さんが発表されたような研究
もう一つは,ゲームだけでは分析が完結しなくなっている点があげられます.Henry Jenkinsは最近の著書で,ゲームだけではなく,いかにメディア間で相互乗り入れが起こっているか,というテーマを扱っています.日本でいうところのメディアミックスですね.つまりプレイヤー/受け手にとっての「ゲーム」を分離して文化的に分析する,という意味がなくなって,クロスメディア,トランスメディアの分析になってくるわけです.
井上── DiGRA 2007の主要なテーマにあげられている"Situated Play"とは,そういった潮流が背景にあるということですか?
伊藤── おっしゃる通りです.
あとは私の個人的関心ですが,受け手の役割の増大,つまりユーザーコミュニティの役割の増加ですね.もちろん,この話はエンターテインメント分野に限ったものではありません.2ちゃんねるなど,いわゆるuser/consumer generated mediaといったゲームの中でのユーザーのより積極的な役割は非常におもしろいと思います.
井上── 今回の智場の特集全体でも,『セカンドライフ』
伊藤── また,いわゆるゲーム脳と逆の議論,つまりゲームがいかにITの訓練に効果的であるか,というような立論もあります.Marc Prenskyは「デジタルネイティブ」の人たちは違った方法で物を考えるので,ゲームに基づいた新しい教育が必要である,という主張をしています.ただ,もしゲームの教育的利用をより詳しく考えるなら,ゲームに対するより正確な理解が必要です.つまり,どういうゲームはどういう能力を高めるかについての正確な把握です.
この分野はゲーム学全体の在り方について決定的に重要であると思います.
井上── 興味深い議論がまだまだありそうですね.本日はどうもありがとうございました.
2006年11月25日収録
投稿者 noc : 12:10
